哀しきギャロウグラス



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    初公開日(参考)1993年10月
    分類

    長編小説

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    哀しきギャロウグラス (角川文庫)

    1993年10月31日 哀しきギャロウグラス (角川文庫)

    鬱の病いを持つ青年ジョー。病院から追い出された上に、里親からも見棄てられ、絶望した彼は遂に自殺をはかる。その命を救ったのは、謎のインテリ青年シャンドー。この時からジョーは、彼の服従者になることを決意する。今まで愛された経験のないジョーが、初めて出会った「運命の人」であった…。実は、大富豪夫人ニーナの誘拐を、シャンドーは企てていた。その彼に、ジョーは邪険にされ、冷たく利用されても、盲目的に愛を捧げ続ける。しかし事件は意外な展開へ…。無気味とユーモア、欲望と狂気、悲劇と喜劇が交錯する、異色の力作。 (「BOOK」データベースより)




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    (8pt)

    人は誰かを必要とし、そして誰かに必要とされて生きている、のだろうか?

    レンデルのバーバラ・ヴァイン名義の4作目のノンシリーズ作品で1990年の作品。もう30年も前になるのか、1990年は。

    ヴァイン名義の作品はミステリ要素よりも人間心理をメインにしたミステリ要素の薄い、どちらかと云えば純文学寄りのものが多いが、本書は今でいうBL小説だ。
    列車への飛び込み自殺をすんでのことで止められた鬱病の青年ジョーとそれを止めたモラトリアムな青年シャンドーがそれをきっかけに同居生活を始め、やがて富豪の妻の誘拐計画を企てる。

    ただそれだけではなく、彼ら2人がターゲットとしている富豪の妻側にも恋物語がある。
    離婚し、娘を男手1つで育てるシングルファーザーのお抱え運転手ポールと富豪の妻ニーナがやがて心通わせ、恋に落ちる。

    片や同性愛、片や身分違いの道ならぬ恋と、90年代初頭ではまだ前衛的な恋愛と恋愛小説の王道がないまぜになった作品である。

    しかしヴァイン名義の作品はとにかく書き込みが多くてじっくりと物語が進むのが特徴だが、本書もまたなかなか物語が進まない。
    シャンドーとジョーが富豪のアプソランド邸に偵察に行けばお抱え運転手に見つかるわ、屋敷の警護の難攻不落振りを思い知らされるわ、運転手を内通者にしようとするが呆気なく断られるわと全く進展しない。途中で彼らの計画に参加するジョーの里親の娘で姉のティリーに痛烈にそのことを指摘されてバカにされる始末だ。
    そしてこのティリーが仲間に加わることでようやく彼らの計画は進展する。

    またお抱え運転手ポールと富豪の妻ニーナの恋もなかなかに進展しない。かつて教師だったポールはいつしかニーナに恋をしていることに気付かされるが、聖職者の経歴が一線を越えることに制約を掛ける。ニーナにどうなってもいいから自分の思いを告白しようと何度も思うが、出来ないでいる。主人が出張で海外に行き、子供も外出し、そして他の使用人も留守にしている絶好のチャンスでも、最後の一歩が踏み出せないでいる。
    結局その一線を越えさせたのはニーナからの言葉だった。彼女の後押しでようやく彼は正直に思いの丈をぶつけるのである。

    このポールはほとんど侍である。この異常なまでのストイックさは我慢強さか度胸無しかのどちらかである。
    いや両方が彼にあったからこそのじれったさに繋がったのだろう。

    しかし私はこのニーナのサインに思わず遥か昔の自分にあったことを思い出してしまった。
    それはまだ小学生の時だった。習字の教室のクリスマス・パーティの席でのことだ。私は生来のひょうきんぶりをその教室では発揮していたのでいわばそこでは人気者だった。だから出し物がある時はいつも先生が私に声を掛けて何かやれとけしかけた。そして私もそれが嫌ではなく寧ろ待ってましたとばかりに色んなことをしたものだった。

    確かそれは私が6年生の時の、最後のクリスマス・パーティの時のことだったと思う。1コ下の女子が自分から歌いたいと車座になった中心に出たのだった。その子は普段は大人しくてとてもそんな人前で歌うなんてことをする性格には思えなかったのでみんな意外に思ったが、先生も勿論そんな彼女の出し物を喜んで、歌わせた。

    その子は大勢いる中のなぜか私の方に向かって一生懸命に歌った。その時彼女が何を歌ったのかは正確には覚えていないが、当時流行っていた松田聖子の歌だったように思う。その子は半ば潤んだ瞳で私の方を見ながら訴えるように歌ったのだ。小学生だった私はそんな一途な瞳を見て恥ずかしくなり、おどけて見せたものだったが、やっぱりあれは私に対しての一種の愛の告白だったのではないかと思うのだ。
    その後彼女と話もしなかったし、何かあったわけでもないのだが、ニーナのポールに対して見せた数々のジェスチャーを読んでその時の瞳を思い出してしまった。

    閑話休題。

    誘拐を企てる者と誘拐されようとする者。この2つの相反するグループには奇妙な符号が見える。

    題名のギャロウグラスは作中の登場人物シャンドーの話ではアイルランドとスコットランドの西高地で使われていた言葉で族長に仕える家来のことを指す。これは富豪アプソランドの妻の誘拐を企てるシャンドーが命を救った鬱病の青年ジョー・ハーバートがこのギャロウグラスになるが、実はもう1人ギャロウグラスがいる。それはアプソランドの運転手ポール=ガーネットだ。

    更にシャンドーとジョーのコンビに新メンバーとしてジョーの姉ティリーが加わるが、このティリーとシャンドーがお互い求め合う関係になる。そしてジョーは一旦蚊帳の外に置かれる。
    しかしこの三角関係は堅牢なものでなく、ジョーを要としてそれぞれが自分の立ち位置を誇示するかのように、つまりシャンドーとティリーは我こそがリーダーであると自らの賢さを誇示するかのようにマウンティングが応酬されるのだ。

    そして一方のアプソランド側はいつしか恋仲になってしまったポールとアプソランドの妻ニーナ。お互いはもはや自分たちの秘めたる想いを隠さず、忍ぶ逢瀬を重ねながらもアプソランドに本心を告げてその許から離れる決意まで見せる。
    しかしニーナとポールの関係に介入する三角関係の残された一辺はアプソランドではない。それはポールの愛娘ジェシカだ。

    離婚の末に自分の許に残された娘ジェシカをこの上なく愛するポールはしかしニーナの自分への愛情を知るとあれほど目に入れても痛くもない娘の存在が次第に希薄になっていく。寧ろニーナに逢いたい思いが募るあまり、2人の時間を取るために娘が外出することを喜びだす始末だ。しかし一方に傾きかけたこの歪な三角関係も1つの事件で変化を見せる。

    新しい恋の始まりと娘との愛情の天秤を強引に一方へ傾けさせ、更にそれをまたもう一方へ傾けさせるこの展開。まさに悪魔的だと云えよう。
    これはヴァイン=レンデルの十八番とも云うべき皮肉な展開だ。

    そしてそれまでストイックな侍と思われたポールが娘の誘拐の電話に対して警察に届け出るでもなく、ニーナに相談するでもなく、ただ狼狽えて酒へと逃げるに至り、単純に優柔不断な男だったことに気付かされる。

    とにかくこのポール=ガーネットという男。実に煮え切らないじれったい男なのだ。
    ニーナに惚れながらもなかなか本心を出さず、結局ニーナ本人の口から一緒にいたいと云わせてようやく恋仲になるかと思えば、犯行の報せを受けても警察へ通報せず、どにか1人で解決しようと考えるが、思い悩むだけで何一つ行動を起こさない。

    一族の中で唯一大学を出て教職に就き、伴侶を手に入れながらも結局はその両方を失い、お抱え運転手の職に就く、いわば堕ちた男だ。何1つ決断せずに来たことが彼の現在の境遇を作ったといえるだろう。

    そしてもう1つ興味深い存在がニーナ誘拐を企むシャンドーという男だ。彼は親の仕送りで生活しているモラトリアムな男なのだが、妙に体裁を気にする。

    一緒に暮らすことになったジョーには最初親が仕送りしてまで家から出したかった男だ、癪に障るからこっそりクレジットカードの家族カードを作ってやった、これで色々買い物してやろうと悪ぶれながら、実は母親はこの一人息子を溺愛し、クレジットカードで買い物していることも了解済みだったことが解る。
    つまり彼は何不自由なく幸せな境遇であることを他人に見せることを厭う性格なのだ。
    いや母親のことを嫌いではないのだが、母親に愛されて世話をされていることを人に知られるのを嫌う男なのだ。私に云わせれば思春期がまだ続いている男である。

    また自分が常に上位に立たないと気が済まない人間でもある。自分の思い通りにならないことに極端に腹を立てる。そんな時に彼は剃刀を使って気に食わない存在を切りつける。拾ってやったジョーはパートナーというよりもやはりギャロウグラス、つまり家来としか見ていない。
    そして一方のジョーは自分にはない物をたくさん持っているシャンドーに心底惚れ、彼のために尽くすことを厭わない。だから彼が自分を追いだして自分たちの部屋でティリーとセックスをしても自分が好きな2人がそれほどまでに仲良くなったことに喜びを見出す男なのだ。

    このジョー・ハーバートといい、シャンドーといい、ポール=ガーネットといい、そしてニーナの夫アプソランドも加え、総じて本書に登場する男は大人としての未熟さをどこかしら備えている。
    対照的に登場する女性陣、ニーナ、ティリー、そしてポールの娘ジェシカまでもが達観した考えを持っている。やる時にはやる、そんな覚悟を備えた人たちなのだ。
    いやあ、女性は強い。

    やがてニーナの誘拐をどうにか成し遂げた後、我々は本書に書かれた真のギャロウグラスが誰だったのかを知る。

    そしてそのニーナにも運命の皮肉が待っていた。

    またもやヴァイン=レンデルの運命の皮肉がここに繰り広げられた。
    困難を乗り越え、新たな人生を掴もうとした矢先に訪れる悲劇。男を手玉に取った女性には真の幸せなど訪れないということなのか。

    人は誰かを必要とし、そして誰かに必要とされて生きている。そう思って生きている。
    ジョー・ハーバートはシャンドーに必要とされて生きていると思っていたし、ティリーは金を必要とし、そのためにシャンドーを必要とした。

    誰しも誰かのギャロウグラスなのだ。それを生き甲斐にしている。
    しかし本当に誰かのギャロウグラスなのかを知ることは実は生き甲斐を奪う危うさを孕んでいることを本書はまざまざと見せつけたのである。

    貴方には必要とされる人はいるだろうか?
    そしてその人は本当に貴方を必要としているのだろうか?
    それを知ることは止めた方がいい。それはとても恐ろしい事だから。


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    Tetchy
    WHOKS60S
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    No.1:
    (4pt)

    まったく著者はお人が悪い

    絶望の淵に立たされて命を絶とうとしたジョー。ジョーはすんでのところでシャンドーに救われる。その日から、ジョーは、シャンドーの従者(ギャロウグラス)としてふる舞うようになる。やがて、シャンドーは、ある富豪の若き妻ニーナの誘拐を企んでいることをポツポツと話し始めるのだった…。

    シャンドーに心を奪われたジョーの、プラトニックな同性愛に苛められる様が、じっくりと描かれる。知ってか知らずかジョーの気持ちを弄びながら、時に残酷に、時に優しく、悪事に引き込んでいく描写が素晴らしい。

    果たして、ジョーの姉を巻き込んでの誘拐の行方は…。

    一方、ニーナは、過去にあった誘拐のトラウマで神経をすり減らす日々。そんな中、雇い主から護衛をおおせつかったやもめの運転手ポールは、ニーナに惹かれ、ついには不倫関係に。このあたりの心理描写も秀逸である。

    ジョーとシャンドー、ニーナとポール二組の主人?と従者は、シャンドーの企みの末、誘拐する者、される者の立場でで会うのだった。

    クライマックスでは、シャンドーの真の狙いと、ニーナの本音が分かっておおっ!となる。そこから、ラストに突入するのだが、まったく著者はお人が悪いと言わざるを得ず。厭な後味を残す作品である。
    哀しきギャロウグラス (角川文庫)Amazon書評・レビュー:哀しきギャロウグラス (角川文庫)より
    4042541542



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