影の巡礼者
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種別
長編
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あらすじ
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評判
影の巡礼者の評価:
0.00/10点 レビュー 0件。 B ランク
影の巡礼者の総合評価:
9.60/10点 レビュー 5件。
感想一覧
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
Amazonレビュー
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
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さらには著者のJohn le Carreが亡くなってから2年ぐらいだろうか。彼の伝記も公認・非公認も含めていくつか出版され、著者の陰影に富んだ生涯もある程度明らかになってきただろうか。
何はともあれ、本棚の奥から探してきたのが、この作品だ。中を見てみると1991年10月に購入している。140ページほど読んだようだが、いつものパターンで途中で放り出している。この後30年以上、著者の作品を購入することはなかった。
もう一度ゆっくりと読み始めてみた。驚くべきことに、思った以上に読みやすい。これには幾つか理由が考えられる。
まず、本作品はエピソードの集積、つまり短編集なのだ。というわけで、著者の作品に共通する複雑なプロットとその熟成のプロセスがこの作品には欠落しているのだ。著者のプロット作成は、英国特有の小道具(風景、言葉づかいやjoke)の多用と独特な雰囲気の醸成に色濃く彩られており、相当な英語力と英国自体についての知識がなければ、ついていけない。ましてや、楽しむなんて。ところが、本書はある人物(英国情報部の新人研修所所長)の時系列的にたどられた回顧録(個別のエピソード)という形式を取っているためだろうか、この苦しさからある程度解放されるのだ。
第二に、本書は三人称的な叙述という形ではなく、主人公Nedが一人称で、自分の英国情報部(SIS、本書ではCircusと称される)でのキャリアの興亡を語るという形を取っているために、読みやすいなのだ。
第三に、nedがこの長い人生の思い出を語る際に、その引出役になっているのが、George Smileyなのだ。隠遁先から、Circusの新人研修所に招待されたSmileyが新人たちの疑問や質問に答えながら、Nedに話を振っていくのだ。これがnedの隠された思い出を引き出す刺激となっていくのだ。どのエピソードもそれ自体は散文的なものだ。華やかさもなければ目を見張る幕引きもない。振り返れば、どうでもいいような出来事の集積と繰り返しなのだ。
話は、時系列的に語られていく。ned自身は戦争中(1940年ごろか)に生を受け、その特異な出生の経歴(オランダ語がnative)から、おそらく1963年ごろにcircusにリクルートされる。彼自身はle Carreの他の作品には登場していないようだ。
本書の設定はソ連崩壊後の1990年代前半に設定されているようなので、当時の情報機関が直面した存在論的な危機を反映しているようだ。この後、le Carreは30年以上、この冷戦期の情報戦を舞台とする作品を書くことはなかった。というわけで、本書はある意味で、le Carreの冷戦を舞台としたこの種のスパイ小説への告別宣言ともいえる。
特に終盤のChapter12では、著者のそれまでの執筆活動の基盤であった彼の哲学がsmileyの口を通して語られていく。冷戦が共産圏の自滅により終了することになっても、情報やスパイという職業や機能がこの世から消え去ることはけっしてありえない。それらは人間や国家さらには政治という存在が本質的に必要とするものであり、その対象が共産圏からテロ組織、麻薬組織などに変わっていくだけ。世界をおおうイデオロギーは我々の自己が作り出した一種の売春婦のようなものというニヒリスティックなものだ。本書はinternetが登場する前に書かれた作品だ。最後にsmileyが指摘するのは、国家機能の拡大による自由の侵害だ。
興味深いのは、ロシアという存在についての彼の考えだ。2つの考えがここでは開陳されるが、ソヴィエト崩壊から30年以上たってロシアによるウクライナ侵攻に直面した今、そのどちらがその後の展開を正確に予測していたであろうか。
というわけで、時代の経過を感じさせることのない作品なのだ。