エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件
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種別
長編
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あらすじ
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評判
エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件の評価:
7.00/10点 レビュー 1件。 C ランク
エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件の総合評価:
8.20/10点 レビュー 5件。
感想一覧
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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英国の犯罪史上のミステリといえば、やはり切り裂きジャックが一番に思い浮かび、本作で取り上げられているエドマンド・ゴドフリー卿殺害事件については日本の読者には馴染みの薄いものであろう。私自身、この本に当たるまで全く知らなかった。
しかし英国ではこの一介の治安判事の殺人事件が当時の国王チャールズ二世と反対勢力であるグリーンリボン・クラブの主導者シャフツベリー卿との大規模な政治闘争の幕開けであり、またプロテスタント主体の英国の中でカトリックを振興する国王チャールズ二世とその弟ヨーク公の失墜を目論んだ宗教弾劾の側面を持つスキャンダラスな背景も手伝って、いくつもの研究本が出ているミステリであるとのことで正直驚いた。
まず本作の登場人物表に記載された人物について触れておこう。なんと全部で75人である!今まで『銀英伝』が最高だったがそれをはるかに上回った。しかしそれにも関わらず、登場人物の混乱は起きなかった。それぞれに個性があり、またカーの書き分けが素晴らしかったのだろう。
カーが本作で取った手法は、まず事件が起こるまでのチャールズ二世とシャフツベリー卿の確執、そしてカトリック教徒のジェズイット派による国王暗殺計画が進行しているという密告があったことなどから始まり、ゴドフリー卿殺害事件の発生、それを引鉄としたカトリック教徒たちへの迫害、そしてチャールズ二世政権の終焉までの、一連の事実を詳細に述べ、その後で、それら事実を検証し、カーが至った真相を自らの推理と共に披露するといったものである。つまり、通常こういった作品で取られる事件そのものの検証に直接当たるのではなく、当時英国で起こった事を膨大な資料の山から取捨選択し、1つの物語として仕上げているので、最初はなかなか核心に触れず、様々な登場人物が織成す政治的策謀を延々と読まされ、しかもその登場人物が非常に多い事から読書が非常に難航した。
しかし、これが後々にこの事件を語る上で非常に重要な部分であることが判明してくる。前にも述べたがこの事件が国王政治とその反対勢力との政治闘争とそれに加え、当時のプロテスタントとカトリックとの一大宗教闘争までに発展するのだから、事件そのものの謎よりも、この事件を誰の仕業にするのかで当時の政治バランスが変わってしまうといった代物だったのだ。
17世紀のイギリスでの容疑者への尋問、刑事裁判の内容についてカーは微細に書いているのだが、これが現代では考えられないほど恣意的であるのに非常に驚いた。
まずチャールズ二世を何とか引きずり落とそうと企むシャフツベリー卿が犯罪調査委員会の委員長に任命され、色々な容疑者を尋問するのだが、これが非常に非人道的なのだ。
なんせこの男、今回の事件を利用して国王一族の凋落を企んでいるのだから、容疑者に自分の役に立つ証言をさせるために平気で脅迫を行う。それに従わなかったらニューゲイト監獄へぶち込むという極悪非道振りである。とにかく事件に関わったもの全て、そして当時事件はカトリック教徒の手によるものだと噂されていたものだから、カトリック教徒であるだけで取り調べられ、監獄に入れられるといった傍若無人ぶりなのである。
そして当時の事件で冤罪者を数多く出す事になったきっかけを作ったタイタス・オーツなる人物。
彼は証言に際して、自分で創作した真相を語り、矛盾点が発覚すると、あの時は事件を思い出すのに連日徹夜で調査していた疲れが溜まっており、正確な判断が下せなかった、云った覚えが無い、などなど愚にもつかない言い訳を行ういい加減なぶり。しかもそれらが当時のカトリック教徒撲滅(=国王失墜)のムードに同調しているがために、裁判官もその曖昧な証言を採用し、被告人に刑を課すのだ!
つまり裁判も公平なものでは勿論なく、証人、被告人が事実を告白しても、その者がプロテスタントではなくカトリックならば、嘘をついている、証言は出まかせだといって取り上げないのだ。
いやはや、ものすごい時代である。そしてまた、それに甘んじて無実の罪を着せられ、死刑に甘んじる英国庶民もまたすごい。当時の階級社会ではお上に逆らう事自体出来なかったという時世なのだろうが、やってもいない罪で死刑を命じられ、刑に服すとは、なんともまあ、滅私奉公の極みともいうべきか。
本作は正確には未解決事件の真相を探るノンフィクション物だとして読むよりも、17世紀のチャールズ二世政権時代を語った歴史書として読む方が正しいだろう。この事件の真相は?というよりもこの事件が当時イギリスに何を起こしたのか?国王は、その政敵は、プロテスタント達は、カトリック達は、そして影で暗躍するフランスは何を行ったのか?を知るには格好の書物である。
カーの、未解決事件の推理力は元より歴史物作家としての技量の高さを知る上でも貴重な作品だろう。