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egut さんのレビュー一覧

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レビュー数71

全71件 1~20 1/4ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。
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No.71: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

Q eND Aの感想

素晴らしいデスゲーム作品でした。(☆8+好み)
雰囲気はマンガアニメ系ですが、ギャンブル・ミステリー系の仕掛けが盛り込まれた作品。

デスゲーム×クイズ×異能力バトルもの。
ゲームの参加者はそれぞれ異なる特殊能力が与えられており、クイズのラウンドごとに誰かが持つ異能力が明かされる。
クイズに負けるか、誰かに自分の異能力を当てられると死となる。

最上位の能力が「クイズの答えがわかる(Answerアンサー)」という設定がまず面白い。答えがわかるため、早押しクイズにおいてはチート級で有利かと思われますが、早く答えすぎると誰かにアンサー能力者だと指摘されてしまい死となる。このジレンマがゲームの戦略に効果的に使われています。

序盤はよくあるデスゲームものの展開で進みますが、早押しクイズの特性や、この世界ならではの展開が見事であり、現代的な要素も取り入れた独自性のあるデスゲーム作品となっているのが見事でした。

終盤の熱い展開も素晴らしく、デスゲーム作品における結末の描き方も好みであり、非常に満足度の高い作品でした。
デスゲーム好きにはおすすめです。

▼以下、ネタバレ感想
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Q eND A (角川ホラー文庫)
獅子吼れおQ eND A についてのレビュー
No.70: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

遊廓島心中譚の感想

2024年度の江戸川乱歩賞受賞作。
凄く好みの作品でした。雰囲気がとても好きです。(☆8+好み)

舞台は幕末。実在した横浜の『港崎遊郭』を背景に、遊女の愛の物語を描いた作品です。『愛』がテーマと感じられる作品でした。
物語は1860年と1863年、二つの時代を生きる遊女たちの視点で進行し、史実を絡めたミステリーだからこそ描ける愛の形が浮かび上がります。作者が描きたかったのはこのような愛だったのかと驚きました。
歴史物や時代物が好きな方には特におすすめです。歴史に少し苦手意識がある方も、後述するポイントを押さえてから手に取ると、さらに楽しめると思います。

本書をより楽しむためには、幕末の時代背景を知っておくと良いです。物語は歴史的な知識があるのを前提に進行していきます。
実のところ、私自身は歴史ものが苦手で、初読の序盤は内容を把握するのが難しかったです。一度読み進めるのを止め、当時の出来事をWikiで調べ、史実を理解した上で再び本書に向かいました。そのおかげで、より深く楽しめました。この点について少し補足します。

まず『港崎遊廓』をwikiで調べるとよいです。これを見ておくだけで本書の物語がとても把握しやすくなります。

1859年、日本が鎖国を終え、横浜が開港されると、多くの異人(外国人)が訪れるようになりました。それに伴い、現在の横浜公園の場所に外国人専用の遊郭が建設されました。ここが本書の舞台となる『遊郭島』です。表現が適切か分かりませんが、外国人の現地妻、もとい妾という職業としての遊女が本書の女性の登場人物となります。ただし、本書では悲観的に遊女になるのではなく、目的をもって遊女になる姿が描かれているのが好感でした。この辺りは、学校では学ばない歴史として興味深く、物語を楽しむ一因となりました。

時代物・歴史ものとしての雰囲気の面白さは然ることながら、序盤からミステリとしての期待と興味をそそられる展開が光ります。
主人公・伊佐の物語では、行方不明の父が遺骸となって発見されます。その遺骸は燃やされており、さらに父には町娘を殺した容疑がかけられていました。しかも、町娘の首が見つかっていないという状況は、ミステリ好きの心をくすぐる魅力的な謎として提示されます。伊佐は父の無実と真相を確かめるべく、遊女となって遊廓島に乗り込むという流れです。

2つの時間軸を描く物語の構成は、終盤どう繋がるかが作品の醍醐味です。本書では、終盤にてミステリとテーマの『愛』の姿が浮かび上がり、その展開が見事でした。詳細な感想はネタバレ側で記述します。

他、表紙のイラストや、本書の見返しに描かれた遊郭島の地図など、書物全体が時代物の雰囲気を醸し出していてワクワク感がとても感じられました。また、帯に書かれている『二人の愛はどうなった。』というコピーも、読後の余韻に浸れます。とても良い作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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遊廓島心中譚
霜月流遊廓島心中譚 についてのレビュー
No.69: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

アンデッドガール・マーダーファルス 1の感想

予想以上にかなり好みの作品でした。(☆8+好み)
吸血鬼ドラキュラ、フランケンシュタインの人造人間など異形のものが存在する世界での怪奇小説であり、しっかりとした推理を行う本格ミステリでもあり、バトルあり、落語のような笑いありと、いろいろ混ぜ込んでいながら破綻せず面白い物語になっている独特な作品。

第一章吸血鬼については、銀の杭に貫かれた吸血鬼夫人殺害の謎。
読書前はライトノベルのファンタジーものくらいの気持ちで手に取ったのですが、手がかりや推理をするロジックなど、本書の題材を用いたしっかりとした謎解きミステリであることに驚かされました。本書がミステリであることに気づき、期待以上の面白さに嬉しい悲鳴でした。

『怪物専門の探偵』と名乗る『鳥籠使い』という二つ名もカッコよく、かつ今まで体験した事がない探偵設定なのが個性的でよい。探偵役と戦闘担当というコンビも、怪物相手の物語においてバトルの見せ所が生まれるなどで見所が豊富でした。今後も期待のシリーズです。
アンデッドガール・マーダーファルス 1 (講談社タイガ)
No.68: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

地雷グリコの感想

これは面白かった!読んでいて楽しい読書でした。

伝えやすいので他作で例を挙げると福本伸行『カイジ』や迫稔雄『嘘喰い』といったギャンブル&頭脳バトルの学園ものです。
著者自身も公言しており、これらの作品が好きで自身のオリジナルゲームを小説で描いたとの事。
私自身もこれらの漫画が好きなのですが、それぞれの作品に対してちゃんとリスペクトされているのが感じられました。この系統が好きで読み慣れた人にも満足できるクオリティのゲーム&頭脳バトルになっているのが見事です。さらには文章としての小説でちゃんと内容やルールが理解できてイメージできるのが素晴らしい。個人的にこの手のジャンルの小説としては頭一つ抜けているクオリティの作品に感じます。

じゃんけんグリコ、坊主めくり、だるまさんがころんだ。と言った馴染みのあるゲームを用いる事で読者はすんなりゲームに入り込める作り。そしてそんな馴染みのあるゲームが著者の味付けによって豊富な頭脳戦や騙し合いやトリックが渦巻く作品に仕上がっているのが凄い。わかりやすいゲームゆえ、「こんな仕掛けかな~」なんて想像しながら読むと思いますが、そんな考えの斜め上行く展開は嬉しい刺激でした。5編の連作短編集はどの作品も面白く、1作目、2作目、3作目……とどんどん面白さが上がるのもよい。ルールや仕掛けを読者に認識させる手順が巧すぎます。最初から最後まで気持ちが上がっていく読書でした。

学園ものとしても面白いです。交友関係や成長物語など、キャラクターも良いですし、次々と現れる強者のステップアップも面白い。
デビュー作から学園ミステリを描いている事もあり、この雰囲気はお手の物でとても心地よいです。先に挙げた漫画や学園ギャンブル系だと『賭ケグルイ』と言った作品がありますが、本作はそれらの殺伐とした雰囲気とは違い、どこか青春小説のような明るく穏やかな心地よさを感じます。この雰囲気を備えているのが著者の優しさであり特徴である気がします。
例えばギャンブル漫画ですと敗者の悲鳴や絶叫、絶望、暴力や怒りなど強烈な負の感情を描いて読者にインパクトを与えてたりします。ですが本書の場合はそういう負の状況は抑えてあります。敗者の雰囲気1つとっても嫌な気持ちにならない描き方であり、小説としての文章により、勝利へ向けての爽快感や仕掛けの面白さで読者を魅了させています。読後感もとてもよい作品でした。続巻希望です!

▼以下、ネタバレ感想
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地雷グリコ
青崎有吾地雷グリコ についてのレビュー
No.67:
(9pt)

小説の神様の感想

かなり好みの作品でした。念のためお伝えしますと本書はミステリーではなく青春小説です。

映画化や漫画化などマルチ展開されている為、どれに最初に触れているかで印象が変わりそうです。原作となる本書にて初めて物語に触れましたが、自分は物語を楽しむ以上に、著者の内面に潜む想いと、世に解き放つべく爆発させたエネルギーをとても強く感じた読書で好みでした。
読者の好みが、物語としてどう見るかなのか、描かれている想いをどう感じるかなのか、どこに注目するかで本書の好みが変わると思います。

私が勝手に感じた感覚ですが、主人公の売れない小説家である千谷一夜は著者自身の現実的な負の一面で、ヒロインの小余綾詩凪は理想や希望となる存在、その男女の対比を用いて小説や創作に対する考え方を熱く描かれた内容に感じました。
小説作りにおいて、純粋に好きで創る気持ちと、生活面などにおいて現実的なお金の問題など、好きなだけでは創り続ける事ができないという、創作における『作品』と『商品』の葛藤がとても描かれていました。クリエイティブの仕事においてはずっと付きまとう問題です。小説家としての著者の代弁を主人公とヒロインを通して熱く語られており、個人的に興味深く読んでいた次第です。

本書の物語が小説家を描くという事から、文章の描写もあえてかなり緻密に行われていると感じました。あえて描いていて気に入っているシーンは、序盤のヒロインを見る主人公の緻密な描写からの「卑猥な目で見ないでもらえる?」の展開。これは著者ならではお約束の笑いで面白い。本書刊行前の作品よりも文章が読みやすくかつイメージしやすい描き方になっており文章の変化点的な作品をも感じます。他、2人が描こうとしている創作の内容が『medium』を感じさせたり、シリーズの続編が出なくて物語が紡がれない悩みは『マツリカシリーズ』の事かと感じるなど、主人公は著者自身を表していると感じました。それゆえに語られるセリフの一つ一つがとてもリアルでして、悲観的な事も、本当にやりたい事も、とても痛切に響いてきます。この想いを吐き出す点は物語を楽しみたい読者にとってはノイズに感じるかもしれませんが、私はこういうリアルな感情を爆発させている内容は商品ではなく意味のある作品としてかなり好感でした。

主人公・ヒロイン以外のキャラクターも良い味をだしてる。河埜さんは本書のリアルな担当編集の人なのかな。文芸部の部長の九ノ里は特にいいキャラ。主人公の周りには悪意がなく見渡せばよい人たちに囲まれているのではないでしょうか。ホントなんというか、本書は著者の内面を描いた作品に見えた次第でした。『小説』という媒体が好きな人には触れてもらいたい作品でした。
小説の神様 (講談社タイガ)
相沢沙呼小説の神様 についてのレビュー
No.66: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

線は、僕を描くの感想

これは傑作。

2019年度のメフィスト賞受賞作。
メフィスト賞作品ですがミステリーやファンタジー系統ではなく、文学寄りの作品での受賞。つまり優れた作品だったので賞を与えられて出版された作品であるとも感じます。

本書は水墨画を扱う青春小説。
事故で家族を失った大学生の主人公。孤独や無気力、ただ生きているだけの日々の彼が水墨画の世界に引き込まれていくという流れ。

まず本書の素晴らしい所は、文字だけの小説で白黒の水墨画をテーマにした内容なのに、読書中は鮮やかな感覚を得る読書である事。ものの見え方・表現の仕方が卓越しており素晴らしい読書体験でした。読後に著者自身が水墨画家である事を知って納得です。
水墨画の知識についても、主人公と読者の目線が合っているのがよいです。初めて触れる世界、水墨画とはどういうものか、道具は?描き方は?描き手の気持ちなど物語を通して体験できました。

また全体を通して悪意がなく登場人物達も魅力的で優しい世界。読んでいて心地よい。青春小説としての成長も得られて満足。さらに読後はネットで水墨画の作品や"描き方"を見たくなりYoutubeなどを巡回しました。作品を見る目も養われるといった次第で本当に素晴らしい読書でした。オススメです。
線は、僕を描く (講談社文庫)
砥上裕將線は、僕を描く についてのレビュー
No.65: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

炎の塔の感想

素晴らしい作品でした。傑作です。

著者が明言している通り映画『タワーリング・インフェルノ』のオマージュ作品。
映画を知っていても知らなくても十分に楽しめます。私は大分昔に映画を見ていた為内容を忘れていました。読後に映画と照らし合わせると所々の設定をオマージュとして残していた事に気づく楽しさがあります。では真似事の作品かというと全くそんな事はなく、優れた要素を継承した著者オリジナルの作品に仕上がっています。

500ページ台の本書。正直色々と重そうで読むのを躊躇していました。
同じような気持ちの方がいたらお伝えしたいのが、本当に読み始めたら止まらずあっという間に読めてしまう作品である事。内容が薄いという意味ではありません。ハラハラドキドキの緊迫感、先が気になる展開がずっと続いており夢中になるからです。

災害パニック小説の方向として混乱や醜態を描く作品がありますが、本書はそうではなく災害を解決するべく消防士の活躍が描かれる方向性の作品です。火災現場の緊迫感、チームとしての活動、救助模様、、、次々と起きる多くのトラブルに遭遇する展開は本当にやめ時が見つからない読書でした。

そして構成が素晴らしい。無駄がなかったエピソード。登場人物達の配役。様々な要素が考えられていて驚かされました。結末の切り方も好みです。この主人公の現場の物語のラストの安堵感としてはここでしょう。その後のエピローグを描かないのも好み。最初から最後まで大満足の作品でした。オススメです。
炎の塔 (祥伝社文庫)
五十嵐貴久炎の塔 についてのレビュー
No.64: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

シンデレラ城の殺人の感想

凄く楽しく好みの作品でした。※点数は大分好み補正で加点。

作品雰囲気はライトノベル寄りの法廷ミステリ。
『シンデレラ』のパロディで、ゲーム『逆転裁判』のオマージュを感じた童話題材のミステリ×法廷ものです。
『逆転裁判』が好きな人は特にオススメ。裁判中の展開がそのままです。

シンデレラの設定を用いる事で登場人物や雰囲気を説明する必要がない為すんなり物語に入れます。始まりは魔法使いにドレスアップされて舞踏会へという定番の流れ。王子の私室に訪れたシンデレラが目にしたのは王子の他殺死体。その場に訪れた兵士に現行犯逮捕され緊急的な臨時法廷で裁かれる事になりこのままでは死刑は確実。無罪を証明する為にシンデレラは推理の力で裁判に挑むという展開です。

ページの半分以上は法廷劇。
証人の証言から手がかりやおかしな点を指摘していくたびに事件模様や人物像が変わっていくのが面白い。魔法が存在する世界なので何ができて何ができないのか、ちゃんとロジカルな推理で真実が明かされていくのが良かったです。

これはもう知っている人が読めばキャラ違いの『逆転裁判』です。流石に「意義あり!」のセリフはでませんが、裁判長とのやりとり、証拠をつきつけたり証人をゆさぶったり、証人が発言する度に新たな展開が起きる作りがそう感じます。読書中、頭の中では追求BGMが流れていました。。人によっては真似事という評価になりそうなのですが、個人的には面白い所を巧く取り入れたオマージュに感じました。何よりも真似だけでは終わらずちゃんと物語として面白い作品になっている為です。結果が良ければ細かい事は気にならないという感覚。

変わった雰囲気のシンデレラも好感。継母や姉達と仲が良い設定もよく、作品全体で嫌な気持ちになる点がない。純粋に楽しい作品が読めたという気持ちで大満足でした。
シンデレラ城の殺人 (小学館文庫)
紺野天龍シンデレラ城の殺人 についてのレビュー
No.63: 8人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

方舟の感想

これは傑作でした。☆8(+1好み補正)

SNS、特にTwitterで話題になっている本書。9月発売後の一か月間での口コミの広がりが凄く評判も良い。
正直購入予定はなく特に意識をしていなかった本書だったのですが、ネタバレを受ける前に話題に釣られて購入した次第。結果は大満足でした。

物語はクローズド・サークルを舞台としたミステリ……というよりサバイバルもの。
災害で地下に閉じ込められた男女数名。浸水により水没までのタイムリミット。 一人を犠牲にすれば脱出できる。そんな状況で殺人が……という流れ。

本書の傑作足らしめる点が終盤における小説としての終わり方だと感じます。
物語の終わりとなる締め方や演出が完璧でした。その為素晴らしい衝撃と余韻が味わえます。
一発ネタにかけるような作品ではなく物語の構成や演出といった小説づくりの技術的作品であり、結果が最高な形で締めくくられていると思う次第。話題になるのも納得の作品です。

詳細はネタバレ側に書くとして、本書の内容は分かりやすくもあるのでミステリ初心者からおすすめの作品です。

▼以下、ネタバレ感想
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方舟
夕木春央方舟 についてのレビュー
No.62: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

プロジェクト・ヘイル・メアリーの感想

凄く楽しい読書体験でした。傑作です。

SF海外翻訳で単行本上下巻。
発売当初から書店や出版系メディアで大盛り上がりだった本書。ただ手に取るのを躊躇っていました。
難しいかも……、翻訳合わないかも……、上下巻で費用もかかるし合わなかったら嫌だな。という事で見送っていました。が、世の中の読者やレビューが増えた近頃の評判もよい。そしてよくある感想が、予備知識無しでネタバレされる前に読んだ方が良いというアドバイス。
という事で手に取った次第。

結果は大満足!
雰囲気はユーモアある文章で状況に反して明るい読書で読み易い。
記憶喪失で目覚める所から始まり、読者と主人公の目線は同じ、何が起きているのか?から始まる。
そして科学的な謎と検証と行動を繰り返して一歩一歩進む展開が面白くて読書の止め時を見失い一気読みでした。
読書前に懸念していた事が杞憂に終わりました。

科学や物理といった理系の話が沢山でてきますが、とても分かりやすくイメージしやすい表現で描かれています。そしてSF小説のネタが贅沢に詰め込まれているので、SFに馴染みがない人程、新鮮な読書体験が得られると思いました。
おすすめです。

▼以下、ネタバレ感想
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プロジェクト・ヘイル・メアリー 上
No.61: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

俺ではない炎上の感想

SNSを用いた現代的なミステリ。傑作でした。

誰かが自分になりすましたTwitterで殺人を投稿。特定班により実名、勤務先、自宅住所まで拡散されて冤罪被害を受けるという始まり。
本書は現代的な要素の使い方が大変巧い。社会要素としてはSNS被害。人間的な要素として世代間ギャップを巧く扱っています。20代、30代半ば、50代のセグメントを用いた、物事の考え方、仕事の取組み、ITリテラシー。それぞれの感性の繋ぎ方が物語を面白くさせていました。

インターネットを普段から使い、フェイクニュースもなんとなく嗅ぎ分けられると感じられる方は多いと思います。私も何となく直ぐには騙されないぞと裏取りをする手順がありますが、本書ではそういう方こそ騙されてしまうパターンの物語が存在する。という内容を題材にしているのが見事です。著者の物語の作り方に唸らされました。

身に覚えのない冤罪により、自宅が狙われたり犯人扱いされて襲撃される可能性など、世の中が敵となる不安と逃亡劇の物語が抜群に面白い。
そしてネットを用いた仕掛けと驚きの結末が見事。今の時代を表したミステリとして大変オススメです。

▼以下、ネタバレ感想
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俺ではない炎上 (双葉文庫 あ 71-01)
浅倉秋成俺ではない炎上 についてのレビュー
No.60: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君にの感想

これは凄く面白かった。☆8(+1好み補正)
純愛小説を用いたミステリとしてかなり巧妙な作品でした。

本書は下調べせず、予備知識は無い方がよいです。なので中身とは違う視点で感想を。

純愛小説を用いたミステリについて。
大きく2つに区分するなら、長期間における想いを描くもの(例:『秘密』『容疑者Xの献身』)と、まだ初々しい恋愛初心者を用いる作品(例:『イニシエーション・ラブ』)の想いや経験の長さで区分できます。
本書は後者寄り。
初々しさによる盲目がミステリとして活用されています。
この系統の作品はライトノベルで多く、ミステリ要素も弱めで印象に残り辛いのですが、本書はかなり刺激的でグサッと心に突き刺さるミステリでした。
『イニシエーション・ラブ』とは違う方向性なのですが、好きな方はこの作品も刺さるかと思います。負けず劣らず違うやり方で個人的に名作扱い。 後味の良し悪し含めて心に残る作品でした。

2017年の本ですが、もっと知名度があっても良さそうだし、ミステリのランキングに入っていないのは勿体ない。
内容については好みが分かれると思われるので万人向けではないのですが、恋愛ミステリが好きな方へはオススメです。

▼以下、ネタバレ感想
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たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君に (祥伝社文庫)
No.59: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

同志少女よ、敵を撃ての感想

早川書房の第11回アガサ・クリスティー賞受賞作品。
今までの受賞作品はこの賞の名前から連想するイメージとは違い、メフィスト賞のような広義のミステリを感じていました。ただ今回は納得の素晴らしい作品。"早川"の"アガサ・クリスティー賞"という名前の印象に相応しく、本書の存在によってこの賞の格を上げたと言っても過言はない出来だと感じます。傑作でした。

内容は第二次世界大戦の独ソ戦を描く戦争小説もの。村が襲われ村人や母親が惨殺され焼かれる中、救助されて生き残った少女セラフィマ。復讐心を宿し女性狙撃兵となり戦争に踏み込んでいくという流れ。

まず本書はとても読み易いのが好感。
戦争ものなのと海外小説の雰囲気から苦手意識で敬遠する読者が一定数いるかと思いますが、そのような悪い印象や分り辛さはありません。登場人物は少人数でかつ特徴的であり、場面転換も少なく状況が分かりやすいです。
読者の視点は戦争とは無縁の村の少女から始まる為、その視点から戦争の悲劇を体験していく流れは掴みやすくかつ物語に没入しやすくなっています。

戦争小説としての両国の思想、戦争犯罪、悲劇や復讐の連鎖など描く所は描きつつも、表現は嫌悪されないように大分気を使ってマイルドに描かれているので、多くの人に薦められる作品となっております。
なにか仕掛けや謎解きなどの驚きがある話ではありません。
史実として存在した女性狙撃兵。狙撃兵の主人公というアクション・エンタメ性を備えつつ、"戦争"と"女性"という面から今の世に適した差別やジェンダーなども取り入れられており、物語の展開、結末に至るまで惹きこまれた読書でした。傑作です。
同志少女よ、敵を撃て (ハヤカワ文庫JA)
逢坂冬馬同志少女よ、敵を撃て についてのレビュー
No.58: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

リバースの感想

うあー。久々にやられました。
最後の1ページの高揚感が凄まじかったです。
実はこの系統の作品は個人的に大好物なのです。ただしこの系統と呼ばれる要素はミステリにおいてネタバレ扱いな為、世の中調べる事ができません。なので中々出会えない部類の作品なのです。そういう意味で出会えた事に興奮しました。☆8+1(好み補正)。

手に取った切っ掛けは、最後の1文が凄いという評判からです。著者の作品は個人的に苦手なイヤミスで敬遠していました。読んでみるとやはりその印象に近く、明るく華やかという印象はなく、どこか淡々と不安になるような足運びで物語が展開します。ただ、結末はどうなるのだろう。この物語の終着点は何になるのだろう?と先に進み辛い不安と早く知りたい気持ちの複雑な心境の中での一気読みでした。そして最後そうきたかと。。これは最後の1文が優れているのではなく、この結末を最初に決めてあり、そうなる為の事前の物語の構築が巧いのだと感じました。

本書の作り方で巧いと思うのはミステリの事件模様でのドキドキ感は全くなく、登場人物達の内面から発する不安というか後ろめたさというか、そういう心理的なドキドキ感を読者に与えている事。読者への刺激の与え方が巧く、魅せたい所と隠したい所の表現がかなり優れており、分かりやすい言葉ではミスリード・伏線が凄い・そういう事に気づかされた読後感でした。

▼以下、ネタバレ感想
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リバース (講談社文庫)
湊かなえリバース についてのレビュー
No.57: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

かがみの孤城の感想

素晴らしい作品でした。所々で心に響き、惹き込まれた読書でした。

デビュー作の『冷たい校舎の時は止まる』を彷彿させる青春ミステリを感じました。比べると、デビュー作はミステリ色や死の雰囲気が強かったですが、本書は青春物語にミステリの技法が盛り込まれているような作り。

まず、あえて少し違った視点で感想を挙げますが、ミステリ的な舞台設定はデスゲームもの。詳細はボカシますが、突然集められた男女。舞台のルール説明。1人だけ得られる報酬。この展開から起きる一般的な小説は疑心暗鬼で殺伐とした物語が多いのですが、本書は優しく温まり、心が揺れ動く話として描かれていた事が読書人生の中で新鮮に映りました。デスゲーム設定でこんな作品が作れるのかと驚いた次第です。

さて本書はミステリを期待して読む本ではないです。
そこに比重がおかれると少し物足りなく感じてしまうでしょう。
著者の描くファンタジー&青春物語の1作を読んでみる。程度の気持ちで読むのが丁度よい心構えとなります。

物語は、学校で悲痛な思いをし不登校になってしまった中学生の"こころ"(名前)。彼女の部屋の大きな鏡が輝き、吸い込まれるように中に入ると同じ年代の男女と城の中で出くわします。主人公含む7人の男女。それぞれ何か闇を抱え、最初はギクシャクしながらも、徐々に心を通わせていく――。という流れ。

主人公の名前"こころ"とある通り、本書は中学生の心模様をものすごく丁寧に描かれている作品だと感じました。学校に行けなくなった理由を単純に"いじめ"や"不登校"という短い単語でグループ化してしまうのではなく、人それぞれ、一言では語れない関わる人や場やタイミング、その時誰かが言ったセリフなど、1つ1つが丁寧に描かれ、その状況を読んでこそ悲痛な気持ちがより浸透していくような、感情が揺さぶられる読書体験でした。

終盤の展開はこうなるのだろうと想定の範疇でしたが、文章や展開に惹き込まれて感動しました。
10代の小中高生にはとてもオススメな作品です。素晴らしい作品でした。

▼以下、ネタバレ感想
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かがみの孤城 上 (ポプラ文庫 つ 1-1)
辻村深月かがみの孤城 についてのレビュー
No.56: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件の感想

異世界転生×本格ミステリ。
これは好みの作品でした。☆8+1(好み補正)

剣と魔法の世界へ転生した元警察官の主人公。平民出身ではあるが、前世の知識を活用し貴族が集う名門校に入り優秀な成績を収めます。その後、王妃や姫も出席する表彰式の祝典にて密室による不可能犯罪が発生。警察や捜査体制がない世界、そして魔法が存在する世界において、合理的な解釈と推理によって事件を解決できるか。という流れ。

本書には「読者への挑戦」が存在します。
これは著者がフェアなミステリを心がけている事を感じます。
本書の世界において、魔法とはどのような存在なのか。仕組みやできる事できない事が丁寧に書かれている為、ファンタジー作品ではありますが突飛さはなく世界観に馴染めました。

前半の異世界転生ものの定番である俺つえー物語から始まり、学園内での友達との生活は青春ものとしても面白い。圧倒的な貴族の主人公属性のレオや、いじめっ子なんだけど憎めなくなるボブ、ヒロイン的なキリオ。魔術師の校長先生のマーリンなど。キャラクターがとても分かりやすく良いキャラなのが読んでいて気持ちよい。頭の中ではハリーポッター補正していましたが、そんな雰囲気。異世界転生小説の軽いラノベではなく、ハリポタのような雰囲気の学園ものとして楽しめました。表紙をみれば心構えを感じますね。中身は結構硬派です。それでいて文章が読みやすいのも〇。他、名探偵の名前が"ゲラルト"なのが、ウィッチャーっぽくてクスっときました。

ファンタジーの世界でミステリという作品は他にもあります。が、本書の良い所は魔法や異世界転生の設定がミステリに密接に関わり必然的である事です。主人公の状況や物語を含めて、雰囲気だけではない世界観の構築が素晴らしかったです。異世界においての名探偵の存在理由やゲラルトが行う推理についても楽しめました。後半でヴァンが名探偵を模す心情が見事。名探偵とは何かというテーマも楽しめます。
続編があれば続けて読みたいシリーズですね。本作にて誕生~学園編は大分やり切ってしまった感じがする所ですが、タイトルに『異世界の名探偵"1"』とあるので2作目も検討中なのでしょう。どのような続編がでるのか楽しみです。

▼以下、ネタバレ感想
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異世界の名探偵 1 首なし姫殺人事件 (レジェンドノベルス)
No.55: 6人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

medium 霊媒探偵城塚翡翠の感想

凄い傑作でした。

帯コピーは『すべてが、伏線』の強気な一文のみ。発売したてなのにネットで絶賛ばかりの評判。実は宣伝活動やステマを懸念していました。でもここまでされると気になります。
美麗な表紙に惹かれて購入。きっと版元も自信あるのでしょう。という気持ち。

結果、疑念も払拭される超絶面白い本格ミステリでした。

予備知識が無い方が楽しめるので、軽い感想を。
著者の本はマツリカシリーズを読んだ程度ですが、その感覚と大分違い、重い雰囲気の真剣な本格路線です。そこへ男性が好みそうな女性キャラ城塚翡翠が登場しライトな雰囲気を加えます。キャラも推理も読んでいて楽しい。文章もとても読みやすく、何故か苦手意識が芽生えていた著者作品への印象を改めました。
とはいえ、所々に現れる制服やふとももetc...著者らしさもバッチリ。特に何かは読書前に印象を与えてしまうので述べませんが、読後に思う事は著者の今までの要素の集大成で構築されたミステリです。
本書単体作品なので、初めて著者の本に触れる方も大丈夫。

近年珍しくなったコテコテの本格ミステリが楽しめます。本格好きならおすすめです。

▼以下、ネタバレ感想
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medium 霊媒探偵城塚翡翠
相沢沙呼medium 霊媒探偵城塚翡翠 についてのレビュー
No.54: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

ディオゲネス変奏曲の感想

『13・67』の時に感じていましたが短編のクオリティが物凄く高い。またまた贅沢な作品です。
正直な所、表紙とタイトルが凄く難解そうなイメージを与えます。私自身、手に取り読む気持ちがなかなか芽生えませんでした。が、読んでみると大変読みやすくミステリ初心者からオススメできる素晴らしい作品集だと思い改めます。色々な味が楽しめるのでとてもオススメです。

本書は『13・67』のような連作ではなくバラバラの短編集です。本格ミステリはもちろんの事、ホラー、スリラー、SF、世にも奇妙な作品と様々なジャンルが17作品収録されています。ジャンルとしてはバラバラですが、どれもこれも一筋縄ではいかない結末に魅了されます。いやもう、『13・67』が凄かったというより、もともとの作品の作り方からして基本が驚かせて楽しませる作風なんだと感じました。
本書300ページ台なのに17作品なのです。1作品短いもので10ページ台。たったそれだけのページなのに、惹き付けるストーリーを描き、事件等のイベントが発生し、驚愕の真相を与える作品が何作もあります。これは長編で読むような仕掛けでは……と思いつつも贅沢な読書を満喫できるのです。ページ数が少ないのでちょっとの合間に読むだけでも充実した気分になります。

まず最初の『藍を見つめる藍』。40ページ。ネットストーカー・SNS犯罪を扱います。現代的なサスペンスだなと思いつつ読むわけですが、結末を読む頃にはすっかりと本書に魅了され、次の短編も期待に胸を膨らませる事でしょう。掴みはバッチリです。
『見えないX』は推理小説をテーマとした大学の授業。授業に紛れ込んでいるXの正体を暴けという内容でしたが凄く面白い。こんな授業を受けてみたいと思いつつ、本格ミステリを堪能しました。
この『藍を見つめる藍』、『見えないX』は群を抜いたミステリ作品。『作家デビュー殺人事件』『いとしのエリー』『時は金なり』も好み。『習作1~3』と言った練習作品も収録されており、著者のアイディア作りの一端が見れたようで楽しいです。

改めますが、表紙とタイトルから受ける堅物印象とは違い、大変読みやすくバラエティ豊かな作品集です。とてもオススメ。
ディオゲネス変奏曲 (ハヤカワ・ミステリ)
陳浩基ディオゲネス変奏曲 についてのレビュー
No.53: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

双蛇密室の感想

下ネタに意味づけを行い本格ミステリとして昇華する稀有な作品。上木らいちシリーズ第4弾。シリーズものですが、1巻以降はどの巻から読んでも平気です。

今回はもう褒め言葉で変態。こんな奇想天外な物語を作り上げられる作者の想像力に脱帽。凄すぎる。
あらすじに偽りなく、前代未聞の真相。このネタがなんなのかはネタバレになるので紹介できないもどかしさがあります。
ま、ネタとして好みが分れる作品なので万人に薦められるものではないですが単純に個人的に好み。初めて体験したネタを加点して☆8+1で。

2匹の蛇の毒による密室殺人。第一印象は"蛇"で"密室"。紐かな?と古典を感じる。一方、シリーズ下ネタ系なので、2匹の蛇は隠語でアレかなぁとか勝手な妄想をする。が、全然違いまして猛省。本書はかなり特異な本格ものでした。

正直な所、真相はトンデモ話です。我に返ればこんな事起きないでしょ!って話ですが、島田荘司や京極夏彦のように、とんでもない世界観と真相を読者に納得させて読ませてしまうあの感じを体験した次第。本書を作るにあたり、真相のネタから思いついたのか、エロネタなのか、蛇のネタから考えたのか、どこからか分かりませんが、無駄なく全部繋がっている物語構築は本当に凄かった。
本書、他人が真似できない唯一無二の作品でした。

余談として。黒太郎の作家エピソードより。
自身はサドではない。サド小説なんて書きたくないんだ!という独白は、著者の下ネタに対しての事かなと感じました。著者は下ネタが好きで悪活用しているわけではないのですよね。デビュー1作目は仕掛けに必要な要素としての下ネタでしたし、3作目、4作目もテーマや真相の為に必須な事として下ネタが使われています。
世に望まれるなら下ネタを使う。ただしきちんと本格ミステリに組み込む。そんな志を作者から勝手に感じた次第です。

▼以下、ネタバレ感想
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双蛇密室 (講談社文庫)
早坂吝双蛇密室 についてのレビュー
No.52: 7人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

出版禁止 死刑囚の歌の感想

これは傑作。
ルポルタージュを用いたミステリとして素晴らしい完成度でした。報告文学のミステリを体験したい場合、本書は非常におすすめです。
『出版禁止』シリーズとして2作目となりますが、前作を読む必要はありません。本書単品で楽しめます。

シリーズ共通項は、"作者の長江俊和が実在する事件のインタビュー記事や資料をまとめて世に出した。"という体裁の作品です。1作目の『出版禁止』では報告書を読んでノンフィクションの事件を体験する怖さを味わえるのですが、真実が結局わからずモヤモヤするリドルストーリー作品でした。面白い試みでしたが、読者が深読みしてどれだけ楽しめるかという読み手の行動に委ねられる作品でもありました。そんな訳で2作目は敬遠していましたが、世の中の評判から読んでみると当たり。前作の不満点が解消され、真相が書かれていなくても、全てを読むと真実が見える作りとなっています。このバランスが巧いです。
個人的好みですと最終章『渡海』はカットするか袋とじにした方が謎の難易度が上がってより話題になっただろうなと思いました。ただ著者ファンを広げるにあたり、普段ミステリを読まない読者層を視野に考えると優しいぐらいが丁度良いかもしれないとも思う悩ましい匙加減を最後に感じました。
というわけで、前作読んでいるが結末が好きになれず2作目を躊躇している方は手に取って損はないです。

ルポルタージュ形式について。本書は必然ある作りに唸らされます。
小説における、作者=神の視点で正しい真実が書かれる約束が、他人の記事をまとめたもの設定により信憑性が薄まるのです。前作はノンフィクションを装う効果が主体でしたが、今作はそれプラス、ミステリの楽しさに繋がっています。読者はいくつかの記事を読んでいくと書かれていない繋がりに気づく事でしょう。作者=神の視点ではなく、読者=神の視点となる作品なのです。読んだ方はわかると思いますが、この感覚が非常に面白くて、どんどん謎が頭の中で繋がる感覚を得る為、読むことが止められず一気読みでした。
また、視点を変えて本書のルポ形式について感想を述べると、単体のルポだけでは真実が見えない危うさを感じます。世の中のTVや新聞で垂れ流されている日々の事件のニュース。それ単体は偏った報告であり真実とは限らないのです。そういう風刺も感じました。

雰囲気としては事件の記事なので重いです。そこだけは万人に薦められるものではないですが、必然的なルポ形式で完成されたミステリは他にパッと思いつかないのでこの手の作品を体験したい方へは非常におすすめです。

▼以下、ネタバレ感想
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出版禁止 死刑囚の歌 (新潮文庫)
長江俊和出版禁止 死刑囚の歌 についてのレビュー