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(短編集)

ガリレオの苦悩



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【この小説が収録されている参考書籍】
ガリレオの苦悩
ガリレオの苦悩 (文春文庫)

ガリレオの苦悩の評価: 6.77/10点 レビュー 13件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.77pt

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全7件 1~7 1/1ページ
No.7:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

それぞれに容疑者xの要素が含まれている短編集

探偵ガリレオシリーズ4作目の本書はシリーズの原点に立ち戻った短編集。そして本書から当初TVドラマ版のオリジナルキャラクターであった内海薫が登場する。

「落下(おち)る」はマンションから転落した30歳独身女性の事件。
綺麗に片づけられた部屋でいかにして死体を飛び降り自殺したかのように見せかけるのか?部屋に残されているのは凶器と思われる蓋付の鍋と掃除機。
この謎掛けに対して湯川はピタゴラスイッチのごとく、非常にアクロバティックな実験をして犯行が可能であることを実証する。トリック成立の細かい説明のあたりは島田荘司氏の本格ミステリ作品の謎解きを読んでいるからのようで、非常に面白い。

2作目「操縦る」は放火事件を扱った物。
工業科学ともいうべき専門的な内容を事件のトリックとして応用するところに東野圭吾氏の先鋭性を感じる。
収録作品中2番目に長い本作はやはり事件に湯川のかつての師が関わっているところによる。それについては後で詳しく感想を述べよう。

続く「密室(とじ)る」でも湯川の知己の人物が登場する。
「操縦る」ではかつての恩師、そして本作では元同級生と湯川に縁のある人物に纏わる事件が並ぶ。
友人の経営するペンションの宿泊客が突然窓から抜け出て崖の下に転落したという何の変哲もなさそうな事件。これだけならば科学の天才である湯川の出番が必要ないと思われるのだが、きちんと本作でも最新科学がトリックに盛り込まれている。
今回は密室の正体が非常に面白い。とうとうここまで密室トリックは来てしまったのかという思いを抱いてしまった。正直このトリックは1回限りにしてもらいたい。
また宿泊ノートに綴られた何気なく子供が書いた風呂の感想から事件当時の不整合性を見破るところも科学の知識あっての故だ。なるほど風呂に入った時に時々出来る空気のつぶつぶは冷たい水に溶け込んだ空気が刺激されて身体に付着するからなのか。しかもこれは一番風呂でないと起きないとのことで、またも勉強になった。

2作目の短編集で印象に残った作品に「予知る」があったが、次の「指標(しめ)す」もそれに似た味わいの作品だ。
ダウジングとは曲げた針金を両手に持って地中に埋まっている水道管や金属を探し当てる方法で、本作によればまだ科学的根拠もなく、探し当てる確率も盲滅法に探すのとほとんど五分五分らしい。
そのダウジングを亡き祖母から譲り受けた水神様と呼ばれる水晶の振り子で中学3年生の真瀬葉月は行い、今まで色んな物を探し、また自分の人生の選択をしてきたという。その一種眉唾科学に今回湯川学は対峙するのだが、正直歯切れの悪い結末ではある。
つまりはダウジングの信憑性はまだ今の科学では証明できないだけであり、それもまた近い将来解明される科学の一種であると湯川は云っているのではないだろうか。真瀬葉月は「予知る」に出た本当に予知視できる少女の姿とダブり、もしかしたら敢えてダウジングの実験を湯川はしなかったのではないかとも思えるラストの余韻はなかなかだ。

最後の「攪乱(みだ)す」は湯川に恨みを持った人間が犯人となる。
本書で最長の最後を飾る本作はそれまでの事件と違って犯人は明確に湯川に対して挑戦状を叩き付ける。つまり今度の事件は今まで他者の事件だったのが、湯川自身に恨みを持つ人物による犯行なのだ。
そういう事態に陥ったのは湯川が警察の捜査に協力していることが一部マスコミに知れたことでかつて湯川に学会で恥をかかされた男が逆恨みで湯川に復讐をするため、自分の行う犯行方法を解き明かすことができるのかを湯川を名指しで指名することでその鼻を明かそうというのが犯行の動機だ。
いわば古典的な名探偵対犯人の構図なのだが、犯人が研究者にありがちな社会不適合者であり、自分のミスを他人のせいにする精神的に未熟な人物であり、また人を離れた場所から殺害する手段を持ちながら、世の中を騒がせ、湯川を挑発する幼さが典型的な現代の世相と云えよう。
また本作で使われたトリックはまたも普通の読者の知らないハイテクだが、使われている内容は昔からある理屈である。つまり古くからある知識に最先端の技術を応用してミステリを書く。これこそガリレオシリーズの醍醐味といえるだろう。


冒頭でも書いたが本書で特徴的なのはドラマのオリジナルキャラクターだった内海薫がレギュラーとして登場する点だ。そして彼女の登場は事件の捜査に奥行きをもたらしている。
今まではいわゆる普通の刑事草薙が難事件に直面して湯川に助けを求めるパターンで、このパターンは踏襲されているものの、湯川の非凡さを際立たせるためか、東大をモデルにしたと思われる帝都大OBでありながら草薙刑事はキャリアのエリートといった風格もなく、至極凡庸な刑事に描かれていた。
しかし女性の刑事である内海が捜査に加わることでそれまでの事件ではなかった女性特有の視点が加わって、警察の捜査に幅が広がっているのだ。つまり極端に云えば、無能な警察のように描かれていたのが、内海が入ることで日本の警察の優秀さが少しばかり加味されるようになったように感じた。

そして『ガリレオの苦悩』と冠せられた本書は『容疑者xの献身』を経てから書かれた短編で構成された作品で、各短編で見せる湯川の心情は『容疑者~』以前のそれとは明らかに異なり、それまで謎そのものに対する興味しかなかったのに対し、事件に関わる事での苦悩や事件の関係者の心情に対しての考察が見られるのが特徴的だ。

例えば1作目の「落下る」では自らの手でかつての学友であり、ライバルだった数学者石神を司法の手に渡すことになったショックからか、警察の捜査に非協力的になっている。
『探偵ガリレオ』や『予知夢』の各短編では一見不可解な事象を解き明かすことに学者としての知的好奇心をくすぐられて、事件の解明に臨んでいた。それらの事件は湯川自身には何の縁もゆかりもない他人の身に起きた事件で、いわば他人事として捉えていたのだが、石神という自分の人生に関わり、また一人の天才として尊敬もしていた男の罪を自身で解き明かしたことによる精神的反動はこの天才科学者の心情に大きな変化をもたらしたようだ。

特に2作目の「操縦(あやつ)る」ではそれぞれ自分の大学時代の師が事件の犯人になっており、またもや自分の人生に関わる人間を司法の手に渡さなければならなくなる。本作の最後で学生時代の湯川を知る友永元助教授が科学しか興味のなかった湯川が隠された友永の真意を見破ることで人の心まで解るようになった湯川に驚きを示すのは、石神の事件を経てからこそだろう。

3作目の「密室(とじ)る」では大学時代の友人藤村の依頼で彼の経営するペンションで起きた事件の解明をするのだが、この作品にこそ湯川の心情の変化が如実に表れているように感じた。
謎自体は特段科学者の興趣を惹くものではないのに湯川は藤村の頼みから事件の調査を始めるが、恐らくは事件のあらましを訊いた時点で湯川には事件の構図が大体見えていたのだろう。
普通の生活を守るために犯行を実施せざるを得なかったとはいえ、罪は罪なのだと事件の真相を話す湯川の姿は石神の犯行を解き明かした時のそれと妙にダブった。

4作目の「指標(しめ)す」は先にも書いたが「予知(し)る」を髣髴させるテイストの作品だ。科学では証明できない不思議な事象を湯川は目の当たりにするが、敢えてそこに踏み込まない湯川の科学者としての懐の深さを感じさせる。

またこの作品では母と娘の母子家庭が捜査の対象であり、これが草薙にとって『容疑者xの献身』に出てくる花岡母娘を想起させる件が出てくるのがニヤリとさせられる。

そして最後の「攪乱(みだ)す」では湯川に勝負を挑む犯罪者が登場する。『容疑者xの献身』では湯川が天才だと認めた男石神と湯川の頭脳対決だったが、本作ではかつて学会で湯川に自身の研究について質問され、上手く応えられてなかったことで失墜した技術者が警察の捜査を手伝っている湯川に敵対心を燃やして犯行を実行するというものだ。
石神の時は偶然による対決だったが、本書では湯川に恨み(逆恨み以外何物でもないが)を持つ者が湯川自身に対して挑戦状を叩き付けているところが違うのだが、犯罪に加担せざるを得なかった石神に対して苦悶していたのに対し、本作では科学の技術を殺人に利用して世間を騒がせている犯人に憤りを覚えて対峙している姿勢もまた違う。

と各短編について湯川の心情の、いや人間性の変化を述べてきたが、それぞれの作品が実は『容疑者xの献身』の要素をそれぞれ分配させて成り立っている事に気付くことだろう。

かつて知的好奇心を満たす為、興味本位で警察捜査に関わっていたが、事件に関わることで自らもまた心を傷つくことを知った湯川。
かつての恩師や大学時代の友人の犯した罪を解き明かさなければならなくなった湯川。
健気に生きる母子家庭の親子が巻き込まれた事件に携わる湯川。
そして自らを敵とみなす犯罪者と対決する湯川。
それぞれが『容疑者xの献身』に込められたエッセンスだ。

そして湯川はあの事件で人の心の深みを知り、また作中でも人の心を知ることも科学で途轍もなく奥深いと述懐している。
これはかつて大学で理系を専攻し、トリックメーカーとしてデビューした東野氏が人の心こそミステリと作品転換したのに似ている。つまりこの湯川の台詞は作者自身の言葉と捉えてもいいだろう。

『名探偵の掟』で本格ミステリを揶揄しながら、敢えて現代科学の知識で本格ミステリを書いた『探偵ガリレオ』シリーズ。このトリック重視の作品に人の心の謎を持ち込んだ『容疑者xの献身』でこのシリーズも第2のステージに入ったと云えるだろう。

そして正直に云って『探偵ガリレオ』や『予知夢』の各編よりも本書収録作の方が印象に残るのだ。これからのガリレオ探偵湯川学の活躍、いや事件への関わり方が非常に興味深くて読むのが愉しみでならない。


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Tetchy
WHOKS60S
No.6:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ガリレオの苦悩の感想

評価が低かったのであまり期待せずに読みました。
普通に面白かった。

呑んだくれ
P3S7II56
No.5:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ガリレオの苦悩の感想

4作目ということで、今までとはまた違う一面も楽しめる作品になってます。
安定して楽しめました。

▼以下、ネタバレ感想

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白髭9
BK2OMGW4
No.4:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ガリレオの苦悩の感想

ガリレオ短編小説3作品目作品です。
ガリレオに挑戦する犯人が登場したりと、相変わらず面白いですね。
それに、このシリーズは読みやすいので夢中になって読んでしまい、あっという間に読み終わってしまいました。

松千代
5ZZMYCZT
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ガリレオの苦悩の感想

久々のガリレオシリーズ!ドラマでは柴咲コウが演じた女性刑事内海薫も登場し、ますます湯川先生を取り囲む状況がにぎやかになってきました(笑)科学を犯罪に使う輩と果敢に立ち向かっていく湯川の活躍譚が5編おさめられていますが、自分的にはその中でも派手さはないですが湯川の旧友のペンションで起こった悲しい密室殺人を描いた「密室る(とじる)」が特によかったです!

ジャム
RXFFIEA1
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ガリレオの苦悩の感想

久々に読んだガリレオ物ですが、思ったより面白かった。ドラマの設定を小説の方にも反映させているので、キャラクターをイメージ出来るのが良いですね。科学的、物理的トリックの実行性は知りませんが、それらしく感じられるのがやはり上手い所。作者の誠実な仕事振りを再確認した好編集。

なおひろ
R1UV05YV
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ガリレオの苦悩の感想

結構好きな作品です。

マグル
ZH9M7YFR

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