(短編集)

生と死の幻想



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    初公開日(参考)1995年11月
    分類

    短編集

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    生と死の幻想 (幻冬舎文庫)

    1998年03月31日 生と死の幻想 (幻冬舎文庫)

    平和で安全な世界でなければ生きる価値はない、と思う人間があまりに多すぎやしないか。どんな悪行がはびころうとも死が間近に迫ろうとも、世界は生きるに値する…。生の根源の闇と光を見据えた新世代作家の、現代日本への警告。(「BOOK」データベースより)




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    生と死の幻想の総合評価:7.40/10点レビュー 5件。Cランク


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    全1件 1~1 1/1ページ
    No.1:
    (7pt)

    書名と内容の不一致が気になる

    タイトルどおり、生と死をテーマにした作品を集めた短編集・・・といいたいところだが、読後感はちょっと違う。

    「紙おむつとレーサーレプリカ」と最後の「無明」は作者本人と思われる人物が主人公の私小説的作品。
    神経衰弱に侵された妻と暮らす私は娘の誕生を機に勤めを辞め、主夫がてらスポーツジムのインストラクターのバイトと家庭教師のバイトをしていた。家庭教師先の生徒がこの頃サボるようになった。一緒に成績を上げるべく頑張ってき、実際テストの結果も徐々に上がってきたのだが、期待した通信簿は前と変わらぬ1の連続だったことに消沈したらしい。今日も生徒に会えずに、途中で買った紙おむつを後部に結びつけたレーサーレプリカのバイクで帰る道すがら、一台のセリカが幅寄せをしてきて、転倒してしまう。バイクは大破し、あわや命を失うかというほどの事故だったが、紙おむつがクッションになりかすり傷程度で助かる。遠くに停まったセリカの後部座席に家庭教師の生徒の姿があった。
    「無明」はこの続きと云える作品だ。
    娘の通っていた保育園の父母同士で毎年キャンプを行っていた。今回は一日遅れで参加することになったが、その場所が元幹事の会社の同僚が建てたログ・キャビンであり、仙丈ヶ岳の奥まったところにあるというだけのファックスが頼りだった。そこの山の霊気に触れることに思いを馳せる私は過去何度か訪れたこの地で経験した大自然、特に山が与える云い様の無い力について思い出していた。確たる自信がないまま、見当をつけた未舗装の道を車で行くうちに、私たち家族はとんでもない光景に出くわす。
    ここで語られる勤めていた出版社を辞め、マグロ船に乗ったこと、主夫業に専念している事、ウェイトリフティングの大会に出るほどの体躯の持ち主など、ほとんど作家をする前の作者の姿と思える。家庭教師をやっていたのは本当だろうが、こういう事故があったのかどうかは定かではないが、どうにも本当のように思える。
    しかし、同じく登山を経験し、途中、修験僧と出会い、滝にうたれたことなどを書いた「無明」も作者の体験したことなのだろうが、最後に出てくる誰かが死体を山中に処理しようとしてるところに出くわすというショッキングな体験は、この物語のためのものだろう。その恐怖についての描写はリアルさを感じるが。
    しかし幕切れは強制的に連載終了されたマンガを思わせるほど、消化不良だ。

    次の「乱れる呼吸」は集中治療室を舞台にした小品。
    クモ膜下出血で病院へ搬送された妻は集中治療室にいた。その傍らで目が開くのを待つ私。そのとき人工呼吸器の調子がおかしいことに気付く。看護婦を呼んでみると首を傾げつつ、何度か機械を叩いたところ正常に直った。こんな機械に妻の命が委ねられているのかと驚愕しつつ、うとうとした私はまたもや人工呼吸器の調子がおかしいことに気付く。半ば怒りを伴いながら看護婦を呼びつけるとまたも同じ処置。機械を換えてくれと訴える私だったが、看護婦は涙を浮かべて、外に出るように促す。
    これは実際にありそうな話。以前肺ガンで亡くなった患者の意思が乗り移ったかのように、人工呼吸器の動きが乱れる。常に生か死か、命のやり取りが行われている病院ではこういう不思議なことは案外あるのだろう。

    「キー・ウェスト」は幻想小説。
    交通事故で妻と長男を亡くした美術教師渥美達郎は娘と二人、ロスアンジェルスからニューヨークを長距離バスで横断する旅に出ていた。途中、手違いでスーツケースが紛失したのを機に、レンタカーを借りて、フロリダのキー・ウェストに一泊することにした。島を繋ぐハイウェイを通っている際、ある島が目に入る。既視感を感じた渥美はふとあの島に泳いで渡ろうと思いつく。トランクス一丁で島に渡った渥美は足元に得体の知れないおぞましさを感じつつ、島を散策すると、そこにはかつて人が住んでいたと思われる集落跡と不似合いな廃客車があった。
    これは『楽園』で出てきた太平洋の島での話、それに加えて絡み合う二匹の海蛇をDNAの二重螺旋に喩える辺りは『らせん』で用いた表現で、こういう似たようなテーマ、モチーフが気にかかる。内容的には可もなく不可もなくといったところ。

    「闇のむこう」は何気ない日常を突如襲う理不尽な悪戯をテーマにしている。
    やっとの思いで手に入れたマンションに深沢良明と絵梨子夫婦は喜んでいた。しかしそんな生活も束の間、奇妙ないたずら電話が掛かってくることに。電話魔は絵梨子のことを知っているようで、その内容は酷い誹謗・中傷に満ちていた。妻に心当たりを問い質すが、皆目見当がつかない。しかしいたずら電話は毎日架かってき、絵梨子は精神的不安定から難聴を来たす。途方に暮れる夫婦だったが、ひょんなことから犯人の糸口が見つかる。
    個人的にこれがベスト。こういう悪意あるいたずら電話が起こす非日常体験というのが誰もが経験する可能性があるだけに怖い。そして誰とも知らない人物が電話番号という個人情報を手に入れる方法としてあまりに普通の事なので逆に恐怖を駆り立てる。特にいたずら電話は自らも経験があるだけにドキドキしながら読んだ。

    離婚したシングルマザー理英子が主人公の「抱擁」。
    理英子は5日前に取引先の東京のアパレルメーカーの営業担当の藤村から誘いを受けていた。5日前はホテルに連れ込まれる寸前まで来たが、難聴の1歳の娘が気になり、断った。その週の土曜日に9時に電話すると行って別れた。果たして藤村は約束どおり電話してきた。清水市に住む理英子のためにわざわざ東京から車を飛ばしてきたらしい。理英子は藤村を家に上げることを承諾する。5日前の再開とばかりに親密な雰囲気に包まれるが、その時娘が泣き出した。なかなか寝ない娘をあやす間、藤村は自分が娘を突然死で亡くしたことを語りだす。
    この結末の呆気なさはなんだろう。シングルマザーの情事を描くかと思えば、そうではなく、そこでは情事の相手が抱えるある闇が語られる。

    人が死ぬ事、生き延びること、その違いとは一体何なのか?それについて語った作品集といいたいところだが、「闇のむこう」と「無明」はそのテーマから外れているだろう。
    確かにこれらの作品でも死が扱われているが、それは副次的な物であり、主体ではない。いたずら電話の犯人のちっぽけな死。山奥に遺棄される誰とも知らない男の死体。そこに生死を分ける何かが語られているわけではない。

    しかしあとがきを読むと、なんと父性と母性をテーマにしているあるではないか。しかしそれもなんだか腑に落ちない。
    「キー・ウェスト」そして「無明」はその父性と母性については触れられていない。それらには危うく冥土に行きかけた男がこの世に引き寄せられたもの、山での霊的体験について語られており、それらは生死、魂などといった見えない力に関するものだからだ。結果、私の中ではなんとも統一性のない短編集だという感が残ってしまった。

    ところで『仄暗い水の底から』以降の作品に見られるテーマの重複が異様に気になる。南の孤島、洞窟、DNA、マグロ船などがそうだ。確かに同じテーマを扱うのはいいが、その再利用の仕方が、初めて使った作品をなぞるかの如く似通っているのが気になる。つまり同じ話を主人公と結末を変えて語っているだけのような気がする。そしてそれは逆に作者の懐の浅さを露呈している。もしかして昨今のこの作者の活躍を聞かないのはこういうところにあるのではないだろうか。

    4作目にして翳りが見えてき、5作目の本書でもそれが拭えない。もっと書ける作家だと思ったのだが。


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    Tetchy
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    No.4:
    (5pt)

    闇のむこう

    とても楽しく読みました。

    「闇のむこう」の最後では泣けてしまいました。あれ思い出しました。三島由紀夫さんの「荒野より」の最後のフレーズ。「自分もいつかはあの男だった(荒野にいた)」。主人公は、闇にほど近くにいる存在と、歴然と生の場所に立つはずの自分を重ねて涙します。

    鈴木さんの小説にはいつも、独特の感じがあります。自分がいる世界は、全体のたった半分(?)の世界なんだという認識があって、あと半分は真っ暗だという感覚が、読んでいるこちらにも伝わってきます。自分が愛するものが、ふと真っ暗闇に消えていきはしないかという恐怖、愛する人がそっちへ消えていけば自分もそっちへ側へ行ってしまうかもしれない、消えてしまいたいという衝動、常に危うい感覚が全体を支配しています。
    ちょっと間違えたらハードボイルドなアクションストーリ(ヒロイズム)になってしまわないかなと思う路線ですけど、闇を常に引き立たせるような書き方なので、読んでいてとても心地いいです。

    「紙おむつとレーサーレプリカ」もよかったな。「キーウェスト」も何だか気持ち悪くてよかった。
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    4877280782
    No.3:
    (3pt)

    父親というもの

    男というより父親というものの想いがテーマになっているような短編集です
    オカルト系が有名なこの作者ですが、本作は 妻や子供を守る父親の覚悟
    というものを強く感じられます。ストーカーに付きまとわれる妻、襲い来る
    ものたちに立ち向かう父親...昨今のニュースを見ると本当にこういう存在は
    珍しくなってきていると思いますが何となく心に残るものを感じました。
    生と死の幻想Amazon書評・レビュー:生と死の幻想より
    4877280782
    No.2:
    (4pt)

    子育てを父の立場で

    鈴木光司氏、といえば「リング」「らせん」といったホラーの名手という印象ですが、短編には文学的にも粒のそろったものがありますね。
    本書は作者が「父」の立場で社会との折り合いを付けていく話が主流になっています。
    この手の作品は他に例を見ないような気がします。
    守るべきものがあるなかで、男性的な「怒り」をどう納めていくのか、女性の子持ちの身としては非常に興味深く読みました。
    ホラーは読んだことがないけれど、鈴木氏,いいおとうさんなんだぁ〜、とちょっと嬉しくなりました。
    生と死の幻想Amazon書評・レビュー:生と死の幻想より
    4877280782
    No.1:
    (3pt)

    普通?

    最初は、宗教じみた本だと思っていました。が、ごくごく普通の短編集だと気が付いたときは、ほっとしました。内容は、1・4・6話目が、「男の怒り」みたいな感じの話で、他が不思議な話?でした。感想を率直に述べますと、1話目の「紙おむつとレーサーレプリカ」まででしたね。リングシリーズを期待して読んだのですが、意外にリアルな感じだったので、面白かったです。ただ後半にだらけた感じがあって、話の感じや、設定がかぶってる所(わざとかもしれないですが)もあり、正直疲れました。本の裏側に書いてある説明に、「新世代ベストセラー作家が放つ問題作」とありますが、そこまでの印象は受けませんでした。まあ普通ですね。
    生と死の幻想Amazon書評・レビュー:生と死の幻想より
    4877280782



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