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紳士の黙約



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【この小説が収録されている参考書籍】
紳士の黙約 (角川文庫)

紳士の黙約の評価: 8.50/10点 レビュー 2件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点8.50pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(10pt)

喧嘩のあとは…

あの“ドーン・パトロール”のメンバーが帰ってきた!
いや、我々がまた彼らの許を訪れたというのが正しいのかもしれない。“ドーン・パトロール”、そして彼らが住んでいるサンディエゴのパシフィック・ビーチは読んでいる我々が再びその地を訪れたかのような懐かしい思いを抱かせる、不思議な雰囲気を備えている。

さて今回彼らが関わる事件は3つ。
メインはブーンがペトラから依頼される伝説のサーファーK2殺しの容疑者サーファー・ギャングの未成年コーリー・ブレイシンガムの、事件当夜の調査。
そして彼が請け負うもう一つの依頼が“紳士の時間”仲間のダン・ニコルズの妻の浮気調査。
そしてもう一つはジョニー・バンザイが関わる麻薬組織バハ・カルテルの抗争。

バハ・カルテルといえば先だって訳出された『野蛮なやつら』でベンとチョンとOが対決した麻薬組織だ。ん~、こんなところで彼らとブーンの物語がつながるとは、まさにファン冥利に尽きる演出だ。

さて今回ブーンは渋々ながらもペトラの依頼、世界中のサーファーが慕う伝説のサーファー、K2殺人事件の容疑者である金持ちの道楽不良息子のコーリー・ブレイシンガムの事件の真相を探ることでパシフィック・ビーチ界隈の人間はおろか、“ドーン・パトロール”のメンバーからも裏切り行為だとみなされ、四面楚歌状態に陥る。しかし調べていくうちにつまらないアホだと思えたコーリーの境遇を知るにつけ、彼もまた環境の犠牲者だったことを知る。

しかもみんなのアイドル、サニー・デイは前作のクライマックスでの大波のサーフィンで有名になり、プロサーファーとしてツアーに参加し、オーストラリアに行っている。理解者は友達以上恋人未満状態の弁護士補ペトラ・ホールのみ。

そんな状況からか仕事よりもサーフィンを愛する探偵ブーンが、今回はサーフィンよりも仕事優先と次第になっていく。コーリー・ブレイシンガム事件の再調査のお蔭で“ドーン・パトロール”のメンバーからは疎遠となり、その後に行われる“紳士の時間”のメンバーとの交流が増えていく。

この本書の原題にもなっている“紳士の時間”とは皆が仕事へ行った後、引退生活者や医師や弁護士、さらには実業家連中が集まるサーフィン時間のこと。つまり年齢的に上の連中、階級的にも上流階級の人間たちの集いだ。

さて前述した3つの事件がなんと複雑に絡み合って驚くべき事件の構図を描き出す。この辺のプロットが上手く組み合わさる味付けと云うか筆捌きは見事としかいいようがない。

また本書に散りばめられた薀蓄もまた読み応えがある。
地盤の話は私の職業にも大きく関わることで、熟知しているため、門外漢の読者にも解るように丁寧かつユーモアあふれる説明がなされていると感心したし、ボクシングと空手から始まった最強格闘技伝説が現在の総合格闘技までに至った経緯の話も楽しく読ませていただいた―グレイシー柔術の件はニヤニヤしながら読んでしまった―。
その中で最も恐ろしいと思ったのはタクシー運転手が空き巣を副業でやっている輩が少なくないといったエピソードだ。この一文を読んだだけでは恐らく多くの方が「?」と思うだろうが、何気ないタクシーの会話にその秘密が隠されていることを知り、戦慄を覚えた。いやあ、迂闊にタクシーの運転手とも会話ができないなぁと思わされたエピソードだ。

さてウィンズロウの描く物語は常々何らかの喪失感を伴うものだと感じていた。前作のブーンも変わらなく続く生活や仲間たちの関係が実は危ういバランスの上で成り立っていることを知らされた。
今回もブーンは色んな物を喪う。探偵とは事件の真相を解き明かす代わりに何かを喪うことだと某作家の作品にあったが、まさにブーンはそのものだ。

大人になると自分の信ずる正義よりも他者との調和を重視する方に傾きやすくなる。丸く収めることを美徳とし、信条を貫いて仲間に不快感を抱かせてまで真実を突き止めることを悪徳とする、組織に属するとなるとその傾向は顕著になる。

しかしブーンは敢えて茨の道を取った。何よりも代えがたい“ドーン・パトロール”のメンバーの不興を買っても、当事者の父親の納得を得ても、当事者のその後の人生を考えると妥協した自分がその後の人生で後悔しないか、自問を繰り返しながら生きることになるのではないかと思い、敢えて同調しない道を選ぶ。
彼を後押しするのは亡くなった被害者のK2の言葉。彼を知るからこそ彼の言葉が頭を過ぎる。

ウィンズロウは読者が永遠に続いてほしいと願う仲間たちとの付き合いや心から通じ合える恋人といった関係に躊躇わらずメスを入れる。前作もそうだったが南国のお気楽ムードで始まった物語は次第にブーンの周囲に不穏な影を差していく。
特に残り100ページから始まる殺戮や拷問の数々は作品のイメージをガラッと変えるものだった。

しかし今回はまさに再生を予兆させる終わり方である。
喧嘩のいいところはその後に仲直りできるところだ、そして喧嘩をするほど仲のいいというのは喧嘩をする前よりも本音で語り合える関係になるからだ。まさに本書はそんな爽やかな読後感を残してくれる。
最後に分裂状態だったドーン・パトロールの面々が一堂に会して浜辺で戦いを繰り広げる様は痛快以外なにものでもない。
全く上手いなぁ、ウィンズロウは。

それぞれに変化が訪れ、ドーン・パトロールのメンバーも以前のような関係にはならないかもしれないが、今回の苦境を乗り越えたその先が実に楽しみで今仕方がない。
また必ず彼らの住まうパシフィック・ビーチを訪れよう。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

前作よりは面白い

“サーファー・ときどき探偵”のブーン・シリーズの第二弾。物語の舞台、主要登場人物は前作の流れを継承し、シリーズものとして確立しつつある。前作に比べてミステリーの要素が強まり、謎解きの部分が格段に面白くなった。それでもまだ“サーフィン小説”の部分が色濃く、サーフィン好き、格闘技好きには大受けだろうが、個人的には(なんといっても、ウィンズロウだから)いまいちの印象だった。
ブーンが依頼されたのは、サーフィン仲間の富豪の妻の浮気調査。意に染まないまま調査を開始したブーンはさらに、友達以上、恋人未満のぺトラから殺人容疑で逮捕されている少年の弁護のための調査を依頼される。この殺人事件の被害者は地元で敬愛されていた“伝説のサーファー”だっただけに、殺人犯側についたブーンはサーフィン仲間を始め地元全体を敵に回すことになる。少年の容疑に疑問を持ったブーンは、いつもは手助けしてくれる仲間から見放されながらも真実を追求し、ついにはサンディエゴを揺るがす巨大なスキャンダルを掘り起こすことになる…。
あくまでもノー天気なサーファーの世界の向こうには、金と欲望にまみれた現実が隠されている。それでもというか、だからこそというか、ブーンはサーフィンに生涯をささげる決心をする。次作もありそうなエンディングだった。

iisan
927253Y1

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