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ラプラスの魔女



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【この小説が収録されている参考書籍】
ラプラスの魔女
ラプラスの魔女 (角川文庫)

ラプラスの魔女の評価: 5.43/10点 レビュー 14件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点5.43pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全5件 1~5 1/1ページ
No.5:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

超越者たちのララバイ

受験生だった頃、また仕事に行き詰り、先行きに不安を覚えた時、こんな風に思ったことはないだろうか?

全てが見通せる、全知全能の神になりたい、と。

本書はまさにそんな能力を持った人間の物語である。

その人物の名は羽原円華。
不思議な能力を持った彼女と温泉地で起きる不可解な硫化水素中毒事故の謎を扱ったミステリだが、この羽原円華がどこか他の人間とは違った特殊な能力を持っていることが物語の冒頭でも仄めかされ、いわゆるミステリなのか超能力者が登場するファンタジーなのか、リアルとファンタジーの境を平均台の上を歩くかのようにふら付きながら読まされていく。

そんなミステリとファンタジーの境界線上にある物語を主軸にして複数のストーリーが同時進行していく。

まずは元警察官の武尾徹が過去の警護の仕事で知り合った開明大学の事務員、桐宮玲から羽原円華という10代後半と思しき女性の警護を依頼される話。
彼女を警護していくうちに羽原円華の周囲に不思議な現象が起きることに武尾は気付く。やがてある事件を境に羽原円華は武尾と桐宮たちの前から姿を消してしまう。

もう1つは温泉街で起きた硫化水素中毒事故の話。2件起きる話のうち、年の離れた夫を事故で喪った水城千佐都を計画的犯行と疑っている麻生北警察署の中岡が単独で捜査を進めていく。

もう1つは泰鵬大学教授の青江修介がこれら2件の不審な硫化水素中毒事故をそれぞれ地元の警察からと地元の新聞社から専門的見地から調査を依頼される話。
その2つの温泉地で青江は羽原円華と邂逅する。

これら3つの話がやがてそれぞれ関係する人物との共通項が見出されて、複雑に絡み合っていく。

とにかくこの同時並行して進む物語は一転も二転も三転もして読者を謎から謎へと導き、離さない。
最近の東野氏はこのようなモジュラー型のミステリを好んで書くようだが、そのどれもが先が読めずに抜群のリーダビリティーを持っている。特にそれぞれが独立しているように思える登場人物との意外なリンクが明かされていく手際は熟練の妙というよりも、物語の構築美を感じさせ、思わず嘆息してしまう。

そんな複合するエピソードのうち、本書の読みどころの1つとして作中登場人物の1人、映画監督の甘粕才生のブログを挙げたい。自宅で娘の硫化水素を使った自殺によって妻と娘を喪い、息子が意識不明の重体で発見されるという不幸のどん底から、息子の謙人が植物人間状態から奇跡的に回復していく一部始終を綴ったその内容はそれだけでもう1つの小説の題材として申し分ないものだ。

特に感じ入ったのは家族が亡くなって初めて家族が自分のことをどれだけ愛し、尊敬してくれたかを気付かされていく過程を綴った箇所。家族を亡くしたことで初めて家族を知る父の悲しみに溢れ、そして家族のことを知るために生前親しかった者たちを訪ねていく甘粕の道行は単なるエピソードの1つとして片付けるには勿体ないリーダビリティーと感銘を受けた。
逆に云えばこれだけのエピソードさえも東野劇場にとっては物語に奉仕するファクターの1つに過ぎない、つまりそれ以上の物語を提供する自信と自負に溢れていると云うことなのかもしれない。

このように東野氏は1つの小説になり得る題材を見事にミステリのツイストとして活用する。何とも贅沢な作家である。

この新鋭の映画監督として将来を期待されていた甘粕才生、そして主人公の羽原円華の父親で脳科学医療の権威、羽原全太朗も含め、その分野の先駆者、パイオニアといった常人を超えた偉業や功を成し得た人物がそれ故に陥る狂気が本書の隠れたテーマであろう。

本書の題名に冠されている耳慣れない言葉「ラプラス」、私はこの名前を中学生の頃に発売されたゲームソフト『ラプラスの魔』で初めて知った。ホラー系のゲームだったため、従ってそのタイトルに非常に似た本書もホラー系の小説かと思ったくらいだ。
この両者で使われているラプラスとはフランスの数学者の名前で全ての事象はある瞬間に起きる全ての物質の力学的状態と力を知ることが出来、それらのデータを解析できればこれから起きる全ての事象はあらかじめ計算できる決定論を提唱した人物で、それを成し得る存在を“ラプラスの悪魔”と呼ばれている。

羽原全太朗博士が中心となって手掛けている、人間の脳が備え持つ予測能力を最大化させる謎とその再現性を目的にしたラプラス計画はこの数学者から採られており、そして突出した予測能力をこの計画によって得た甘粕謙人が「ラプラスの悪魔」であり、羽原円華こそがタイトルになっている「ラプラスの魔女」なのだ。

冒頭に書いたように私もかつて全ての理を知る「ラプラスの悪魔」になりたかった。未来を知ることで不安がなくなるからだ。
しかし本当に全ての流れが見えることは人にとって本当に良い事なのかを改めて考えさせられてしまう。この件についてはまた後で述べよう。

物語は青江修介を狂言回しとしながら、やがてもう1人の能力者甘粕謙人にシフトしていく。

島田荘司氏のミステリでも大脳生理学を題材に人間の感情や精神についてそれぞれ大脳で司る部位などが詳らかに語られ、人間の意志が実はプログラム化された機能の一部であることが語られ、衝撃を受けたが、本書もまた同様である。
脳の研究が進むことは即ち人間の感情や意志をシステム的に解明することになり、それはプログラミングによって系統化され、そして人間は自分の意志で選択していると思いながら、実はプログラムによって動かされていたことを知らされるという、なんだか夢も希望も無くなる暗鬱な結論に達する不毛な荒野が目の前に広がっていくようでうすら寒さを感じてしまう。

そんな最先端の脳研究によって生み出された類稀なる予測能力を持つことになった甘粕謙人と羽原円華。
そんな2人が観ている世界は、風景について最後ボディガードの武尾は円華に尋ねる。
その答えは未来を知る者だけが放てる言葉だろう。既に40半ばの不惑の年ながらいまだに未来に不安を抱える私は安心を得るために未来を知りたいと思うが、解らないからこそ人生は面白いと云い聞かせるべきだろうか。

また一方で狂気の男甘粕才生についても理解できる部分がある自分がいる。映画という虚構を最高の形で作ることに尽力した男。そして書き上げたブログには彼の理想とする家族の姿があった。

青江修介は正直云って全くの部外者だった。彼は学者特有の好奇心を満たすためにこの事件に関わってきただけだ。
彼が知ったのは公表できない事実。好奇心が満たされた時、現実の虚しさに襲われたのではないだろうか。

それぞれの登場人物に私の一部が備わった作品であった。そしてそのどれもが迎える結末は苦い。
まだまだ未知なるものが多い世界。しかしそれらが徐々に解明されつつある。
しかし全てが解明された果てに見える景色は決して幸せなものでないことを本書はまだ10代後半の女性を通じて語っている。
我々の見知らぬ世界に一人立つ彼女がどことなく厭世的で諦観的なのが心から離れない。
悪に転べば誰も捕まえることの出来ない究極の犯罪者となる、実に危うい存在。
見えている風景がどんなものであれ、羽原円華は生き、そして立っている。その強さをいつまでも持っていてほしいと願いながらも、危うくも儚さを感じる彼女の前途が気になって仕方なかった。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.4:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ラプラスの魔女の感想

本作は気候、地形等、あらゆる条件から未来を予測する能力を持つことになった人物を軸にした作品。海外小説に『数学的にありえない』という似た設定の作品を読んだことがあったが、それぞれクローズアップしている箇所が違っている。
片方はアクションを多く取り入れ、エンターテイメント満載。片方は人間関係、事件の動機といった物に焦点を当てた物となっており、その国柄を小説によって感じることができたのは、面白く感じた。

松千代
5ZZMYCZT
No.3:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

ラプラスの魔女の感想

タイトルから「ガリレオシリーズ」だと思っていたのですが違いました(汗)
構成や展開はさすが、という感じなんですけどラストがね。どうしても尻すぼみになってしまっている。
何とも東野圭吾さんらしい作品ですかね。
東野圭吾デビュー30周年記念作品という事で気合も違ったはずですし、理系ミステリ作家の本領を遺憾なく発揮できそうな題材だったんですけどね。
SFっぽい内容になってはいますが、数学者ラプラスが提唱した「ラプラスの悪魔」が基にあるはずで、全くの絵空事でもないはず。
作者なら、もう少し深く掘り下げる事ができたはず。どこか浅い。
また、個人的にタイトルにも違和感がありますね。
魔女はどこに? あの彼女が魔女なの?

梁山泊
MTNH2G0O
No.2:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

アニメ風というか

東野圭吾がデビュー30周年を迎えて「新しい小説に挑戦した」というふれこみだが、ちょっと期待外れ。
温泉地で硫化水素による死者が出たことから調査を依頼された青江教授は、疑問を抱きながらも事故死だろうと結論づけた。しかし、さほどの時間を置かず、別の温泉地でも同様の事故が起き、調査に赴いた青江は、前の事故現場でも見かけた謎の少女に遭遇する。羽原円華と名乗るその少女は、何かを探しているようだった。
一方、最初の事故の被害者の母親から「息子は嫁に殺された」という告発を受けた中岡刑事は、調査を始めて事件の匂いを感じるようになり、ヒントを求めて青江に接触した。
二つの事故が事件としてつながったとき、その背景には想像を絶する悲劇が隠されていた。
本格ミステリーを期待して読むと裏切られるけど、物語の構成やストーリー展開はよくできていて、それなりに楽しめる。

iisan
927253Y1
No.1:
(7pt)

まぁ

期待した割には…
しかし、東野圭吾としてはやはり面白い作品でした。

J.M
5N544G8O

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