塩の湿地に消えゆく前に
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原題はPLEASE SEE US。原著は2020年3月の刊行で、2021年のエドガー賞(MVA賞)最優秀新人賞受賞作。原題通りだと「お願い! 私たちを見て!」となるが、このように叫んでいるのは、男に絞め殺されて、アトランティックシティ郊外の湿地に、殺された時のままの装い(客を引き付け、欲情を演出し、装いを剥ぎ取られるための装い)で横たえられているジェーンドウ(身元不明女性)たちなのだから、訳題はPLEASE SEE USの訳としては、良い訳と思う。 著者はコルゲート大学で創作の文学史号、ニューヨーク州立大学でストーニーブルック校で創作の芸術学修士号を取得し、本書がデビュー作であるという。たしかに文章はところどころ格調が高い。 私は、本書の巧みなサスペンス設定と死者・被害者視点を織り込んだユニークな構成に引きずり込まれて、全406頁中の346頁までは一気に読んでしまった。 しかし、347頁の六人目のジェーンドウまでくると、これはまともなミステリーとしては終わらないのではないかという不吉な予感がしてきた。 予感は的中し、まともなミステリーとしては、終わらなかった。こういう結末までは予想していなかった。やや呆然とした。 読み落とししたのではないと気になって、最初からもう一度ゆっくり読んでみた。面白い。ミステリーの定型を完全に外しているが、良くできたミステリーと思った。本書が好きになった。 どこが定型を外しているかというと、ミステリーで最重要とされる✕✕が軽視されていることである。そのために次に重要な✕✕の□□もよくわからない。 重視されているのは、被害者の死に至るまでの人生である。一人目と二人目のジェーンドウは物語の開始の時点で死んでいるので、死者の声として描かれ、三人目から六人目までのジェーンドウは登場人物として、過去と現在と死(殺害)が描かれる。 六人のジェーンドウの共通点はカジノに遊びにくる客を誘って、個人営業で金をもらって寝ていることである。専業売春婦に近いものもいれば、金に困ったとき、気が向いたときだけという女性もいる。それぞれが悲しい家族絡みの悲しい過去を抱えている。 こうした六人の被害者の人生と死が本書の大きなテーマであろう。 もう一つ、探偵側の人生も本書の重要なテーマだろう。 探偵役は、スパに勤めるリリーと、スパに勝手に侵入して、手相見の客探しや窃盗をしている少女クララ。クララがジェーンドウの父やジェーンドウ本人から占いを頼まれ、彼女たちの恐ろしい未来を見てしまったことから、リリーに相談し、二人はこの連続殺人事件に巻き込まれていく。 そして、クララはおばの指示で、カジノの客相手のデートアルバイトを始める。最初は食事ドライブキスぐらいで済んでいたが、サド客の苦痛に耐えることを経て、ついに、客に抱かれて多額の報酬をもらうに至る。この過程がクララの成長小説、教養小説のように描かれる。 そして、主人公リリーの人生は・・・この先はネタバレになるので、この辺でおわりたい。 | ||||
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「塩の湿地に消えゆく前に "Please See Us"」(ケイトリン・マレン ハヤカワ・ミステリ)を読み終えました。思いのほか、読むのに時間がかかりました。 舞台は、アトランティック・シティ。湿地に並べられた二人の女性死体。主人公は、まずは二人。一人目は、ボードウォーク沿いの占い店で働くクララ。彼女は、或る種のヴィジョンが見えるサイキックとして描かれています。もう一人は、カジノホテルのスパで働くことになったニューヨーク出身のリリー。 そして、尽きるところは「オピオイドの蔓延、カジノの閉鎖、犯罪組織による暴力、海岸に壊滅的な被害を与えたハリケーン・サンディ」 (p.326)と描写されるアトランティック・シティが実はこの物語の本当の主人公なのかもしれません。 湿地に並べられた女性死体が増えていき、女性たちの視点が或る間隔を置いて変わっていく中、微妙な時のズレがサスペンスを盛り立てていると言えなくもないですが、ミステリという以前に、男たちに虐げられて生きる女性たちの"Please See Us"の物語と言っていいのでしょう。 男たちは重苦しい読書を強いられることは間違いありません。何故そう感じるかと言えば、どれほど世界が変わり、時が変遷していこうと根っこは変わらないとつい考えてしまう私がいるからかもしれません。アルコール、セックス、暴力、ドラッグ、ギャンブル。「・・・それ ─ ─ つまり 死 ─ ─ から身を隠そうと、薄暗い洞窟でレバーを引いてみずからの蓄えを無駄にしている」(p.101)ギャンブラーたち=男たち。一時の快楽を人生の目標にした不埒な男たちの姿に自己を反映させながら、密かにうなだれるような物語にも思えたりもしました。私だけかもしれませんが。 | ||||
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