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とも さんのレビュー一覧

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レビュー数14

全14件 1~14 1/1ページ

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No.14: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(10pt)

千年の黙 異本源氏物語の感想

面白い、上手い、兎に角凄い作品である。

構成は3部となっている。

物語のベースは 副題の通り、源氏物語にまつわる話である。

時代背景が平安時代の藤原道長台頭期で、主な登場人物は既に主要な貴族は粛清され藤原家内での共食い状態で、その上はうようよと次の政権を狙っている皇族がいるのみ。

そんな分かりにくい時代の説明から、下級貴族の式部がどうやって一番の主流派の彰子へ参内できたのかを、単なる源氏物語の説明ではなく 全体の雰囲気が味わえるようになっている。

第一部では市井で起こる事件(彰子の猫捜し)について、式部の慧眼で解き明かす過程で、彼女の推理、判断、観察力を表現し どのような人物が源氏物語を作ったのかを象徴させている。

そういった意味では、第一部は よくある歴史人情モノの様な雰囲気が漂っているが、2部に入ると立ち位置が市井から宮中に変わることで、雰囲気もガラッと変化する。

参内後、続々と源氏物語が発表されていくが、あるとき発表したはずの1帖が出回ってないことに気づく。それが単なるミスなのか、それとも意図されたことなのか。。。

「かかやく日の宮」という表題に源氏物語に知見が深い人であれば気づくかも知れない、ミッシングリングについての謎解きとなっている。

また、この藤原時代に敵対する源氏を主人公にしているわけは、道長との関係はと、ある様々な謎を、もって回った理屈でなく 素直な解釈から自然に解明している。

最後の第三部では、これまた良く知れた「雲隠れ」。

この帖、ある意味では 現代の全ての芸術においても最高傑作かも知れない。

というのも、当帖は光源氏が身罷る全54帖中の第41帖に当たる作品なのだが、題名だけしか存在しないのである。

物語に「文章がない」ということは、例えば音楽で言えば「無音」、絵画なら「白紙」、彫刻で言えば「石の塊」「丸太」、という超荒技である。

理由は、紛失したとも 読者の想像に任せる とも言われているが、まずもって前者であることはありえないであろう。

彼女は、その大技をこの処女作であり人生をかけた大作のクライマックスにもってきたのである。それだけでも、源氏物語が古今東西の文学と比較しても突出している証明になるのではないだろうか。

兎に角、複雑で難解な源氏物語をそれほどの知識がなくとも平易に理解できる様になっており、といってところどころに玄人好みするネタを仕込み無理なく解明していく、非常に素晴らしい作品である。  了

千年の黙 異本源氏物語 (創元推理文庫)
森谷明子千年の黙 異本源氏物語 についてのレビュー
No.13:
(9pt)

癒し屋キリコの約束の感想

この作者の作品は、前回読んだ『虹の岬の喫茶店』から2冊目。

前作同様、今回読んだ作品も喫茶店を巡る物語となっている。

喫茶店の店主で「癒し屋」の霧子の元には、噂を聞きつけた依頼者が店に足を運ぶ。

『癒し屋』などと突飛もない仕事を創作し、その報酬は店にある神棚のしたの賽銭箱へ入れる。

キリコはロッキングチェアでビールを飲みながら話しをきいて、金がありそうな客だけを選別して聞きき、店長のカッキーや常連客をパシリに使いながら 予想外なとはいえ理屈にあった方法で 依頼者を癒していく。

霧子とカッキーにも なんだか謎があり、それを全体を通したストーリーとしながらも、1章で1つのQ&Aの体裁となっているので読みやすいし、なによりその解決方法が見事。

ヒトには 生きていればどうしても忘れられないキズがある。

切羽詰まった物もあれば、いったんは心の奥底へ追いやってしまったもの(追いやらないと生きていけないものも含めて)もある。

それは、彼女たち2人も同じで、要は彼女たち自身も心に持っていながらソゲの様に突き刺さったままになっているキズがどう癒されるのか、これが短篇ではありながら連作の体となっており、全体的な深みとなっている。

誰もが、何かしら、それが過去であれいま現時点であれ、なにかしら 重いものは持っている。

もしキリコさんがほんとうに入てくれれば、すっ飛んでいくのになぁと、どれほどすっきるするだろうと考えながら、少なくともわずかでもヒトに対して心が優しくなれる感じがする、そうして読んだあとに自分が癒された様に思える 最高の作品です。  了

癒し屋キリコの約束 (幻冬舎文庫)
森沢明夫癒し屋キリコの約束 についてのレビュー
No.12:
(10pt)

聖なる黒夜の感想

相当の期待値をもって読み始めた場合 期待を裏切られることが多い中、あっさりとその期待値を超えてくる力量は、「さすが 柴田よしき」というべきか。


1000ページの大作、登場人物も多く 中盤にダレ気味感はあるものの、それも結果的には必要な部分であり 枚数稼ぎの無駄なページは全い。

ストーリーは、警察組織、やくざ、バイオレンス、夜の世界、冤罪、性、銃、薬、売春と、クライムサスペンスの要素がオンパレードで収拾が取れなくなりがちと思いきや、ありきたりの表現をすればパズルのピースが過不足なく収まっていく。

そのなかで、RIKOシリーズのスピンオフという位置づけの主人公の刑事麻生龍太郎を軸に、素人、玄人が相まみえ入り乱れながらも、緻密なプロットとスピード感。

大作だからこそ可能な人物の書き込みや その人生のリアリティと迫力。

ミステリー部分はおおよそ想定できるものの、そんなことはどうでもいいほどに圧倒させらる作品に仕上がっている。


とにかくは、読んでみるべし。  了

聖なる黒夜〈上〉 (角川文庫)
柴田よしき聖なる黒夜 についてのレビュー
No.11:
(9pt)

竜の涙 ばんざい屋の夜の感想

本当に凄い作家だと思う。

幅広のジャンル、中でもミステリー色が強く、他にもバイオレンスの表現が得意な作家で、時折 男性では書くことができないようなリアルな暴力なんどは、読んでいても痛いと感じるくらい。

が、この『ばんざい屋シリーズ』は、静かに淡々と流れているようでありながら、流されずしっかりとひとの心の機微を捉え心に染み入ってくる作品として仕上がっている。

シリーズになるのかと思ったが、これ以降新作は出ていない様である。



いつか続編が出ることを、気長にゆっくりと待つことにしましょうか。 了

竜の涙 ばんざい屋の夜 (祥伝社文庫)
柴田よしき竜の涙 ばんざい屋の夜 についてのレビュー
No.10: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

その女アレックスの感想

構成は3部からなる。

はっきり言って、1部2部もそれなりには面白みもあるが、取り立てて どうこういうレベルではなく、所詮最近の海外モノはこの程度かと高をくくる。

違いとしては、農耕民族の日本人作家と肉食の西洋人とでは、根本的な残虐性が違うのかと、取り立ててエゲつない表現があるわけではないのだが、そんなことを考えながら読んでいた程度。

が、第3部に入ると その様相が大きく変わる。

これを 巷に溢れた『ドンデン』と同レベル呼んでよいものなのか。
単に 話の道筋をひっくり返して驚かせるだけの、そこらの小説とはレベルが違うとしか言いようがない。

内容は、あとがきにもあるように あまりの衝撃で余計なことを書いてはいけないので控える。

が、少なくともミステリーが嫌いでなければ読むべき作品。 了
その女アレックス (文春文庫)
ピエール・ルメートルその女アレックス についてのレビュー
No.9: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

マリアビートルの感想

この作家の作品を読むのは何冊目になるんだろう。

作品間で登場人物が繋がったりすることが多いから、デビュー作より順番に読んできています。

で、なにはともあれ面白い!!!

いつもながら プロット、伏線、スピード感、リアリティー、何をとっても秀逸。

今回の作品は 『グラスホッパー』の続編という位置づけだったこともあり、再度さらっと読み直してから 本作を読み始めたので、導入から非常に流れよく合流できる。

そうして、続編の予想通り登場人物もしっかり重なっており、それがまた楽し。

伊坂の登場人物は正義と悪がはっきりしていていて、潔いのが特徴。

最後は正義が勝つというある意味ヒーローモノ的な作品が多いのだが、この度のヒーロー役は犯罪組織に属し殺し屋を稼業をされている方とその関係者御一行様。

対するヒール役には、小生意気で頭の切れる中学生のクソガキを持ってきているちぐはぐさが、もう うまいとしか言いようがない。

この殺し屋たちと、クソガキのやり取りがテンポよく、それが東北新幹線の東京⇒盛岡間の一種密室で行われていることから、ミステリーチックなところもあり、2度美味しいという感じです。

あと、度々登場する「機関車トーマス」とウォルター・ウルフは気になります。

特にトーマスファンがこの作品を読んだら、堪らないんじゃないだろうかなぁと。

とにかく、ピカレスク作品として1行目から楽しめる作品まちがいなしの傑作です。  了

マリアビートル (角川文庫)
伊坂幸太郎マリアビートル についてのレビュー
No.8:
(9pt)

ハーモニーの感想

傑作の『虐殺器官』に続き、2冊目となる。

前作同様に、はじめのうちは 非常に読みづらい。理解にも苦しむところもあり、また1行目から 何故かパソコンの機械語になっており、腰が引ける。

が、第三章くらいから、急に世界が見え、ストーリーも動き出した時には、もう一気読み。

有無を言わさぬ展開に圧倒される。

物語の設定は近未来で、21世紀初頭に起こった「大災渦」から数十年後の話し。

その時代、一種生命を最大限尊重する世の中が構築されてるなかで、すべての人間がチップを埋め込まれ健康状態から始まり生活すべてが管理され、例えばアルコールやカフェイン、タバコはもとより、健康に害を及ぼすとされているものが廃止されている様に、とにかく人命は個人のものというよりは社会の財産であるという認識が定着している。

その世の中で、管理されていないのが脳、つまり意識のみ。

で、この管理に反発する少女たちが 唯一の自由として自殺を企てるも失敗するところが序章となり、その後彼女たちを中心に物語は進んでいく。

完全なプロットのもと、今回のテーマは管理社会と生命。

近未来小説でよくあるロボット支配であるとか、宇宙人がという奇想天外なものではない。

生命を最重要視される社会にとって、ヒトが生きるとはとはなんなのか、意識や意志=感情や思考が失くなった時に果たしてヒトは生きていると言えるのであろうかという重厚なテーマが繰り広げられる。

とはいえ、なにも医学的、精神学的見地に偏っているわけではない。そこには、科学技術や戦争等の紛争や、政治などを絡み合わせた内容になっている。

また一見柔らかそうに感じられる表題も、考え抜かれたうえでの命名であることがおいおいわかってくるし、非常に読みづらい元凶のコンピューターの機械語が所々に挿っている理由などもキッチリと意味がなしている。

とにかく、すべてが考え抜かれた、SFであり、ミステリーでもあり、青春小説とも言える傑作である。  了

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)
伊藤計劃ハーモニー についてのレビュー
No.7:
(9pt)

虐殺器官の感想

読みづらい作品ではあった。

長いあいだ、買い置きしていたのは 表題からどうしても気が進ま無かった。

読み始め、30代の若者が書いた作品であろうとのことで、薄っぺらい内容か、それとも必死に背伸びして書いた、どちらにしても全く期待していなかった。が、途中でこの作家が若くして亡くなっているいることを知り、感傷も入った為か、斜に構えて読み始めたわたしの気持ちが変わり、素直な気持ちで物語に入り込めるようになった。

すると、この作家の奥深さが理解でき、感傷どころではない、のめり込んで読み始めていた。


ストーリーとしては、近未来の原爆が投下されたあとの近未来の地球。

そこでは徹底した管理社会が実現しており、ただしその徹底管理から漏れるジョン・ポールなる人物、彼が現れる所、テロが勃発することから、任務として彼を追いかける特殊部隊の暗殺者の主人公が、遭遇する様々な事態に対処しながら進んでいく。

そのなかに戦争、テロ、武器は言わずもがな、医学、心理、社会、経済、宗教を違う角度から眺め、その知識をほんとうにあっさりと書き流しながらも、所狭しと盛り込まれているため、読み進めるのには相当に時間がかかる反面、知的好奇心を掻き立てる やわらなか筆致が内容と対称的になっている。


静謐の中 この物語が閉じていくときに、ふと 『夭折の天才』という言葉が頭をよぎった。  了
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
伊藤計劃虐殺器官 についてのレビュー
No.6:
(9pt)

家守綺譚の感想

大人の童話。100年前の自然の中に植物や動物、はたまた妖怪までが違和感なく共存しているぼんやりとした世界観が読んでいて心地よい。このままどっぷり浸っていたいなぁと、そんな感慨深い作品。
家守綺譚 (新潮文庫)
梨木香歩家守綺譚 についてのレビュー
No.5: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

容疑者Xの献身の感想


▼以下、ネタバレ感想
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容疑者Xの献身 (文春文庫)
東野圭吾容疑者Xの献身 についてのレビュー
No.4:
(10pt)

日本沈没の感想

30年ぶりに読んだが、全く色あせない。それどころか東北大震災を経験した今、数十年前に書かれたとは思えないくらい当たっている。作家としての知識と学者には無い先見性、やはり素晴らしい日本史上に残る傑作SF。小松の長編によくある前半は科学的知識に基づいた理論攻勢で きっちりと理解しうとすると少々理解しずらい点もあるが、単なる空想で書かれたものではない知識の蓄積と裏付けが出来上がる。内容はどこまでは本当でどこからが創作かわからなくなるくらい深く入り込んだ科学的側面をベース、現実味のある政治・経済的側面に思いのほかページを割くことでしっかりと土台を作り上げる。とはいえ、この作品の発表は1973年、40年前である。しかし、時代の古さというものは全く感じられないのは、作家小松左京の先見性なのか、当時から進歩していない為なのか。阪神淡路の震災、東北の震災等々の経験に対し、地震研はいまさらながら地震予知は不可と発表。政治はすでに茶番のレベル、経済もリーマンで簡単にひっくり返る中・韓初め東南アジア勢にひっくり返される状況に不安は増すばかりであるが、彼には日本の未来がどう予測されていたのだろうか。
日本沈没 上    小学館文庫 こ 11-1
小松左京日本沈没 についてのレビュー
No.3: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

13階段の感想

なるほど、読み終えてしまえば 評価の高い作品であることは納得するのだが、途中というよりかは後半に入るまでは結構ダルイ。傷害致死前科者の三上と死刑執行人(刑務官)南郷 2人の主人公の説明がだらだらあったり、この2人がある事件の捜査をすることになる状況や関係者の説明などなど、どちらかといえば本筋に入るまでの人物描写や経緯など外堀をきっちりと構築して後半で一気に収束という、大きな円がだんだんと小さな円になり最後に点になる、そんな感じの作品。題名の取り方もうまく、死刑執行の13階段だけでなく、時間に、場所にと多くに掛かっており、練られたものである。ということで、面白いというよりは。結果よく出来ましたと言わざるを得ない作品である。
13階段 (講談社文庫)
高野和明13階段 についてのレビュー
No.2:
(10pt)

エデンの感想

スポーツというものに興味がない。やる事についてはまだしも、人のやっているものに対して見る、聴くなどには全く興味がわかない。当作は前作の「サクリファイス」の続編だが、当作品 文句の付け所がない。どちらかといえば日本ではほとんど認知度がなく(?)、斯く言うわたしも全く知識の無いロードレースを題材に、3週間に渡りフランスを1周するツール・ド・フランスをテーマに物語が繰り広げられる。内容はそこで繰り広げられる人間模様なのだが、その臨場感、スピード感、緊迫感は、冗談ではなく手に汗握るどころか、本当に身体が熱くなってくる。機会があれば読んで欲しい一冊。
※サクリファイスの続編
エデン
近藤史恵エデン についてのレビュー
No.1: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ワイルド・ソウルの感想

期待に違わない一冊。題材としては、歴史的に日本国に騙されてブラジルへ渡り虐げられた人々が、国を相手取り復讐する、という何とも言えず暗いテーマで長い間積読となっていたが、ラテンのノリがその重さ、暗さを払拭し、最初からテンポよく最後まで突っ切る、ただただ楽しめる一冊に仕上がっている。とはいえ、テーマになっている日本政府の政治、外交の酷さには今更ながらに辟易する。
ワイルド・ソウル〈上〉 (新潮文庫)
垣根涼介ワイルド・ソウル についてのレビュー