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野蛮なやつら



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【この小説が収録されている参考書籍】
野蛮なやつら (角川文庫)

野蛮なやつらの評価: 7.00/10点 レビュー 2件。 Cランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(8pt)

三人の青春物語であり叙事詩であり伝説

読み終わって大きな息が思わず出てしまった。
怒涛の展開で連打の如く畳み掛ける言葉の嵐。今回の物語で要した章は289にまで上る。正味460ページ足らずの分量でこの章の多さ。いかに切りつめられた章立てであるかが解るだろう。

ウィンズロウの文体はもはや詩である。
短文の連発で散文的に書かれた語り口は彼独自のリズムで物語が展開する。固有名詞(62章を見よ!)に略語にスラングの応酬で綴られるその文章にはまぎれもなく行間から“声”が聞こえてくる。
つまりはこの声を生かしたままで日本語に訳している東江氏の素晴らしい仕事ゆえに私達はウィンズロウが耳元で囁くかの如きライヴ感溢れる文体に酔うことが出来るのだ。

ただそれがあまりに過剰になりすぎて、読者の理解を超えたところで鳴り響いている感じもする。恐らくこれはウィンズロウがあえて実験的に取り組んだ文体だろうが、この波は少々じゃじゃ馬すぎて、上手くライディングするのにはかなりの時間が必要だった。

今回扱っているテーマは麻薬商戦。相手はメキシコの大麻薬カルテル。そう、主題としては『犬の力』と一緒なのだが、『犬の力』がDEA(麻薬取締局)と一大麻薬カルテルとの血で血を洗う凄惨な戦いを描いたのに対し、本書は独立経営でやっている麻薬商業者ベンとチョンと一大麻薬カルテルとの戦いを描いたもので、ベンとチョン、それに彼ら2人の恋人Oが加わったオフビートな味わいの物語になっている。

このベンとチョン、そしてOの造形が素晴らしい。
精神分析医の両親を持ち、自身も精神療法のクリニックを経営しながらも独学で育てた大麻をチョンと共同で売って生計を立てているベンは何かにつけ、人の行動を分析する傾向にある。そして根っからの非暴力主義者で時にふっと世界のどこかで弱者を救いにボランティアに出かける、そんな人間だ。

片やベンのパートナーであるチョンはその名前からアジア系アメリカ人を想像するが生粋の白人。いつの間にか本名のジョンがチョンに変化してしまい、そのままで通している。海軍に所属し特殊部隊員となり、“スタンの国”で戦争の最前線に行き、いくつもの修羅場を潜り抜けてきた男。感情を表に出すことはなく、誰かに優位に立たれるのを好まない武闘派。

そしてベンとチョンの恋人オフィーリアことO。美貌を誇る母親から生まれたOは自由奔放な精神の持ち主。知識は少ないがベンとチョンは彼女が頭がいいことを知っている。2人のオアシスで帰るべき家ともいうべき存在。

この三人には他者が入れない強い絆で結ばれている。兄弟よりも濃い関係なのだ。

そんな彼らに立ちふさがるのがバハ・カルテル。中でもその恐怖の象徴であるのがラド。元々麻薬対策特務組織の一員だったが、終わりのない戦いと一方で肥え太る麻薬組織の連中を見るにつけて仕事に嫌気が差し、カルテル側に移った人間。チェーンソーで人の首を切るのを何とも思わない冷徹な男。どんな嘘も見抜き、粛清を下す。組織の恐怖の掟が具現化した男だ。

さてそんな彼らが登場する物語、オフビートテイストが最後まで続かないのが最近のウィンズロウ作品の特徴。前作の『夜明けのパトロール』同様、物語は次第に暗い様相を帯びてくる。ベンとチョン2人の麗しの君Oにバハ・カルテルの魔の手が伸び、誘拐されてしまうのだ。云うことを聞かなければチェーンソーでの死刑が待っている。
大麻栽培と販売という犯罪と貧民国を訪れボランティア活動を行う慈善家の二足のわらじは上手く両立できると信じていたベンの信念に揺らぎが生じ、片や野蛮なる世界の怖さを知る武闘派チョンの暴力への信念はますます研ぎ澄まされていく。非暴力主義を貫けなくなったベンは全てを擲ってOを救おうとする。オフビートな犯罪小説から暗黒小説へ次第に物語はシフトしていく。

『犬の力』でも散々見られた惨たらしい拷問シーンは今回もふんだんに盛り付けられている。書かれた文字から否が応にも想像が働くその映像に目を背けたくなる。そんな暗鬱になりがちな展開の中で誘拐されたOの茶目っ気ぶりが一服の清涼剤になる。

淀みと気楽さ。
なんとこれは麻薬ではないか?
もしかしてウィンズロウは文章という名の麻薬を実現しようとこのような実験的な文体を採用したのだろうか?

やがて物語はハメットの有名な作品『血の収穫』で見せた二大勢力の麻薬戦争の様相を見せ、ベンとチョンがたった2人で巨悪に立ち向かう様が繰り広げられる。

これは彼ら三人の青春物語であり叙事詩であり伝説。
こんな物語、ウィンズロウにしか書けないわ!


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:
(6pt)

ヒップでホップな??

ウィンズロウお得意のモダン・ノワール。舞台は南カリフォルニア、道具立てはドラッグ、主要な登場人物にバハ・カルテル・・・、これはもう、期待するしかないのだが、鬼才が才に走り過ぎたというか、実験的手法が過ぎていてちょっと、いや、かなりがっかりだった。
ストーリーは、大麻の栽培、供給で巨万の富を築いた若者二人組が、カリフォルニアでの大麻利権に手を出してきたバハ・カルテルに脅迫され、必死の反撃を見せるという犯罪アクション。登場人物(敵味方)のキャラクターが興味深く、きっちりと描かれており、ストーリー展開、エピソードも面白く、普通に(従来の手法で)書かれていれば、きっとオススメ度「8」になっていただろう。しかし、「『何作かごとに文体を発明し直す』ことを旨とする」(訳者あとがき)ウィンズドロウが本領発揮。まあ、とにかく、改行が多く、頭韻、脚韻、地口をふんだんに織り込んだ文章はまるでヒップホップ!
好き嫌いが分かれるところだが、正直、好きになれなかった。
しかし、オリヴァー・ストーン監督で映画化されているというので、傑作になること間違いない映画を楽しみにしたい。

iisan
927253Y1

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