風花島殺人事件
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ミステリ珍本全集には様々な理由の珍本が集められているが、本書の珍本たる所以はミステリ畑でない著者が珍しく書いたミステリを集めたもの。多作家だったらしいが、ミステリは長篇四作しか発表しておらず、その内三本を収録したもので、表題作が一番完成度が高い。 | ||||
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下村明の長編ミステリーを3本、短編ミステリーを1本収録した本である。編者解題、巻末資料、月報に詳しい解説がなされているので、そこに書かれていないことについて、感想を書いてみたい。(勘違い、的外れ、失礼あれば、ご容赦) 1.「風花島殺人事件」について ●文章がうまい。凝っている。センスが良い。 たとえば、導入部をみてみよう。 細い雨が降っていた。 女は、海に沿った電車通りを、俯向きがちに、桟橋の方から歩いてきた。汐の匂いを含んだ風が、時折、灰色に濁った暗い海から吹いて来る。さすがに今日は観光客の姿もまばらで、引上げられた貸ボートが、砂場の前の突堤に赤い腹を見せている。やがて女は、フロント・ドアに銀文字の社名を記した小さな事務所の前に足をとめた。パラソルを畳むと、やや蒼みを帯びた顔が覗いた。 これは、まるで、傑作ハードボイルドの導入部のようである。 ●描写が的確である。 依頼人の糸代は、「二十六七ぐらいであろう。とりたてて美人というのではないが、男好きのするタイプである。ほっそりとした体の割に胸が豊かで、光沢を帯びた蒼い肌と、肉の厚い小さな唇に魅力がある。」と描写されている。他の登場人物達に描写も的確で、切れがよく、イメージが浮かびやすい。風景、天候、行動の描写も巧みである。 ●比喩が魅力的 上記と共通することだが、本書には、魅力的な比喩、形容が多い。 「そこから何かを透視しようとするのは、すべすべとした両手にあまる球状の物体を抱え上げようとする努力ににていた」「その眼は・・・敵の反則に閉口しながら少し腹を立てかけているリングのレスラーを連想させる」「無数のうねりを起伏させている生物のような海」、「貴重な青春を投資して、その報酬に飢餓の不安を受け取る」「慌ただしい光の皴が目に浮かんだ」「激浪が屏風のように身を起こし」「発動船は頬の肉が踊り出すほど震動し」「陽にすかして見るネガのように、黒く脳裏に思い浮かべた」等々 これらの点は、著者が柔道小説やアクション小説(私は一冊も未読)で小説を書きなれていたからというよりも、作者が本書に注いだ情熱の発現と思う。 ●本格ミステリーとしてのこだわり。 本書で作者が(その分身である葉山が)こだわっているのは、犯行の説明のつかない部分を、偶然にせいにしてはいけないということであり、偶然を可能な限り排除して、事件を解明して(成立させて)いることである。作者の前作で、ミステリー第一作の「殺戮者」には、偶然がからむ部分がかなり存在するのだが、本書では、本格ミステリーを書くという意気込みで、「偶然の排除」にこだわっている。それが本格ミステリーの傑作となった要因の一つと思う。 2.「木乃伊の仮面」について ●傑作である。読みやすい。面白い。 ●先の展開の予測しにくい作品だが、終わってみると、ウールリッチ風の哀愁サスペンスであった(異論あれば、ご容赦)。哀愁サスペンスには現在と過去があり、本書では現在はもちろん魅力的だが、過去の出来事もたいへん独創的、魅力的であると思う。 ●短歌が7本自作されており、架空の遺伝病の詳細な解説もあって、作者の情熱の注入の濃さが伺われる。 ●性的シーンも楽しい。頻出するある小道具について、それが使われる意味が二転するのが鮮やかであった。 3.「殺戮者」について ●軍隊(中国)編、大分編、別府編からなる。バイオレンス風味のあるミステリーで、個性的で、魅力的な女性が、次々とあっけなく殺されていくのがちょっと辛いが、暴発気味の作者の情念は、それなりに面白い。各編ごとに、事件の謎解きもある。 4.残った謎について ●「風花島殺人事件」を読んでいて、64頁の下段でドキッとして、これはすごいと思ったのだが、最後まで読むと、勘違いであったようだ・・・そうだろうか? 「二人は十分に、晩春の良夜と、そこから立ち昇る自由な青春を楽しんだ」 | ||||
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古書狂にしか知られておらず探偵小説関連の辞典を見ても経歴不明、謎の作家。 執筆活動期は昭和30年代と思しく、著書の傾向を見ると柔道小説→活劇アクション物→本格系探偵小説という道筋を通ってきている。 本書を見ても大正11年東京生まれ、収録3長篇「風花島殺人事件」「木乃伊の仮面」「殺戮者」のうち、前者2作の初出誌が『読切倶楽部』だったとしか判明していない。 この3作、大なり小なり大分県の描写があるので下村のルーツがそこにあるようにも思える。要するに戦後貸本時代のオールラウンド作家だったのかもしれないが、 丸投げをせず自分で丁寧な調査をする編者だったら、下村の背景がもう少し判明したかも・・・。 山前譲氏がかつて、埋もれた佳作本格長篇として紹介した事で好事家に認知された「風花島…」、 小粒な「獄門島」という評があるそうだが、舞台の一方が離島であるだけで「その表現は違うだろう」と読後に感じた。 事件の幕を切って落とす海上に漂う伝馬船屍体に纏わる幾つかの謎、そして過疎の風花島を襲う颱風の猛威などいい味を出している。 メジャーな探偵作家にだって、登場人物が地味めだったり謎の提示・伏線・回収が渾然一体になりきれていない作品はいくらでもある。 下村が探偵小説専門でないとしたら仕方のない事だし、むしろ大健闘しているとも言える。「木乃伊…」「殺戮者」も人間ドラマ的な起伏が書けているので退屈はしない。 私は例えば飛鳥高などよりも正直楽しめた。江戸川乱歩的な健忘症の恐怖を扱う短篇「消された記憶」も追加収録。 短篇のリーダビリティも悪くない。他に埋もれた短篇はないのだろうか? 月報のエッセイで山前譲氏が「風花島…」を「過大評価し過ぎたのでは」と失礼ながら読み手が笑ってしまう位に懺悔しておられるが、 下村に光を当ててくれた事に我々が感謝こそすれ、山前氏がそこまで恐縮する必要は何もない。 こういう場合に古書価が高騰する諸悪の根源は、買っても読みもしない古本ゴロどもと悪徳古書店だと相場は決まっているのだから。 | ||||
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