フェアウェルの殺人: ハメット傑作集1
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種別
短編集
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あらすじ
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評判
フェアウェルの殺人: ハメット傑作集1の評価:
7.00/10点 レビュー 1件。 C ランク
フェアウェルの殺人: ハメット傑作集1の総合評価:
8.25/10点 レビュー 4件。
感想一覧
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
Amazonレビュー
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
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「短編全集2」もあるが、惜しむらくは両方ともに絶版。本書にはレビューも
なく、収載作品がはっきりしないままに古本(当たり前だが)で取り寄せた。
1972年初版、取り寄せた本は1984年13版とある。表紙はAmazon
の登録品とは異なる。「全集2」はAmazonと同じ。増刷したおりに「全集2」の
表紙になったのだろう。(「全集2」は1995年13版)。
収載作品。
「フェアウェルの殺人」 「黒づくめの女」 「うろつくシャム人」
「新任保安官」 「放火罪および…」 「夜の銃声」 「王様稼業」
全て「コンチネンタル・オプ(名無しのオプという異名もある)」が主人公。
最初にエラリー・クイーンの4ページほどの序文、というかハメットの作中の
主人公=コンチネンタル・オプは誰をモデルにしたのかという指摘がある。
ハメット自らがクイーンに語ったことを記載している。ネタバレとなるので詳
しくは書かないが、モデルは通説と同じであった。
この短編集の原題は、「THIS KING BUSINESS AND OTHER STORIES」
となっていて(「王様稼業とその他」)、邦題の「フェアウェルの殺人」から題名
はとっていない。なぜか不思議だ。この点については最後でまた触れる。
「ハードボイルドの定義」通りに言えば、残酷なあるいは暴力的な現実ではあ
っても、それをそのまま簡潔な描写で作品をつくること、となるだろう。そして
主人公は情緒的な物言いをしない、そんな作風になる。
まさにハードボイルドの名にふさわしい作品が収載されている。
作品ごとのレビューとナルが、粗筋はなるべく簡略なままで紹介する。
ハードボイルドの典型的作品、「フェアウェルの殺人」。
ハメットの名作=「血の収穫」と同じで、オプは事件のあらましの見当をつけ
た後に、少しずつその事件の隠された真実に近づいていく。これが1930年の
作。100年前の作品とは思えないほどに、リアリティのある筋立てとなってい
る。オプがどんな人間なのか、直接的な描写は一切ない。ただオプの行動のみが
オプを語る。無駄をそぎ落とした文章によって物語は完結する。暴力シーンは実
に残酷、淡々と描写している。
誘拐をモチーフとした「黒づくめの女」。物語最後のオプの言葉がいい。
1923年、大恐慌の前。大金持ちが登場するが、その時代は「金ピカ」の時
代。物語には、浮かれている当時の世相が滲み出ている。
この物語の「オチ」は今では珍しくないだろうが、当時は斬新であったろう。
初出誌(Black Mask)に「ハメット」名義で出した初の作品らしい。
「うろつくシャム人」では、日本では見かけない「ホテル探偵」が登場する。
この作品の重要な登場人物ではないが、アメリカには変わった職業がある、と思
っていた。しかし調べてみると「ホテル探偵」は、「宿泊者の安全、トラブル対
処、コールガールの出入り禁止、などに携わる仕事。ホテルの警備員より上位の
セキュリティ担当者」であるらしい。
本作品では、おそらく「メキシコ革命」(1910~1917)に関すること
が記されている。時代を感じる。
珍しく、移動中の情景(自然の景観)を細かに描写しているのが「新任保安官」。
乾いた埃だらけの町。100ページ近い作品で、むしろ中編とよんでいいほど。
オプは珍しく「保安官補」の役割であり、暴力が支配する町で淡々としかし確実
に動き回る。
これも「血の収穫」と同系列の作品。むき出しになった残酷さの中で、オプは
策を練る。ハードボイルドそのものの作品。長いがあっという間に読み通せる。
オプはその事件の鍵を最後に述べる。
またこの作品でオプは、あえて狙って人を撃ている。これも珍しい。
ウィンズロウの「カリフォルニアの炎」を思い起こさせる、「放火罪および…」。
「カリフォルニアの炎」はかなり主人公の心の揺れを描いていて、ウィンズロウ
も随分とアメリカのこの類いの犯罪に怒りを持っているのが分かった。
火災の調査とは、かなりこれ以外の作品とは傾向が異なる。今でもアメリカの
探偵は火災調査をしているのか。専門知識を持ってオプは行動的な調査を行う。
身体を使うというよりも、理屈で犯人を追い詰める。
「夜の銃声」は、あまり感心できない。ストーリーの根幹に「老い」がある。
「王様の稼業」。現在のセルビアの首都=ベオグラードが登場。1918年ま
ではオーストリア・ハンガリー帝国の支配下にあったが、その後は1941年ま
でユーゴスラヴィア王国の首都であったらしい(wiki)。本作品は1928年に発
行されていて、ユーゴスラヴィア王国時代となる。ベオグラードから「ムラヴィ
ア共和国」が舞台となる。「ムラヴィア」は(おそらく)「モラヴィア」のこと。
チェコの東部地域に該当する。
ハメットは「マルタの鷹」といい、アメリカ人には珍しく東ヨーロッパの片隅
の国をよく知っているなと感心した。
この作品でもむごたらしい暴行シーンがある。感情を交えずに、暴力を描写す
るが、さすがにこれは好き嫌いが分かれるだろう。
ストーリーは、小国の政治状況の不安定さを下敷きにしていて、「戦争の犬た
ち」の政治版のようだ。「革命」の文字も散見される。
全体を通して。
ハメットの作品を純粋に「推理もの」としての観点から評価すれば、傑作とは
言いがたく、どうにも「ご都合主義」的ストーリーでもある。謎めいた状況から、
コンチネンタル・オプの目的が何であるのかも判然としないままに、一気に終盤
になだれ込む。そして最後に、(オプがたの登場人物に説明する、という設定で)
会話文で謎解きがある。この典型的な起承転結も、ややもすれば興ざめとなる。
ただ「ハードボイルド」としては、主人公オプの感情を極力出さずに、情景描
写も必要最小限。過剰な形容もない。そんな文体で書かれていて、さすがはハメ
ットという印象を受ける。
「訳者あとがき」で、「このアンソロジーじは四巻で、一、三、四巻にはコン
チネンタル・オプものを、第三巻にはサム・スペードものその他を、そして随所
に、ごく初期の掌編ふうのものを挟んで編集していくつもり」とある。
前述したが、本書扉にある英文のクレジットには異なり、また第三、四巻は発
行されていない(検索してもヒットしない。古本もないもよう)。
どうにも不思議だ。
古本(それもかなり安価に)を購入するしかないが、十分に取り寄せる価値がある。
ハメットだからではないが、お勧めできる。