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危険なビーナス



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【この小説が収録されている参考書籍】
危険なビーナス
危険なビーナス (講談社文庫)

危険なビーナスの評価: 6.00/10点 レビュー 6件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全6件 1~6 1/1ページ
No.6:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

東野版『渡る世間は鬼ばかり』

疎遠になっている弟の妻と名乗る女性から連絡があり、夫が失踪したと知らされる。しかしその妻は積極的に夫を捜すわけではなく、本来夫がすべき親族の紹介をする手伝いをするようになる。そして自分が縁を切った金満家の矢神家に関わるうちに、次第に亡くなった母親の見知らぬ一面に接し、謎が深まっていく。

弟の妻と名乗る女性が突然現れる。
このウールリッチの諸作を思わせる展開は実情を知らなくてもその対象となる人物のことをネットなどでリサーチすれば成りすませることが可能となる昨今だからこそ妙にリアルに感じる設定だ。

そして不思議なのは夫矢神明人が失踪したのにも関わらず、積極的なのは夫の捜索ではなく、矢神家の過去や因縁を探ろうとする妻楓の存在だ。彼女は夫が相続することになっている矢神家の全財産を不在の明人に代わって宣言し、既に家族の縁を切って疎遠となっている手島伯朗をパートナーにしてどんどん矢神家の過去へ迫ろうとする。

特に殺人事件が起こるわけでもなく、失踪した異父弟の新妻のために行動し、そして少しばかり複雑な事情の自分の親族たちと向き合うという地味な話なのになんと読ませるのだろう。

その要因としてまず挙げられるのは主人公手島伯朗の親族の複雑な関係だ。手島伯朗の父一清は売れない画家で生計はほとんど妻の禎子の看護師の仕事で賄っていた。しかし彼が脳腫瘍を発症し、しばらく治療を続けていたが、間もなく死に至った。

その後は母親との2人暮らしで、彼女が働いている間は近くに住む禎子の妹順子の兼岩家に預けられるという生活をしばらく続いていた。順子は専業主婦で夫の憲三は大学で数学の教授をしていた。

そしてしばらくして禎子は病院などを経営する名家矢神家の一人息子康治に見初められ、再婚し、そして2人との間に明人という子供、即ち伯朗の異母弟が生まれるが、矢神家の当主康之介は彼を矢神家の跡取りとして育て、禎子の連れ子である伯朗にはますます見向きもしなくなる。そして彼は20歳の時に矢神姓ではなく手島姓を選び、そして矢神家とは縁を切ることにしたが、母親の禎子は伯朗が大学4年の時に実家の風呂で転倒して頭を打って湯舟で溺死してしまう。

つまり伯朗と矢神家にはもはやしがらみはないのだが、そこに明人の失踪が絡むことで彼は否応なしに明人の妻矢神楓に半ば振り回されるような形で矢神家に関わるようになる。その過程で彼は今まで知らなかった親族の一面を垣間見るのである。

複雑に入り混じった親族の、しかも矢神家という伏魔殿の如きプライド高い名家の軋轢に伯朗が惑わされる、いわば東野版『渡る世間は鬼ばかり』とも云うべき作品だ。

しかし伯朗を見下すそんな名家の人々が出てきながらも読んでいる最中はさほど不快感を抱かない。
それは矢神楓という女性の存在が際立っているからだ。美人で元JALのCAをしていた彼女は臨機応変に物事を対処する機転の持ち主(ただ真の正体は最後に明らかになるのだが)。そして自分の容貌が武器になることを理解して、男たちに媚を売って籠絡させることを全く厭わない。
十分に強かな女性なのだが、陽気かつ親しみやすさを感じる性格ゆえに嫌味を感じない。最も女性の目からは憧れの存在だった明人を独り占めした女性という敵のように映る一方で、海千山千の人物を見てきたクラブのママを務める矢神佐代からは只者ではないと感じさせる。

更に彼女が偽りの妻ではないかと疑問が頭をもたげるような事実が発覚し、それを問い質しても実に淀みなく説得力のある回答をすらすらと立石に水の如く応える頭の回転の速さ。30手前の女性で間延びした言葉遣いから相手は彼女を下に見がちだが、それも計算の内のようだ。
独身貴族で結婚願望なしの主人公手島伯朗も次第に彼女に魅かれ、彼女が他の男性と楽しく談笑しているのを見ると嫉妬し、そして彼女に頼られたいとまで思うようになる。傍から読んでて手玉に取られていくのが解っていて、笑えて来てしまう。

一方そんな彼女に翻弄される手島伯朗の人物像が次第に何とも頼りない男に見えてくる。一緒に行動するうちに楓のことが気になって仕方なくなり、笑顔を見せられたり、同情されたりすると気分が良くなり、彼女に頼られたいと思うようになる。その思いは次第にエスカレートし出し、終いには逐一行動をチェックするようになる。
弟の妻であることを半ば忘れて、自分の恋人のように彼女が他の男と仲良く談笑するのを、自分ではなく他の男性と一緒に過ごすのが我慢ならなくなってくるのだ。

機転の利く矢神楓と鈍感男の手島伯朗2人が辿る今や没落の一途を辿りつつある名家矢神家の面々と過去の因縁が謎が謎を呼ぶ展開を見せ、ページを繰る手を止まらせない。

また主人公の手島伯朗は獣医師という設定だが、本筋である失踪した異母弟の妻矢神楓の夫捜索と彼女の謎めいた様子が語られる一方で並行して伯朗の生い立ちと獣医としての日常が語られるが、後者のエピソードが実に愉しく読めた。特にペットの飼い主が連れてくる様々な動物たちに纏わるエピソードに加え、ペットを通じて憶測するペットを飼っている人間たちの私生活の話などが実にリアルで面白く、物語のアクセントになっている。
例えば珍しい猿を飼っている女性はパトロンになっている男性がいるクラブのママであることが多いとか、猿用の餌にモンキーフードなるものがあること、ミニブタを飼うとやがて80~100キロまで成長して手に負えなくなることなどといったペットトラブルあるあるに加え、また獣医は動物だけを相手にするのではなく、その飼い主とも付き合っていかなければならない、などと興味深い教訓めいた話も織り交ぜられる。
これらは取材していないと書けないリアリティがあり、『ミステリーの書き方』にも色んな事に興味を持ち続けていることが作家の秘訣だと述べていたが、今も実践しており、そしてそれが作品の幅を広げ、ベストセラー作家の地位に胡坐をかいていないことが解る。

またトリビアだが、本書の登場人物の1人、矢神家の異母弟の矢神牧雄は泰鵬大学医学部の神経生理学科で研究をしているが、この泰鵬大学、実は東野作品ではやたらとここの関係者が登場し、実はかなり微妙なリンクがあることに気付く。

しかし題名『危険なビーナス』はちょっと浅薄でピント外れな印象を受ける。題名が示すビーナスは矢神楓のことだろうが、彼女は確かに口頭では目的のためには女を武器にして籠絡させると公言したが、それでも危険な香りはしない。寧ろ彼女の魅力に主人公手島伯朗が勝手に魅了され、そして翻弄されただけなのだ。
そう、危険だったのは伯朗の惚れっぽい性格なのだ。

しかし開巻時からは思いもかけない着地点を見せつけてくれた。
まだまだ当分彼の作品の水準は下がりそうにない。まさに品質保証の東野印。ベストセラー作家として数々の読者の財布を緩ます東野作品こそ危険な魅力に満ちている。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.5:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ラブコメとして、楽しめる

タイトルと表紙写真からある程度想像できて、強いインパクトは無いが、それなりに楽しめる長編エンターテイメント作品である。
獣医の手島伯朗は、突然、父親違いの弟・矢神明人の妻を名乗る女性・楓から「明人が行方不明になった」と知らされた。明人が結婚したことも知らなかった伯朗だったが、楓に頼まれて明人の行方を探すのに協力することになった。矢神一族は没落寸前の資産家で、周りはうるさい親族だらけ。突然姿を現した明人の妻を名乗る女が真相を究明するのは並大抵ではなく、協力する伯朗も自分の母親と義理の父親との関係で問題を抱えており、二人の調査は遅々として進まなかった・・・。
謎の女・楓のキャラクターが強烈で、行方不明探しはオマケで、楓と伯朗の関係の方がメインの物語である。スリルやサスペンスは皆無で、伏線の張り方やオチの付け方も、ラブコメミステリーだと思えば納得できるレベルであるが、さすがに東野作品だけあって読んで損は無い。
旅行中の待ち時間や乗り物の中で、肩が凝らないミステリーで楽しく時間を過ごしたい方にオススメだ。

iisan
927253Y1
No.4:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

危険なビーナスの感想

読みやすい文章で内容は頭の中入ってきますが、
ヒヤヒヤもドキドキも何もない。
最後に向かっても唐突に話が進み
読後感は、面白かったとはいえない。
ラプラスよりましで人魚より下。
次に期待

jethro tull
1MWR4UH4
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

「危険なビーナス」の感想

発行店のHPに本書の紹介として書かれていた文章を読んだとき、(主人公の)伯朗と、弟の妻・楓との間に、なにやら変な関係が出来てしまうのでは・・・と勘ぐってしまいますが、そういう話ではありませんでした。

ということで、ネタバレに気をつけながら、少しあらすじも書いてみたいと思います。

池田動物病院の院長代理・手島伯朗(てじま はくろう)の視点で話が進んでいきますので、とても読み易く、その気になれば一日で読めてしまいそうです。

伯朗の父は、彼が幼いころに亡くなっており、父の死後、母は、資産家の御曹司であり、医者の矢神康治という男性と再婚します。
その再婚相手との間に出来た子どもが、弟の“明人”で、ある日突然、「(伯朗の弟の)明人の妻だ」と名乗る女性・楓(かえで)が、伯郎のまえに登場することから話が始まります。

父・康治が危篤であると聞いた明人と楓は、アメリカのシアトルから日本に帰国しますが、帰国後すぐに明人が失踪したということで、(義兄の)伯郎に相談しに来た・・・と言う事です。

母の死後、伯郎は、矢神家の人たちや弟の明人とは疎遠状態になって居たので、明人が結婚していたことを知らされていなくても、違和感は感じなかったようです。
楓の話によると、明人は母の死に疑問を持っていて、矢神家には気をつけるようにと言って居たと言うことですが、伯郎は、楓から、明人の失踪について一緒に調べて欲しいと頼まれます。
父・康治の見舞いに行き、矢神家の遺産相続の話し合いの場に参加させられていくうちに、少しずつ矢神家と父・康治に関する驚くべき事実が次々と明らかになっていきます。

でも、弟・明人の「失踪のヒミツ」と言う事が、前半の焦点になっていたはずなのに、途中から、伯郎の母の死についての謎や、伯郎の父の死についての経過などが明らかになっていきますが、いったい何がこの話の焦点なのかがよくわからない流れになっていきます。

伯郎が、動物病院勤務なので、動物病院内での治療の様子や看護師との会話などが時々出てきますが、その部分が結構楽しかった割には、本筋の話はイマイチでした。
また、ラストのどんでん返しは、ちょっとズッコケる感じの結末でした。

でも、看護師の女性が指摘したように、「女性に惚れっぽい」伯郎の心境などは面白かったので、複雑な家庭環境を背景に持って来て、込み入った話にしなくても良かったのではないでしょうか。
私的には、伯郎の義妹・楓よりも、看護師の女性が魅力的だったので、この話にどう関わってくるのかと興味を持っていたのですが・・・。

トラ
WFY887SY
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

危険なビーナスの感想


▼以下、ネタバレ感想

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FSD78H58
No.1:
(7pt)

危険なビーナスの感想

登場人物のキャラが魅力的だったり謎だったり憎らしかったりと、人間ドラマが面白い作品とは言えるかな。

ミステリ色は薄いので、そっちを期待して読むとガッカリするかも。

「ヴィーナス」ではなく「ビーナス」としているところは、東野流ベタ感を出したのだろうか。

ZOL
VSFA8UK6

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