■スポンサードリンク


黒のトイフェル



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!

黒のトイフェルの評価: 3.00/10点 レビュー 1件。 Eランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点3.00pt

■スポンサードリンク


サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(3pt)

ほとんど罪のような作品

文庫上中下巻という大巻でありながら、世の好評を得た『深海のYrr』。
その作者フランク・シェッツィングの作品を読むに当たって、まずはデビュー作となる本作から読んでみた。

13世紀のドイツ、ケルンを舞台にした貴族の陰謀に巻き込まれた盗人の物語。
『オリヴァー・ツイスト』のような物語を想像したが、濃厚さに欠けるように感じた。

大聖堂の建設が行われるケルンでその建設監督であるゲーアハルトが転落死する。しかしたまたま大司教の林檎を盗みに入ったヤコプは現場を目撃してしまう。事故と思われたその事件にはゲーアハルトに寄添う影があり、ヤコプはそれを捉えていた。
この殺し屋ウルクハートはある陰謀の下、集った貴族の結社が雇った殺し屋。彼はヤコプが目撃した自分の犯行と死に際にヤコプに漏らしたゲーアハルトのメッセージを抹殺せんと執拗に追う。

痛いのは物語の主役を務めるヤコプがさほど聡明ではなく、偶然の連鎖で身に降りかかる災難を避けているに過ぎないことだ。
こういう物語ならばやはり社会の底辺でしたたかに生きてきた盗人が狡猾さと悪知恵で大いなる陰謀を乗越えていく姿を見たいものだ。

そして物語の背景を彩ると思われた大聖堂建設が全く響かないことだ。
物が作られるというのは、物語が作られることの暗喩となる。特に今回のような話では大聖堂の建設が最高潮に達するに従って、貴族らの陰謀もまた最高潮に達するという劇的相乗効果が出来たはずなのだが、シェッツィングはそれをしなかった。これが非常に勿体ない。
大聖堂建設、貴族らの陰謀、そして1人の殺し屋の暗躍と物語を盛り上げるに事欠かない要素をこれだけ盛り込みながら、熱気がほとんど感じさせないとは、ほとんど罪のような小説である。

そしてケルンの貴族連中で結成された結社がなぜゲーアハルトを手に掛けたのか、この謎が曖昧模糊として物語の牽引力になっていないように感じた。少しずつ陰謀の手掛かりを晒しながら徐々に全貌を明らかにしていく語り口を期待していただけに残念。
これがデビュー作なのだからそこまで要求するのは高望みか。

しかしこの物語の主人公はヤコプというよりもこの殺し屋ウルクハートだと云えよう。金髪の長髪を湛えた長身のその男は目に奈落の底を感じさせる。彼の脳裏に時折過ぎるのは暗闇に鳴り響く人のものとは思えない悲鳴の波。元十字軍騎士だった彼がなぜ殺し屋に身を堕としたのかが物語の焦点の1つとなっている。

原題である“Tod Und Teufel”は英語に直すと“Death And Demon”だろうか。ドイツ語には明るくないのでWEB辞書でそれぞれの単語を調べて繋げると「死と悪魔」となる。この悪魔とは即ちウルクハートのことだろう。
しかし『黒のトイフェル』という題名はミステリアスで、読者に「どういう意味だろう?」と食指を動かす魅力はあるが、読み終わってもその意味が伝わらないのは明らかにマイナスだろう。
ドイツ語の「トイフェル」と聞き慣れない一種蠱惑的な響きを敢えてそのままとしたのだろうが。やはり題名というのは人の興味を惹きつけつつ、読了後にその意図が明確になるのが一番だろう。版元はもう少し配慮をして欲しいものだ。

しかしあとがきによれば、本書は本国ドイツでベストセラーを記録したらしい。ドイツにはよほど面白いミステリ・エンタテインメント小説がないのだろう。
まだ見ぬ傑作が山ほどあるドイツ国民はなんとも羨ましい限りだ。


▼以下、ネタバレ感想

※ネタバレの感想はログイン後閲覧できます。[]ログインはこちら

Tetchy
WHOKS60S

スポンサードリンク

  



新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!