スパイはいまも謀略の地に
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あらすじ
イギリス秘密情報部(SIS)のベテラン情報部員ナットは、ロシア関連の作戦遂行で成果をあげてきたが、引退の時期が迫っていた。折しもイギリス国内はEU離脱で混乱し、ロシア情報部の脅威も増していた。彼は対ロシア活動を行なう部署の再建を打診され、やむなく承諾する。そこは、スパイの吹きだまりのようなところだった。 ナットは、新興財閥(オリガルヒ)の怪しい資金の流れを探る作戦を進めるかたわら、趣味のバドミントンで、一人の若者と親しくなっていく。 ほどなく、あるロシア人亡命者から緊急の連絡が入った。その人物の情報によると、ロシアの大物スパイがイギリスで活動を始めるようだ。やがて情報部は大がかりな作戦を決行する。そして、ナットは重大な決断を下すことに……。 ブレグジットに揺れるイギリスを舞台に、練達のスパイの信念と誇りを描く傑作。(「BOOK」データベースより)
評判
スパイはいまも謀略の地にの評価:
8.00/10点 レビュー 1件。 B ランク
スパイはいまも謀略の地にの総合評価:
8.20/10点 レビュー 20件。
感想一覧
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
Amazonレビュー
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
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本書にジョージ・スマイリーは出てきませんが、設定が英国秘密情報部(SIS)でスパイや裏切りがテーマであることは、かつてのスマイリー三部作(ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ、スクールボーイ閣下、スマイリーと仲間たち)を思い出させて懐かしいものがあります。
あらすじを書きすぎるとネタバレになりますので詳しくは本書を読んで頂くとして、少しだけ述べさせて頂きますと、時代背景はブレグジットに関して英国中が喧々諤々たる論争のただ中にあり、米国のトランプ大統領は自国第一主義で欧州と距離を置こうとしています。その一方でロシアのプーチン大統領とはつかず離れずの関係を保っています。
主人公のナットは海外でのスパイ調略に活躍してきたベテランの情報部員ですが引退が近くなり本国に帰されます。そして、あまり重要性のない部署(ロンドン総局:ヘイヴン)の再建を命じられます。ヘイヴンの活性化を図る意味で彼は気の強い若い女性部下のフローレンスと共同してモスクワの息のかかったウクライナ人オリガルヒ(新興財閥)のロンドンの邸宅に監視装置を取り付けるプロジェクトを提案します。しかし、その提案は部内の裏切りのために上級会議でつぶされ、憤慨したフローレンスは辞任します。
ロンドンに潜伏するロシアの二重スパイ(セルゲイ)からモスクワ・センターから連絡があったと知らせがあります。SISの部員がロシアに機密書類のコピーを提供するという話があり、モスクワ・センターは接触のためにベテランの幹部アネッテをロンドンに派遣することにし、接触場所の手配をセルゲイに指示したのです。そこで情報部は「スターダスト作戦」を開始します。ナットはスマイリーばりの慎重で綿密な調査を重ね、ついにその裏切り者を突き止めますが、それは意外な人物でした。
ところで、同じスポーツクラブのエドという長身の若者がナットにバドミントンの試合を挑みます。時間のある時に相手をし、試合後にビールを飲みながらエドの過激な反ブレグジット論やトランプ大統領の欧州政策に対する悪口を聞いているうちに二人はだんだん親しくなってゆきます。しかしエドについての性格描写が何となくはっきりせず、彼が頭の切れる青年なのか単純なアホなのかが読み取れません。単純アホであれば才気煥発のフローレンスが惚れて結婚まで考えるはずがないと思うのですが。
スターダスト作戦は見事結果を出し裏切り者が判明するのですが、例によってあっと驚く結末が待っています。
時代が違うので冷戦時代の著者の傑作スパイ小説と比較するのは無理であることは承知の上ですが、スマイリー三部作などと比べると本書は情に傾きすぎ、またスケールの点で矮小であるように感じます。ナットはスマイリーのカリスマ性を備えていませんし、彼の勤務する組織は小さすぎます(無能な上司の多いところは変わりませんが)。また、ナットの家庭生活(理解のある妻と反抗的ではあるが家族思いの一人娘)が詳しく述べられていますが、スマイリーと貴族出身の妻の間の氷のように冷ややかな関係がほとんど語られていないのとは対照的です。
そして、SIS内の裏切り者として網にかかったのは「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」におけるビル・ヘイドンのような狡猾な大物ではなくただの小魚でした(しかし野放しにすると危険)。また、ここにはスマイリーとモスクワ・センターの仇敵カーラの間の死闘も胃が痛くなるような神経症的な緊張感もありません。ナットによる最後の解決も大甘で、これでいいのかと思ってしまいます。ナットはSISを辞めるつもりでしょうか?話の筋全体としても多少単調です。
しかし、88歳のル・カレの小説としては、それでよいのかも分かりません。深刻な内容のものだけでなくリラックスして楽しむ娯楽作品もあっていいのかと思います。ル・カレの作家人生の残照としての本作品を多くの方々にお薦め致します。