ユービック
評判
ユービックの評価:
4.46/5点 レビュー 50件。 B ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全99件 81〜99 5/5ページ
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ユービックの評価:
4.46/5点 レビュー 50件。 B ランク
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しかし、アシモフ以来のタイムトラベルものとは全く異なる。従前のタイムトラベルものは、あくまで常識的に理解されている直線的な時間観を前提にして、その中で未来へ行き、あるいは過去に遡ることをテーマにしていた。
これに対して『ユービック』のテーマは「偽の、あるいは、見せかけのタイムトラベル」である。
ネタバレになるので詳細は伏せるが、物語の後半で明らかになるのは、「時間の後退」だと思われていたものは「後退」ではなく、実は「停止」にすぎなかった、という事態だ。
『ユービック』を読み解くヒントは、ディックの別の小説『ヴァリス』にある。もちろん『ヴァリス』のほうが後に書かれた小説だ。だが『ユービック』や『高い城の男』その他の作品群でディックが考え抜いてきたテーマが一つに結実したのが『ヴァリス』なのだ。だから『ヴァリス』を読んでから『ユービック』を読み返すと、ディックの狙いがよくわかる。
『ヴァリス』の中で主人公ホースラヴァー・ファットは、グノーシス主義的な自分の「秘密経典書」の「釈義3」に「彼は時間が経過したと思えるように事物の見かけを変える」と記している。また、『ヴァリス』では、「実際の時間はキリスト紀元七〇年、イェルサレムの神殿の破壊とともに停止した」ということになっている。
『ユービック』でこれに相当するのはいうまでもなく、月世界でランシター合作社の一行を突然の爆発が襲うシーンである。これ以後、『ユービック』の物語世界は、『ヴァリス』流に言えば<帝国>の演出した「黒き鉄の牢獄」の時代、すなわち、時間軸が存在しなくなったにもかかわらず、あたかもそれが存在しているかのように事物の見かけが変えられていく時代へと移行するのである。
『ユービック』の世界では、録音テープのように順行、逆行しかない直線的な時間軸が否定される。むしろ、「時間は存在しない」(これは、『ヴァリス』の中でホースラヴァー・ファットが主治医のストーン博士に向けて語る世界解釈。)。
時間が存在しなくなった(停止した)世界のなかに、その世界の外部から、あたかも「神の遍在」(Ubiquity)のごとく、断片的にメッセージが挿入される。それが『ユービック』の世界観だ。グノーシス主義的にいえば、混沌の神ヤルダバオトによって作り出された世界に、真の唯一者の表れと見えるものが断片的に顕現するような世界観だ。
『ユービック』を最初に読んだときは、ふわふわと謎に包まれたような読後感が残った。ちょっと世界観が破綻しているのじゃないかとすら思った。しかし、二度三度と読むと、この小説が細部まで計算しつくされて書かれていることが分かる。ディックは(後に『ヴァリス』に結実する)確固たる世界観をもってこの小説を描いているのだ。
ぜひ、繰り返し読んでほしい。