星のふる里
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本書は1977年2月に講談社から出版されました。 「星のふる里」 1974年3月に中央公論社から出版されました。本書は女性雑誌「婦人公論」から女性向きのサスペンスロマン小説の依頼があり連載されたものです。これまで社会派的な作風の硬質作家の森村誠一氏としては初めての女性向け小説と言えます。勿論、男性が読んでも十分に楽しめます。 「星のふる里」という美しいタイトルですが、それには、とても悲しい意味が込められているのがラストで分かります。今までの作風とは全く違った、女性の悲しい結末を描いています。担当編集者の田中秀直氏の存在も大きかったと想像出来ます。 田中氏は女性雑誌編集者とは思えぬ“むくつけき男”であり、締め切り前になるとウイスキーを飲みながら原稿が出来るのを待ち、それでもダメだしをして森村氏に書き直しをさせたそうです。 高原耀子は夫の浩一、一人息子の賢一とともに安心した生活を送っていました。浩一は名の通った商事会社に勤務し、団地の3DKに住み収入も安定している、いわゆる“平均的幸福家庭”でありました。(“平均的・・・”とはなんと上手い言葉を作ったものだろう。しかし今日では共稼ぎが多く、なんとも穏やかな時代だったことを感じてしまう) それでいて耀子は漠然とした疑惑を浩一に抱くようになった時、突然、夫、浩一が連絡もせずに帰宅しなかったのです。社用で外泊することはあっても必ず連絡はあり、今まで耀子は心配することは無かったのです。 会社の上司、安藤に連絡すると全く心当たりが無いと言われ失踪したことが確実になりました。親身になって心配してくれた上司安藤が本作で重要人物になります。さりげなく登場させる処などは、森村氏のテクニックです。 耀子は警察に頼んでもあてに出来ない事を知っているので独自に浩一が家を出てから帰るまでの、耀子が知らなかった浩一の行動を探ることにします。そこで、ある程度は覚悟してはいたけれど耀子よりも若い理枝という女の存在が明らかになるのです。 理枝も浩一から突然、訳もなく離れられ浩一の自宅へ電話をする訳にもいかず寂しく思っていたところでした。本来、妻と夫の浮気相手という敵同士の二人でしたが、お互いの寂しさを慰めあう様になり、二人協力して浩一の行方を追うことになります。とても悲しいけれど愛する男を失った(かもしれない)女同士に芽生えた友情の様なものが出来たのです。 ここまでで男目線からの話は無く女性二人の追跡行で女性読者をターゲットにした物語で有る事が十分伺えます。しかし森村氏は、ここでインチキマンション投資商法に騙され老後資金を全て失って自殺した老夫婦の息子、三枝がある男の行方を追っていたという話を横軸に絡める。そこで女性二人と三枝と三人での奇妙な追跡行となり、話はただの人探しでは無く、さらに奥深いものにしています。 ラストは二人の女性、耀子と理枝は全く別の結末を迎える事になってしまう。浩一の行方はどうなったのか?そして耀子と理枝。二人の女性たちはどうなったのか?あまりにも対照的で悲しすぎます。ネタバレにならない範囲で・・ 賢一「パパどこにいるの?」 耀子「遠いお空の方よ。お星さまになって・・」 賢一「ぼく行きたい!」 耀子「これから、すぐパパの処に行きましょうねぇ」 私たちも後から追いかけて行ったらどんなに喜ぶだろう。今から行けば朝までには着けるだろう。耀子は旅の支度に取り掛かった。帰る必要のない旅であるから支度は簡単であった。 ラスト八行に込められた森村氏の筆力に目が潤んでしまいました。 これまで森村誠一氏は、本格推理は勿論のこと現代の各業界の裏面に通暁し、そこで蠢く男同士の軋轢と葛藤を描き、徒手空拳で敢然と立ち向かう主人公たちが社会悪を糾弾する社会派的な傾向を持つ硬質な作品が多かった。本作品は、初めて試みた女性誌連載のミステリーロマンで森村氏の見事な変貌ぶりを示していると同時に多彩なジャンルを描けることを証明した秀作だと思います。 しかし、まだまだ森村氏の創作意欲は湧き上がり多数の傑作を書かれたことは周知のことと思います。競馬場の帰りに小説と酒と馬が好きだった田中秀直氏は亡くなった。どこまで森村氏の活躍を見ることが出来たのだろう。 「偽造の太陽」 1975年1月、実業之日本社から初出版されました。森村誠一氏は、1969年に「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞すると、次々と、今までにない推理小説の分野を開拓して広く多くの読者を集め国民的ベストセラー作家となりました。 それというのも、推理小説の名のもとに人間ドラマ(人間の欲望のドラマ)を描き、社会の真実や欺瞞を追及することによって、これまでにない推理小説の枠を超えた社会派的な記述が多くの読者に認められたからでした。 これまでタイトルの作名において「高層の死角」や「腐食の構造」にみられるように「熟語の熟語」という形式を多用してきました。どの作品も、その二字の熟語には、読み終わってみると、深淵な意味があることを知らされ、読後の満足度を増幅させるものでした。 読みながらタイトル熟語の意味を推理するという楽しみもありました。本作のタイトル“偽造”と“太陽”にも森村氏の意味が込められています。しかし、これまで森村作品を読み続けてくると、なんとなく今回の熟語の意味が推理できます。また、それが想像していたもので、読みながら嬉しくなってしまいました。 本作の後には「誘鬼楼」「蟲の楼閣」「花の骸」といった意味不明(笑)ともいえるタイトルを連作して悩ませます。これまで、タイトルに隠された意味の解答を知るべく苦労してきましたから、本作品のタイトルは森村氏から出されたサービス問題であると言えます。 北沢勝平は、明和大学経済学部に入学したものの、山登りの道楽で2年留年し広告代理店「現代企画エージェンシー」に入社しますが、上司と意見が合わず、これも2年で辞職します。仕事もせずにパチンコに耽る北沢のところへ赤沢という男が近づき金儲けの話をします。 人生のレールから脱線して、陽の当たらない世の中の底辺を歩き続けなければならないだろうと諦めていた北沢にとっては、大きなチャンスでもありました。たとえ罪に服しても今の生活とはなんら変わらないだろうとさえも思っていたのです。 長野県皇海市の市長、安養寺公康は、安養寺家十三代の当主で皇海市は江戸時代、安養寺氏の城下町として栄え、この地方の政治と交通の中心地でした。皇海市の住民は、安養寺公康を「殿様」とか「御領主様」と呼ぶほど安養寺の威勢が市域に行き渡っていました。 安養寺公康は冬の間、人間不信のため皇海岳の地獄谷にある山荘に、自分の財産の大部分を持ち込み優雅な越冬生活をエンジョイするのが慣習になっていました。そこを赤沢は、登山に長けた北沢と、ヘリコプターの操縦ができる石山と三人で襲撃し財産を奪うという計画を立てたのでした。 十分な準備をして犯行に向かいます。ヘリの技術を持つ石山と雪山登山の経験者北沢と赤松は簡単に安養寺公康の山荘を襲い、そこに隠されていた金品を強奪します。しかし、ここで計画にはない事態が起こります。北沢と石山の隙を狙って赤松が公康を銃で殺害してしまったのです。 それでも大金を得た3人は、町へ帰ると、それぞれ分かれ離れになり、その後の交流は一切もちませんでした。北沢は奪った1億円にもちかいお金を基にして、私鉄沿線の駅前に会員制の喫茶店を開くと、山の手の優雅な人種に好評で思いもよらぬほど繁盛します。 更に、幸いしたのは、四国から裸一貫で上京し都内一円に50数余の貸しビルを経営する大浜英策の知遇を得たことにより、事業を拡大し社会的な表舞台の高い処まで登りつめていくのです。大浜グループの中枢に入り込み、大浜グループの新社長の座を虎視眈々と狙うようになります。 そして、遂に大浜グループの頂点、それは経済界の頂点も意味するという華々しい舞台の登ろうとした時、まさに、あと一歩というところで北沢の運も尽き果ててしまうのです。最後のクライマックスで、高きところから、人生の底辺に一気に落ちてゆく記述は圧巻でした。 人生のレールから脱線し、社会の底辺をうろついていた北沢が、大金を得たことによって成功者に成り上がってゆくサクセスストーリーの様なのですが、北沢に地位が一段一段上がってゆくのに対して過去に犯した罪への屈託は大きくなってゆくのです。 北沢が社会で成功してゆく過程と、実行犯ではないにしても強盗殺人という重罪を犯した自責の念に苦しみ怯える心理描写がとても巧妙に書かれています。初めは北沢から遠いところで起こった出来事が、北沢の出世とともに、その円が徐々に小さくなり、最後に北沢に辿り着くという構成は見事でした。最初の1頁を書き始めた時に、森村氏はこのラストシーンを考えていただろうことが覗え、ラストまで用意周到に準備され書かれた秀逸な作品でした。 | ||||
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1974年3月に中央公論社から出版されました。本書は女性雑誌「婦人公論」から女性向きのサスペンスロマン小説の依頼があり連載されたものです。これまで社会派的な作風の硬質作家の森村誠一氏としては初めての女性向け小説と言えます。勿論、男性が読んでも十分に楽しめます。 「星のふる里」という美しいタイトルですが、それには、とても悲しい意味が込められているのがラストで分かります。今までの作風とは全く違った、女性の悲しい結末を描いています。担当編集者の田中秀直氏の存在も大きかったと想像出来ます。 田中氏は女性雑誌編集者とは思えぬ“むくつけき男”であり、締め切り前になるとウイスキーを飲みながら原稿が出来るのを待ち、それでもダメだしをして森村氏に書き直しをさせたそうです。 高原耀子は夫の浩一、一人息子の賢一とともに安心した生活を送っていました。浩一は名の通った商事会社に勤務し、団地の3DKに住み収入も安定している、いわゆる“平均的幸福家庭”でありました。(“平均的・・・”とはなんと上手い言葉を作ったものだろう。しかし今日では共稼ぎが多く、なんとも穏やかな時代だったことを感じてしまう) それでいて耀子は漠然とした疑惑を浩一に抱くようになった時、突然、夫、浩一が連絡もせずに帰宅しなかったのです。社用で外泊することはあっても必ず連絡はあり、今まで耀子は心配することは無かったのです。 会社の上司、安藤に連絡すると全く心当たりが無いと言われ失踪したことが確実になりました。親身になって心配してくれた上司安藤が本作で重要人物になります。さりげなく登場させる処などは、森村氏のテクニックです。 耀子は警察に頼んでもあてに出来ない事を知っているので独自に浩一が家を出てから帰るまでの、耀子が知らなかった浩一の行動を探ることにします。そこで、ある程度は覚悟してはいたけれど耀子よりも若い理枝という女の存在が明らかになるのです。 理枝も浩一から突然、訳もなく離れられ浩一の自宅へ電話をする訳にもいかず寂しく思っていたところでした。本来、妻と夫の浮気相手という敵同士の二人でしたが、お互いの寂しさを慰めあう様になり、二人協力して浩一の行方を追うことになります。とても悲しいけれど愛する男を失った(かもしれない)女同士に芽生えた友情の様なものが出来たのです。 ここまでで男目線からの話は無く女性二人の追跡行で女性読者をターゲットにした物語で有る事が十分伺えます。しかし森村氏は、ここでインチキマンション投資商法に騙され老後資金を全て失って自殺した老夫婦の息子、三枝がある男の行方を追っていたという話を横軸に絡める。そこで女性二人と三枝と三人での奇妙な追跡行となり、話はただの人探しでは無く、さらに奥深いものにしています。 ラストは二人の女性、耀子と理枝は全く別の結末を迎える事になってしまう。浩一の行方はどうなったのか?そして耀子と理枝。二人の女性たちはどうなったのか?あまりにも対照的で悲しすぎます。ネタバレにならない範囲で・・ 賢一「パパどこにいるの?」 耀子「遠いお空の方よ。お星さまになって・・」 賢一「ぼく行きたい!」 耀子「これから、すぐパパの処に行きましょうねぇ」 私たちも後から追いかけて行ったらどんなに喜ぶだろう。今から行けば朝までには着けるだろう。耀子は旅の支度に取り掛かった。帰る必要のない旅であるから支度は簡単であった。 ラスト八行に込められた森村氏の筆力に目が潤んでしまいました。 これまで森村誠一氏は、本格推理は勿論のこと現代の各業界の裏面に通暁し、そこで蠢く男同士の軋轢と葛藤を描き、徒手空拳で敢然と立ち向かう主人公たちが社会悪を糾弾する社会派的な傾向を持つ硬質な作品が多かった。本作品は、初めて試みた女性誌連載のミステリーロマンで森村氏の見事な変貌ぶりを示していると同時に多彩なジャンルを描けることを証明した秀作だと思います。 しかし、まだまだ森村氏の創作意欲は湧き上がり多数の傑作を書かれたことは周知のことと思います。競馬場の帰りに小説と酒と馬が好きだった田中秀直氏は亡くなった。どこまで森村氏の活躍を見ることが出来たのだろう。 | ||||
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1974年3月に中央公論社から出版されました。本書は女性雑誌「婦人公論」から女性向きのサスペンスロマン小説の依頼があり連載されたものです。これまで社会派的な作風の硬質作家の森村誠一氏としては初めての女性向け小説と言えます。勿論、男性が読んでも十分に楽しめます。 「星のふる里」という美しいタイトルですが、それには、とても悲しい意味が込められているのがラストで分かります。今までの作風とは全く違った、女性の悲しい結末を描いています。担当編集者の田中秀直氏の存在も大きかったと想像出来ます。 田中氏は女性雑誌編集者とは思えぬ“むくつけき男”であり、締め切り前になるとウイスキーを飲みながら原稿が出来るのを待ち、それでもダメだしをして森村氏に書き直しをさせたそうです。 高原耀子は夫の浩一、一人息子の賢一とともに安心した生活を送っていました。浩一は名の通った商事会社に勤務し、団地の3DKに住み収入も安定している、いわゆる“平均的幸福家庭”でありました。(“平均的・・・”とはなんと上手い言葉を作ったものだろう。しかし今日では共稼ぎが多く、なんとも穏やかな時代だったことを感じてしまう) それでいて耀子は漠然とした疑惑を浩一に抱くようになった時、突然、夫、浩一が連絡もせずに帰宅しなかったのです。社用で外泊することはあっても必ず連絡はあり、今まで耀子は心配することは無かったのです。 会社の上司、安藤に連絡すると全く心当たりが無いと言われ失踪したことが確実になりました。親身になって心配してくれた上司安藤が本作で重要人物になります。さりげなく登場させる処などは、森村氏のテクニックです。 耀子は警察に頼んでもあてに出来ない事を知っているので独自に浩一が家を出てから帰るまでの、耀子が知らなかった浩一の行動を探ることにします。そこで、ある程度は覚悟してはいたけれど耀子よりも若い理枝という女の存在が明らかになるのです。 理枝も浩一から突然、訳もなく離れられ浩一の自宅へ電話をする訳にもいかず寂しく思っていたところでした。本来、妻と夫の浮気相手という敵同士の二人でしたが、お互いの寂しさを慰めあう様になり、二人協力して浩一の行方を追うことになります。とても悲しいけれど愛する男を失った(かもしれない)女同士に芽生えた友情の様なものが出来たのです。 ここまでで男目線からの話は無く女性二人の追跡行で女性読者をターゲットにした物語で有る事が十分伺えます。しかし森村氏は、ここでインチキマンション投資商法に騙され老後資金を全て失って自殺した老夫婦の息子、三枝がある男の行方を追っていたという話を横軸に絡める。そこで女性二人と三枝と三人での奇妙な追跡行となり、話はただの人探しでは無く、さらに奥深いものにしています。 ラストは二人の女性、耀子と理枝は全く別の結末を迎える事になってしまう。浩一の行方はどうなったのか?そして耀子と理枝。二人の女性たちはどうなったのか?あまりにも対照的で悲しすぎます。ネタバレにならない範囲で・・ 賢一「パパどこにいるの?」 耀子「遠いお空の方よ。お星さまになって・・」 賢一「ぼく行きたい!」 耀子「これから、すぐパパの処に行きましょうねぇ」 私たちも後から追いかけて行ったらどんなに喜ぶだろう。今から行けば朝までには着けるだろう。耀子は旅の支度に取り掛かった。帰る必要のない旅であるから支度は簡単であった。 ラスト八行に込められた森村氏の筆力に目が潤んでしまいました。 これまで森村誠一氏は、本格推理は勿論のこと現代の各業界の裏面に通暁し、そこで蠢く男同士の軋轢と葛藤を描き、徒手空拳で敢然と立ち向かう主人公たちが社会悪を糾弾する社会派的な傾向を持つ硬質な作品が多かった。本作品は、初めて試みた女性誌連載のミステリーロマンで森村氏の見事な変貌ぶりを示していると同時に多彩なジャンルを描けることを証明した秀作だと思います。 しかし、まだまだ森村氏の創作意欲は湧き上がり多数の傑作を書かれたことは周知のことと思います。競馬場の帰りに小説と酒と馬が好きだった田中秀直氏は亡くなった。どこまで森村氏の活躍を見ることが出来たのだろうか。 | ||||
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1974年3月に中央公論社から出版されました。本書は女性雑誌「婦人公論」から女性向きのサスペンスロマン小説の依頼があり連載されたものです。これまで社会派的な作風の硬質作家の森村誠一氏としては初めての女性向け小説と言えます。勿論、男性が読んでも十分に楽しめます。 「星のふる里」という美しいタイトルですが、それには、とても悲しい意味が込められているのがラストで分かります。今までの作風とは全く違った、女性の悲しい結末を描いています。担当編集者の田中秀直氏の存在も大きかったと想像出来ます。 田中氏は女性雑誌編集者とは思えぬ“むくつけき男”であり、締め切り前になるとウイスキーを飲みながら原稿が出来るのを待ち、それでもダメだしをして森村氏に書き直しをさせたそうです。 高原耀子は夫の浩一、一人息子の賢一とともに安心した生活を送っていました。浩一は名の通った商事会社に勤務し、団地の3DKに住み収入も安定している、いわゆる“平均的幸福家庭”でありました。(“平均的・・・”とはなんと上手い言葉を作ったものだろう。しかし今日では共稼ぎが多く、なんとも穏やかな時代だったことを感じてしまう) それでいて耀子は漠然とした疑惑を浩一に抱くようになった時、突然、夫、浩一が連絡もせずに帰宅しなかったのです。社用で外泊することはあっても必ず連絡はあり、今まで耀子は心配することは無かったのです。 会社の上司、安藤に連絡すると全く心当たりが無いと言われ失踪したことが確実になりました。親身になって心配してくれた上司安藤が本作で重要人物になります。さりげなく登場させる処などは、森村氏のテクニックです。 耀子は警察に頼んでもあてに出来ない事を知っているので独自に浩一が家を出てから帰るまでの、耀子が知らなかった浩一の行動を探ることにします。そこで、ある程度は覚悟してはいたけれど耀子よりも若い理枝という女の存在が明らかになるのです。 理枝も浩一から突然、訳もなく離れられ浩一の自宅へ電話をする訳にもいかず寂しく思っていたところでした。本来、妻と夫の浮気相手という敵同士の二人でしたが、お互いの寂しさを慰めあう様になり、二人協力して浩一の行方を追うことになります。とても悲しいけれど愛する男を失った(かもしれない)女同士に芽生えた友情の様なものが出来たのです。 ここまでで男目線からの話は無く女性二人の追跡行で女性読者をターゲットにした物語で有る事が十分伺えます。しかし森村氏は、ここでインチキマンション投資商法に騙され老後資金を全て失って自殺した老夫婦の息子、三枝がある男の行方を追っていたという話を横軸に絡める。そこで女性二人と三枝と三人での奇妙な追跡行となり、話はただの人探しでは無く、さらに奥深いものにしています。 ラストは二人の女性、耀子と理枝は全く別の結末を迎える事になってしまう。浩一の行方はどうなったのか?そして耀子と理枝。二人の女性たちはどうなったのか?あまりにも対照的で悲しすぎます。ネタバレにならない範囲で・・ 賢一「パパどこにいるの?」 耀子「遠いお空の方よ。お星さまになって・・」 賢一「ぼく行きたい!」 耀子「これから、すぐパパの処に行きましょうねぇ」 私たちも後から追いかけて行ったらどんなに喜ぶだろう。今から行けば朝までには着けるだろう。耀子は旅の支度に取り掛かった。帰る必要のない旅であるから支度は簡単であった。 ラスト八行に込められた森村氏の筆力に目が潤んでしまいました。 これまで森村誠一氏は、本格推理は勿論のこと現代の各業界の裏面に通暁し、そこで蠢く男同士の軋轢と葛藤を描き、徒手空拳で敢然と立ち向かう主人公たちが社会悪を糾弾する社会派的な傾向を持つ硬質な作品が多かった。本作品は、初めて試みた女性誌連載のミステリーロマンで森村氏の見事な変貌ぶりを示していると同時に多彩なジャンルを描けることを証明した秀作だと思います。 しかし、まだまだ森村氏の創作意欲は湧き上がり多数の傑作を書かれたことは周知のことと思います。競馬場の帰りに小説と酒と馬が好きだった田中秀直氏は亡くなった。どこまで森村氏の活躍を見ることが出来たのだろう。 | ||||
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