悪女
- バルセロナ (1)
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2011年の暮れのスペイン・バルセロナで、子どもが姿を消す事件が連続して発生する。化け物の仕業だと市民たちが震えあがる中、地元警察のモイセス・コルボ警部と相棒のフアン・マルサノ警部が事件の真相を追って街を疾駆するのだが…。 ----------------- 20世紀初頭のヨーロッパといえば、ベル・エポックの時代です。 人々は工業化、都市化、国民化、文明化となによりもまず<進歩>を謳歌していました。その一方で都市化から生まれる社会の歪み、過剰な科学信仰に対する反動として神秘主義やオカルティズム、有機的な美意識に彩られたモデルニスモ芸術が人々を覆う時代でもありました。この物語に登場するバルセロナも、経済的に繁栄する都市の相貌を見せると同時に、そこから生まれる貧富の格差、化け物や死神といったオカルティズムと科学捜査とのせめぎあい、建築家ガウディや画家ラモン・カザスなどモデルニスム芸術家たちの姿を垣間見せるのです。この禍々しい時代が生んだともいえる怪女がこの物語の主役の一翼を担う実在の犯罪者エンリケタ・マルティというわけです。 カタルーニャ自治州警察の現職警察官が書いたミステリー小説ですが、訳者あとがきを読んでこれが実際にバルセロナで発生した小児人身取引事件に着想を得た実録ものだということを初めて知りました。訳者自身も書くようにこれは「犯人当ての物語ではありませんので」、シャーロック・ホームズが好きだとおぼしきモイセス・コルボ警部が、同様の切れ味鋭い推理力を発揮して真犯人を突き止める小説だと期待して読み始めた私は少々肩透かしをくらった思いが残りました。私がふだん目を通さない“ウラスジ(文庫本の裏表紙にあるあらすじ)”には確かに犯人の名前まで書かれていて、その犯罪史上に名を残す犯人像を承知したうえで読むスペイン人読者と同じレベルでこの物語を楽しむことは日本人の私には叶いませんでした。 とはいえ、架空の存在であるモイセス・コルボ警部はなかなか魅力的です。彼がエドガー・アラン・ポーの『早すぎた埋葬』と『黒猫』を足したような展開を見せる中で、彼の胸に去来する「降参せずに闘って、堂々と頭を上げて死んでいくこと、それが人生なのよ」(337頁)という言葉に虚を衝かれる思いがしました。 最後に、白川貴子氏の訳者としての優れた手腕に触れておきたいと思います。昨2017年にイバン・レピラ『』で白川氏の訳文には出会っていて、その独創的な翻訳手法を見て大いに敬意を抱いたことを覚えています。今回も20世紀初頭の正と負を併せ呑む街バルセロナの時代の空気をテンポ良い日本語に移し替えてくれた白川氏の訳文によって、読書が大変進みました。 --------------------------- この小説から連想して以下の書も紹介しておきたいと思います。 ◆ジョルディ・ヨブレギャット『』(集英社文庫) :1888年のバルセロナで発生する若い女性の惨殺事件の真相を追うミステリーです。これもまたベル・エポックに近い時代を描いていて、都市化によって19世紀末のバルセロナでは人々の生活が急速に変化を遂げています。万博という正の顔と労働争議という負の側面。そこに猟奇的な殺人事件をめぐって、ゴシック・ホラーとスチーム・パンクの要素が絡む、極上のエンターテインメント小説です。 ◆カルロス・ルイス・サフォン『』 (創元推理文庫) :1945年のバルセロナに暮らす少年ダニエルは、古書店を営む父と二人暮らし。ある日、「忘れられた本の墓場」と称する場所に案内され、そこでフリアン・カラックスという作家の書『風の影』を見つけます。この作家の作品を他にも読みたくなったダニエルは、調べるうちに彼の作品がすべて市場から姿を消してしまっていることを知ります。やがて彼を、見知らぬ影がつきまとい、『風の影』を手放すようにと迫ってくる、というミステリー仕立ての秀作ビルドゥングス・ロマーンです。2006年、私が書を読む愉悦にどっぷりと浸ることができた一冊です。 ◆ロサ・リーバス/ザビーネ・ホフマン『』 (創元推理文庫) :1952年、バルセロナで資産家の未亡人が殺害されます。時代は内戦を制したフランコ軍事政権下ですから、地元警察はメディア等の情報統制を図っています。そんな中、『ラ・バングアルディア』紙の新人記者アナが事件の真相を追います。 時代の閉塞感が色濃く出たミステリー小説で、事件解解決後も口の中が乾く思いのする物語です。 . | ||||
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実在したエンリケタという女性犯罪者をモチーフにした小説で、あとがきでも注意されていますが、犯人当てや謎解きタイプのミステリではありません。 史実には存在しないアウトローなコルボ警部が、エンリケタよりも巨悪的ともいえる権力者たちに邪魔されながらも(この辺には史実も絡んでいる模様)、信念に基づいて捜査を続けるハードボイルド要素もあります。 また、この物語の語り手が、死(死神)であることで生まれる幻想的な雰囲気と、 奇矯な人々が集まる、20世紀初頭のバルセロナの猥雑な俗っぽい雰囲気がミックスされることで、不思議な魅力が生まれています。 はっきりしたジャンル分けはできない作風だけに、著者が他に書いているというSFやゴシック小説もどんなものなのか読んでみたいですね。翻訳を期待します。 | ||||
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