方舟
評判
方舟の評価:
3.52/5点 レビュー 712件。 S ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全143件 61〜80 4/8ページ
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方舟の評価:
3.52/5点 レビュー 712件。 S ランク
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決して悪くはない。読み物として面白かった。星3の価値は十分にある。
ただ、やはりこのギミックを成立させるために逆算的に拵えたミニチュア世界の感が強く、そこがどうしても気になった。
まず舞台がかなり特殊である。このシチュエーションを成立させるために作られた世界だと言ってもいい。それ自体は悪いことではない。ただ、そのやり方がひとつひとつ露骨過ぎて不自然さが拭えない。
作中の説明をそのまま信じるとして、舞台となる地中構造物の建造がそもそも不可能であるところも大きな問題だ。
発電機からの煙突は地面を貫入して地表に繋がり、水道は通り、トイレの汲み取りの穴も開いている。相当な資本と技術力である。
地中空間を利用して構築した建造物とのことだが、これでは内部に資材を運び込む手段がない。帯の惹句から何かしらのサプライズは予想していたので、その点についての何かしらのワンダーがあるのかと思ったが、全く説明はなかった。人里離れた山中の、重機が通る道路もない場所の、地中への搬入経路もない大空洞に、突然大量の鉄骨と鉄板と木材が出現して建物が完成する。それはもはやミステリではなくSFである。
鉄骨を主体とした三階建ての建造物が、地下水が染み出す地中に置かれ、ましてやその一階が水没していたら数年ももたず自重で崩壊する。本作はフィクションであるのだから、本筋と関係ない部分に厳密な根拠は必要ない。だが、説明は必要である。いくらなんでもこれは…という部分には何かしらの嘘が求められる。ミステリは特にそういう作中の「違和感」を発見していくジャンルだ。それはささやかであればあるほど良い。匂い立つ違和感だらけでは鼻が馬鹿になる。何でもいい、例えばこれは錆びない鉄骨なのだという雑なものでも、一言説明があればいい。その手間を惜しんではいけない。
物語は、こういう怠慢によって書き割り感が生まれてしまう。
扉を塞ぐ岩という発想もやや幼稚である。地中と地上を堰き止める大岩。容易に思い浮かぶのは天岩戸や千引岩を代表する神話のアレゴリーである。方舟という旧約聖書に題材をとったタイトルからも、その方向に発想が広がるのかと思いきやそうではない。それは都合よくなぜか地中にあっただけの岩である。その仕組みもご都合主義だ。この岩を引いて落としたらここが塞がるというのはあまりに単純が過ぎる。往年の倉庫番やゼルダの伝説ではないのだ。ギミックにもう少し工夫と説得力がほしかった。
またこれは核心部分なのだが、作中の黒幕(としておく)の最終的な目的が非常に不自然である。百歩譲って初手の行動に論理性を認めるとしても、エクソダスの方法についてあまりに楽観が過ぎないか。なぜ観測もできない、状況もわからない脱出方法に全幅の信頼を置いているのか。そこが通れるかどうかなど全くわからない。およそ計画性がある人間が頼る方策ではない。それならば口八丁で仲間を巻き込み、彼らに脱出のバックアップをしてもらった方がはるかに危険性は下がるはずである。
むしろ、この脱出手段は本来なら開始三日目あたりで試されるべきであり、しかも失敗して選択肢から外される可能性の方がはるかに高い方策である。なぜ黒幕が盲目的にそれを信じ、したり顔で得々と勝ち誇れるのかが全くわからない。
七日間というタイムリミットもあまり生かされてはいない。作中でもたびたび触れられているが、この期間の大部分を登場人物のほとんどは無為に過ごしている。これを圧縮してしまうと連続殺人が起きる"間"が忙しなさすぎるという配慮なのだと思うが、やはりこれも結果からの逆算の都合である。
何よりせっかく七日の時間があるのだから、この間に疑心や各自の思惑などがもっと錯綜すべきであったと思うが、ほとんどの登場人物は古き良きアドベンチャーゲームよろしく部屋に閉じこもるか食堂で缶詰を食べて世間話をするだけである。正常性バイアスと言えばそれまでだが、自らの命がかかっておりタイムリミットもある状態で、まがりなりにも解決を図ろうと行動するのが犯人を除けば二人だけというのもややお寒い。そこには人物の思惑が見えない。
いや、もっと言えば作中人物がラストに向かう筋書き以外の可能性を全て無視して、それを試すこと自体がタブーになっていると言ってもいい。物語で嘘をつくならば、本来ならそこにこそ丁寧な描写が求められるはずだ。
例えば出口の扉が岩に塞がれたとしたら、鉄の門扉を壊して岩を少しずつ削ればいい。幸いにして工具類は山ほどある。なにも小山のような大岩ではない。時間は一週間もあるのだ。順番に交代しながらハンマーで砕いていけば上の方に人が通れる隙間が作れる可能性はある。命がかかっているのだ、少なくとも試す価値はあるだろう。だが誰もそれをしようとはしない。なぜならそんなことをしては黒幕の思惑が叶わず、ラストに結びつかないからだ。
最初に触れた構造物の建築不可能性についてもそうだ。本来なら探偵は真っ先に指摘しなければならない、これだけの構造物だ。我々が入った人一人がやっと通れるマンホールだけが出入り口なはずがない。どこかに資材を運び込んだ大きな開口部があるはずだ。と。しかし、彼はそれを指摘しない。なぜなら彼らはラストに繋がらない事について考えることを禁止されているからだ。
この種の不自然さが作中全体に散りばめられている。そういう部分にリアリティが吸い取られていく。
ワンアイディアものであるが故の宿痾なのだが、舞台、人物、全ての要素がそのアイディアのために配置されたようでリアリティに乏しすぎた。このラストを思いついた時の作者の興奮は想像に難くない。そのアイディア自体は面白かったが、そこに気が急くばかりに全てを逆算のみで組み立ててしまったのが残念だった。舞台は書き割りとなり、登場人物は人形に堕した。
書き上げた後にもう少し落ち着いて、今度は降順に物語をリライトしていればより良い作品になったであろうことが悔やまれる。