いまさら翼といわれても
評判
いまさら翼といわれてもの評価:
4.38/5点 レビュー 155件。 A ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全209件 101〜120 6/11ページ
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いまさら翼といわれてもの評価:
4.38/5点 レビュー 155件。 A ランク
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しているため、前作『ふたりの距離の概算』文庫版から七年、『小説野性時代』ほかへの掲載
そして単行本刊行から待ちに待ち続け、約二年半を経てようやく刊行された本作を手に入れる。
『箱の中の欠落』
六月。生徒会長選挙で投票総数が有権者数を上回る水増しが発覚する。総務委員会副委員長と
して投票に立ち会っていた里志は夜中に奉太郎を呼び出し事情を話すも、「やらなくてもいい
ことならやらない」という奉太郎のポリシーにより一度は断られるが、一年の選挙管理委員に
責任をなすりつけた選挙管理委員会委員長の言動が気に入らないという点で意見が一致し、
道すがらのラーメン屋で一転して推察を繰り広げることに――という話。序盤に何気なく提示
された情報がきっかけとなって解答を導き出すことになるのだが、罪をなすりつけられた
一年の選挙管理委員や真犯人の具体的な情報が言及されていないのは、この話で最も重要なのは
フーダニットではなくハウダニットであるということを呈示している。
また、話の本筋とは少し外れるが、ふたりの会話の内容から、奉太郎がえるに対して
社会的階級の違いをまざまざと感じされられていることに言及しており、おそらくこれが何か
の伏線になっていることを予感させる。
『鏡には映らない』
日曜日。Gペンを買いに街に出た摩耶花は鏑矢中学時代の同級生と偶然再会する。
ふとしたきっかけで折木奉太郎の名前が出たとき、嫌悪感を隠そうとしなかった彼女の表情に
摩耶花は中学三年の頃の話を思い出す。
卒業制作で大きな鏡のフレームを作ることになった三年生。フレームを細かく分割し、
各グループでひとつのパーツを彫刻刀で彫り、再びそれを組み合わせることになっていたが、
締め切りギリギリに奉太郎が提出したのは明らかに手抜きをしたであろう代物だった。
いざフレームを組み上げると、場所ごとに出来の善し悪しがばらけていたことに一度は
安心した摩耶花だったが、デザインを担当した鷹栖亜美の態度が急変したことから奉太郎は
その責任を一身に背負うスケープゴートにされてしまう。だが、えるの叔父のメッセージを
汲み取り、未完の映画を完成させ、なんだかんだ言って真面目に文集を仕上げた奉太郎と
フレームに手を抜いた当時の奉太郎が一致せず、何か別の理由があるのではないかと考え
奉太郎に色々尋ねるが適当にはぐらかされてしまう。そこで摩耶花は自分で調査を
始めるのだが――という話。
確か小説野性時代掲載時は、摩耶花が奉太郎と里志の目の前で真相を突き付けるのではなく、
摩耶花が奉太郎に謝ることで真相にたどり着いたことを悟った奉太郎が摩耶花に軽く手を
挙げるという終わり方だったと記憶している。
『クドリャフカの順番』以来である摩耶花視点で描かれており、本シリーズでは初めて
奉太郎以外が探偵役を務めている。また、なぜこのシリーズの当初で摩耶花が奉太郎に
対しあまり良くない感情を抱いていたのかという理由が分かる。
『連峰は晴れているか』
部室の窓の外に飛ぶ一機のヘリコプターを見た奉太郎が、中学時代の教師・小木が授業中、
同じく部室の窓の外に飛ぶ一機のヘリコプターを見て「ヘリが好きなんだ」と言っていた
ことを思い出すが、里志の「編隊を組む自衛隊のヘリには興味を持たなかった」という言葉に、
小木は本当にヘリコプターが好きだったのだろうか、そして雷が多い地域ではないにも
かかわらず「雷に三度打たれた」という小木のエピソードに疑問を抱いた奉太郎はその
真相を調べることに……が簡単なあらすじ。
小説野性時代に掲載されたあと単行本化されることなくアニメーション化され、
さらにコミカライズ化されたのちようやく単行本化されるという、順番が前後してしまった
珍しい経緯があるエピソードであり、本巻唯一のアニメーション化されているエピソードでもある。
この出来事から数年の時を経て、仲間が遭難する中、気丈にも授業を執り行い、あまつさえ
自身の動揺を悟られまいとヘリコプターに興味があるふりまでした小木の思いを知るとともに、
物事の表面だけを見てすべてを断じるべきではない(これを奉太郎は『無神経』と表現した)と
いうことを読者に突き付けている。
『わたしたちの伝説の一冊』
文化祭の一件(参照:クドリャフカの順番)から漫画研究会は、『読む派』と『描く派』に分裂し、
もはや関係の修復は不可能な状態になっていた。そんな折、摩耶花は『描く派』の浅沼から
部費を流用して同人誌を作り、漫画研究会は漫画を描くところだということを明らかにしようと
持ちかけられる。この企てには田井、西山、針ヶ谷も参加することになっていたが部長の湯原が
引退し、パワーバランスが崩壊するとともに『読む派』の羽仁が新部長に就任、追い詰められた
田井がすべてを吐いてしまったため、摩耶花と浅沼は吊し上げられ、同人誌を完成させたら
『読む派』は退部して新しい部活を立ち上げる、逆なら『描く派』が退部させられるという
条件を呑まされてしまう。そんな中、摩耶花がしたためていたネームを描いたノートが
盗まれてしまい――というストーリー。
純粋に漫画を描きたかっただけだったのが、いつの間にか『読む派』を追い出すことが
目的となってしまったことを通じ、実は本作には「現状維持バイアスにかまけてレベルの低い
ところに居続けると時間や才能を奪われる」という教訓が含まれていることが分かる。
また、実は摩耶花が隠れて努力をして、その結果が少しずつ出つつあるとともに、かつて対立
していた河内亜也子(作中作『ボディトーク』の作者)と「互恵関係」になったのはある意味
救いなのかも知れない。
『長い休日』
日曜日。珍しく体調が良い奉太郎は午後から散歩がてら自宅から適度な距離に位置する
荒楠神社に向かうと、境内で偶然十文字かほと出会い、「えるもいる」と言われるがままに
詰所内にあるかほの部屋に連れて行かれ、えると会う。かほが買い物に行っている間、
えると一緒に神社の清掃をすることになった奉太郎はえるから「やらなくていいことなら、
やらない。やらなければいけないことなら手短に」という考えに至ったのかという質問を
受ける。そこで奉太郎は小学生の時のある出来事を話し始める――というのが序盤の
ストーリー。
小学生の頃の話であるため、周囲から都合の良い存在として使われる程度で済んでは
いるが、実は『氷菓』において周囲によって名目上のリーダーに仕立て上げられ、
スケープゴートにされた関谷純の姿がオーバーラップする。つまり奉太郎は
『省エネ主義』というよりも、他者に自分のリソースを使われることに対し癪に
触ったということになる。
『いまさら翼といわれても』
二年の夏休み初日。摩耶花から奉太郎のもとにえるの居場所を尋ねる電話がかかってくる。
今日市民文化会館で開催される市の合唱祭に参加予定、しかもソロパートがあるえるが
バスで文化会館に到着してからの行方が分からなくなってしまったという。
奉太郎は文化会館に向かうとともに、えるがどこに行ってしまったのか、そしてその理由を
探るべく、考えを巡らせる――というおはなし。
本作を読み終えることで『いまさら翼といわれても』が何を意味しているのかが分かるだけ
でなく、彼女の中で信じ、受け入れていたものが崩壊してしまったというシリーズの重大な
転換点であろう展開から、個人的にはおそらく次に描かれるであろう長編は千反田家の謎と、
えるに『翼』が与えられた理由について迫る話になると勝手に睨んでいる。