イザベルに ある曼荼羅
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タブッキはこの「イザベル」を数年かかって書き上げ、知人に預けていたという。本人はその出来栄えに満足だったと伝えられる。死後に発見されて、昨年刊行されたのだが、このような来歴を知ると興味がそそられる。 タデウシュと名乗る男がイザベルという名の女性の行方を捜している。リスボンの高級レストランにて彼は彼女の高校時代の友人に会う。友人によれば、イザベルは両親を交通事故で亡くしたあと大学で政治グループに入り、独裁政治への抵抗活動をしていた。しかし、イザベルは警察に逮捕され、獄中で死亡してしまう。知らせを受けた友人は葬儀に出席したが、彼女の遺体を見ることはなかった。友人は、イザベルのことは彼女を育てた乳母が知っているとタデウシュに語った。 こうしてイザベルを探す旅が始まる。リスボンを振り出しに、セボレイラ、リスボン、マカオ、スイスアルプス、ナポリ、リヴィエラを巡り、イザベラと接点を持った人物に会っていく。乳母、サキソフォン奏者、看守、写真家、司祭、詩人、宇宙物理学者、僧師、ヴァイオリン男。同心円の中心に向かってタデウシュは進もうとしているが、曼荼羅の中心には何があるのか。イザベルは生きているのか、死んでいるのか。タデウッシュが何者であるのか、なぜイザベルを探しているのかが説明されることはない。現在と過去、現実と幻想、生と死。それぞれが交錯してイメージが立ち上がってくる。途中で、この作品はストーリーが重要ではなくて、このつかみどころのなさが魅力であり、浮かび上がるイメージを楽しむのがタブッキであろうと気づく。 場面の背後にいつも音楽が響いている。ソニー・ロリンズ、ファッド歌手、インド古典音楽、ベートーヴェンの「告別」。そして、哲学的なセンテンスが独り言のように挟まれる。 「ひとりの生涯をおさめた一連の写真とは、複数の人に分割された一個の時間なのか、それとも複数の時間に分割されたひとりの人間なのか」(p96) 「肝腎なのは探究すること、みつかる,みつからないは、どちらでもいいのです」(P.156) 「あなたは自分の後悔から自分を解放したかったのだってこと。あなたが探していたのは、じつはわたしじゃなくて、あなた自身、自分を赦すため」(p173 リヴィエラ海岸で、タテウシュの願いに応えてイザベルの亡霊が現われる。イザベルは、あなたには罪はないと言い、これが最後の別れだと告げる。この船上の永遠の別れのシーンは切なくて、美しく、じんわりと胸に沁みてくるものがあった。 友人を探して回る趣向は、タブッキが世界に認められるきっかけとなった「インド夜想曲」と同じである。須賀敦子さんの美しい訳で読んだのがなつかしい。あれから25年、タブッキは遺作に同じ趣向を取り入れたのは偶然だろうか。タブッキらしい幻想的なイメージにあふれた作品に耽溺できた。読後感を「まるでモーツアルトの優美な旋律の中に悲しみを見出して胸突かれたよう」と書けば伝わるだろうか。 。 | ||||
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本書はタブッキの死後に出版された作品です。 長らく友人の手にあったため、未刊行に終わりましたが、 作品の完成度は十分満足できるものです。 『レクイエム』の登場人物が再登場しているので、 続編として構想されたものだと思われます。 内容については、なぜか出版社が「ミステリ」と言いたがっているので、 あまり明らかにしない方がいいのでしょうが、 反体制活動家であるイザベルという女性の行方を知るために、 主人公が彼女の周囲の人物から話を聞く旅をする話です。 そこで出会う人物は、 過去の友人や使用人から始まり、 ミュージシャン、写真家、司祭、詩人、天文学者などで、 彼らはイザベルの消息の断片を伝えるだけでなく、 それぞれの視野から不在の人物への接近を語ります。 このような方法によって、 不在という無を中心とした曼荼羅構造が描き出されていくのですが、 どこかダンテの『神曲』を思い起こさせる展開になっています。 人々の証言によって構成された作品なので、 ポルトガルの政治事情など詳しい説明がほしい部分もありますが、 文章自体はとても読みやすいといえます。 不思議な読後感が残るので、何度か読み返したい作品です。 | ||||
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