裏切りの塔
- 名探偵 (559)
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書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.50pt |
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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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東京創元社が編んだ日本オリジナル短編集。本書に収録されている「高慢の樹」と「裏切りの塔」はそれぞれ「驕りの樹」と「背信の塔」という題名で『奇商クラブ』に収録されていたため、既読済みなので今回の感想から省くとして残りの2編「煙の庭」と「剣の五」と戯曲「魔術―幻想的喜劇」について述べる。 | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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100ページ強の中編「高慢の樹」、表題作と「煙の庭」「剣の五」の三つの短編、70ページほどの戯曲「魔術」の混成からなる日本オリジナルのコンピレーション。戯曲以外はミステリ小説作品である。 「高慢の樹」 コーンウォールの海岸にある大地主ヴェインの住む土地には、「孔雀の樹」と呼ばれアフリカ北岸から移植されたと言われる不気味な樹が海辺の森に存在する。鳥を食べるとされるその樹は、近頃では近づいた人間が行方不明になるという噂がたち、付近の住民たちから恐れられている。大地主の招待客であるアメリカ人批評家のペインターほか、詩人、医師、弁護士、娘のバーバラなどが集う夕食会のあと、頑迷な大地主ヴェインは「孔雀の樹」の迷信を晴らすべく樹に登り森で一晩を過ごすといって一人で樹に向かう。しかし翌日になっても大地主は帰ってこなかった。そして季節が変わっても帰らない大地主を捜して森に出掛けたペインターは森の中に意外なものを発見する。 怪奇ものの雰囲気を併せもつミステリ作品。「孔雀の樹」の迷信と絡めた真相も面白い。 「煙の庭」 純朴な娘が名高い閨秀作家にして流行の詩人であるモーブレイ夫人の話し相手としてロンドン郊外の住宅に赴き、訪問客のフォンブランク船長に出迎えられる。夫人宅に宿泊した翌日、奇妙な匂いに目が覚めるキャサリンは、夫人の夫である医師の大声と悪態をつく声を耳にし、とある薬が失くなったらしいことを知る。そんななか、薔薇が咲く庭の中である人物が倒れているのがみつかる。 「剣の五」 決闘についての論争をしながら散歩をするフランス人フォランとイギリス人マンクは、突然若い男に人が殺されたから助けてほしいと声を掛けられる。呼び出された先のある邸宅の庭には、決闘に敗れて殺害されたとされるクレインという若い男が横たわり、双方の介添人二人ずつと決闘で相手を殺した青年が集っていた。決闘は昨晩、酔って賭博をいかさまだと絡んだクレインとの間で持ち上がったという。いさかいが起きた屋敷は荒れたままで、床には「スペードの五」のトランプが落ちている。しかし、フォランは賭博と決闘が起こったという現場のある状況に違和感をもつ。そしてフォランは殺されたクレインの美しい妹に乞われ、真相究明を約束する。 「裏切りの塔」表題作 東欧のある地に滞在する英国人外交官のドレイクは、付近の城から滞在先である修道院に戻る途中、修道院から発射された弾丸によって殺害される地元の農夫を目撃する。直後に付近から怪しい男性が現れるが、自身の犯行ではないと弁明して立ち去る。不審な事態にドレイクは当地に隠棲する、もとは有力な政治家だったスティーヴン神父の謎を読み解いてきた過去に期待して、神父のもとへ相談に訪れる。修道院の塔には高価な宝物が収められており、新たな修道院長による厳戒な警備体制によって守られていること。ドレイクが城にいる想い人に会うため修道院を抜け出していたこと。城にいる娘の兄や城主の博士にドレイクが疎まれているらしいことなど、ドレイクは彼の置かれた状況を説明する。ドレイクのある言葉に閃きを得たスティーヴン神父は、ドレイクとともに塔に向かっていくのだった。 東欧の荒野や厳戒な塔、城の存在が不穏な雰囲気をまとい、結末とも相まって詩的な空気を醸し出している。 「魔術―幻想的喜劇」 三幕の戯曲。富豪である公爵家に、ともに暮らすことになっている被後見人の甥モリスと姪パトリシアが到着する。寄付を募りにきた教区牧師スミスと開業医のグリムソープ博士も訪問するなか、公爵に招待されたという奇術師が現れる。到着したばかりの甥のモリス甥のモリスが奇術師に絡むなか、奇術師の見せる"魔術"によって騒動が持ち上がる。本書内でもっとも読後感が温かい。謎をどのように受け取るか、鑑賞者に委ねられる点も印象的である。 ミステリとしての真相も含めて第一篇「高慢の樹」の完成度が高く、個人的には本書内でもっとも面白く読めた作品だった。表題作がもつ独特の雰囲気も良い。偶然かもしれないが、全作品に恋愛のエピソードが絡んでいることも手伝って、全体に抒情的な読み心地がある。 | ||||
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表題作の他、中編「高慢の樹」、「煙の庭」、「剣の五」及び戯曲「魔術」(本邦初訳)の5つの多彩な作品から構成されるチェスタトン作品のアンソロジー。尚、表題作と「高慢の樹」は「奇商クラブ」中で各々「背信の塔」と「驕りの樹」として収録されていて、「煙の庭」と「剣の五」は「知りすぎた男-ホーン・フィッシャーの事件簿」中に収録されているが、ここでは初見の作品として扱う(個人的に「奇商クラブ」も「知りすぎた男」も随分昔に読んで詳細は忘れていて、私にとっては新作同然だったからである(実際、読んで見たら情けない程に殆ど覚えていなかった)。以下では、「高慢の樹」、表題作及び「魔術」について述べる(他の2編も佳作)。 「高慢の樹」はチェスタトンの風味・信条が良く出ている。数多の伝説が残るコーンウォール海岸が舞台。「イギリス人の地元の大地主vs伝説蒐集家のアメリカ人の吟遊詩人」という対立軸。「海外沿いに立っているのに枯れず、強風が吹くと"孔雀の叫び声"に似た音が響き、その上、歩く能力を持っていて獣や人を喰らう」という通称<孔雀の樹>と呼ばれる怪樹の造形。伝説に立ち向かうために<孔雀の樹>に挑んだ大地主が忽然と姿を消す(平凡だが必要悪の)展開。これら、幻想味が漂う雰囲気の中でさりげなく高踏的文明批判を織り込む信条。そして、ここからの展開に読み応えがある。吟遊詩人が大地主を探すために<孔雀の樹>に分け入った所、井戸に埋もれた頭蓋骨と凶器の斧を発見する経緯は普通だが、この斧のために容疑者となった木樵に係わる「木樵が一番使いそうにない武器は木樵の斧」という逆説。森から抜け出した事を目撃された別の逗留詩人ハンラーンに纏わる「動機vs機会」。涸れた井戸と乾いた骨。ハンラーンの窮地を救う意外な人物の言葉と意外なハンラーンの正体。更に、ここからも真相が二転三転するという中編という長さを活かした本格長編ミステリ風の秀作。表題作はイギリスと(架空の)トランシルヴェニア王国とが戦争状態にあるという設定下、外交官である青年が修道院のダイヤモンド管理状況を確かめるために修道院への潜入捜査を試みるが、不可解な状況で農民殺しの犯人扱いされてスティーブン神父に真相解明を頼むという短編。全編が幻想味に溢れ、神父が形而上学考察と「高慢の樹」を上回る"逆説の嵐"の中で真相へと導くという、これまた如何にもチェスタトンらしい秀作。ただし、好みの問題ではあるが、代表作「犬のお告げ」同様、クイーン流に現場の見取り図が挿入してあれば不可解状況の重しが(大なり小なり)外れるという、自らの筆力に自信を持つチェスタトンの功罪が出た感もある。 掉尾の戯曲「魔術」は<信仰と懐疑主義>をテーマとした風刺と諧謔味・幻想味に富んだ逸品だが、悪魔的・魔術的状況から現実的解決へと導く「ブラウン神父」物と相通じるモノがあってファン必読の作品だと思った。中編「高慢の樹」と戯曲「魔術」が特に光る、チェスタトンの魅力を改めて感じさせてくれる秀逸なアンソロジーだと思った。 | ||||
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一、概要 〇G.K.チェスタトン作品集。中編「高慢の木」、短編「煙の庭」「剣の五」「裏切りの塔」、戯曲「魔術ー幻想的喜劇」からなる。訳者はお馴染みの南條竹則氏。 〇中編と3短編は『知りすぎた男その他の物語』(1922年)に収録されているが、創元推理文庫『知りすぎた男』では、これらの作品は切り捨てられてしまったため、今回これらをまとめ、戯曲1編を加えて刊行された。 〇中短編はすべて既訳があるが、戯曲は本邦初訳である。「高慢の木」(旧訳「驕りの木」)、「裏切りの塔」(旧訳「背信の塔」)は創元推理文庫の旧版『奇商クラブ』に収録されていたので、オールドファンにはお馴染みかもしれない。 〇戯曲「魔術」はバーナード・ショーの勧めで書かれたもので、1913年11月7日にロンドンの小劇場で上演され、大当たりであったという。 二、私的感想 〇中短編はそれぞれ殺人等の事件が起き、その真相が解明されるので、一応ミステリーの範囲に入る作品と思う。戯曲はミステリー要素は乏しい。 〇「高慢の木」はまさしく木のミステリー。傑作。「煙の庭」はアイデアやや平凡(すみません)。「剣の五」はチェスタトン得意の死体の隠し方トリック冴える。 〇「裏切りの塔」は古来難解な作品で、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう。訳者が便利なイラスト地図(331頁)を付けてくれたので、これを見ながら読むのがお勧め。 〇「魔術」は幻想的喜劇とされており、まさにその通りなのだが、ハッピーエンドの恋愛喜劇であることも重要だろう。もし公演が原作通りの幕切れで終わったのだとしたら、観客が拍手喝采したのもよくわかる。 私的結論 〇「魔術」本邦初訳おめでとう。 | ||||
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