■スポンサードリンク
egut さんのレビュー一覧
egutさんのページへレビュー数147件
閲覧する時は、『このレビューを表示する場合はここをクリック』を押してください。
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
シリーズ6作目。シリーズ内屈指の出来栄えではないでしょうか。惹き込まれるストーリーでとても良かったです。
3,4,5作目...と刊行ペースが速いが質が薄くなっていると感じて手に取るのを躊躇っていました。が、本作はそんな気持ちを払拭する出来栄え。著者の力量と幅を感じた1冊でした。 このシリーズは1作目以降は何処から読んでも大丈夫です。 本書はシリーズ作品とは思えない程、雰囲気が違い、重い話で進行します。 主人公は41歳の母親。シングルマザーとして仕事と家庭の悩み、反抗期の娘との関係。行方不明だった前科のある毒母親の影が身の回りに現れ暗雲が垂れ込まれます。この流れはイヤミスのように陰鬱な気持ちにさせていきました。今までのシリーズ作品のようにライトでサクッとしたイメージと違い、重く感情に響いてくる内容。ただ読みやすい文章は今まで通りなので、重い話で長編とはいえ一気に読めました。 事件の背景も込み入っており面白い。この規模を短編のページ数でやってしまうと手がかりと回答だけの薄いストーリーになってしまいそうなので、長編の作りは功を奏していると感じます。 今回の沙羅は人間にサービスし過ぎなぐらいよく喋り、閻魔のルールとしてどうなのかなと疑問を感じる所はあります。が、ツンデレのように沙羅は基本的に人間に優しい一面があると感じられ微笑ましく思えました。不幸な話の中での希望も描かれており、惹き込まれた読書でした。 このシリーズ気に入っています。読みやすさと物語の面白さは〇。今回は感情に響く話も書けるときたので、次はミステリとして沙羅もが驚くような意外な結末話を読んでみたいと期待してしまいます。 次回も楽しみになりました。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
魔法が存在する世界でのファンタジー×ミステリ。☆7+1(好み)
ただし誰でも魔法が使えるわけではない。魔法全書に記された11種の魔法だけが存在し、それぞれの魔法が扱えるのは各魔女のみ。何でもアリの世界観ではなく、ある程度制限を設けた中での特殊設定ミステリでした。 扱われる事件は、祭りの中で発生した衆人観衆での密室殺人+炎の火災。 剣と魔法の雰囲気も然ることながら、魔女狩りの世界観が組み込まれている雰囲気も面白い。 密室ものでよく議論される、何故密室にするのか?についても、本書では、論理的に解釈できなければ、それは魔女による魔法が扱われた可能性がある為。と、この世界ならではの捉え方で議論されるのが新鮮でした。 本書はミステリというより、バトルファンタジーが主です。ミステリを期待するものではありません。 ただ、扱われる真相と仕掛けはミステリでは前例が思いつかず、本書の世界だから可能にする特有なものな為、とても刺激になりました。唯一無二のネタってそれだけで価値が高まります。 個人的に思う所として、 1000年越しの謎と見立ての事件ですが、『1000年』の扱いにもっと深みが欲しかったです。500年でも200年でも良さそうです。1000という時間。情景や歴史的な変化。もっと深みがあればと思いました。文字だけで"1000年"が頻繁にでるので薄く感じてしまいました。 ルドヴィカとエルシリアの関係について。そんな殺し合うような殺伐とした関係にしないでも良さそうなと思います。ここだけなんかのめり込めませんでした。騎士ウェルナーの成長やルドヴィカとの関係など、王道ファンタジーとしてとても面白く楽しめました。 11種の魔法の存在やキャラクターなどは続編を考慮した作りとなっており、続きの冒険が気になる所ですが、続巻がないのが残念です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
タイムトラベルを扱ったSF本格ミステリ。かなり好物でした。
過去の事件を解決する為に時代を遡る設定のミステリは世の中に沢山あります。特殊設定のSFミステリについても他の著者を思い浮かべる事でしょう。そんな中でも本書が光る要素は、しっかりとした硬派な本格ミステリである事と、ストーリーの面白さだと思いました。 病気の妻の呪いに関係する過去の事件。謎の砂時計の声に従い過去へタイムトラベルした夫。事前に調べてある事件の予備知識を参考にしつつ、探偵として事件に関り真相解明を目指します。 SF設定はある種何でもアリになってしまう所、本書は丁寧にタイムトラベルの条件定義を行っています。何ができて、できないのか。時間や移動先、転移可能な空間の量など、その設定のお話自体が面白いので把握しやすかったです。特殊設定系のSFやファンタジー要素と本格ミステリを合わせる作品においては、この条件定義の把握のしやすさがとても大事。ここは問題なく楽しかったです。 ミステリとして見ても、クローズド・サークル内にある館での連続殺人事件。見立てやバラバラ殺人の謎など、盛り沢山な面白さでした。 難点というか欲を言うと、終盤の解答編については、種明かしの演出や説明のわかりやすさが欲しかった所。 沢山の謎がありましたが、解答を一気に並べたような感じで、1つ1つの真相を把握して驚きを味わう間がなかったです。 『実は○○だった!』という演出ではなく『実は〇〇なので、その為こちらがこうなって……』という感覚。合っているのか検証できないまま、一気に答えが流れて次の話に進んでしまう感じなので、せっかくの仕掛けが勿体なく感じました。 デビュー作なので今後も期待。そして今まで応募していて落選してしまっている作品も読んでみたい。展開が読めない先が気になるストーリーと爽やかに閉める読後感がよく、他の物語にも興味が湧く次第です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
☆7+1(好み補正)
ファンタジー×SF×ミステリ。 特殊設定ミステリの部類。その設定が隠されている為、モヤモヤの違和感を感じながらの読書。帯にある通り、終盤で明かされる秘密(設定)を把握した上で再読すれば話が理解できて複雑な試みが楽しめるといった作品。構成が複雑なので悪い意味で2度読みが必要。この点は好みが分れそうです。 正直、初回の読書では話が理解できませんでした。ただ理解できず違和感があれど話は面白く読めます。 物語は大きく2つのパートで進行します。 1つ目は石国と帝国の協定に関する物語でファンタジー寄り。協定に違法がないか世界樹を調査する話。<引き金屋>の異名を持つラインハルトが曲者で、戦争へ勃発しそうな緊迫感が漂う展開に手に汗握ります。 2つ目は別チーム視点で世界樹を調査する話。ただしこちらは世界樹の中で殺人(?)事件が発生するミステリパート。 この2つを同時進行で読むのですが、なんだかおかしいのですよね。この違和感の正体を読者はあれこれ想像しながら読む感じです。 特殊設定の秘密が分かれば、ミステリの真相や世界の姿も明らかになるのが見事。 そしてそれが何とも言えない心境になる。正にファンタジー×SF×ミステリな作品でした。 ファンタジー作品も許容範囲なら楽しめると思います。こんな複雑な構成にしないでも良さそうなのですが、初読の違和感と2度目の楽しみが面白さのポイントなのかも。 世界観共に好きな作品でした。 備忘録として自分なりの解釈をネタバレ側でメモします。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
全人類が記憶障害になり、長期記憶が出来ない世界になった話。
非常に面白かったです。あまり経験のない新しい読書体験でした。 序盤は斬新な災害もの小説としての混乱が描かれます。 突然記憶が保てなくなる世界。何かおかしいと感じても、その感覚すら忘れてしまう。また、全人類が同時に記憶障害になると、そのおかしさを指摘できる者もいなくなる。災害小説としての斬新な発想と、そうなった世界では何が起きるかのシミュレーションとしてのリアルさを感じました。 中盤からは記憶が保てなくなった世界。長期記憶を補う為に、脳と外部記憶メモリを繋げた未来が描かれます。人間の記憶が外部メモリ化された世界では、どのような問題が発生するのか。また違法な犯罪が行われるのか。短編集のようにいくつかのパターンの物語が描かれます。これらも総じて面白い。個人的には、SFやミステリというより人間の心は何処にあるのか?という哲学を感じました。肉体と記憶が分離できる場合、人の死とは何なのか、肉体が滅んだ時?記憶メモリが破壊された時?と言った具合に考えさせられます。 著者の本は少し読み辛く苦手なイメージがあったのですが、本書は扱うテーマが難解ではあるものの設定や世界観が分りやすいので読みやすかったです。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
内容は観覧車に閉じ込められた人達の群像劇。
観覧車をジャックして人質を取った犯人。ママの誕生日旅行で来ていた家族。伝説のスリ師の爺。etc... 籠に閉じ込められた面々の状況が切り替わりながら話が進みます。 タイトルや表紙から、誘拐ものの緊張する堅苦しい雰囲気、またはホラーを連想していましたが中身はコミカルでライトな傾向でした。知名度がある作品で例えると、恩田陸『ドミノ』やゲームの『428』の雰囲気に近いです。重くなく気軽に楽しめます。 群像劇作品の舞台は街の中やホテル等の大型施設にて交わる事が多いのですが、本作品は個々が観覧車の籠に閉じ込められており、交わり辛い状況です。どう話が交差するのか予測がつかない珍しいシチュエーションでした。 どういう話に転ぶかは読んでからのお楽しみ。 総じて面白く、最初と読後の印象の違い、ストーリー展開や繋げ方、分かりやすいキャラクター達、そして読みやすさ。と、ストレスなく楽しめて面白かったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
クローズドサークル×予言もの
前作同様に特殊な状況を本格ミステリに加えた作品となっています。 封鎖された空間で起きる事件と検証の連続。読んでいて非常に楽しい読書でした。大好きな本格ミステリに予言という要素の新たな使い方を加えて斬新さを生み出しています。 読書前の気持ちとして、実は予言という要素はミステリではそんなに珍しくないですし、予告殺人というジャンルもあり見慣れている為、ある程度を想定して身構えていました。 本書の予言の面白い所は、予告殺人のような人的要素ではなく、SFの超常現象のようなものとして扱われている所です。前作同様に非現実的な事があるかもしれないというのを前提条件に加えてのミステリな為、事件検証方法や登場人物達の思考や行動が斬新に映りました。 また、物語の雰囲気やキャラが良いです。比留子さん&葉村の支え合うような関係も目が離せません。真面目な所と抜けてる所が程よく読んでいて気持ち良いです。特殊設定ミステリという要素だけ捉えてしまうと過去にも多くの作家さんが描いていますが、学園ミステリのキャラ立ちしている中では珍しいのではないでしょうか。この点も非常に好きな要素。新本格時代のクローズドサークルでミス研メンバーが活躍する中で新たな特殊条件が加わるという好きな要素てんこもり。大興奮な読書で読後も満足。次回作も楽しみです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
メディアワークス文庫はライト傾向ながらもミステリ好きが好む仕掛けを入れてくる作品がたまにある。そんな本を引き当てると嬉しく思う。本書はそんな1冊。
どういう系統の本なのか、実は帯や裏表紙に書かれてしまっている。Amazonの表紙画像には書かれていない。そこがメインとして印象に残る人もいればそうじゃない人もいるので、版元としてはネタバレではなく敢えてPR材料として明記して宣伝している模様。 あらすじは、死の瞬間を幻視してしまう主人公と、幻視によってもうすぐ死ぬことになる女性の2人が、幻視の運命を変えようと行動し人助けをする話。 幻視の設定がユニークで面白い。死が訪れる現場で被害者だけの動きが映像でリピート再生されます。まだまだ未来の死の場合は映像が半透明で薄く、死が近い程色濃く現実的に映る。横断歩道で映像が見えれば交通事故と想定できる感じです。この特性を手がかりにどんな死が訪れるのか想像し先回りして対処する流れです。 男女の出会いから始まり、誰かの死を回避する為に共闘する姿は青春模様でよい。 まぁなんというか読書中は、女性の鈴さんがとても良い人で万能過ぎるし、主人公は鬱屈してたり会話が寒く感じて、キャラまわしはラノベっぽいというかレーベル通りなどなど、ひっかかる点が多かった。ですが、読み終わってみれば気になる点がプラスに転じる。総じて面白く楽しめました。特に事故回避シーンの緊迫感は文章の筆が乗っているというか勢いあって惹き込まれました。 仕掛けに関しては話のメインではないのですが、ある程度想定していたのに、そうきたか!と意表を突かれました。ただこれは少し反則技では、、、でも有名なミステリ作品でも似たような前例があるからアリなのか。もう少し設定の補強があればよかったのになと思う次第。ここら辺はネタバレで書きます。 結末もよいので、ライトノベルも許容範囲のミステリ好きにはおすすめな作品です。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
お仕事系・日常の謎作品が得意な著者による和菓子ミステリ。
個人的にとても新鮮な読書でした。 正直、和菓子については無知なのと、デザートはケーキなど洋菓子の方が好きなので興味が湧かなかったのです。和菓子と言えば、大福、羊羹、餡子なイメージ。"上生菓子"は見た事・食べた事ありますが、この"上生菓子"なんて単語は日常で使った事がないレベルでした。 本書の類似傾向としては美術ミステリに近いです。著者の解説にありますが、暗号のような菓子名、基礎知識がないと来歴すらわからない菓子。色・形・技法で季節を感じたりと、和菓子の世界は見立てや言葉遊びに溢れておりミステリ模様です。 本書、和菓子を知らない読者程、面白いと思います。 主人公のアンちゃんはちょっぴり太めで食べるのが大好きな女の子。アルバイト探しでピンと来たのがデパ地下の和菓子店での販売員。和菓子の事は初めてで、その業界の店長や職人さんや奇妙なお客さんと関わり、和菓子の世界に触れていく流れです。つまり、和菓子を知らない読者と主人公が同じ目線なのです。主人公と同じように和菓子の仕事で分からない事が日常の謎として悩み、解決していく流れとなります。 ま、ミステリとしては非常にライトです。謎解き主体でもありません。ミステリを求めると何もなく感じてしまい、ただの漫画か仕事本じゃんとなるので、その期待値は無い方が無難。 お仕事の裏側や、仲間達との感じのよい雰囲気が楽しめます。殺伐さは皆無で子供からも楽しめるでしょう。 読後は上生菓子を検索して食べてみたくなり、デパートへ買い物へ行きました。パクっと食べるとやっぱり餡子な印象なのですが、本を読んだおかげで餡子も色々ひき方、練り方があるんだなとか教養が増えて良かったです。 ミステリを通して新しい分野を知るのはやっぱりよいです。そういう効果がある作品でした。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
人工妊娠中絶と監禁拷問を扱い、独特な生と死の世界観を描いた作品でした。
主人公の医師は表と裏の生活があります。 表側は法的に問題ない殺人に近しい中絶を専門とする医師の生活。中絶をテーマに生き残った子と生まれなかった子の違いやその選別の考えを読ませます。裏側は医師の目に留まった被害者を監禁・拷問する話。表と裏の生活において、どちらも生と死のタイミングは医師に委ねられます。どちらも命を奪う行為ですがその違いは何なのか。中絶理由や被害者のエピソードを読むと妙に納得しながら読んでしまう。このバランス感覚が巧く、理不尽で異常な行動なのですが、殺人鬼の主人公に少し共感してしまったり、価値観が魅力的に見えてしまう怖さがありました。 扱われる内容の文章表現が淡々としている為、気持ち悪くもならず、むしろ爽やかさを感じる読みやすさ。 医師の意味通りの確信犯的行動に惹き込まれた読書でした。 生きているのも死んでしまうのも些細な切っ掛けやタイミングかもしれない。 殺人医師は殺人を犯すが、生き残った子には嬉しそうに生き延びてよかったと話すギャップが印象的。本書の捉え方や考え方によっては、生きている事は素晴らしい事で自由に行動できる良さを示しているのかもしれない。そんな解釈も感じました。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
非常に面白かったです。
科学が発達して情報がグローバルになった現代において、超常現象や妖怪を扱うホラー作品の存在意義が悩ましい中、本作はそんな思いを払拭する出来の素晴らしい作品でした。 全体像は妖怪のホラー作品なのですが、構成やミステリ的な伏線の繋がりが刺激的に配置されている為、ホラー×ミステリとも思えます。 3章構成になる本書。1章目は「ぼぎわん」という謎の存在との遭遇。まずこの「ぼぎわん」という単語の発明が巧いです。まだ未読ですがシリーズ作品のタイトル名を見ると「ずうのめ」「ししりば」「などらき」といった不気味に感じる単語が並びますが、こういう音を作るのが巧いのです。文章も読みやすく展開も早い為、不気味な存在で読者を不安にさせるホラー文芸を楽しめます。開始数ページで一気に惹き込まれました。1章目は面白いホラー作品の良いとこ取り。余計な説明なしで一気に疾走する面白さがあります。 2章目は視点を変えて物語を見つめなおします。この構造が新鮮でかつ発見的な為、違う魅力で惹き付けられました。 事件の真相を解明するミステリ小説のように、化け物の存在理由を解明したり、関わる人の内面を覗いたり、名探偵のように頼れる存在がでてきたりと、現代的なホラーは悪くないと思えた作品でした。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
『このミス』の紹介で知りました。無意識に一般文芸書として認識していたのか、今まで視界に入っていませんでした。
こういう作品でミステリのランキングに入らないのが勿体ない。そして作家さんの事を調べてびっくり。宣伝先や情報源や読者層が違うのだと思いました。 ミステリとして見事な作品。夢中で一気読みでした。 本書の構成は、AGE22とAGE32の2冊が上下巻ものとして1セットです。 1冊の本ではなく分冊しており、"上巻""下巻"と表記せずにAGEで分けている所は、読者が時代をハッキリ分けて認識させる効果を演出していました。 AGE22の物語は、就活に失敗した22歳の光太がホスト人生を歩む話。 就活失敗の嘆き、自分を落とした会社への不満、家庭のお金の問題、恋人や家族との関わり。負の心情が溢れ返ります。 光太はお金の為に働かなければならず、金の魅力からホストという未知の世界へ入り込みます。この様子は分りやすい動機と共に、視点が読者の目線と合って描かれる為、面白く読めます。 夜のお仕事系のお話ではよくある展開ですが、読みやすさと嫌な感じがしない文章表現によって違った味が楽しめました。で、ホストの世界でとある事件が発生する流れ。 AGE32の物語は、その10年後の話。AGE22から順番に読みましょう。 上下巻もの作品は長くて苦手なのですが、本書は飽きる事無く楽しめました。その要因として謎と解決が何度も発生する事。大きな事件ではなく疑問や関係性の小規模な出来事なのですが、謎としての魅せ方や解決するテンポの良さが巧いのです。さらに、謎が明かされても気持ちが晴れる事なく、新たな謎に翻弄される展開がよい。いつの間にか社会の闇に触れているような怖さを感じました。AGE32を迎え、徐々に見えてくる人間模様や話の関連性は、ミステリ好きには伏線回収やどんでん返しといった姿として映る事になるでしょう。 必然性ある設定の数々が素晴らしかったです。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
個人的に作者買いの一人。不思議な世界観と男女の心情や世の中との距離感を素敵な文章で紡いでいく小説としての良さがあり好み。本作も健在でとても素敵な作品でした。
記憶改変できる世界での恋のお話。 舞台は、サプリメント摂取のように薬を飲むことで架空の記憶を移植できる世界。楽しかった事、嫌な事、これらは記憶の中の思い出による感情であり、記憶の追加・削除により人生を豊かにしたり、欠落した虚無感を補える世の中となっています。記憶がテーマとした土台の上で、世の中から距離を持った青年視点の物語となっています。 偽物の記憶であるはずの幼馴染の彼女が現実世界に現れた謎はありますが、読みどころは青年の心模様。人を信じられない卑屈な動きにヤキモキしますが、極端な例により孤独感や拠り所となる彼女の存在をとても感じます。登場人物については基本的に孤独で悲観的で心のどこかが欠如している傾向があります。人生を謳歌していてウェーイ!という感じな人にはまったく刺さらなそうな作風なのですが、寂しさや心に傷を持ったりした時には染み渡る独特の中毒性があります。 相変わらずの他人から見たらバットエンド模様だけど当事者にはハッピーエンド…のような絶妙な物語。『三日間の幸福』とは違ったアプローチで、生き方や考え方を感じさせられました。 著者作品はアイディアも然ることながら独特の世界観とそれを表現する文章が好きです。 過去作を読んできてますが、今作は伝えたい大事な想いは前後に空白行を入れて強調したり、会話文をあえて増やしたり、または無くしたり、改行を取っ払って溢れ出す思いを描いたりと、多様な表現が目に留まりました。技術的な事はわからないですが、文章やセリフ回しが読みやすく毎回不思議な世界観に浸れる読書が心地よいです。 あと表紙の女性も綺麗。作中には出てきていない永遠の愛を意味する桔梗を持つ儚い女性。著者の作品に出てくる女性ってこういう脆さを感じる雰囲気でマッチしていますね。 久々の新作で早川レーベルになった影響もあるかもしれませんが、色々と洗練されより深く心に残る作品でした。よかったです。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
分厚い本なので読むのを躊躇していました。読んでみると一気読みであっという間。
社会的な問題を盛り込んだ本書は一見難しそうに感じますが、ストーリー作りや読みやすい文章なので苦に感じません。著者の力量を感じます。 女性一人の人生を通して、家庭崩壊、貧困ビジネス、保険金、売春などなど、不幸と転落の数々を描いていきます。読書の良さとは人の人生を体験し学べる点がありますが、本書は数人分もの物語を体験した感覚でとても刺激的でした。特に保険金や貧困ビジネスについては仕組みの勉強になった気分でした。 社会的な側面がある一方、ミステリの物語として殺人事件を絡めてより飽きさせない作りにしているのは巧いです。著者の『ロスト・ケア』も好みですが、同様に読書中は社会問題を読ませる物語として楽しみ、読み終わってみると構造がミステリになっており作り方や技法に唸らされます。 総じて雰囲気が重い本ですし、ページ数も多めなので躊躇してしまいますが、ミステリ好きなら一読の価値があります。 社会派として扱うテーマが盛り沢山で、ミステリとしても伏線や構成の妙を楽しめる素晴らしい作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
閻魔堂沙羅の推理奇譚の第2弾。刊行ペース早いですね。相変わらず安定した面白さでした。(☆7+1好み補正)
構成は1作目と同じで、 ・各主人公のエピソード⇒ 死んでしまう⇒ 表紙の閻魔大王の娘登場⇒ 推理編⇒ 解答編⇒ 後日談。 という流れ。 本書は変化球ケースのストーリー。沙羅は皆に蘇りのチャンスを与えているの?普段はどうしているの?みたいな読者が疑問に思うようなストーリーを先に提示した物語である印象です。あらすじ内容含む3篇の物語。 どの話も、ミステリとしても人間ドラマとしても分かりやすくて読みやすい。このバランス感覚が巧く気持ちよいです。 変化球としては2話目の悪党が主人公のケース。 死因が不明。どうやって死んだのか?を問題のミステリとして楽しみつつ、悪党に対する閻魔堂の対応も楽しめる作品でした。 どの話から読んでも楽しめるシリーズとなりそうです。 マンネリ化しないようにバラエティー豊かになる今後を期待。今はまだ簡単な謎解きレベルですが、驚愕な仕掛けがあればもっと知名度あがりそう。 色々期待ができる作品として続編も楽しみです。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
第55回メフィスト賞受賞作。
これは面白かった。閻魔様が出てくるプチ異世界もので現代テイスト。殺伐さは無し。続編やドラマ化しやすい作り。読後感もよい。 万人向けのミステリです。 表紙とあらすじからは予想できませんでしたが、本書は推理する事を楽しむ90年代の新本格ミステリを読んでいるような楽しさを感じました。プラス、現代風な味付けとなっており、ミステリ初心者には特におすすめです。 短編集であり、各物語はミステリの問題集のように楽しめます。 構成をざっくり言うと、 ・各主人公のエピソード⇒ 死んでしまう⇒ 表紙の閻魔大王の娘登場⇒ 推理編⇒ 解答編⇒ 後日談。 という流れ。 よくある流れではありますが、この手順がしっかり仕分けされているのがポイント。 各主人公達は死んでしまうのですが、なぜ?誰に?と言った理由は、エピソード内に手がかりが用意されており、推理可能な内容となっています。 「読者への挑戦」は挿入されていませんが、それぐらいフェアな手がかりが提示されています。 各主人公達は、なんで死んでしまったのか訳が分からない。理由を教えて!と閻魔の娘に懇願しますが教えてくれません。手がかりはすべてそろっているから推理して当てたら願いを叶えてもいいよと情けをかけてくれます。主人公達と読者は同じ目線にあり、手がかりを推理して真相に迫る流れが楽しめました。探偵が唯一無二の完璧な解答を示すのではなく、素人推理で読者とシンクロしていく展開が巧いです。 登場する閻魔大王の娘の沙羅もよいキャラクターをしています。 冷徹で淡々と仕事をこなすキャラかと思わせておいて、ドジっ子で人情味を感じさせる可愛い個性があります。意味はちょっと違うけどツンデレ的。登場シーンのページ数は少ないのですが、非常に印象に残り魅力的でした。 敢えてマイナスになりそうな点を挙げるとすれば、手がかりが簡単すぎて結末が読める事と、骨太志向の方へは深みがない作品である事。レーベル然りライトミステリの分野です。ミステリ的な衝撃やトリックみたいなのは今後に期待です。本書は閻魔の娘との絡み、各主人公達の人情的なドラマに魅せられます。先に書いたドラマ化しやすそうな印象を受けたのはこの為です。 あと余談ですが、ゲーム『トリックロジック』を知っている方がいましたら、正にそれの小説版と言った感じです。 手がかりを読んで、推理して、閻魔様に生き返らせてもらう。好きなゲームなのですが、この楽しい要素に新たに触れる事ができた本書は大変好みでした。 サクッと読める本格ミステリが好きな方は是非どうぞです。続編も楽しみです。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
とても好みな作品。面白い作品でした。☆7+1(好み補正)。
著者の作品は久々の読書。4年前のデビュー作『○○○○○○○○殺人事件』で笑撃を受けて、『RPGスクール』でちょっと好みと外れてしまい、それから手に取っていませんでした。気になる作家さんでしたが3年ぶりの読書。今回は非常に満足です。また他のも読んでみたい気持ちになりました。 本書は時事ネタとも言える、"人工知能"や"ディープラーニング"を題材とした現代的なミステリです。 人工知能を題材とした作品はSF含めればいっぱいありますが、それらに特有な学術的な難度、堅苦しさ、硬派な文体と言った敬遠されがちな要素が難点でした。本書はそれら苦手要素がまったくない。良い意味でラノベ的キャラクター小説、読みやすく、AI要素については衒学さは皆無であり、AIにミステリを学習させて事件を解決!ぐらいの気持ちで読めます。ですが軽すぎもせず、"ディープラーニング"の特徴やプログラム的なバグというか衝突の穴をコミカルに描いている点もよいです。一方、SF小説や硬派な人工知能作品を読んでいる方には不自然で物足りなさを感じる側面があるかもしれません。出版レーベル然り、ライトに楽しみたい方向けであります。 探偵AIの"相以(あい)"と犯人AIの"以相 (いあ) "。解決役と問題役として互いで学習する対の存在。その犯人AIの以相がテロリストに奪われ、次々と難事件が襲い掛かるという話。近年、Googleのディープラーニングが囲碁で活躍したニュースがありましたが、人工知能同士で互いに学習するネタ等をこんな風にうまく絡めて世界観を作っているのが面白い。ここだけで最強の探偵VS犯罪者という構図を現代風のオリジナルで生み出したのは勝ちでしょう。続編がいっぱい生まれそうです。 探偵AIの相以(あい)ちゃんが人工知能っぽい所と、ドジっ子的な可愛さを持っているのが好み。序盤での「ふえーん、フレーム問題のエラーが出てましたぁ」のセリフから滲み出るキャラの可愛さはとてもいい。このあたりから雰囲気にのまれて好んでいきました。いきなり最強の探偵AIが出てくるのではなく、学習して育っていく成長が見える点も面白いです。 キャラ作りについては西尾維新を彷彿とさせる二つ名がくどくて苦手。二つ名にも何か意味のある仕掛けがあればよいのですがイタイだけの印象でした。表紙について、新潮nexからの出版ですが、講談社の西尾維新の物語シリーズのイラストを担当している人を採用しているので、キャラ作りは西尾維新っぽさを売りにしているんだとは感じますね。キャラものは好きですが、読み辛さをとても感じたので今後に期待です。 扱う事件のネタについて、正直な所、斬新な仕掛けは感じず既存のミステリを人工知能が解析したらどうなるのか?という印象の面白さを感じる話でした。 とはいえ、扱うネタの多くから、著者がすっごくミステリが大好きな事を感じます。ディープラーニングの画像解析の結果から生まれる、完全無欠の黒タイツとか笑えました。たくさん引用したくなるぐらい小ネタが豊富で楽しかったです。 続編希望です。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
奇術師、手品師、それらを犯人に設定した作品は作者の意気込みをとても感じます。
総じてマジシャンと呼ばれる職業は相手を騙す仕掛けのプロ。単純な事件の犯行トリックでは作品が物足りなくなる為です。読者の期待に応えねばなりません。 その点、本書は満たしており、お腹いっぱいになるぐらいの展開と魅力に溢れた作品でした。 本作の魔術師(イリュージョニスト)という異名をつけられた犯人は第一の犯行から人間消失トリックを用いて現場から消えます。対する探偵役である犯罪学者のライムは現場で見つかった微細証拠物件による科学捜査を用いてトリックを暴き犯人を追い詰めていきます。消失トリックは速攻で仕掛けが明かされていく贅沢仕様であり、引き続き魔術師の連続犯行に対する探偵と警察捜査の攻防が繰り返していく様子は1作目を彷彿させて非常に楽しい作品でした。 アドバイザーのイリュージョニストのカーラの助言において、マジックにおける相手を欺く騙しの数々を解説していくのも見物です。エフェクトとメソッドの違い。物理トリック、心理トリック、見せるもの・見せないもの、行動を欺く誤導については作品のキモとなっています。 本書で少し気になる点としては、『犯人を追い詰める』事に趣が置かれた作品であると感じます。 理由は犯人がかなり神出鬼没であり、どうやって侵入したの?と疑問を感じる点が多々ある為です。侵入模様は特に描かず、犯人が現れた!捕まえろ!逃げられた!という展開が出来すぎておりちょっと興が覚めます。とは言え、前向きに捉えればこの犯人を追い詰める緊張感が本書は続くので、先が気になるジェットコースターミステリとしてみれば大満足でして、些細なことは気にしないでいいや。という気分にもさせられました。 シリーズ作品として、1作目の登場人物を把握した後なら、いきなり本書5作目を読んでも問題ありません。 犯人との対決や、ヒロインのサックスの物語としても楽しめました。 上下巻物でボリュームある為、毎回読むのを躊躇するのですが、読めば面白いのは相変わらず。また時間が取れたら続きを読もうと思います。 |
||||
|
||||
|
|
||||
|
||||
---|---|---|---|---|
好きな作家に岡嶋二人がいます。この作家の作品は昔たくさん読んでいるのですが、解散後の井上夢人作品は殆ど手付かずでした。
本が分厚く上下巻ものが多いので敬遠しがちなのです。今回、時間が取れたので手に取りました。率直な感想はやっぱ面白い。ほんとすごいな。 作品を一気に読むと勿体ないから今後も時間をみて手に取る事にしようと考えを改めました。 ジャンルはごちゃまぜ。SFやウィルス災害やパニックやミステリやファンタジーやら。強いて特徴を述べるなら超能力ものです。 あらすじ通り、未知のウィルスが発生しそのウィルスにより死者は数百名を超えるという、現場に居合わせた序盤は災害もの。何が起きているのかの不安感が読ませる。そしてそのウィルスに感染しながらも生き残った数名には特殊な能力が身についていた。という話。 設定だけならよく見る内容でしょう。要所要所におけるストーリーのポイントを伝えてもアニメやファンタジーのような印象を受けるかと思います。 著者の凄い所は、設定に対して綿密に考えられた導線で違和感なく読ませて惹き込む所ですね。辞め時が見つからず、早く先が読みたくなる小説としての素晴らしさがありました。この文章の読みやすさと想像のし易さは凄いなと思う。超能力者のやりたい事、葛藤、世間とのずれ、生き方などなど、読者が簡単に思うような所は先回りして描き潰してあるように感じます。読んでいて楽しい作品でした。 ▼以下、ネタバレ感想 |
||||
|
||||
|