玻璃の天

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玻璃の天の評価:

4.34/5点 レビュー 32件。 B ランク

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平均点4.34pt

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全47件 41〜47 3/3ページ
No.7
(5pt)

遠い日の風(kaze)も北村薫のこの新作をやはり読んだのでしょうか

 北村薫の「街の灯」の続編となるミステリー短編集です。舞台は昭和8年の東京。経済界の一翼を担う良家に生まれた少女・花村英子とその家のおかかえ運転手・ベッキーさんこと別宮。この二人が謎に挑む3編が納められています。
 前作「街の灯」に比して本書は謎解きの興趣の程度が一段とあがっています。しかしそのこともさることながら、北村薫のメッセージ性が全面に出た作品集となっていて、そのことを私は大きな驚きとともに受け止めました。
 昭和初期、日本社会を巨大で暗鬱な時代精神が包み込み、ひとつの方向へ押し流そうとしている。多くの日本人はその先にあるものを見据えることもなく、無邪気に熱狂している。そんな社会にあって、主人公である女性二人は凛とした態度で時代と対峙しようとするのです。
 北村薫が主人公たちを使ってこの物語群の中で時代に打ち込む楔(くさび)は、時として飾り気もなく剥き出しともいえるほど直截的です。その言葉の一槌一槌に私は幾度もたじろいでしまったほどです。
「公は常に、私の愛に嫉妬するものだ。そういう時の、公の牙は実に醜く鋭く、容赦ない」(131頁)。
 振り返ってみると、私は「街の灯 (本格ミステリ・マスターズ)」の書評で「『私と円紫師匠』のシリーズのほうがまさっている」と記したことがあります。しかしそのことを実はこの「玻璃の天」読了後に少し悔いています。
 前作以来、北村薫はこのベッキーさんシリーズでひとつの覚悟をもって筆をとり続ける決意を固めていたのではないかと私は思います。それはもちろん昭和初期という時代をみつめるという懐古趣味ではなく、今私たちが生きている時代を警告を込めて描くという明確な目的をもっての企てであるはず、そう私は今想像しています。
 私はこの北村薫の決意を高く評価し、そして私自身も覚悟を決めて彼のこのシリーズを読み続けていこうと考えています。
玻璃の天 Amazon書評・レビュー: 玻璃の天より
4163258302
No.6
(4pt)

熱さをもつきれいなミステリー

昭和初期の、花村家令嬢と女性運転手ベッキーさんをめぐるストーリー。
北村薫さんの作品は、ミステリーという、ある意味娯楽分野にあって
とても清潔というか、プラトニックな香りただよう上品なミステリーで
読むと、娯楽と教養の両方を味わえる気がします。
ただ芯の部分には、北村さんの「熱い」考えがしっかりとあるので
それが、作品をミステリーのジャンルにとどまらない
深いものに仕上げているように感じます。
不必要な残虐性や、いいかげんな薄い描写はみられないので
ミステリーが苦手な方にこそ読んでほしい作品です。
じつは何者?と思わせるベッキーさんも魅力的です。
玻璃の天 Amazon書評・レビュー: 玻璃の天より
4163258302
No.5
(4pt)

時代を上手に活かしている

本作の舞台となるのは昭和も初期。女性の活躍の場はあまりない。
本作の主人公はとある令嬢とその女性運転手。日常に降りかかる不思議。女性ながら運転手であるベッキーさんの活躍と令嬢の行動力で謎がときあわされていく様はまさに爽快。
魅力ある物語です。
玻璃の天 Amazon書評・レビュー: 玻璃の天より
4163258302
No.4
(5pt)

元教師の誠意を感じさせる強い思い

 ベッキーさんシリーズ2作目。
 全3部作で、もちろん順番通り読むのが望ましいのですが、この真ん中が一番出来が良い巻になっています。
 右翼の物言いに、日教組が日本をダメにしたという話がありますが。
 少なくとも戦争反対の面では、教師たちは左翼的なおもわくでもなく(当然だ、共産国家にだって軍隊はある)、資本主義批判でも、平等思想でもなく、ただただ子供を死なせたくないという思いで行動したのだと、その切々とした気持ちが伝わってくる内容です。
 作者が元教師で、教師だったからこそ長年徹底的に考えてきた事が、ぎゅっと詰まった、重い、重い、一冊です。
 北村薫の描く少女は、美しすぎて嘘っぽいと思う人も多いようですが。
 若者の多くが、ある面不器用なまでに美しい思いを抱えているという事実を、彼は教師という職業を通して、また父親として知ったのではないでしょうか。
 そして、それを守りたいと切実に思い、しかし守ることの困難さも実感したのだろうと思うのです。
 全ての若い女性のそばに、(彼女を守り、彼女を導く、分別ある年上の女性)ベッキーさんを一人ずつ置いてあげたい。しかしまた、その素晴らしいベッキーさんも、一人の弱い女性であり、できるなら彼女の側に彼女を守る素晴らしい男性にいてもらいたい。
 それが北村薫の偽らざる本心だろうと思うのです。
玻璃の天 (文春文庫) Amazon書評・レビュー: 玻璃の天 (文春文庫)より
4167586053
No.3
(3pt)

天罰か

ベッキーさんシリーズの第2弾(全3巻)。
 「幻の橋」「想夫恋」「玻璃の天」の3本の短篇が収められている。
 ミステリとしては評価が難しい。「幻の橋」と「想夫恋」は箸にも棒にもかからないレベル。「玻璃の天」はアイデアは面白いが、うまく生かし切れていないように感じた。
 しかし、このシリーズの主眼は、ミステリの部分にはないのだと思う。第二次大戦直前の日本の上流社会を幻想的に描くという点に力が入れられている。軍国主義的な傾向への強烈な批判が込められている。
 しかし、それも好き嫌いが別れそう。私は苦手。
玻璃の天 (文春文庫) Amazon書評・レビュー: 玻璃の天 (文春文庫)より
4167586053
No.2
(5pt)

知的に再現された失われた時代の姿

女子学習院の生徒のお嬢様を主人公として描かれるのは,1933 (昭和8) 年の東京の上流階級の世界.作者は厖大な資料を駆使して,今では完全に失われてしまった社会を昨日のことのように描き出す.この時代の空気は,ここに書かれた通り,物言えば唇寒し所か,生命の危険さえある漠然たるテロの恐怖に満ちたものであった.その空気が実感できるのが作者の手柄である.私はこの恐ろしい空気の中を生きただけに,作者に感謝したい.それと日本の古典文学,中華の漢文文書に対する教養は,この時代の初等中等教育の水準の高さの結果であることに注意したい.戦後の学制改革,教育改革は本質的に敗戦国の教育水準を下げる企みで,その結果が現在の嘆かわしい状態なのである.貴族階級が亡びるのはよいとしても,知的水準までが亡びるのは口惜しい.そういうことをこのお嬢様シリーズは痛感させてくれる.強く推薦.なお,会話の応答で,返す,という表現はこの時代ではあり得ない (お言葉を返すようですが,と言って反論する時に限る).それから食材という言葉はなかった.強いて言えば素材か材料だろう.難点はその程度で,真に見上げた時代再現である.
玻璃の天 (文春文庫) Amazon書評・レビュー: 玻璃の天 (文春文庫)より
4167586053
No.1
(4pt)

たしなみ

ベッキーさんのたしなみが感じられる作品だと思う。
驕れる人の行動に対して,抑制のある行動が取れる人間。
こういう人が少なくなってしまったのだ。
「女のくせに」
昭和初期に使われる言葉,今でも平気で使われる言葉でもある。
自分を振り返ることができない人は,他人に対して何もできないはずなのだ。
ベッキーさんは,自分という人間の位置がよくわかっているのだろう。
玻璃の天 (文春文庫) Amazon書評・レビュー: 玻璃の天 (文春文庫)より
4167586053