(アンソロジー)
傑作集 日本ハードボイルド全集7
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16名の作家による「ハードボイルド傑作集」。全7巻の最終巻になる。 巻末に「日本ハードボイルド史」として3人の編者による簡略な歴史が記されて いる。「黎明期」の代表作は巻頭の「私刑」だとしている。解説では「(日本では)敗戦 による体制・権威の崩壊の大転換を受けて…アメリカでは禁酒法時代…世界恐慌 …を背景に発展してきたハードボイルドは、日本では戦後の焼け跡に移植され…スタートしてきた」。 とは言うものの、アメリカのハードボイルドの無機的で乾いた描写は、日本で はどうその精神が伝えられたのか。それが疑問だった。またこの全集は、戦後直 後から1980年の作品までしか収載されていない。 この「解説」はまた後で触れる。 作品毎に簡単なレビューをする。順不同。 「おれだけのサヨナラ」。なるほど、アメリカのハードボイルドをそのまま手本 にしたような作品。ただ、主人公があまりにも格好よすぎる。ニヒルで強くて、 女性には紳士的。少しくらい破綻がないと、奥行きとリアリティがなくなる。最 初から最後まで冷徹な人物。「活劇」の典型ともなるか。 「あたりや」。昔いたようなチンピラにおきた(本当の)自動車事故。やくざな医 者は診ようともせず、そのチンピラは息をひきとる。それに関わる、「正義」とは 言わぬまでも、どこかに「筋」を持っている主人公。哀れな結末となるが、舞台と なった薄汚れた街(こんな街はたしかに多かったのだろう)にはお似合いか。 「待伏せ」。私が人間的にも大嫌いな慎太郎の作。ベトナム戦争での取材時のこ とだろう。恐怖を描くことは結構難しいが、饒舌すぎる喋りにも似たような煩い 文章で、それなりに「焦燥」と「恐怖」は伝わってくる。「うわごと」を読んでいる気 もするが。戦争はやはり人間を「獣」にする。恐怖小説だろう。 「凍土のなかから」。猟師の物語。まるで新田次郎か吉村昭の小説家と初めは思 った。必死の猟の後に現れた闖入者。老犬を殺され追い詰められる猟師。山行の トップに立ち、過去の思い出、幸せの思い出を脳裏に浮かばせながら、闖入者を 仕留める機会をうかがう。そして劇的な最後。丁寧に描写し、事実以外はなるべ く記さない文章。これは確かにハードボイルドだ。 「新宿 その血の乾き」。「新宿フォークゲリラ」(と言ったかと思う)の時代。 70年安保闘争はなやかなりし頃か。大学生は当時は確かに「特権階級」だったろ う。著者はどうしても下積みの人間の生活が、いかに大変かとそう描写する。か すかにだが大学生という存在を揶揄している匂いもある。その下積みの人間は結 経は犯罪者へと転落していくのだが。最後はいい「オチ」になっている。ただ情緒 的すぎないか。 「無縁仏に明日を見た」。ニヒルな「木枯らし紋次郎」もの。渡世の掟のみに従い、 そこで自分を律する。とは格好いいが、ピカレスクの自己満足とも思えてしまう。 生にも命にもとことん関心が薄い紋次郎。あまりに虚無的なヒーロー。男女のこ とに子どもも絡み、紋次郎は酷い傷を負う。少しご都合主義ではある。 「暗いクラブで逢おう」。「深夜クラブ」と大時代な古びた響きのある店。その店 のマスターが主人公。ダンディとも何とも書いていないが、おそらくはこれまで も、そしてこれからも一人で生きていこうとする人物。どこかに死を願うような、 そんな心の渇きがある人物か。かなり読ませる。面白い。 「時には星の下で眠る」。線が細すぎる登場人物。服の説明がいやに細かいのに 驚いた。こういう作風なのだろう。アメリカが舞台で、キザっぽい台詞が続く。 著者は日系人の血が流れているが、アメリカ暮らしはしていないようだ。アメリ カの小説の雰囲気をコピーしたのだろうか。格好はアメリカ的だが、内実は日本 的だろう。 「彼岸花狩り」。元船乗りの「船舶鑑定士」という珍しい職業。屋台で魚(刺身のよ うだが)を食べるシーンがあるが、モデルとなった港町にはこういう屋台があるの だろう。かなりの数の女性が夜の店から急に消える。二人は死体で見つかる。黒 社会の大物が背後にいる。早駆で進むストーリーは、開国人の日本人への蔑視感 情を底流にして進む。東映の「やくざ映画」ののりだが、妙に格好づけることもな く、さらりと書くのが好ましい。最後は惜しい終わり方。なるほど「彼岸花」だ。 「春は殺人者」。松田優作の「探偵物語」の小説化された一編。初めからかなり尖 った苛立ちを隠せないような主人公の探偵。こんな探偵はいるはずがないが、そ のままストーリーは進む。ご都合主義なのは、連作せざるをえなかったからか。 どうにも締まりのない推理物。 ここまで紹介したのが、かろうじておすすめできる作品。 以下は、どうにも関心できなかった作品となる。 「私刑」。これが先駆けのハードボイルドとしたら、不幸な出発だろう。まるで 江戸時代の「黄表紙本」(黄表紙の作者の方、すみません)であり。口調も粘着的で 煩いだけの文章。登場人物の「見栄」はあるが「格好良さ」は微塵もない。面白くも オチがいいわけでもない。 「天使の罠」。射殺事件に関わってしまった記者。どうにも酷い崩壊したような 家庭があるが、そおそも小説として成り立っていない。興味が持てない。 「東一局五十二本場」。いまさら麻雀小説は流行らないだろう。大体麻雀という ゲームを知らない限り(つまり現在では若い人の大多数)は意味のない小説。麻雀 放浪記からましな話はいくらでも拾えるはず。「ドサ健」くらい出てくればいいの だが、この短編をハードボイルドとするのが根本的な間違い。 「アイシス賛歌」。なんとも憂鬱なイギリスを舞台とした、勘違い小説。イギリ ス人が見も知らぬ人間に大切な荷物を託す訳がない。それも今から50年以上前の 人種差別激しい時代に。こども(こども達にすまない)向けの「活劇まがい」。 「骨の聖母」。当時、ソ連を訪問した体験を元としているのだろう。描写はいい が、なぜこの作品を選んだのか不明。「解題」に載っているように、著者自身がこ の作品を「ハードボイルドのミステリではない」と評している。 「裏口の客」。「森永ヒ素ミルク事件」がさらりと出てくる。調べるとヒ素ミルク から20年ほど後の作品。浪人という言葉も出てくるが。どうにもストーリー自体 が面白くない。何が「オチ」なのか。 全体を通して。 「解題」は三部に分け、おのおの 「黎明期 1950~1980」、「成長期 1980~1990」、「発展期 1990~2020」 と分けて概説的な歴史を書いている。 本書はその「黎明期」から作品を選んでいて、決して日本のハードボイルドの歴 史を概観できる作品を収載しているわけではない。1980年以降の作品は一つもな い。 現在(2025年)から45年も前の作品だけを提示されても、何を読めと言われてい るのか判断に苦しむ。何故収載できなかったのかその理由さえ分からない。 1~6巻は、生島治郎、大藪春彦、仁木悦子、河野典生、結城昌治、都筑道夫。 これも「錚々たるメンバー」と言っていいのかどうか。 この短編集には必ずしも粒ぞろいとは言えない。ごく短い時期の発表作を知る にはいい。本書でなければまず読まない作家も多かったから。 以上を勘案しても、☆は辛くなる。 | ||||
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新品かと思われるくらいにキレイな本、良心的な価格、早い配送、どれも大満足です。 | ||||
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この全集は全部購入するつもりだったのだが、結局第1巻と最終巻だけで終わってしまった。 文庫版日本ハードボイルド短編集といえば、31年前に出た新潮社編「[昭和ミステリー全集]ハードボイルド篇」(新潮文庫。以下新潮本と略)が手元にあるので、この本と比べてみよう。 本書は660頁、新潮本は726頁。厚みはほぼ同じだが、本書のほうが微妙に厚い感じ。 本書の解説は日下三蔵氏、故北上次郎氏、杉江松恋氏。新潮本の解説は故長谷部史親氏。 新潮本の長谷部氏の解説は「(原尞は)ハードボイルドのみならず日本ミステリー全体の将来を占う上で、今後とも大いに注目したい作家のひとりであることは論をまたない」で終わっているが、本書では北上氏が約2頁、杉江氏も約2頁、原尞について書いている。ただし、本書には原尞作品の収録はない。 収録作品はどちらも1人1編で、本書は16人16編、新潮本は19人19編を収録。作品の傾向をたいへん大雑把に言うと、本書は傑作発掘、新潮本は傑作集成かな。新潮本には「狂熱のデュエット」「ラ・クカラチャ」「地平線はぎらぎらっ」「死体置場は空の下」「感傷の街角」「歩道橋の男」といった名作がズラズラ並んでいる。 本書、新潮本の両方に出てくる作家は、高城高、藤原審爾、山下諭一、三好徹、片岡義男、小鷹信光、小泉喜美子の7人。これに本全集長編巻と新潮本の両方に出てくる生島治郎、仁木悦子、都築道夫、結城昌治、河野典生、大藪春彦の6人を加え、本書解説2頁以上と新潮本に出てくる大沢在昌、原尞の2人を加えた15人が、日本ハードボイルド史を代表する人々ということになるのかもしれない。 比較はこの辺で終ります。 以下、本書の私的感想。 ◯どの作品も面白く、3氏の日本ハードボイルド史も楽しく読めた。 ◯いや違う。麻雀を知らないので、「東一局五十二本場」はちんぷんかんぷんだった。 ◯特に気に入った作品は ☆「骨の聖母」(高城高)・・学術交流サハリン使節団が豊原(ユジノサハリンスク)から持ち帰った日本人の骨をめぐるストーリー。高城自身の楽しい解題も付いている。 ☆「おれだけのサヨナラ」(山下諭一)・・どこかの国のお偉方が日本からの戦争賠償金で日本から物を買う取引が予定され、その指定商社になるために、小さな商社が飛び切りの日本美女をお偉方へのプレゼントとして贈る話。 ☆「あたりや」(多岐川恭)・・多岐川の超通俗ハードボイルド。 ☆「時には星の下で眠る」(片岡義男)・・アクション楽しい。 ☆「彼岸花狩り」(谷恒生)・・日本美女たちを奴隷として船で輸出する陰謀をヒーローが打ち破るという何度も映画でみた展開(たとえば、歌手の藤本二三代さんの貴重な助演映画『銭形平次捕物控 美人鮫』)の話だが、よくできている。 ☆「アイシス讃歌」(三浦浩)・・著者の長編群のファンではないが、この作品は好き。 ☆「春は殺人者」(小鷹信光)・・「どいつもこいつも、一人ぼっちで、悲しくて、淋しいやつばかりだ」(595頁)。 | ||||
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