(短編集)
クリヴィツキー症候群
- 岡坂神策シリーズ (8)
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現代調査研究所調査員なる怪しげな肩書の岡坂神策が活躍する連作短編集である。現代調査研究所というのは表向き政策リサーチ会社ではあるが、一番の看板のスペイン内戦関連のリサーチから少々荒っぽい私立探偵まがいのことまで引き受けるところで、岡坂はなかなかのタフガイである。私が面白いと思ったのは最後のクリヴィツキー症候群で、この話はロシア人の怪しげな男の殺人容疑で捕まった荻野が突然自分はクリヴィツキー将軍の生まれ変わりであり、自分は荻野に姿を変えて生活しており、そのロシア人は秘密警察の送った暗殺者で自分の身に危険が生じてやむを得ず殺したと正当防衛を主張しだしたのである。そのクリヴィツキーという男について実に彼は知識持っておりまさに霊が乗り移ったかのように自信をもって話しているというのである。この案件は心神喪失あるいは心神耗弱であるかというところを狙ったものであり、このままでは公判が維持できなくなるということで、精神鑑定を依頼した事件について弁護を引き受けている同じビルに間借りしている弁護士事務所の桂本弁護士が、その件で内戦にも関与したこの男について詳しい岡坂に知恵を拝借したいと岡坂に精神鑑定への立ち合いを依頼したのだ。知人に聞くとこの心神喪失かを判定する際に警察内にもルールのようなものがあるらしくそのルールを知ったうえで読むとより面白みを味わえるのだろうというのであるが、どうであろう。知らなくてもまずは本当にクリヴィツキー将軍が乗り移ったのかをどう確かめたのかは興味を要するところだ。邦文献の知識で切り抜けてもよいのか捨て置いてもそれはそれでクリヴィツキーとしては認められるのか、そもそも心神耗弱であるという蓋然性は整ったのかなど興味深いネタである。本当にそのような事件があったら不謹慎だが面白いことだとは思う。なかなかそのあたりは手練の逢坂氏のことうまく整理がついている。岡坂の大活躍に快哉を言いたい。 | ||||
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東京・御茶ノ水駅そばに「現代調査研究所」を構える35歳の探偵・岡坂神策が主人公の連作短編集です。岡坂は著者・逢坂剛氏のオルター・エゴ的存在で、探偵業のかたわら、趣味でスペイン内戦に関する調査を続けています。時代設定は1982年くらいです。 1987年1月に単行本として新潮社から刊行されたものが講談社に籍を移して文庫化されたものです。 ◆「謀略のマジック」 :妙齢の女性・香山城子(こうやまくにこ)は、大戦時、スペインが日本のためにスパイ活動をしていたとする読売新聞の記事を持参して岡坂を訪ねてくる。そしてそのスパイ組織のボスが一体誰なのかを調べてほしいと言う。岡坂はこの奇妙な依頼を、自らのスペイン熱に駆られて引き受けるのだが…。 日本は真珠湾攻撃後、ワシントンの大使館を閉鎖。その建物の管理は中立国スペインが引き継ぎました。そしてスペインの協力を得て日本は「東(とう)」なるスパイ組織をアメリカ内で立ち上げ、情報を収集してマドリード経由で手に入れていたというのです。しかも「東」のボスはスペイン人だとも。 岡坂は読売新聞のネタ元となったワシントンポスト紙を芝公園にあるアメリカン・センターの図書館で読み込んだり、日本の外交関係資料を保存する機関を訪ねて戦時中の文書を探ったりして、スパイ組織のボスであるスペイン人を最後に突きとめます。この組織とボスの存在は全くの史実であり、そこへたどりつくまでの岡坂の調査の過程は、まさに著者・逢坂氏のそれを再現したものだといいます。丹念な調査と推理で歴史の謎を掘り起こすさまは、リチャード3世の甥殺しの真相に迫ったジョセフィン・テイの古典ミステリー『時の娘』のように鮮やかでほれぼれとします。 そうこうするうち、岡坂は怪しげなロシア人の影を見たり、殺人事件に巻き込まれたりしていきます。こちらはもちろんフィクションですが、虚実ないまぜの濃密なミステリーは最後にNHKの実在のテレビ番組まで登場させて、岡坂と読者をあっと驚かせます。 なかなか読み応えのあるミステリー短編です。 ◆「遠い国から来た男」 :岡坂は旅先のある国で老人が追いはぎにあうところを救う。岡坂が日本人だと知ると、ハリーと名乗る老人はスペイン内戦時代に遭ったある日本人の想い出を話して聞かせる…。 岡坂がどこの国を訪ねているのかが明かされぬまま、英紙タイムズの特派員として内戦を取材していたハリーの不思議な昔話へと物語はなだれ込んでいきます。共和派と国民軍との激しいテルエルの戦いの中、不思議な日本人はフランコ反乱軍の中にロシアが送り込んだスパイがいるとハリーに明かします。しかもそれはハリーのジャーナリスト仲間だというのです。その真偽を巡るミステリーが進むかと見せかけて、最後に岡坂が今いる場所とともに事の次第――これまた限りなく史実に近い虚構――が明らかになる展開が見事です。 ◆「オルロフの遺産」 :月刊誌「思想と世界」編集部から岡坂に原稿依頼が来る。執筆テーマはアレキサンダー・オルロフ。スペイン内戦時にスターリンによって共和国陣営に送り込まれたソ連秘密警察の高級将校だ。古書店・西古堂の主人がスペイン現代史に詳しいと聞き、資料渉猟に向かう。店主はスターリンによる粛清を恐れてアメリカに亡命したオルロフが議会でスターリン批判をしたときの証言録を持っているという。岡坂は後日それを購入しようと再び店に向かうと、店主の刺殺体に出くわしてしまう…。 アレクサンドル・オルロフもまた実在の人物です。スペイン内戦が国外の左右両勢力を引き寄せるかたちで人々を戦禍へと巻き込んだことが改めて思い起こされます。そしてこの物語は新左翼とそれを追う公安という現代の日本の苛烈な治安問題にまで物語が発展していきます。時代が移り変わっても人々の対立が綿々と受け継がれていくことに思いが沈みました。 ◆「幻影ブルネーテに消ゆ」 :1984年5月、岡坂はスペインにいた。マドリードでスペイン共産党の女闘士ラ・パショナリアことドロレス・イバルリがかつての国際義勇兵たちを迎える集会を見学したのち、西へ20数キロの町ブルネーテへ向かう。義勇兵として参加した日本人ジャック白井が戦死した町だ。そこで岡坂は義勇兵あがりだというアメリカ人アレックス・ライアンに出会う…。 アレックスと戦時中行動を共にするサムという謎のアメリカ人の素性が明かされるラストは、その名前に思い当たる節がない読者にはあまり思うところがないかもしれません。しかし、その作家とその妻の名も知る私には、そうかそういえばこの時代の左右対立の波の中であの夫婦は確固たるポジションをもっていたな、という感慨とともに大いに楽しみました。 またアレックスが内戦で負傷したあとマドリードで治療を受けたときの話の中に、マドリードの電話局は当時あの町で一番高い建物であり、反乱軍の砲撃のうってつけの的だったという説明がなにげなく出てきます。私は今Netflixでスペインのドラマシリーズ『Las chicas del cable』(邦題:ケーブル・ガールズ)を見ていて、1928年から始まるこのドラマの主人公はマドリードの電話会社の交換手たちです。ということはドラマの主人公たちはやがて苛烈な内戦の渦に巻き込まれていくことになるのか、と寂しい気持ちになりました。 最後に、アレックスが語る次の言葉が心に沁みたので、記しておきたいと思います。 「昔の夢は、遠くから見るに限る」(216頁) ◆「クリヴィツキー症候群」 :北陽大学教授・荻野総一郎がソビエト大使館の二等書記官イゴール・グリアコフを刺殺した容疑で逮捕される。そして彼は自分がロシア赤軍情報部のスパイであったクリヴィツキーの生まれ変わりだと言い始める。精神鑑定医の下村瑛子は、スペイン内戦に詳しい岡坂に荻野の鑑定に協力するよう依頼するのだが…。 ワルター・クリヴィツキー(本名サミュエル・ギンスバーグ)は西ウクライナ生まれのユダヤ系ポーランド人。NKVD(後のKGB)の責任者としてスペイン共和国政府に武器や弾薬を供給していたが、スターリンの粛清が始まるとアメリカに亡命するも、そこで射殺体となって発見されたという実在の人物です。 そのクリヴィツキーだと名乗る荻野の嘘を暴かんとして岡坂――というより作者・逢坂氏は未邦訳の文献にあたって日本人が知る由もないクリヴィツキーの履歴を明らかにしていきます。作者の披歴するスペイン内戦蘊蓄話には果てがないようです。 ただし、荻野の詐病の背景が少々奇矯すぎて評価がしづらいところです。アガサ・クリスティー『検察側の証人』を想起させなくもありませんが、さほど効果的な結末には感じられませんでした。 . | ||||
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「スペインへの知識と執着心」も「筆力・構成力」も充分に一級品。「アレキサンダー・オルロフの事なんて,俺は別に知りたくもないよ。」と思う人も多いだろうけれど,その執着心に触れて呆れながらも何だか楽しくなる。塩野七生の『水の都の物語』が「うざい,付き合いきれない。」と思わずに読めた人は,この本を読んで楽しい気分になれると思う。 この本を早稲田の古本屋で20円(税別)で買ったが,何だかとても申し訳ない気持ちになっている。 | ||||
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良かった 逢坂剛の作品に最近はまっているのですが、すでに廃刊になっているものが手に入って良かった | ||||
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ファンにはおなじみ、フリーの広告PRマン・岡坂神策が主人公の短編集。 表題作は、殺人容疑で逮捕された日本人の大学教授が、自分はかつてのロシアのスパイ・クリヴィツキー将軍の生まれ変わりであると不可解な供述をする。精神鑑定を助けるため、歴史通の岡坂に声がかかったという話。 どれもスペイン史を中心とした歴史の謎に迫るレベルの高い知的エンタテインメントに仕上がってます。 | ||||
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