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ニコラス刑事 さんのレビュー一覧
ニコラス刑事さんのページへレビュー数210件
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DVDを観るのを我慢して先に本をよんで良かった。( ´艸`)文庫本二冊のボリュームだけれど一気読みに近いぐらいに読み進んだ。特に上巻は面白い。
突然消えた妻。事件か失踪か?夫ダンの胸の内の独白と行動。そして消えた妻エミリーの日記が示す二人の出会いと結婚生活。やむをえず警察に知らせ捜査が始まるが 荒らされた室内と拭き取られた血痕の意味。型通りの捜査でただの手続きさ、まず初めに君を除外したいんだと話す二人の刑事。こういうケースではまず夫が第一の容疑者よと心配する エミリーの両親。妻の行方を探すダンだが小さなウソを重ねていく不自然さ。事が公になり世間の注目を集めるが徐々に追いつめられる夫ダン。アメージング・エミリーとして広く 知られた存在の妻エミリー。その特殊な環境がもたらす影響。設定がとても上手いと感じる。語彙も豊富で訳者もなかなか良い訳でとても読みやすい文章になっている。 宝捜しゲームも面白い考えで、エミリーの思考とダンを追いつめていく材料になっているところがひとつの手法として上手いなと思う。真相はどこにあるのか、上巻はページをめくる 手が止まらなかった。時代背景や地方の空気感、人々の生活感がちゃんと伝わる細やかな筆致。下巻も楽しみに広げた。結末は意外といえばそうだけれど一般的な小説読みの人には受け入れられるだろうか と疑問に思う。もっとはっきりした出来事の顛末としての最後が読みたいのではないだろうかと思いました。深いと云えば深い、そんなラストで幕を閉じるのですが、その辺がマイナス1ポイントとして9ポイントにしなかった理由になります。 上巻に比べて下巻は少し勢いが落ちるが、それでも展開として目が離せない動きを重ねてそれぞれの胸の内を読者に示して納得させるものになっている。上巻のサスペンス感たっぷりの出だしから 最後の有り様は少し尻すぼみと受け取られるかも知れないけれど、巧みな人物描写と的確なモノローグを効果的に使ってここまで書くのは達者な作家だと思わざるを得ません。 総じて面白かったという感想です。 |
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三作目でもありこれまでのキャラクターが一層際立って描かれるようになっていて楽しめます。適材適所のポジションにいるキャラクター達や天馬と袴田妹の関係の進展?などを絡めながらいつものように
殺人事件の犯人を天馬が論理で指摘する内容です。断っておきますが動機を云ってはいけません。天馬の謎解きのロジックを楽しむのがこの本の面白さです。消えた本にも犯人にとっては危うい意味があって 隠された一つの真相という役割と犯人寄りの立場で見れば重要な小道具になるように計算されています。ダイイングメッセージってそんなものを今時?という感じですがミスリードの材料にしても最後まで 引っ張ってあのオチは中々上手いと思います。普通、人通りの少ない裏通りで殺人があった場合警察の初動捜査は被害者の私生活を調べてあらゆる可能性を視野にいれた捜査を余儀なくされるでしょう。通り魔、会社の同僚や友人関係のトラブル、金銭のもつれ、恋愛関係のもつれ、本人は意図しなくても深い恨みを買っていたとか、捜査対象を絞り込むまで広範囲に調べるでしょう。ミステリ好きならこの程度の想像が出来るのですがそんなに大きく間違ってはいないと思います。しかし、現場は図書館です。それも閉まった夜間の犯行なので無差別の通り魔の仕業で起きた事件ではないとある程度確信はできます。となると容疑者は被害者の身辺に居る人物となります。この点を踏まえて余計な方向に神経を配らずに現場の様子から導かれる論理で天馬が犯人に迫っていく様子を描くのがこの著者のウリであり平成のクイーンと(誰が言ったのか)呼ばれる所以であります。キッチリと祖語のないように計算されて書かれているのは流石というところです。この謎解きの部分が楽しみで読んでいるのですから。 世界観は多少漫画チックではありますが天馬の知られざる部分が柚乃の調べで少しづつ明らかになっていくようでこの後にもその設定で書かれていくのかと楽しみです。 |
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満願とは氏のことで今はとても旬な作家と云うことになるでしょう。六つの短編が収められたこの本、それぞれ味も色彩も違う内容ですが、高い位置での水準を保った作品であると思います。
熟成された文章とシャープな感性で深みのある物語を見せてくれます。ただ、短編集であり、この年に他の作家が出した本はどのような内容なのかすべて熟知している訳ではありませんが、他に抜きんでて これがベストワンと云うのはどうなんでしょう。大人の事情などがあったのでしょうか。と、こう書いても別に貶している訳ではなく、楽しめる一冊であることに変わりません。 着想の妙から描いたミステリ仕立ての大人の絵本といった感じです。好みから言えば「関守」で安っぽい話からホラー風味とミステリ的手法を上手く融合させていて似たような話とは一味違う一篇になっていると思います。 「死人宿」もそういった裏の事情が隠された場所がいかにもありそうに見えて妙なリアル感を覚えました。長編とは違い短編集ですから根を詰めて読むこともしなくて良いので気分的に楽だということもあります。 さらっと読める内容と相まって気分転換には良い一冊でした。ただ、しつこいですがこの本に負けた他の本はもっとしっかりしなくてはいけません。他の作家さんは打倒満願の心意気を示してください。 |
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これを読む前にマーガレット・ミラーの「狙った獣」読みました。両方ともにまさかの同じネタでした。「狙った獣」は1956年のエドガー賞受賞作です。1956年にこんな内容のサスペンスを書いていたことには驚きですが、井上夢人のこの本も中々良く出来たミステリです。冒頭に不可解な謎が読者に示されます。一人の女性が夫の出張中に初めて町の図書館に行きますが、昨日あなたは登録を済ませて貸し出しを受けていますと告げられます。名前、住所はまったく同じでした。しかし、この図書館は利用したことはなく今回初めて来た場所です。何がどうなっているのか女性は混乱します。そして・・・。各人の名前で出来事が綴られたファイルが読者に示されますが、始めのころは主人公同様に何が起きているのかまったく分かりません。この辺の構成が良く出来ています。殺人があった部屋から気が付けば向かいの部屋で目覚めた女性。殺された女性は一体誰なのか。夫はどこに消えたのか謎は尽きません。後半いったん明らかにした事実を最後にさらに覆すなど手の込んだ内容です。ただ、あまり詳しくは書けません。何故ならすぐにネタバレになるからです。でも、読みやすい文章でのめり込んでいきます。一時期このネタは流行りました。有名な海外の本や映画もあります。でもこれは井上夢人らしいミステリとして評価できると思います。
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エラリー・クインの遺稿が見つかった。それを北村薫が訳して出した本、というふうな体裁で書かれた華麗なるクイーンのパスティーシュです。物語自体の内容は出版社の招きで来日したクイーンが幼児連続殺害事件を解決する
話しですが、そのストーリーに絡めてクイーン諭が展開される楽しさです。女子大生の小町奈々子が書店でアルバイト中に一人の男から五十円玉二十枚を千円札に両替を頼まれます。男は始終顔を伏せボソボソ喋り札を手にすると急いで 店から姿を消すので印象は余りないのですが、五十円玉二十枚を千円札に両替という変わった行為が記憶に残りました。そして小町奈々子は大学のミス研にいる関係から出版社と関わりがあり、来日したエラリー・クイーンの日本滞在の 案内役をすることになります。その時期発生していた幼児連続殺害事件を新聞で読んだクイーンはこの事件に強い関心を持ちます。そして奈々子から聞いた不思議な両替客のことを知り事件の真相に迫る推理を繰り広げて・・・という趣向 です。まぁ本全体が一冊のクイーン諭と云っても良いような内容でミステリファンであれば始めから終わりまで楽しく読み進められるでしょう。いわずもがなのあとがきも非常に興味深く、書店でアルバイトをしていた若竹七海さんが実際に 経験したことのある両替客のことで、小町奈々子とは若竹七海さんがモデルとなっているそうです。未だに根強いファンを持つエラリー・クインを主人公にして諭とミステリと両方を楽しめる内容は北村薫氏ならではの世界と云えます。 氏のデビューのいきさつなども記されていて色んな意味で楽しい一冊です。 |
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世界中でテロ事件が起きている。宗教と戦争、それは人類の歴史。だがこの日本は誰もが認める安全な国。しかし、日本は世界が経験したことのないテロ事件を起こされている。そう、地下鉄サリン事件だ。これは近未来に向けた
平和ボケの日本に警鐘ともいえる物語だ。利益誘導型の無秩序な都市開発。コンクリートジャングルの都市特有の自然災害。珈琲専門店ペーパー・ムーンのアルバイト店員篠崎百代は自らが神となって世の中の間違いを正すことを 決意する。ペーパー・ムーンの常連客五人が百代にサゼッションするがあくまでも行動するのは百代ひとり。武器は自然界に生息する毒。ターゲットは汐留にある大型ショッピング・モール。そこで百代の恋人が不慮の死を遂げた。 その原因はゲリラ豪雨。すべての意味で選ばれた舞台。百代は行動を開始する。見送った五人委員会のメンバーで一人現れない男がいた。いつもどうりの日常を送るはずの一人が携帯にも出ないのを不審に思った四人は彼のアパートに 向かうが見つけたのは彼の死体。計画の中止を伝えるため四人も汐留のショッピング・モールに向かうがすでに百代は作戦を実行していた。百代は綿密な作戦をもとに大量殺戮を始めている、その様子をいろいろな視点から息もつかせぬ 展開で描いている本書。正義感溢れる人や物語はハッピーエンドじゃなきゃダメというような人には不快感しか感じないような内容だ。動機がどうとかあり得ない話とかで片ずけるのは簡単だけれども作者の意図も読み取って欲しい。 読み物としても一気読み必至のこの物語、石持浅海らしいスキのない緻密さで構成されたストーリー。こういう社会性のある内容もたまには良いと思う。 |
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お通夜の席で顔合わせした面々が故人のエピソードを語っているうちに意外な方向に向かっていき、果たして故人は生前受けていた評判どうりの人だつたのか、それとも隠れた犯罪者だったのかというストーリーです。
著者は元お笑い芸人だったそうで、そのせいかどことなく落語の世界のような不思議な雰囲気とユーモアを感じるのは私だけでしょうか。次々と語られる故人のエピソードは現実にあった事件に微妙に当事者として成立する 部分があり皆は次第に疑心暗鬼に囚われていきます。この過去の出来事と個人の行動が語られて徐々にもしかしたらと読者も登場人物たちのように思わせるように持って行くところは中々面白く上手く書けていると思います。 各人の話しはすべて状況証拠ですが告発には十分な内容です。さて、この後どのようになっていくのか?面白い展開です。そしてミステリですから読者の予想を裏切らなければいけません。着地はある手を使って話を収めていますが 話しの流れや全体から見ても違和感はなくそれで良いと思いました。文章も読みやすく人物もキチンと書き分けられていて物語世界を楽しめました。大賞受賞作として品格と個性と完成度のある作品だと思います。 |
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ミステリ色は少し薄味ですが家族の物語として読めば中々読ませる物語だと思います。個人的には好きな言葉使いであったりして文章も気に入ったので物語の世界にすっかり浸って読み進めました。
曖昧なところは曖昧なままにしてあるのでその辺のところが厳しい評価で見る人も居られるようです。だが、個人的にはすべて白黒つけた解決のあり方で読ませる内容ではなく、メインは主人公アダムの 心のうちに燻る怒りや家族、特に父に対する複雑な感情の流れなどを描きながら彼が新しい人生に踏み出す物語と捉えれば良いと思います。実際彼を取り巻く人たちにはいろいろな人物が揃っています。 元恋人や義理の妹たち、そして農場の使用人でありながら父と深い絆で結ばれている信頼の厚いドルフと云う男とアダムの交流。保安官や刑事と判事。過去の事件と新たに発生した事件や出来事。 それらに振り回されながらアダムは過去は過去として捉え新しい生き方を選び出す、そんな家族の中の個人個人にスポットを当てたエピソードが織りなす物語であって家族の再出発という物語でしょう。 深い謎に包まれたミステリとしてではないものの読みごたえはあり、個人的には三日で読み終えるほど集中して読み耽りました。ありがちな家族の再生物語といえばそうかも知れませんが最後のページの 余韻の良さもあり楽しめた一冊でした。そう残酷な事件が続いて起こるといった展開ではないところがかえってこの本の良さと思います。 |
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いろいろと趣向を凝らした短編集です。伊坂ワールドが好きな人には楽しめるでしょう。一見関連のない短編を七つ集めたように見えますが、首折り男というキーワードで話が繋がっているものもあります。
個人的には「月曜日から逃げろ」ですね。チャップリンの映画という言葉を出して、ネタバレに近いと思わせておいて読者をうっちゃる手の込んだ話で、また読み直してみるとちょっと頭がこんがらがる内容です。 いろいろと味のある話が収められており、ジワッと胸に沁みる話などもあって幅広い作者の見識によって書かれていると思える内容です。じっくり読み込む本格物のミステリから比べれば薄味かも知れませんが ただ単にこれまで発表したミステリを集めて短編集として刊行されるものよりはグッと上質なお話が詰まった一冊であると思います。伊坂ファンでなくともミステリ好きなら楽しめる内容と云えるでしょう。でも個人的には 黒澤というキャラクターが出てきますが、探偵仕事をすることと空き巣仕事をする人物となっていますが、この点がどうも馴染めません。空き巣なんてチンケな仕事をする男というのはどうなんだろうと思います。簡単に忍び込める腕を 持った動かしやすい人物でルパン三世のようなイメージで作ったのか、あるいはそのイメージを読者に持って貰いたいのか分かりませんがちょっと設定についていけません。この人物をもう少し考えて作り込んで欲しかったと 思います。 |
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物語の背景が昭和二十年から平成の二桁までになっている。この時間の流れの中に当時の世相を表す出来事や社会現象が脚色なしにそのまま物語の中に取り込まれ描かれている。
映画で云うならファーストシーンから作者は仕掛けを施している。すべてが計算されたものであることを読み終わって初めて気付くことになる。正直に言えば読んでいる途中で少し退屈に感じた。 だけれどその部分は我慢して読み進むしかない。その結果がラストの爽快さであることにこれも読み終わってから気付いた。この本の謳い文句に「他者にその存在さえ知られない罪を完全犯罪と呼ぶ、では 他者にその存在さえ知られない恋は完全恋愛と呼ばれるへきか?」とある。これはある意味ネタバレになると思うのだけれど作者はあえてこの一文を載せた。そう、作者はある程度読者に推察されてもかまわない と云う余裕のスタンスである。一片は推察どうりであってもそれはホンの一部であり背後の隠された真相は見抜けない、という自信たっぷりの作者の態度である。確かに世相のエピソードが紹介されているが そんなところは漫然と読むのが普通であり本筋と結び付けて考えないだろう。だからこの部分はアンフェアだと指摘出来るかも知れないが、作中で語られている本格のルールによれば隠された部分をどう推理するかは 読者の責任なのであって作者は手掛かりはキチンと示しているということになる。とにかく一筋縄ではいかない仕掛けが施されたミステリでいろいろなガジェットも使われており、読後の爽快感を考えれば途中の 退屈な部分もスルーすることなく注意を怠らずに読むべきであると未読の方に注意をしてさし上げたい。 |
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ある出来事で警察を辞めた男が、ちょっとした係わりから一つの殺人事件について調べを進めるうちに、自身の過去とも向き合うようになり立ち直りのきっかけを掴むようになる。簡単なストーリー紹介で云えばこんな内容で、よくある話といえば
まぁそのとうりだけれど主人公を現実逃避からアルバイトで山小屋で働く男にしてあるところが舞台背景として面白い。山小屋の様子や山歩き、登山に関したエピソードがいろいろ書かれていてちょっとした山岳小説のようになっているところがミソだ。ちょっとしたことで助けた人間の人となりから感じた印象から殺人事件のあり方に違和感を感じ、携帯に残されたメッセージをどうしても忘れ去ることができず調べ始める主人公。この辺の心情は読者の心をつかむようにしっかりと書かれているので主人公の行動にそのまま感情移入していきます。でも、正直に言えば関係者の証言を得るのに都合よく次々と一週間で会える展開が少しアザトイと思います。でも出てくる人物がみんな人間臭く上手く主人公が調べまわる過程がみられるのでその辺は良しとしましょう。山の仲間や警官時代の先輩刑事など周りの人物たちとの交流というか関わり合いが物語の中での色合いとして良い味を出している一因になっていると思います。事件の結末は意外とはいっても始めからしっかり伏線は張られていますからその辺は作者も抜かりは有りません。ちょっとした山岳小説風を楽しめて絡まった糸が解れていく様子がキチンと描かれており一味違うミステリとして楽しめるのではないかと思います。 |
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ミステリの黎明期に触れ、先人の知恵が今のミステリ界にどれほど影響を与えているかを知るために古典を好んで読む人には外せない一冊です。今時のミステリで街を歩き聞き込みだけで調べを進めるタイプの探偵はいざ知らず、鑑識課員が
主人公になっているような形式のミステリでは完全にアウトなトリックです。しかし、この本は1924年の作品です。あの当時これを読んだ人はどれほどの衝撃を受けたことでしょう。物語構成の巧みさ、人物造形と心理を語る丁寧な文章。 すっかり物語の世界に入り込んでしまいます。恋に落ちた二人の心情は読んでいるものには何の違和感もなく納得させられます。熱々の恋愛関係から結婚となって二人で暮らす実生活からの些細な亀裂の種。二人の生活と周りの人物たちとの 係わりや距離と影響を及ぼす人たち。しっかりと丁寧に描かれていますのでこの部分だけでも読んでいて楽しめます。ニコル・ハートは私立探偵で主人公の親友でもある。親友の窮地を救うために事件を調べ始めるが、途中で奇想天外な 仮説を思いつく。まさにあり得ない仮説であるが、それ以外には説明がつかないともいえるのが告発の手紙の存在である。告発の手紙はどのような意味があるのか、それがこのミステリの芯になるところで良く考えられたところでもあると思います。いろんな本でこのトリックのバリエーションを読んだものですが1924年であればさぞ驚いたことでしょう。読みやすい新訳で出ているので古典好きの人にはお勧めしたい作品です。だれがコマドリを殺したのか?さて、真相は・・・。 |
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ミステリの手法を使った内容の物語と捉えた方が良いと思います。本格物のミステリではありません。子供のころの経験や記憶でネガティブな精神状態にある主人公の物語は割と多くあるように見受けられますが、結果として主人公の胸の内を語るモノローグは暗い重いトーンで書かれることなどが多くて、読んでいて
気分の良いものではなくどちらかと云うと敬遠したいものです。過去の記憶と現在に起こった出来事をきっかけに確かめておきたいことを調べるために過去に住んでいた村に帰った主人公の物語ですが、いろいろなピースがすべて繋がるなどミステリの要素がキチンとはめ込まれていますが、物語自体が読んでいて面白い話 ではないのでごく普通の印象です。きめ細かくいろんな事象やエピソードを散りばめてそれらが収束されていく様は見事ですが、いかんせんストーリー自体に魅力がなければ読み終えた後の感想も尻つぼみになります。まだ、荒唐無稽の内容でもああ面白かったと言えるものの方が良いように思います。 もっともこれは私個人の感想なので他の人が読めば面白いと感じるかも知れません。何度も書きますがいろいろな出来事がすべて収束する様子は手慣れた作業と感じさせる筆者の力量ですが、もう少し物語自体に魅力を感じるものを書いて欲しいと思います。 |
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ミステリの巨匠と呼ばれる人たちの作品をもじった、パロディーとも云える作品を集めた短編集です。自分は読んでいて単純に楽しめました。好きな作家のオマージュとも見える内容で各編とも読んでいてニヤリとすること請け合いです。
個人的に一番面白かったのは、チャールズ・ディケンズの愛読者が探偵として事件に挑むとして書かれた「うそつき」でした。話の内容が「ン?」と思っていると、まるで違う見方から事件の本質が分かり主人公の頭の冴えにびっくりしました。 このネタは今でも十分使える内容で、多分いろんなバリエーションで多くの作家が書かれているだろうなと思います。つまり一つの方程式ですね。解説にも登場する有名作家のエピソードが詳しく書かれていてお宝情報が満載です。 今読んでも色あせた感じのない新鮮さがあり、良く出来たパロディー集として楽しめる一冊です。 |
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本を読むと云っても有名人の気楽なエッセイとか、そんな類の本ばかりを読んでた人が仮にこの本を読んだとしたら「何これ?」と思うでしょうね。ミステリに特化した内容であって学園内で起きる殺人にあれこれとツッコミは不要で
すから予めお断りを申しておきます。最後の章のために書かれた殺人事件のお話です。麻耶雄嵩という作家を端的に表したオチでこれがこの人の特徴です。いい意味でも悪い意味でもミステリ小説の評価を左右する問題の書を書く人です。 しかし、そろそろ読む方は疲れてきました。この辺で方向転換も必要ではないかと思います。正攻法で攻めたミステリを読ませて欲しいと思います。古来の本格物が書ける人だと思うからです。しかし、1章から6章そしてエピローグまで計算された構成はお見事です。すべてはそこにってことですが、プロットの段階でそう決められていたのか、書きながらそうなったのか分かりませんが着地はそれまでの流れから当然の帰結でしょう。 職人芸と云える内容です。 |
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英国四代女流ミステリ作家のひとりマージェリー・アリンガムの、キャビオン氏の事件簿Ⅰと銘打った一冊です。古典を読むと内容はともかくとして、現代と余りにもかけ離れた環境や習慣などに
戸惑いを覚えて、当時でこそのトリックだと思うものがほとんどです。でもこの本に収められているものは、七編ともそれほど違和感がなく現代でも無理なく通る話です。個人的には 「懐かしの我が家」が好みです。七編とも殺伐とした殺人事件がなくコンゲームのような内容の話しが多いせいでしょうか、肩の凝らないリラックスして読めるミステリです。主人公の キャビオン氏も正体がはっきりしないという設定で書かれており、時に触れて彼が漏らす言葉で素性が推察されるというようなキャラクターです。本のタイトルになっている「窓辺の老人」も 組み込まれたいろいろな謎をすっきりと収める話の持って行き方は上手いです。小品と云えばそんな感じもしますが良い感じの作品ばかりで、ちっとした時間に珈琲片手に読むにはぴったりの本と云えるでしょう。 |
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クルト・ヴァランダー警部シリーズ10作品のうちの6作目です。シリーズものとして脂の乗った読み応えのある作品でした。イースタ警察の捜査チームの面々のキャラクターがとても良く描かれ、個々のエピソードが物語に彩を添える役割を十分に
果たしています。残虐な殺人事件を捜査するヴァランダー以下のチームも、皆目犯人像が見えない中、地道な捜査で一歩一歩犯人に迫っていく様子が丹念に描かれていて読み応えがあります。天才的な閃きとかそう言ったことで捜査が進むといった 都合のよい話ではなく、時には迷い仲間の意見や別のとらえ方で状況を推理し直す着実な捜査の仕方が読むものを引っ張っていきます。この、物語に没頭させて読者を引っ張っていく力量は並みではありません。その筆力で試行錯誤しながら連続殺人犯を追うヴァランダーたちの過酷な日常が淡々と描かれているところもとても好感が持てます。証拠を残さずミスリードを図る犯人に最初は迷わされますが、始めから感じていた違和感を信じ仮説を追っていくヴァランダー警部。チーム責任者としての苦悩を盛り込みながら犯人に辿り着く過程がミステリとしても警察小説としても大変良くできた作品であると感じました。後記に著者の経歴やエピソードが書かれていますが自分としては意外な感じの人だと思いました。才能のある人はそこにピタッとはまるように世の中は出来ているんですね。 |
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裕福な家の一人娘が家や両親を捨てホームレスとなって他人と係わらずに一人で生きていく道を選ぶ。そこまでの過程は途中のモノローグや回想で読者に示されていて、多分に読者の共感を得られるように工夫して書かれている。
これまで社会とは無縁で生きてきたのに、その社会から追いつめられた彼女はやがて社会と戦うことを決めるのだが、その気持ちの変化に無理のない設定で一人の協力者が現れるところは中々上手い。 殺人者の追跡を開始するくだりもシビラの心情をしっかりと描きながら行動させているので、調べを進める過程が自然になり動き出す事態も必然のように移る。しつけとか教育という言葉に置き換えて子供をコントロールしたり 管理して思うように育てようとする母親や父親のあり方と、残虐な猟奇殺人者の追跡というシビラの切羽詰まった生き方がしっかりと分かりやすい言葉で書かれていて楽しめる。 こういう少女もいるだろうと思うのは著者の作った世界の上手さであり、それとは別に容疑者となった事件の犯人捜しの様子がシビラの心情と交差して進むところが読ませる部分で、トータルで見れば始まりから最後までシビラの 人生というか運命がこの物語そのものである。ラストも彼女に相応しい終わり方と云えるだろう。 |
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荒筋を見るとコテコテのシチュエーションだと分かる。こういったシチュエーションでは何が重要か、著者はちゃんと把握している。それはヒーローではなくストーリーを盛り上げて、更にヒーローをよりカッコ良く見せる悪役の設定だ。
ただ単に極悪人なんですと云ってもワザトラシサが鼻に付くようではストーリーの面白さが生きない。だがこの物語の場合は強盗に失敗して逃亡先に用意してあった村の住処に潜り込んだ男たち三人のそれぞれのキャラクターが良く書き分けられている。 中でも一人異常な振る舞いでキレていく男の壊れ方がとても上手く描かれている。精神的な疾患のある人間のようでその内面がリアリティーたっぷりで、徐々に異常になっていく過程がストーリーの緊迫感を生む効果絶大である。 この男の目線で書かれているところは、仲間の他の男たちへの気持ちの変化や村人からの強奪計画にのめり込んでいく心情が薄気味悪いほど上手く書かれているので、相対的に村人や中でも引退した元群保安官と村人などとは一切係わらない謎の男や、村の実力者たちの普段の 日常などから非常事態となっていく様子などがとても良く伝わってくる。悪く言えばB級映画のノリのようであるしラストシーンも定石どうりだけれど、吹雪の村で対決する過程がスリリングに描かれている後半が読み応え十分といえる。 |
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久しぶりの最後に「ん!」となるオチが用意されたミステリでした。海外が舞台でこのストーリーでは日本よりもそのほうが自然に受け取れると思います。周到に用意されたミスリードの上手さとお話の面白さ、主人公を取り巻く人間関係の多彩さなどが話の内容や展開を盛り上げます。
インターポールの事務職員が遭遇するミステリアスな事件。連続殺人のオチがそう来たかと思うほど予想外でした。(もっとも何も考えずに読んでいるので、オチが楽しめるわけですが)森博嗣氏の久々のミステリらしいミステリを読ませて頂きました。今後も楽しいミステリをお願いいたします。 最後のシーンまで犯人の予想はつかなかったのですが、チラホラと見える伏線でもしかしたらと感じた読者もいたことでしょう。でもその鋭さはこのミステリを楽しむためには少し仇となっているかも知れません。最後のオチを楽しむスタイルがこの本をもっとも面白く読む方法だと思います。 |
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