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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数617件
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「最悪」と並び称される、奥田英朗の長編犯罪小説。平穏な日常がいとも簡単に崩れ去って行く恐怖を鮮やかに描いた、傑作エンターテイメント作品である。
東京郊外の住宅街に暮らす及川恭子は、近くのスーパーにパート勤務しながら二人の小学生の子供を育てている専業主婦だった。ある日、夫が勤務する会社が放火され、たまたま宿直だった夫は火傷を負って入院するが、第一発見者として警察から事情を聞かれ、さらに容疑者扱いされるようになる。夫の無実を信じている恭子だったが、ふとしたことから、夫に疑惑を抱くようになった。それでも、子どもたちとの平穏な日常生活を守るために、恭子は強く生きようとする。 放火事件を担当する刑事・久野は36歳独身。7年前に愛妻を交通事故で亡くしてからは義理の母を自分の家族、心の拠り所とし、不眠症に悩む孤独な生活を送っていた。放火事件の捜査の進展とともに、二人の人生の様相が変化し、やがて絡み合い、予測不可能な展開を見せるようになる・・・。 主人公二人(もう一人、高校生も重要な役割りを果たしているのだがキャラが希薄)の描写が絶妙で、ぐいぐい引き込まれ、いつのまにか及川恭子に心を寄せている自分を発見することになる。この辺りのストーリーテラーぶりは、さすが奥田英朗である。あえて欠点を探せば、久野と義母との関係が今ひとつ説明不足というか、腑に落ちない。登場人物たちのさまざまなトラブルや疑問にあえて明快な答えを出さないまま終幕を迎えるのも、奥田英朗流である。 重いノワールというより、犯罪をテーマに時代を描いた心理エンターテイメント作品として楽しめる。ミステリーファンに限らずオススメしたい。 |
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雑誌掲載の7作品を集めた短編集。連作ではなく、独立した作品を集めているのだが,首折り男と黒澤という二人の登場人物でつながっている。
登場人物が個性的で,恋愛から復讐、ホラーなどそれぞれの作品にヒネリがあり、それなりに面白いのだが、伊坂ワールドというか独特の世界観があるので、好き嫌いが分かれる作品集である。 |
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エーランド島四部作の第3作。3作品の中では最もファンタジー要素が強いミステリーである。
離婚後,エーランド島に引っ越して来て一人で暮らしているペールのもとに、性格が合わなくて疎遠になっていた父親から「迎えに来てくれ」と電話があった。認知症気味の様子に心配になって行ってみると、自分が経営する映画スタジオで腹に刺し傷を負っている父を発見。さらに、スタジオが放火で焼け,焼け跡から二つの焼死体が見つかった。派手好きの父は、ポルノ業界で成功し,悪名高かったのだが、その過去が引き起こした事件なのだろうか? 双子の子供の一人である娘が難病に苦しむ状況に父親として辛い思いをしながらも,警察の捜査とは別に、ペールが調べ始めると、忌まわしい過去が影を落としていた。 ペールのコテージの隣に豪華な別荘を建てて、流行作家の夫と遊びに来たヴェンデラはエーランド島出身で、島にはあまりよい思い出がなかった。かんしゃく持ちの夫との中は悪くなる一方で、ひっそりとエルフ(島に伝わる妖精)に様々な願いをかけるような日々だった。 あまり幸せな状態にはない二人の日常が重なり、島の民話の主役エルフとトロール(島に伝わる小鬼)が動き始めたとき,隠されていた過去が姿を現し,悲しい現実が明らかになる。 エルフやトロールなどの伝説の存在が現実に影響を及ぼすという点で、ファンタジー好きか嫌いかで評価が分かれる作品である(エルフやトロールがやったことも、実際には人間がやっていたのだが)。犯罪の動機などもいまいち納得しきれなくて,ミステリーとしては前2作品より低く評価するしかないが、シリーズとしてはぎりぎり合格点だろう。 |
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1990年に発表された、宮部みゆきの第4長編ミステリー。文庫本で777ページという大作である。
謎の男がある使命を確認するハードボイルド風のプロローグから始まって、記憶を失った若い男女が同じ部屋で目覚め、自分たちが何者なのかを追求するストーリーと、失踪した女子高校生の行方を捜すストーリーが並行して進んで行く。やがて「レベル7」というキーワードとある男を媒介にして、二つのストーリーが合わさり、巨悪を倒すことになる。 全体の構成は良くできていて、謎が多い前半は非常にサスペンスが盛り上がる。しかし、時間にして4日間の物語を700ページを越える作品にしたせいもあるかもしれないが、中盤から後半は中だるみで、終盤は読者レビューにあるように「2時間ドラマ」的な平板さで、一気に盛り下がってしまう。事件の背景や犯罪動機も物足りない。それでも最後まで読み通せたのは、作中に生き生きしたエピソードをからめられる文章力が抜群だからと言える。 宮部みゆき作品としては物足りないが、それなりに楽しめる作品であることは間違いない。 |
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2003年に発表された長編小説。表4の紹介文には「痛快クライム・ノベルの傑作」とあるが、「クライム・ノベル」というより「アクション・コメディ」の方がしっくりくる、痛快なエンターテイメント作品である。
出会い系パーティーを主催するヨコケン、一流商社のダメ社員ミタゾウが、ヤクザの賭場から現金を盗もうとして、それを阻止した謎の美女クロチェと出会う。奇妙な関係に陥った三人だったが、クロチェの父親が企む美術品詐欺で集まる10億円を一緒に横取りする計画を立てた。クロチェの父親の詐欺師、賭場を開いているヤクザ、賭場の客の中国人二人組など、悪過ぎる奴らを相手に、三人の完全犯罪計画は成功するのだろうか? 二十代半ばの三人とドーベルマン1頭が、若さと気合いとちょっぴりの頭脳を武器に大胆な犯罪を実行する痛快なアクション小説である。さらに、ところどころにちりばめられたユーモアと三人の友情物語がスパイスとなり、甘酸っぱい青春小説にもなっている。殺しや残忍なシーンも無く、爽やかな読後感で、青年漫画の原作にぴったりな作品である。 コアなクライムノベルのファンには物足りないだろうが、アクション・エンターテイメントのファンにはオススメだ。 |
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御茶ノ水警察署保安係シリーズの第二弾。シリーズ愛好者には説明の要が無い、斉木と梢田のコンビに、今回は女性の五本松巡査部長が加わった三人組の緩くてユーモラスで、ちょっぴり人情的な捕物帳が展開される6本の連作短編集である。
警察とは言え、保安係(生活安全課)が舞台なので捜査そのものは付属的で、斉木と梢田を中心にした署内の人間関係、とぼけた会話、御茶ノ水、神保町界隈の街並や蘊蓄のお話がメインテーマである。同じ作者の警察小説では、これまた人気が高い「禿鷹」シリーズがあるが、それとは好対照。逢坂剛のサービス精神が溢れるコメディとして楽しむことをオススメする。 |
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「人間嘘発見器」キャサリン・ダンスシリーズの第4作。今回は、人間の恐怖心を操って大量殺人を目論む殺人鬼を相手にしたパニック・サスペンス作品である。
ダンスが無罪と判断した男が麻薬組織の殺し屋であることが分かり、ダンスは刑事事件捜査から外された。失意のダンスにまかされたのは、満員のコンサート会場に煙が流れ込み、火事だと思ってパニックになった人々が将棋倒しになって死傷した事件だった。実際には、会場の外のドラム缶で何かが燃やされて煙が発生しただけで、しかも会場には非常口があったのだが、大型トレーラーが停めてあり開けなくなっていた。単なる事故ではないと気付いたダンスだったが、犯人を捕らえる前に、第二、第三の事件を引き起こされてしまった。卑劣で狡知な犯人との知恵比べに、ダンスは勝利することができるのだろうか・・・。 犯行の形態、犯人像、犯罪の背景などは非常に興味深く、どんでん返しが続くストーリー展開もいいのだが、どうも今ひとつ喰い足りない。リンカーン・ライムシリーズに比べると緻密さが足りないというか、ミステリーとしての重要ポイントでご都合主義が顔をのぞかせ過ぎる。本の帯の惹句にある「読者に背負い投げを食わせる」という表現が(悪い意味で)ぴったりしすぎる気がした。特に、犯人逮捕後の2つのエピソードが語られる最後の章は「おいおい、それはないよ〜」という印象だった。 ディーヴァー・ファンにはオススメだが、サスペンスファン、サイコミステリーファンには物足りないかもしれない。 |
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現実の事件をベースにした5作品を収めた短編小説集。
どれも「ああ、あの事件」と想起できるものばかりで、謎解きやサスペンスを楽しむミステリーというより、社会派小説の趣きが強い作品ばかりである。もちろん、事件ルポではなく吉田修一的世界が展開される作品なのだが、いかんせん短か過ぎて、「悪人」や「怒り」のような恐さ、奥深さがないのが残念。どの作品も吉田修一ならではの独自の視点があり、長編になればもっと面白いだろうなぁ〜と。 短編としての完成度は高く、吉田修一ファン、社会派ミステリーファンには十分に楽しめるだろう。 |
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2001年に発表された書き下ろし長編。ヴィクトルという元KGBの殺し屋が主役のシリーズの第一作である。
日本人とのハーフでKGBの工作員として日本で活動し、ソ連崩壊後KGBを解雇され、貧窮にあえいでいたヴィクトルは、かつての上司でロシアンマフィアのボス・オギエンコから日本人ヤクザの組長暗殺を依頼される。高額の報酬に惹かれて仕事を引き受けたヴィクトルは、日本に潜入し、単独で任務を果たそうとする。そのヴィクトルの前に立ちはだかったのが、組長のボディーガードの兵藤、警視庁公安部の倉島警部補だった・・・。 ゴルゴ13以来のプロのヒットマンの伝統を受け継いだヴィクトルの見事な仕事っぷりが、第一の読みどころ。それに触発されて、それぞれに鬱屈を抱えていた兵藤と倉島が、人生や仕事に対する情熱を取り戻し、人間として再生への道を歩み始めることになるというのが、第二の読みどころ。安全な社会に安住して危機感を失っている日本人に対する作者の苛立ちが、全編を貫く通奏低音である。 日本を舞台にしたサスペンスアクション、警察小説のファンにオススメだ。 |
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2009年の日本推理作家協会賞受賞作。テンポよく読ませるコン・ゲームミステリーである。
ケチな詐欺を生業とする武沢とテツのくたびれた中年の2人組が、ふとしたことから18歳の少女・まひろと同居を始めると、さらにまひろの姉・やひろと恋人の貫太郎まで転がり込み、5人での奇妙な共同生活が始まった。ところが、それぞれに闇金がらみでの悲惨な過去を抱えていた彼らに、再び過去からの暗雲が襲いかかってきた。追い詰められた5人は命をかけて、闇金組織相手に逆襲のコン・ゲームを仕掛けていった・・。 とぼけた中年2人組の詐欺話と、つかみ所の無いまひろ・やひろ姉妹の生き方がテンポよく展開されて行く中盤までは非常に読みやすく、軽快である。また、武沢と姉妹との隠された因縁が適度な緊張感を醸し出し、どんどん話に引き込まれていく。闇金相手のコン・ゲームの仕掛けもまずまずで、クライマックスは盛り上がる。 それでも不満が残ったのは、最後のネタばらしがイマイチだったこと。文末の解説にあるように「相手が騙されたことに気付かせない」詐欺と「騙されたことを自覚させる」マジックの違いで、本作品はマジックを楽しむ作品ということなのだろう。 読みやすくて面白い、手軽なエンターテイメント作品を読みたいという読者にはオススメだ。 |
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エラリイ・クイーンの代表作にも挙げられる1942年の作品。新訳版での感想である。
ニューイングランドの田舎町・ライツヴィルを訪れたエラリイ・クイーン(なぜかエラリイ・スミスの偽名を使用)は、地元の名家ライト家の敷地に建つ空家を借りることにした。この家は、ライト家の次女ノーラが新婚で住むはずだったのだが、結婚式前日に花婿ジムが姿を消したために空いていたのだった。ところが、ほどなくジムが町に帰ってきたため、ノーラとジムは結婚し、この家で新婚生活をスタートさせた。幸せな生活を送っていた二人だったが、ジムの蔵書を整理していたローラが三通の未投函の手紙を発見したことから事態は暗転する。その手紙はジムの姉に宛てたもので、妻の発病、悪化、死亡を告げていた。そして手紙に書かれていた通り、大晦日のパーティーで悲劇が発生した。 ヒ素を使った毒殺事件の謎を解明する本格派の謎解きミステリーである。ストーリー展開の基本は殺害の動機と手段の解明にあるのだが、同時に被害者と加害者の人間性にも重点が置かれていて、単なる謎解きだけではない心理ミステリーにもなっている。ただいかんせん時代状況が古過ぎて、ミステリーとしては「これはないだろう」というのが事件のポイントになっているのが残念だ。 古典作品を古典として楽しめる読者にはオススメだ。 |
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1941年に発表されたヘレン・マクロイの第三長編で、精神科医ウィリング博士シリーズの第三作でもある。
美貌の資産家クローディアが知人の研究室から開発中の新しい自白促進剤を盗み出し、夫と友人を招いたパーティーで飲み物に入れて使用したことから、クローディアが殺害される事件が発生した。恋人とのデートの帰りに殺害現場に遭遇したウィリング博士は、自分の足音を聞きつけた犯人が現場から立ち去る音を聞いたのだが、警察の事情聴取に現われた友人たちの中から犯人を特定することは出来なかった。クローディアを中心とする人間関係から捜査を進めた警察と博士は、パーティー参加者全員にクローディア殺害の動機があることを確認したのだが、実行に移したのは誰なのか? 登場人物の紹介、人間関係、人々の言動など、犯人の特定に至る伏線はきちんと張られていて、とんでもない論理の飛躍やオカルト的なものはない、まさに正統派の謎解きミステリーである。 犯人探しで作者との知恵比べに挑戦したい人には、絶対のオススメだ。 |
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1954年に発表された古典的ノワール小説。謎解きやサスペンスとは無縁のノワール世界だが、人間の闇を描いて魅力的である。
50年代のサンフランシスコ。ハンパ仕事で食いつないでいたカフェのカウンター係ハリーの前に、酔っぱらった美女ヘレンが現われた。コーヒーを飲んだあと文無しだと言うヘレンの面倒を見、ホテルまで連れて行ったハリーは、翌日、金を返しに来たヘレンに触発され、衝動的に店を辞めヘレンと行動をともにすることになる。ヘレンが家出するときに持ってきた200ドルを頼りに、酒浸りの日々を送っていた二人だったが、やがて金が底を尽き、絶望の果てに心中を図ることになった・・・。 物語の構成は人生に希望を見出せない男女の破滅型の恋愛であるが、ストーリーは恋愛部分と破滅衝動の部分で、前後半に分かれている。全編にわたって「死の誘惑」が充満して重苦しいのだが、特に前半での二人の救いの無さが印象的である。かといって、悪辣な犯罪や目を背けるような暴力があるわけではなく、むしろたんたんと破滅して行くプロセスが恐いといえる。 詳しいストーリーは紹介しない方が良いだろう。とにかく、最後の二文でガツンと衝撃を受け、最初から読み直す誘惑に駆られること間違い無し。古さを感じさせない傑作である。 |
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ウェスタン・ミステリーの最優秀処女長編賞を受賞し、大型新人の登場との評判を呼んだという話題作。私立探偵ハードボイルドを軸に、ウェスタンとノワール風味が加わった、乾いたテイストのミステリーである。
ロデオ競技のスターだったロデオ(主人公)は、メキシコとの国境に近いアリゾナの僻地で私立探偵として生活していた。ある日、休暇から帰ってみると自分の敷地のそばにアメリカ先住民の死体が放置されていた。近くでは先住民が殺される事件が相次いでおり、この男が4人目の犠牲者で、どうやら先住民を狙う連続殺人鬼が出没しているようだった。そんなおり、友人のルイスから紹介されてインディオの少年が殺された事件の再調査を進めることになった。簡単に終わるはずの調査だったが、やがて先住民社会に隠された闇に足を取られて身動きできなくなってくる・・・。 主人公のロデオも先住民の血を引いており、主要登場人物もほとんどが先住民系で、ウェスタンといっても白人カウボーイ視点からのウェスタンではなく、インディオとメキシカンの世界をベースにした物語である。世界中から見捨てられた土地を舞台に、世の中の動きとは無縁のような人々が繰り広げる、一種殺伐とした人間ドラマが、砂漠の風のような乾いた文体でたんたんと綴られていく、徹底してドライな作品である。そんな中にちりばめられたハードボイルドなセリフと、ユニークで個性が際立つ登場人物たちが強い印象を残す。 誰にでもススメられる作品ではないが、ハードボイルドなノワールが好きな人にはオススメだ。 |
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現役のパイロットという異色作家の作品。経歴を生かした飛行機乗りが主役のハードボイルド小説である。
1960年のカリフォルニア。太平洋戦争でも活躍した元海軍パイロットのジョーは、戦後、友人と民間航空輸送会社を経営し、パイロットとして生活していた。ある日、親友(!)であるフランク・シナトラから「新しい恋人をハリウッドに送り届けてくれ」と頼まれた。仕方なく引き受けたジョーの前に現われたのは、かつての婚約者ヘレンだった。その翌日、シナトラからヘレンが行方不明になったと連絡があり、ジョーが探し始めると、彼女の友人が殺され、ヘレンも追われていることが判明した。一度はヘレンを見つけたジョーだったが、ヘレンは再び行方が分からなくなる。やがて、シナトラの元にヘレンの身代金を要求する電報が届いた。ジョーはヘレンを救うため、メキシコに乗り込んでいった。 かつて愛した女性のために命をかけて突っ走るヒーローが中心の物語だが、事件の背景をなすのがシナトラ、マフィア、大統領をめざしているケネディという胡散臭い連中で、その中でヒーローの想いの純粋さはまさに、正統派のハードボイルドヒーローである。セリフや独白にも、古き良きハードボイルド風味がたっぷりで、2013年の作品なのに、チャンドラーでも読んでいるような懐かしさが感じられる。 正統派のハードボイルドファン、飛行機マニアにはオススメだ。 |
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【ネタバレかも!?】
(1件の連絡あり)[?]
ネタバレを表示する
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デビュー作でエドガー賞処女長編賞を受賞し、2作目の本書が2014年度エドガー賞長編賞にノミネートされたという、新進作家の注目作。坦々とした展開の中、じわじわと不安感が積み重なってゆく静かなサスペンス作品である。
長期的な不況への入口に立っている1958年のデトロイト郊外の小さな白人コミュニティに暮らす主婦たち。繁栄した50年代のアメリカ中産階級の典型のような彼女たちも、自動車産業の衰退、近隣に進出してきた黒人たちなどの不安を抱えるようになっていた。そんなある日、夫たちが働く工場の近くで黒人娼婦が殺害される事件が発生、さらに数日後、コミュニティの一員で知的障害がある若い白人女性が行方不明になった。黒人娼婦の事件には無関心だったコミュニティも、白人女性の捜索には地域の全力を挙げて取り組むことになる。 ストーリー展開の中心は行方不明者の捜索なのだが、作品のテーマは、時代の影響を受けて変化して行く主婦たちの心理である。満ち足りた、平凡な生活を送っているように見える主婦たちだが、それぞれに不安や心の闇を抱えており、それが互いに影響し合って、複雑な心理ドラマが展開される。そして最後、もうあの時代は戻って来ないことが明らかになる。 静かなストーリー展開にも関わらず、じわじわとサスペンスが高まって行く上手さは新人離れしたテクニックである。殺人、行方不明ともに、解決方法にあいまいさが残るのは、本作品のメインはそこには無いということだろう。 謎解き、本格ミステリーファンには不満が残るだろうが、社会派作品、心理ドラマ好きの方にはオススメだ。 |
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力作「闇に香る嘘」で注目を集めた下村敦史の書き下ろし作品。入国管理局で難民認定のための調査を担当する難民調査官を主人公にした社会派エンターテイメントである。
難民調査官・如月玲奈は、担当するイラク国籍のクルド人ムスタファの判断に迷っていた。迫害を受けたという証言は真実と思えるのだが、履歴や入国の説明に矛盾点が多いのである。調査を進めるうちに、イラク国籍ではなくトルコ国籍であること、しかも正規パスポートで合法的に入国していたことが判明した。さらに、如月に接触してきた公安調査庁の職員は「ムスタファはテロリストだ」と告げ、難民認定しないように圧力をかけてきた。 一方、ムスタファの逮捕のきっかけを作った「不法滞在者撲滅委員会」のメンバー西嶋耕作は、ムスタファが不法滞在者ではなく難民であると知らされ、残されたムスタファの妻と娘に対して罪悪感を抱き、彼女たちを援助するようになっていった。 トルコからのクルド人難民を、日本は受け入れるべきか否か。国家の安全、国民の安全、人道上の正義と不正義など、様々な視点からの難民問題の捉え方が繰り返し論議される。移民・難民問題に対する作者の思い入れの強さがひしひしと伝わってくる、熱い作品であり、また日本の入国管理の制度、機能、問題点を丁寧に教えてくれる作品である。 が、エンターテイメント作品としては構成も、ストーリー展開も、キャラクターもちょっと物足りない。テーマの着眼点が優れているだけに、その点が残念である。 ミステリーとしてではなく、これまで取り上げられることが少なかった入国管理や難民問題について知るための面白い教科書として読むことをオススメする。 |
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アメリカの本格謎解き派の巨匠(by訳者あとがき)ヘレン・マクロイの1942年の作品。精神科医ウィリング博士シリーズの長編第4作である。
ニューヨークのクラブ歌手フリーダは、婚約者アーチーの実家があるウィロウ・スプリングに行く日の朝、匿名の電話で「ウィロウ・スプリングには行くな」と警告された。警告を無視して出発したフリーダだったが、ウィロウ・スプリングに到着して間もなく、彼女の部屋が荒らされた。さらに、アーチーの縁戚で隣に住むリンゼイ上院議員の邸で開かれたパーティー後、アーチーの母の従兄弟の男性が毒殺され、再度、フリーダに警告の電話がかかってきた。アーチーの要請で調査に乗り出したウィリング博士は、事件の背後にはポルターガイストがあると判断した。 限られた場所と時間、限られた人数の関係者での真相解明という点では、まさに本格謎解きの王道を行く作品である。ただメインテーマが多重人格、ポルターガイストという点で、多少マイナスの評価になった。しかし、多重人格で安易に謎解きするのではなく、犯罪の動機、登場人物のキャラクターなどで十分に納得させる解決にしてあるところはお見事。 物語の構成、ストーリー展開の上手さは抜群で、本格ミステリーファン、非暴力的ミステリーファンには十分に楽しめるだろう。 |
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フェルディナント・フォン・シーラッハの新作は、読む者の倫理と遵法精神に問いかける問題提起である。作者が得意とする法廷劇ではあるが、これまでの作品のようなエンターテイメントではなく、ストレートに読者の判断を迫ってくる。
2013年、ドイツ上空で旅客機がハイジャックされ、犯人は満員のサッカー競技場に墜落させて7万人の観客を殺害しようとした。戦闘機で緊急発進した空軍のコッホ少佐は、7万人の命を救うため、196人が乗った飛行機を独断で撃墜した。果たして、コッホ少佐は犯罪者なのか、英雄なのか? 検察側、弁護側の論告、関係者の証言が終わったあと、なんと有罪と無罪の二つの判決が提示され、最終判断は読者にゆだねられるという、異例のエンディングを迎える。犯罪の事実関係は争われず、法と正義だけが問われることになる。 読んでいる間も読み終わってからも、ただただ「自分ならどう判断するか」を問われ続ける、非常にヘヴィーな作品であることを覚悟して読み始めることをオススメする。 |
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キャシー・マロリーシリーズの第8作は、古風な大邸宅での58年前の大量殺人事件の謎が絡んでくるという、シリーズの中では異色の謎解きミステリーである。
NYの中心街にある大邸宅ウィンター邸で男が殺された。被害者は保釈中の連続殺人犯で、ハサミで胸を刺されており、そばにはアイスピックが落ちていた。強盗目的で侵入した男が住人にハサミで刺された事件として処理されようとしたが、この男を逮捕したことがあり、いつもナイフを使うという手口を良く知っているマロリーは納得できなかった。だが、当時屋敷にいたのは70歳の老婦人ネッダ・ウィンターと、その姪で小柄できゃしゃなビッティ・スミスの二人だけ。どちらかが正当防衛で殺したのだろうか? ところが、この屋敷では58年前に9人が殺されるという未解決の大量殺人事件あり、ネッダは事件後に行方が分からなくなっていた当時12歳の少女であることが判明する。ネッダはあの事件の犯人なのか、58年間、どこにいたのか? 過去の事件と現在の事件は関係があるのだろうか? マロリーとライカーのコンビは、過去と現在を行き来しつつウィンター家の複雑な謎を解くことになった・・・。 本作は、大邸宅での大量殺人事件、関係者の失踪と再登場、富豪一族の家族の確執など、古典的な舞台設定でシリーズ読者を驚かせる。また、マロリーの言動が妙に大人しいというか、辛抱強いのも、これまでの作品とは異なっている。しかし、最後には自らの信念に基づいて突っ走るという、いつものマロリーに戻るのでご安心を。 本作はシリーズからの独立性が高いので、シリーズ読者以外の幅広いミステリーファンにもオススメできる、良くできた謎解きミステリーである。 |
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