(短編集)
解体死書
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1987年8月講談社から新書サイズで「相死相愛」のタイトルで12編の短編集が出版されました。本書は、それが、文庫化されるのに伴い「相死相愛」「解体死書」の2冊に分冊されたものの一冊です。二冊とも1983年に講談社文庫から出版されました。各書6話を収録しています。購入の際には注意が必要。この文庫版は角川文庫が2015年2月にkindle化しました。 「砂塵」 N県七里ケ原の県道で、近くの七十二才の農夫、北村平七が畑からの帰途、何者かの車によって轢き逃げされた。かなり強く衝撃を受けたため即死の状態だった。死体は、解剖に付され、死因は、検視の通りであったが被害者の衣服に植物の花粉が付着していた。植物生理学の教授に鑑定を依頼すると、ニッコウキスゲ、コバイケイソウ、キンポウゲ、キンバイソウなどの高山植物の花粉である事が判明した。この事故の少し前に、高山植物を盗掘したとして栗村初男と三田公子のアベックが逮捕されていた。高山植物を片っ端から盗んでいるのを発見した人物が、山岳公園管理人に届けて発覚したのであった。北村の衣服に付いていた花粉は、七里ケ原の山岳国定公園に場所を変えて広く分布しているものであった。北村の畑では、それらの花粉すべてを付着するのは不可能だった。そこで、このアベックが何かしら関連していることが疑われる。 「モルジアナの犬」 中屋民男は英会話学校の教師である。商社で海外駐在していた語学を認められて拾われた。この仕事に運動不足はつきものである。それを解消するためにマラソンを始めた。帰りが遅くなるのでマラソンは深夜になった。住宅街の一角を走り抜け、円形の児童公園まで来た時に、闇の奥から激しく犬に吠えられた。次の瞬間、黒い塊が踊り掛かってきた。それは、子牛ほどもある大きな犬だった。牙を閃かして飛び掛かってくる。このままでは、噛み殺されてしまうかもしれない。窮地に追い込まれた時、一本の角材が指先に触れた。武器を得た中屋は、果然反撃にでて、犬を角材で殴り始めた。その時、背後から飼い主と思われる女性が現れた。だが、反撃を止めれば、こちらが負けてしまう。そこへ幸にも、パトロールの警官が来てくれた。中屋は、これで助かったと思った。ところが、事情を聴かれた警官に、女性は、中屋がいやらしい事をしたので、犬が吠えたら、いきなり角材で殴り始めたと警官に言うのだ。運動不足解消のために始めたマラソンだったが、とんでもない冤罪に巻き込まれてしまう。 「死海の廃船」(新潮文庫版・青樹社版に収録) プロボクシング・バンタム級の、世界チャンピオンを賭けた試合で、挑戦者の矢代敬は、有利な試合を行っていた。八代は、前年にも世界チャンピオンに挑戦したが、その時は、蛇に睨まれた蛙の様になってしまい、なすすべも無く試合開始早々にノックアウト負けしていた。だから、ファンもこの試合には、期待していなかった。昨年の余りにも無様な負け試合が、記憶に残っていたからだ。今回の相手も、すべてノックアウト勝ちで、五回連続防衛に成功しているチャンピオンだったので、ファンも昨年同様、あっけなく八代が倒されると思っていた。ところが、この試合で、八代は、フットワークも軽く、繰り出すパンチが悉くチャンピオンの顔面を捉えた。第1ラウンドから優位に試合を運び、最終ラウンドになってチャンピオンは、戦意を失い、力学的なバランスによって立っているだけだった。あとは、八代が止めの一発を加えれば、チャンピオンは、マットに沈むはずだった。ファンも、その一撃を見逃すまいと驚喜に満ちた視線をリング上に送っていた。そして、その時がきた。八代のラストパンチ。ところが、何があったのか、八代の動きが一瞬停止した。それを狙っていた訳ではない。立っているだけのチャンピオンが突き出したパンチが八代の顔面を捉えた。その瞬間、八代がマットに沈んでしまった。世紀の大逆転試合として全国から世界にまで、この試合の様子が報道された。何故か?八代は、その時、客席の中に、二か月前、自分が殺して死体を山中に埋めたはずの女が、居ることに気が付いたからだった。 「解体死書」 大倉愛一郎には奇妙な趣味がある。それは、廃品を集めては、再生することである。別に金に困ってやっている訳ではない。近頃は、新品同様の品物が粗大ゴミとして捨てられている。数年前に地元のクリーン作戦に参加したのが切っ掛けだった。今では、ゴミが喜んでいると、周囲の人に自慢話をしていた。大倉は、最近になって、変なゴミの捨て方をする人物がいるのに気が付いた。それは、一つの化粧台や本棚、コタツなどの家具が細かく断裁されゴミの集積所に出されることである。不自然なのは、それが一か所に出されるのではなく、周囲の集積所に分散されて出されることだった。そのままの形でも粗大ゴミとして回収してもらえる。大倉は、どんな人物が、何の目的でそんな面倒臭いゴミの捨て方をするのだろうかと不審に思い始めた。そして、大倉は、そのゴミの主をどうしても調べなければならないと思った。そして、調べた結果、まだ発覚していない一件の殺人事件があった事を発見してしまった。人間を殺害してバラバラにする事件はある。所有物をバラバラにして処分し、人間が住んでいた痕跡を償却していたのである。 「歯刑」 朝田美根子は、夜間学校の帰りに、その老人と犬にいつも同じ時刻に出会った。犬の名は、ゴンだった。始めは敬遠していたが、ゴンが美根子を覚えていて、尾を振りながら寄って来るので、挨拶を交わすようになった。老人も落ち着いた優しい声調だったので警戒を解いた。口をききあうようになってから、女一人の夜歩きは危険だと言って、散歩の通り道なので、ついでに送ってもらうことになった。しかし、その日は、ゴンしかいなく老人の姿は無かった。ゴンを放っておけないので、警察に通報し事情を話すと、ゴンの鑑札番号から老人の住居が分かった。住居へ行ってみると、そこに、老人はいなかった。ゴンを残して老人は、行方不明になってしまったのだ。それからは美根子が、ゴンの飼い主の代わりとなった。その日もいつものように夜間学校を終えてアパートへ向かっていた時、後ろに何かの気配がする。危険を感じた時は遅かった。大きな男の体が美根子を押し倒し蹂躙し始めた。その時、痴漢の背後から黒い影が襲い掛かった。痴漢は悲鳴をあげ、黒い影と一体になって地上を転げまわった。その黒い物体はゴンだった。ようやくゴンの鋭い歯を振りほどいた痴漢は、這う這うの体で逃げ出したゴ。ゴンは美根子を救ったばかりでなく、老人を殺した犯人も捕まえてしまった。ゴンは老人の仇も討ったのだった。 「死原香」 川崎市多摩区生田地区で連続空き巣事件が発生していた、狙われたのは、隣人の関心が薄い新興住宅街であった。家人の留守を狙って侵入する手口に、まだ、人身殺傷事件こそ起きていないが、住民たちの不安は増していた。その日の警戒にあたっていたパトロールカーが一人の不審な人物を発見した。パトロールカーを見て逃げ出したのだ。すぐに追跡して追いつき警官がタックルして身柄を取り押さえた。多摩署に連行して男の身元を捜検したところ、財布が二個でてきた。一個は人工皮革の小銭入れで、もう一個は、西陣織の女物の財布だった。鼻を近付けるとお香の様な良い匂いがした、男の持ち物としては不自然だった。どうみても男は怪しいのだが、男は黙秘したまま、さめざめと泣くばかりで、いくら説得しても身許を名乗らなかった。男を留置してから空き巣の被害はでていない。男の容疑は濃くなる一方だった。取り調べに業を煮やした警察は、財布から持ち主を捜して犯罪の確証を得ようと考えた。ここで頼りになるのが警察犬である。科学的な捜査手法が幅をきかせる今日、甚だ非科学的な捜査であるが、犬の嗅覚は、人間の五千倍から一万倍と言われている。出動してきた犬は、シェパード種、牡六才ウシワカマル号である。財布は、香の匂いがする。その匂いをウシワカマルに嗅がせて、男を確保した地点から放し、追跡が始まった。捜査員もウシワカマルの後を追った。古い道や新しい道が入り乱れており地図も頼りにならない。その時、ウシワカマルは、いきなり道を逸れて山村の中へ駆け込み激しく吠えた。灌木の繁みの中に首を突っ込んで啼いている。捜査員がウシワカマルの先を見ると、仰向けに倒れている人間の死体があったのだ。ウシワカマルが連続空き巣事件と殺人事件、その二つを解決してしまうのだ。 | ||||
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