ヴァリス
評判
ヴァリスの評価:
4.46/5点 レビュー 28件。 B ランク
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全48件 21〜40 2/3ページ
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ヴァリスの評価:
4.46/5点 レビュー 28件。 B ランク
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さまざまな感慨が沸き起こってくる。
ディックの生き様へのオマージュも絡めた、私自身の数々のプライベートなエピソードも含めて ――。
ディック晩年の「ヴァリス三部作」は、死と救済をめぐる「グノーシス主義的神秘主義」がまさしく「ディック教」のごとく盛り込まれた、極めて難解かつ不可思議な、文字通り「オカルト」的な作品群である。
テイヤール・ド・シャルダンの「ヌースフィア」理論や C・G・ユング の「集合的無意識」概念、アブラハム・マズローの「人間性心理学」等々、近現代の思想の影響もさることながら、やはり基本的なモチーフになるのは、あくまでも「新プラトン主義」あるいは「グノーシス主義」である。
そもそも、ヴァリス(VALIS) とは "Vast Active Living Intelligence System" (日本語訳では、「巨大にして能動的な生ける情報システム」) の略称である。
これは、「ヌースフィア」や「集合的無意識」などの概念よりも、「神智学」や「人智学」などで語られている「アカシックレコード」(仏教で言う「虚空蔵」)と比定した方がしっくりくるのではないだろうか…。
幻視者、フィリップ・K・ディックは、こうした「ヴィジョン」を捕捉するほど感度の良い「超感覚的知覚」を体得するほどの境地に至っていたように思える。
そこには、「グノーシス主義」に特有の「反宇宙的二元論」が見られる。すなわち「善」と「悪」の峻別である。
(以下、Wikipedhia「グノーシス主義」からの抜粋)
グノーシス主義において一般的に認められるものは、「反宇宙的二元論(Anti-cosmic dualism)」 と呼ばれる世界の把握の仕方、世界観である。反宇宙的二元論の「反宇宙的」とは、否定的な秩序が存在するこの世界を受け入れない、認めないという思想あるいは実存の立場である。
反宇宙論
「グノーシス主義」は、地上の生の悲惨さは、この宇宙が「悪の宇宙」であるが故と考えた。
現象的に率直に、真摯に、迷妄や希望的観測を排して世界を眺めるとき、この宇宙はまさに「善の宇宙」などではなく「悪の宇宙」に他ならないと考えた。
これがグノーシス主義の「反宇宙」論である。
二元論
宇宙が本来的に悪の宇宙であって、既存の諸宗教・思想の伝える神や神々が善であるというのは、誤謬であると「グノーシス主義」では考えた。
ここでは、「善」と「悪」の対立が二元論的に把握されている。善とされる神々も、彼らがこの悪である世界の原因であれば、実は悪の神、「偽の神」である。
しかしその場合、どこかに「真の神」が存在し「真の世界」が存在するはずである。
悪の世界はまた「物質」で構成されており、それ故に物質は悪である。
また物質で造られた肉体も悪である。物質に対し、「霊」あるいは 「イデア」こそは真の存在であり世界である。
このように、善と悪、真の神と偽の神、また霊と肉体、イデアーと物質と云う 「二元論」 が、グノーシス主義の基本的な世界観であり、「反宇宙論」と合わさって、このような思想を、「反宇宙的二元論」と呼ぶ。
さて、「ヴァリス」の主人公、ホースラヴァー・ファット。神経衰弱に悩まされる彼が作中で書きつづけた日誌「秘密経典書」からごく一部を引用してみよう。
ここに綴られているのは、まさしく グノーシス主義 的世界観に彩られた、否、グノーシス主義者のモノローグそのものである。
1 ひとつの 《精神》 が存在する。
しかし、そのもとでは二つの原理が抗争する。
2 《精神》 は光をもたらし、次に相互作用において闇をもたらす。
かくして時間が発生する。
最後に 《精神》 は光に勝利を与え、《精神》 は完成される。
・・・・・・・・
17 グノーシス主義者たちは二つの暫定的時代を信じた。
最初、もしくは現在の邪悪の時代、二番目、
もしくは未来の至福の時代である。
最初の時代は 《鉄の時代》 だった。
これは 《黒き鉄の牢獄》 によって象徴されるが、
1974年8月に終わり、《黄金の時代》 になりかわった。
《黄金の時代》 は 《棕櫚の時代》 によって象徴される。
1960年代、フラワーチルドレン、ヒッピームーブメント、カウンターカルチャー …… その流れの中から派生した「ニューエイジ・ムーブメント」にいたる流れが西海岸を席巻しはじめた70年代以降 ……。
ファットは、そうした時代、70年代になっても、60年代に覚えたドラッグに苦しめられていた。
1976年には「発狂」してしまうファットにとって、1974年8月が何を意味しているかは、私がこの作品を読んだ限りでは、明瞭につかめない。
しかし、当時この作品を書いたディックの思考の中に、かつてのLSDなどのドラッグがもたらしたであろう幻覚的かつ「啓示的」な「ヴィジョン」が到来したのは確実である。
この1974年8月という時期は、おそらく彼にとっては大きな意味を持っているに違いない。
考えられるのは、この年の8月8日、ウォーターゲート事件でリチャード・ニクソンが任期中に辞任したことであろう。
多分に本人の妄想的色彩が強いが …… それからさかのぼる数年来、FBI に代表されるような政府の何らかの諜報機関に監視されており(部屋の中を何者かに荒らされるという事件にも遭遇したという)、その影に悩まされていたようなので、ニクソン の失脚が彼を安堵させたことは想像に難くない。
ディックは、同年の2月と3月に、強烈な神秘体験(「何か超絶的なまでに理性的な存在が自分の心の中に入り込んでくる」という体験)に出会う。
その中での神、あるいは他の何かとの接触の記録を Exegesis(釈義) として書き記している。
その時期、彼は、キリストを意味する「黄金の魚の徴し」をピンク色の光をともなった中で体験し、強烈な『啓示』を受けた。
その後約1年にわたって、ディック は自らを「使徒トマス」と同一視し、現実の70年代の時代と「黙示録」の時代とを「同時に生きていた」ようである。
つまり、(74年〜75年の)表層的現実を生きると同時に、その深層に「リアル」な『啓示』的真実を垣間見るという特異な体験が続いた …… らしいのだ。
その間、彼は「原始キリスト教」の世界観の中に埋没し、「洗礼者ヨハネ」や「イエス・キリスト」らも一時期身を置いていたと言われる「エッセネ派」の資料やら「新プラトン主義」、さらには、それらに関連する数々の書物、殊に「グノーシス主義」の文献を仔細に調べていたとのことである。
おそらく、この時期は、彼にとっては「恩寵」に満ちた至福の時期であったに相違ない。
その生涯において最も光り輝いていた …… と本人が感じていた …… のではなかろうか。
その後の人生を見ると …… 五度目の離婚。それに続く、数人の女性との関係の度重なる破綻。自らの神秘体験を公言することで各方面から受けたバッシング。。。
そして、作品(「アンドロイドは電機羊の夢を見るか?」(「ブレードランナー」の原作))の映画化に絡むいざこざと心労。等々。
結局は、多くの天才がそうだったように、時流のなかではほとんど認められず、不遇なまま生涯を終えている。
死後、年月を経て彼の特異な体験も含め、マニアックなファンのみならず、彼の「仕事」も世に認められてきている。
その証拠と言って良いのかどうかわからないが、(良いか悪いかは別として)彼の数多くの作品が映画化されている。
ディック が生きていた時代と比較すると、エイリアン や サイキック、心霊現象 など超常現象を題材にした小説や映画、ドラマもごく自然に受け入れられる時代になってきた。
日本でもスピリチュアル・ブームをはじめとして、神秘的な現象やそれに類する現象を扱った、たとえば、ヒーリング や 占い、セラピー までをも包含した流れも目立つようになり、その裾野は広がりつつある。
それら、社会現象の深層に流れる「神秘的直観」のようなものは、おそらくディックが垣間見た「ヴィジョン」、そして、彼独特の難解で晦渋なストーリーテリングによって著された遺作群と基本的には通底するものと思われる。
改めて、その偉大な「仕事」に賛辞を表したい。