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(短編集)

裏切りの塔



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【この小説が収録されている参考書籍】
裏切りの塔 (創元推理文庫 M チ)

裏切りの塔の評価: 3.50/10点 レビュー 2件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.50pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

もはや文化的偉業

東京創元社が編んだ日本オリジナル短編集。本書に収録されている「高慢の樹」と「裏切りの塔」はそれぞれ「驕りの樹」と「背信の塔」という題名で『奇商クラブ』に収録されていたため、既読済みなので今回の感想から省くとして残りの2編「煙の庭」と「剣の五」と戯曲「魔術―幻想的喜劇」について述べる。

「煙の庭」はロンドンの外れにある医者と詩人夫婦の庭で起きた事件の話だ。
チェスタトンにしては実にオーソドックスな本格ミステリだ。
ロンドンの外れの屋敷に生真面目な医者と結婚して移り住む著名な女性詩人を悲劇が襲う。薔薇好きの彼女は阿片の常習犯でもあった。てっきり薬物の過剰摂取による事故死かと思われたが、検視の結果、短剣のような鋭い切っ先で刺されて毒殺されたことが判明する。そして短剣を持っていたのは知り合いの船長だったことから容疑が一気に掛けられる。

「剣の五」はフランス人とイギリス人のコンビが登場する短編だ。
その時に話題になっていることが目の前で本当に起こるというのは案外あることで、主人公のフランス人とイギリス人の友人同士が決闘のことを話しているとちょうど決闘で命を落としたイギリス人が倒れている現場に出くわす。
状況からみて遊び好きのイギリス人がトランプ遊びでイカサマだと罵った末の決闘であったとほとんど傾き始めたところに意外な真相が明らかになる。
本作では価値観の逆転を謳った作品だが、逆説王チェスタトンにしては実にオーソドックスな展開だ。

最後に収録された戯曲「魔術―幻想的喜劇」はミステリでもない、喜劇というべき作品だろう。
とある町の公爵家の娘が出くわした奇妙な男の正体を巡る話とで云ったいいだろうか。元々夢見がちなその娘が連れてきた男は彼女の前では妖精だと名乗ったが、彼女の知己の連中の前に現れると自身を奇術師だと名乗る。1人の男の正体を巡って色んな階級の、医者や牧師や公爵や実業家が右往左往する様を描いた戯曲である。
最後に夢見がちな娘が見知らぬ男の正体が判明したときに御伽噺が終わって現実になったと話すのは彼女の大人の女性への成長を示唆しているのだろうか。なぜなら彼女はその彼に求愛されたのだから。


日本で、いや東京創元社独自で編まれたチェスタトンの短編集は他の短編集である『奇商クラブ』に収録されていた2編と論創社の単行本版の『知りすぎた男』に収録されていた2編と本邦初訳の戯曲1編からなっている。その内容はまさにコレクターズアイテムとも云うべきディープである。

先の述べたように既読の『高慢の樹』と『裏切りの塔』についての感想は控えるが、それでも初読時のインパクトからは結構落ちたことは正直に告白しよう。

特に表題作である後者の真相には本来それら宝石を護るべき者が行っている狂気を肌寒く感じたが、本書はそれがなかったことに驚いた。真相を知っていたからかとも思ったが、それは未読の3作についても同様だった。

まず『煙の庭』は実にオーソドックスなミステリだと感じた。雰囲気はあるものの、幻想味や逆説の妙を感じさせなかったからだ。

ただ本作の犯人である博士の心情は私も理解できる。きっちりと生活をしている人ほど秩序を重んじ、そしてそれが適正に保たれていることを好む。しかしそれが叶わない時は心的疲労を抱えて尾を引くのだ。

そしてこの作品のミソは粗野な船長と知的階級の博士2人と並べているところだろう。本書のパラドックスを挙げるとすれば、この2者のイメージギャップということになるだろうか。

そして「剣の五」もチェスタトンにしてはいささかパンチが弱いと感じた。
価値観の逆転として昨今ミステリ小説のみならず子供向けのファンタジーやドラマでもよく使われているため、今となってはインパクトが弱く感じた。

そして本邦初訳の戯曲だが、これはミステリではなく、サブタイトルにあるように幻想的喜劇だ。上に書いたように妖精や魔法を信じていた若き女性が森の中で出くわした男性が自らを妖精と名乗り、そして奇術師であると告白し、実は魔術師だったと正体を二転三転させていく。
最後、その娘に自分が恋をしたことを告白するが、娘は逆に彼の正体を知り、それまで彼女の中で育んできた御伽噺の終焉を悟る。これは即ち彼の求愛を受け入れて、もう箱入り娘のような生活ではなく、伴侶として生きていくことを選択し、そして決意したと云う意味ではないか。つまり彼女はようやく大人になったのだ。つまりこれは幻想的喜劇と見せかけて幻想的ロマンスが正確だろう。

しかし今回も痛感したのは古典作品の読みにくさ。いや自分の理解のしにくさと云った方が正解か。
とにかく改行がなく、古い云い回しが続く古典作品は本書のように新訳での刊行となってもその内容をきちんと把握するためには1回きりの読書では十分理解できないだろう。

またチェスタトンは各課題に対するヒントを実に上手く物語に散りばめているが、最初に読んだだけではそれが煙に巻かれたかのように頭に入らないのだが、『知りすぎた男』の時にも感じたように、物語を要約するために読み返すことで手掛かりが判り、本来の物語が見えてくるのだ。つまりはチェスタトン作品を十二分に堪能するには二度読み必須であることを再度感じた。

しかしこの21世紀も20年以上過ぎてチェスタトンやカーの諸作や古典ミステリを新訳で刊行する東京創元社の出版スピリットには頭が下がる思いがする。それは恐らくは20世紀に埋没させずに21世紀に引き継いで読まれることを期待しての出版だろう。

出版業は文化事業だとよく云われるが東京創元社はまさにそれ。

今回あまり相性は合わなかったが、チェスタトン作品は21世紀でも末永く読み継がれるべき作品だと思うので、今だからこそブラウン神父シリーズ以外の作品を新規出版して遺していってほしい。
そんなことが出来るのは東京創元社くらいだろうから、大いに期待したい。

▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:
(3pt)

裏切りの塔の感想


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氣學師
S90TRJAH

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