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許されざるもの
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許されざるものの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.83pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全6件 1~6 1/1ページ
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あの大傑作冒険小説『約束の地』の続編であるのだが、読んでみると、全く違う趣の作品であることに驚いた。決して『約束の地』より劣っている訳ではなく、十二分に面白いのだが、明らかに物語の持つ雰囲気が違うのだ。『約束の地』が、ゴツゴツした男の冒険小説なら、本作は女性らしい冒険小説である。 主人公は前作と同じ野生鳥獣保護管理官の七倉航。野生動物の被害に喘ぐ八ヶ岳で、狂った生態系のバランスを取り戻そうと中国からオオカミを移入し、放獣する計画が持ち上がるが… どういう訳か冒頭から登場人物に関わる様々な『死』が影を落とし、不安をかき立てる。読み進むうちにその訳が解るのだが、少なくとも5年前の東日本大震災が作品に大きな影響を与えているのは間違いない。決してあがらうことの出来ない『死』と向き合い、『死』を知るからこそ『生』を大切にし、慈しむ…そんなメッセージが伝わる良い作品だった。 文庫化にあたり、本編の一年前を描いた『ふたつの心の大きな山~ 一年前』を併録。 | ||||
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一気に読み終えました。「約束の地」の続編ですからそちらを読んでからがよいと思います。政治や環境保護団体、研究者、マスコミなどの思いが入り混じり、読みながら憤ったり、胸を撫で下ろしたり、涙したり・・・ 中学生の子どもたち純粋な心にも胸打たれます。難しそうなテーマだけれども、読む者にそれを感じさせず、物語は展開していきます。 とてもおもしろかったです。 | ||||
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約束の地とうってかわった物語だけど面白かったです。 泣けた。オオカミには昔から良いイメージを持っていた けどもさらに好きになりました。 まあ少々「?」なパーツもあるけど全体としてはオススメ! この題材が気になる方は「捕食者なき世界」もオススメ。 | ||||
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350ページを超える長編であるが、一度読み始めると文章の海から、やがて八ヶ岳の森や白州、武川の自然の中に迷い込む。 ネタばれになるので内容は書かない。 狼、犬と人間、人間と人間、自然と人間の係り合いをフィクションという形で綴る(でも僕は山梨出身者なので、多くの部分がノンフィクションであると気が付いている(笑) 行政、地元住民、移住民、その辺をポイントに読むとさらに面白い。 ローカルルールと都市ルール(机上ルール)の混濁した中で動物や子供の純真さや真面目さが引き立つ。 そして、脱原発運動のこと、高速道路建設問題などが何気に織り込まれている。 次回作の展開を早くも期待している。 | ||||
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宇奈月温泉から黒部峡谷を探勝するトロッコ電車に乗ると、この険しい山の中に主に電源開発のために踏み込んで行った人々の果敢な意志の力に驚く。100年前にこんな場所に道を拓いて岸壁を穿ちながら奥へ奥へと進んでいったわけだ。まだ、黒部峡谷を完全遡行することさえ叶わなかったというのに、切り立った崖にわずかな足がかりを作り、人が通い、荷物を運んだわけだ。鉄道沿いにはダムや発電所が時折姿を見せる。原発が停止している今は、この黒部の水が生み出すエネルギーが生命線でもある。人とはたくましいものだ。 雨が斜面を転げ落ちてくる。水さえ斜面に沿って落ちていられないような峰が両岸に切り立つ。バレーではなく、ゴルジュと翻訳されるのは極めて適切だ。やがて、その水がまた新たに岩や、時として数百年斜面にしがみついてきた樹木さえ薙いでしまうのだ。 電車を振り返ると岩山に小さくくり抜かれた隧道の入口が見える。小さい。自然を説き伏せたつもりになって、こんなものなのだ。案内図の様子が頭に入っているせいかどこか僕らの仲間の仕事をやけに大きくみてしまうけれど、それはまるで黒部の山々にわずかに1本だけ辛うじてつながった絹糸のようなものだ。まだ、誰も目にしていない黒部は悠久の時間を抱えたままだ。 樋口さんの「許されざるもの」の読後、その絹糸を思った。 オオカミを文化的にも生態的にも駆除しておいて、今度は再び山に放とうとする。おもしろいテーマを探してくるものだ。様々な立場や考え方が交錯して物語は進むものの何かが足りないとずっと感じさせる。やがて、主人公の感じ方を通して霧を晴らすように視界を広げていくのだが、今日になって急に「畏怖」という言葉で語れるように思えてきた。僕が絹糸のように思える人間の振る舞いを、もしかしたらある人々は太いザイルのようにも信じ込んでいるかもしれない。それは、畏怖のあるなしによるものではないかと思う。 畏まって向き合うことでしか現れてこない姿がある。樋口さんはいつもそういうものを見ているんだろうな。あと何冊か読んでみよう。きっと、どこにも樋口さんのそうした眼差しを見つけることができそうだ。 | ||||
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樋口明雄氏の話題の新刊『許されざるもの』について。第12回大藪春彦賞と第27回日本冒険小説協会大賞をダブル受賞した、傑作『約束の地』の公式続編と聞いていたので大いに期待していた。 オビ文には小難しそうな印象を受けた。シカやサルによる農作物への食害が問題となっていることは、わたしも知っている。もともと日本の野山ではニホンオオカミが食物連鎖の頂点に君臨し、野生鳥獣の個体数の調整弁となっていた。そのオオカミを絶滅させたのはむろん人間の乱開発による圧力だ。人間が絶滅させたオオカミを現代の中国から移入して、日本の森へ復活させる。オオカミ導入で本来の自然界のバランスを取り戻せば、農作物への被害も防ぐこともできる、と「オオカミ導入派」の学者は物語のなかで熱く語る。 外来種排斥が叫ばれているご時世でこのような荒唐無稽なプランが通るはずはない。本書の冒頭部、オオカミ導入計画住民説明会での14ページにわたる緻密な論理を読むと、オオカミ復活いいじゃん、なるほどOK、とつい思わせられる。でもすぐに、いやいやそんなばなかと打ち消す。そのあたりの読者の揺れは、南アルプスに長年暮らして自らも幾多の山を歩き、人と自然との距離感を実体験的に悉知している作者の樋口明雄氏には、ぜんぶお見通しのようだ。 本書の登場人物たちは「人間の勝手な思惑で」という表現をことあるごとに口にする。突いてほしいツボを、次々にツン・ツンと突いてもらえるのは、たいへん気持ちがいいことである。最初の20ページを読んだら、あとはページを繰る手が止まらないだろう。あえて言うなら、本作のオビコピーは[これはリアルなロマンだ。]でいい。ロマンだけでも、リアルだけでもない。どちらか片方の要素しかない小説なら、こんなにも引き込まれることはないだろう。 人の通わぬ中国奥地の大興安嶺と標高2000メートルの新雪の八ヶ岳をまたいで、人と野生動物と国家の思惑をのみこんだ壮大な物語が、縦横無尽に展開する。山岳小説の大家である樋口明雄氏の熟練の筆致が、じめじめしたくそ暑い東京の西の外れに自分がいる現実をしばし忘れさせてくれた。物語の背景は複雑で社会へ深く斬り込む視点と重厚な提言力もある作品だが、読後感はこれ以上なくスカッとしている。そのスカッと感が本のページを閉じた後も持続するのが樋口作品の特徴だ。まるで初夏の高原のような爽快感。 読者は自分の濁りきったコールタールのような内面が、主人公・七倉航の長女で、ある特殊な能力をもった13歳の七倉羽純の双眸に見透かされ、瞬間にしてまっさらに初期化されるヨロコビを感じるだろう。腐ったリンゴはよい小説に触れることでもとに戻る。こともある。 ちなみにわたしはまだ10ページ目、人間たちに虐待され傷ついて暴れている秋田犬と、羽純ちゅわんとのやりとりのシーンで、いきなりグッときた。わたしはそんなに犬好きではないんだけどな。あわてて言い添えておくと、もちろん少女好きでもない。これも樋口マジックか。物語の終盤、人間たちの思惑に翻弄されるオオカミのものがなしい咆哮がいつまでも後を引く。それは現代人がどこかへ置き忘れて来た野性への郷愁でもあるだろう。読み終えてスッキリ感と後引き感を同時に味わえる不思議な小説だ。印象的な読書体験として長く残るにちがいない。 本書は『約束の地』の続編で、登場人物たちの造形が重なる部分もある。『約束の地』を読んでいなくとも関係なく楽しめる。『許されざるもの』を読んだ後は、きっと『約束の地』を手にとりたくなるだろう。『約束の地』を読んでよかったと思っている人は、『許されざるもの』も同じように、ひょっとしたらそれ以上に楽しめるはずだ。 | ||||
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