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bamboo さんのレビュー一覧

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レビュー数36

全36件 21~36 2/2ページ
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No.16: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

蘇る15年前の悲劇

綾辻氏の囁きシリーズ第三弾の本作は、『緋色の囁き』や『暗闇の囁き』と比べて好みでした。なにより表紙がお洒落です。黄昏時に遊ぶ5人の子供の人影、牧歌的な光景の表紙で、まず好みでした。
さて、そんな牧歌的な光景に、一つの悲劇がありました。
主人公である大学生の翔ニは、冒頭で兄を喪いました。そして、記憶の奥に封じ込めていた15年前の悲劇を、徐々に思いだしていきます。その緩やかに思いだしていく過程は非常に遅く、焦れったさを感じずにはいられませんが、とても惹きつけます。いったい、過去にどんな悲劇があったのだろうかと。これまでの綾辻作品にある独特の表現技法が、本作でも燦いて感じられました。

犯人当てとしても一読の価値があり、まだ読んだことのない方は、ぜひ挑戦してください。私は、この人が怪しいと睨み、見事当たったと思いきや、なんと、どんでん返しがあり、やられた、と思いました。
正直、辛めにレビューをすれば、偶然がすぎる、犯人の動機が弱いと、幾つか挙げることはできます。ですが、まんまとミスリードに引っかかった悔しさから、☆7の評価にしました。

シリーズものになっていますが、緋色の囁きや、暗闇の囁きを読んでいなくても、充分楽しめます。
あとがきで、いつか、囁きシリーズの第四弾『空白の囁き』を執筆したいと書いているので、楽しみに待ちたいと思います。
その前にまずは『双子館の殺人』ですね。いつか文庫で読めることを楽しみに待ちたいです。
黄昏の囁き 〈新装改訂版〉 (講談社文庫)
綾辻行人黄昏の囁き についてのレビュー
No.15: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

異常心理の極致〜痛みという感情がいかに大切かわかる小説

相変わらず久坂部ワールド全開の小説でした。
惨たらしく描写される死体、人間のどす黒い欲望、異常心理、医療が無力というメッセージ。これまで読んできた久坂部作品に共通するキーワードが、ふんだんに描かれた一作でした。

無痛というタイトルのとおり、本作には痛みを自覚できない人物が登場します。それゆえ、相手が痛みに恐怖する感情も理解できません。一種のサイコパスを相手に、主人公である医師が立ち向かいます。
この主人公もなかなかの特殊能力を持っており、外見だけで相手の病気の徴候を見つけることができます。一見馬鹿馬鹿しいようですが、丁寧に描かれ、説得力を感じます。主人公の特徴として申し分なく、本作を評価したポイントの一つです。
さて、本作におけるサイコパスは痛みの感情を知りません。それもある種、魅力といえるでしょうか。こちらは『先天性無痛症』という病気で、現に存在します。怪我をしたとき、痛みという感情がなければいいのにと、思ったことが何度かあると思いますが、痛みを知らなければ、危険かどうかがわかりません。朧げな記憶ですが、ずいぶん前に、痛みという感情のない子供が、自分をスーパーマンだと思い、高所から飛び降りたニュースがあったと聞いたことがあります。痛いという感情はなくても確実に体にダメージは与えられるので、知らないうちに命を落とすのでしょう。
また、本作にはもう一つ、刑法39条に対し問を投げかけるメッセージが込められています。心神喪失者は犯した罪を無効とし、心神耗弱者は、減刑にする。遺族からしたら、とても理不尽な法律です。本作は、精神障害を詐病し、簡単に精神障害のお墨付きを貰うという危険性も描いており、いかに刑法39条が歪んだ法律であるか思い知らせてくれます。
本作はミステリ要素はほとんどなく、ホラー要素が強いです。並のホラー小説より怖さを体験できます。グロ耐性のない方は、控えたほうがよいでしょう。
そういえば、とある明治の文豪が、作品の参考にと、人体解剖に立ち会ったというエピソードを聞いたことがあります。その点、現役の医師というのは優位なのでしょうね。(何を言いたいか、うっすら察してもらえたでしょうか)
少なくとも、以前レビューした同氏の『介護士K』よりは出来栄えが良く、少し評価を上げました。続編もあるそうなので、いずれ読みたいと思います。
無痛 (幻冬舎文庫)
久坂部羊無痛 についてのレビュー
No.14: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

映像化は不可能、けれど映像向きのサスペンス群像劇

警察は頭を働かせて犯人逮捕に繋がる手がかりを得ようと必死になりますが、犯人サイドは奸智を巡らせます。両サイドの頭脳バトルが見ものなので、ハラハラしながら読めます。ですが、両サイドは互角ではなく、犯人サイドが一枚も二枚も計算が立つため、もう少し手に汗握る攻防戦を読みたかったです。
二時間ドラマの脚本を読んでいる気分で、年末年始年始に読むのにうってつけの作品だと思います。ですが、本作は、絶対に映像化は不可能でしょう。メディアへの皮肉満載なところもありますが、とあるショッキングな内容や暴力的な描写があり、表現規制の厳しい今のテレビには、受け入れられない内容を含んでいます。
ショッキングな死体が発見されるシーンがあります。この誘拐サイトが悪戯ではないことを証明させるためかと思いきや、そこには深い犯人側の計算があります。なので必要不可欠な描写で、ミステリ要素があります。"○○○の論理"の答としては、少し陳腐な印象を持ちましたが、、、。

本作を読みながら、ドラマでありますが、相棒の『ピエロ』という作品を思いだしました。そちらの作品も誘拐劇を扱っており、かつ、ホームレスの物語も関係します。また、もう一つ、なぜ、誘拐した人物の一人を映像に映さなかったかという謎が、本作と似ている気がしました。もちろん、その答はまったく違いますが。『ピエロ』を観て楽しめた方は、本作にも満足できるかもしれません。
(ピエロの方は主人公の警部が優秀で、手に汗握る攻防戦という面で軍配が上がりますが、、、。ちなみに脚本は太田愛で、馴染みのある方もいると思います。)

本作の魅力は、なんといってもホームレスのバックグラウンドと群像劇です。ホームレスたちには、めいめいホームレスになってしまった悲劇的な出来事があり、同情を感じます。
また、この作品には数多くの人物が登場する群像劇で、それぞれの立場からの考え、台詞にリアリティがあり、感心しました。

一方で地の文には魅力が薄く、余計な登場人物も多かった印象です。
強引な展開も幾つか散見されます。細かい箇所も緻密に描けていたら完璧だったと思います。
野良犬の値段
百田尚樹野良犬の値段 についてのレビュー
No.13: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

介護の過酷さとミステリを融合させた模範作

本作は、大雑把に書くと、1.介護の過酷さ、2.介護士の不条理さ、3.主人公が推理していく過程、4.どんでん返し、という構成です。

再読し、デビュー作と思えないくらい文章力があると思いました。初めて読んだのが学生時代、まだあまり犯人当て小説に目が肥えておらず、本作がミステリとも思っていなかったので、明かされた犯人に驚きました。今読み返せば、綾辻氏の『十角館の殺人』に似た要素を感じました。小説ならではのトリックだと思います。
犯人を惑わす要素はワンアイデアと思えなくないですが、介護の過酷さが強烈に描かれ、上手に機能しています。最後の最後まで犯人をミスリードし、結末に犯人を明かし、頭が?になったところを、その疑問を華麗に回収します。とてもお見後です。ミステリ初心者にお勧めできるし、ミステリ通も騙される人がいるかもしれません。
本作を評価したもう一つのポイントは、文章の読みやすさです。とても頭に入ってきやすく、物語の構成も上手です。
途中に出てくる薬物やら詐欺やらは蛇足な気もしますが、、、。

お勧めしづらいとすれば、冒頭の介護生活の地獄絵図と、主人公の魅力の薄さでしょうか。
先日レビューした『明日なき暴走』で、ミステリ要素が関係するなら暗い話も許容できると書きましたが、本作の冒頭は、眉を顰めたくなるほど描写がグロテスクです。私は頭の中で想像しながら読んでいくタイプなので、想像しただけで気持ち悪くなってしまいました。食前後に読まないほうがよいでしょう。
二つ目の主人公の魅力の薄さですが、本作の主人公は、正義感と熱血に溢れ、性善説を信じる検察官ですが、いまひとつ魅力が乏しかった印象です。信じていた性善説をロストさせるためにそういう特徴にしたのでしょうが、私には熱血感が過ぎて共感もしづらかったです。嫌なことがあると耳の奥が疼くとありましたが、後の作品に登場する奥貫綾乃にも似た特徴があったはずで、あまり個性がないです。

ですが、社会小説としてもミステリ小説としても充分ですし、文章も巧みで満足できる作品でした。
ロスト・ケア (光文社文庫)
葉真中顕ロスト・ケア についてのレビュー
No.12: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(6pt)

テレビ業界への痛烈な皮肉が込められた風刺小説

本作のテーマは、ずばりテレビ業界への皮肉です。
主人公はテレビ業界で下請けのような仕事をさせられている男で、彼は日頃から、やらせの報道を行っていました。不良少年らの非行をカメラに収めるのですが、実は彼らは主人公の悪友。しかし、スクープを連発する主人公を怪しむ同僚に身の潔白を証明しようと、巷で騒がれているシリアルキラーを捕まえようと調査していく内容です。
全体を通して暗いトーンの調子の話です。なので、ほのぼのした内容が好きな方には勧められません。ですが、私はバッドエンドだろうと内容が暗かったとしても、ミステリ要素があれば気にならないので、楽しく読めました。
若い読者をターゲットにしているためか、若者言葉が頻出していました。ネットと疎遠な年齢高めの方には、不向きかもしれません。YouTubeをツベと呼んでいたり、お疲れを乙と略していたり。テレビの偏向報道などへの皮肉も満載で、読んでいてリアルさがあり、とてもおもしろかっです。
本格ミステリ出身の作者なので、このようなサスペンス的作品は珍しいと思いますが、最後に驚きの結末があります。ただ、それが痛快なオチと思えず、あまりカタルシスを得られませんでした。後付けの結末ではないと思いますが、少し納得がいかなかったです。なので、評価は☆6としましたが、内容的には☆7でもよいくらいです。
何より作者が旧ツイッターの特徴を勉強していたり、根暗なシリアルキラーの心情を緻密に描写していたり、若者言葉を多用していたりで、とてもリアルです。おそらく挑戦的な内容なのでしょう。
ネットでテレビへの不信が募っている昨今、私と同じような世代の読者が読んだらどれほど心にささるのか、気になるところです。
明日なき暴走 (幻冬舎文庫)
No.11: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

テーマは遺伝子と家族の絆

三度目か四度目の再読となりました。
とても内容が充実していました。放火やDNA、グラフィティアートなど要素が多いですが、家族の絆がメインテーマに思えました。
放火された現場近くに残されるグラフィティアート。その共通点を主人公が見つけたときは、あまりなんとも思いませんでしたが、さらに遺伝子の謎を追求し、アミノ酸の暗号を調べるうちに一つのメッセージが浮かび上がったとき、少し感動しました。作者はここまで計算して話を作り出していたのかと。
また、登場人物の個性が豊かで気に入りました。特に私は、病室で癌と闘う父親の人となりが気に入りました。兄弟と一緒に放火とグラフィティアートの関連を調べる姿に微笑ましさを感じましたし、何より、最後のシーン。「お前は、俺に似て嘘をつくのが下手だからな」何げない一言のようですが、この小説を読む前と読んだ後とで印象ががらりと変わり感動します。

伊坂作品は少し奇を衒った文章を書くことが多いですが、本作は私は好みでした。
ただ、あまり話を逆算して描いているため、途中に出てくる"橋Ⅰ"、"橋Ⅱ"は、なんの話をしているのか初読のときはわかりづらいかなと思います。
ところで、橋Ⅱに登場した謎の男が、ある島で不思議な島で、未来を預言するカカシなど奇妙な体験をしたとありましたが、ひょっとして過去作と繋がっているのでしょうか。そちらも読んでみたいと思いました。
伊坂作品にはぶっ飛んだ設定の作品が多い印象で少し苦手意識がありますが、本作はとてもお薦めです。
重力ピエロ (新潮文庫)
伊坂幸太郎重力ピエロ についてのレビュー
No.10: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(5pt)

心理分析により犯人を導く斬新な推理手法、、、なのだけど

初めて著者の本を読みました。
本書は、作者と同名のヴァン・ダインが、シャーロック・ホームズにおけるワトソン助手よろしくファイロ・ヴァンス氏の推理を記録した形式をとっています。
事件は証券会社の経営者・ベンスン氏が、額を銃で撃ち抜かれたというもの。警察は、現場に残された犯人の遺留物らしきハンドバッグやアリバイ、動機などから犯人を絞ります。対してヴァンス氏は、この事件の特性から犯人の性格を予想し、推理していきます。
作中で検事に対し、アリバイや動機など信用できないなど持論を見せていて、珍しい探偵だなと思いました。
若干不満だったのは、探偵小説の性(さが)だからでしょうか、ヴァンス氏が、なかなか推理を披露しないことでした。最後になって、「私は、事件現場を訪れてすぐ、犯人の目星がついてました」ようなことを言ってるのですが、それならそれまでの話はなんだったのだと、思ってしまいます。探偵の天才性、変人さを表現するためか、ほかの作品でも度々散見されますが、中弛みする原因にもなるので、あまり良い手法とは思えないです。
2点目、作品を記録してるはずのヴァン・ダインが、まったく話に登場しないこと。一言も発言することなく、まるで幽霊視点なのかと勘ぐってしまいました。

決しておもしろくないわけではないですが、事件が小規模で、総じて話に派手さが少なく、記憶に残りづらい凡庸な作品でした。
とはいえヴァンス氏の人柄には魅力あるので、これ以降に書かれた作品も読んでみたいと思いました。
ベンスン殺人事件 (創元推理文庫 103-1)
ヴァン・ダインベンスン殺人事件 についてのレビュー
No.9: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

トランクの行方とアリバイ崩し〜論理を突き詰めた究極のパズル小説

本作は、刑事である鬼貫が主人公となって、事件を追います。よくある刑事小説とは違って鬼貫刑事には刑事臭さがなく、純粋に謎を追うため機能してくれます。
事件の舞台は九州。溜まっていた有給を消化して、顔見知りの婦人の依頼によって事件の調査を引き受けることになります。
出版されたのが1950年とあるので、半世紀以上も前の作品なのですが、とっつにきにくい文章は少なく、意外とスラスラ読むことができました。ですが、他のレビュアーさんの意見にあるとおり本書が読みづらくさせる要因は、事件の複雑さでしょう。
トランクの行方を追ったり、死体の行方や、犯人と協力者の行動を追わなければならず、頭がこんがらがってしまいます。
途中、参考のために図や時刻表を挟んであったのは、作者なりの配慮で助かりましたが。しかし、時刻表も細かく時刻が書いており、私など読み飛ばしてしまったので、鬼貫の推理のときのみ役に立ちましたが。(推理パート前に時刻表を仔細に読み、事前に謎を看破できる読者がいるのでしょうか?)
ただ、解決パートはなるほどと納得できました。鬼貫の推理の過程、矛盾、解決まで丁寧に描かれていました。
登場人物が少なかったのも親切だったと思います。実質、容疑者は二人ですが、私は絶対に犯人はこの人だろうと思い、見事的中していました。フーダニット小説ではないので、読者の八割近くは犯人を当てることができると思います。
次に再読するときにはメモ帳とペンを用意して、トランクの流れと犯人の行動を整理しながら読もうと思います。

それにしても、マッチ棒をいじっている合間に、このトリックを思いついたと自著解説にあるので、凄いと思いました。
黒いトランク (創元推理文庫)
鮎川哲也黒いトランク についてのレビュー
No.8:
(4pt)

作者の苦悩が伝わってくる難解小説

分厚い小説でした。何しろ600ページを超える長篇です。そのため満足感が相当得られました。ページ数を確認せずAmazonで注文したので、こんなにも重厚な本だとは思いませんでした。
本作はSF要素を孕んだ奇書だといえます。あらすじとしては、主人公である少年が、学校帰りに、いつも通らない道に寄り、不思議な博物館を訪れます。そこはミュージアム・ミュージアムと紹介されるとおり、世界各地、しかも時を超えて昔のミュージアムの作品を見られるという、魅力的な場所です。そこで出会った少女と冒険をします。一方、古代エジプトの考古学者のパートも並行して描かれます。
そのエジプトの蘊蓄が凄まじかったのが、私に難解に感じさせた一つです。聞き馴染みのないカタカナ語が並べられ、元々エジプトの地理やら歴史やら知識がないと、頭に入って来づらいです。作中、二度ほど藤子不二雄先生の「恐竜の話を描くんだったら、恐竜博士になるくらい恐竜について勉強しなさい」という名言が引用されており、それを忠実に守っているのだとわかります。
そして、もう一つのパートは、とある作家の執筆風景です。物語の前半では執筆パートは少なめですが、後半になると執筆パートが増えていきます。
この物語を奇書だと表現したのは、これらのパートの構造です。あまり語るとネタバレになりますし、読み終えて消化不良の私自身、まだ物語の仕組みがイマイチ理解できていません。ただ、作者が、物語の創作そのものに苦悩して書き上げたのだろうことは伝わってきました。研究者というバックグラウンドがあるだけに、頭の構造が凡人には伝わりづらい難点がありました。

ただ、作中の主人公の夏休みの風景は昔懐かしさを思わせる美点があります。推理小説を読んだり、友人と雑誌を作って推理小説の共作をしたり、充実した夏休みを過ごしていて羨ましかったです。私の小学生時代の夏休みなどボケっとしていたので、もう少し遊んでおけば良かったと、しみじみ思いました。
どうして博物館に不思議な力があるか、科学的に説明もされていてプラス評価にもなります。

タイトルから子供向けのファンタジー作品だと侮るなかれ、読解困難な難解小説です。ラノベ過ぎるのも良くないですが、読者を置いてけぼりにするような設定も考えものだと思いました。
設定はおもしろいのに巧く活かせなかった惜しい小説という印象です。複雑な小説や、古代エジプトについて造詣の深い方はぜひ。

蛇足ですが、文中に、国語の問題について、筆者が何を主張したいかわかるわけないという意見に、大きく賛同しました。
蛇足ついでに、河出文庫から新しく発売された本作を読んだのですが、482ページに、亨(主人公の名前)は"美学"の両手を振り払ったとあり気になりました。"美学の両手"なんて表現があるのだろうかと疑問に感じ調べても出てきません。ひょっとしてこれは、"美宇"という少女の名前ではないか、誤植ではないでしょうか。
八月の博物館
瀬名秀明八月の博物館 についてのレビュー
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(6pt)

異常者はどこにいる?

本作は、兄妹と兄弟の視点で並行して物語が進められます。
兄妹は母親を交通事故で亡くし、父親から暴力を振るわれ、兄が密かに父親を殺害しようと計画することから始まります。
兄弟も同じく母親を海で亡くし、その死に継母が一枚噛んでいるのではと疑います。
二つの視点で物語が進む場合、意外な所で繋がりがあっておもしろいのが醍醐味でしょう。まったく別の事柄と考えられていた二つのエピソードが、実はリンクしていたら高評価したくなります。

では、本作はどうか。それぞれの話が独立していて、残念ながら意外な繋がりは見つけられませんでした。正直、一方のエピソードをそこまで深掘りした意図がわかりませんでした。
ですが、意外性は充分にあり、ミステリ好きには堪らないと思います。私自身、作者のミスリードにひっかかり、真相の一歩手前までは騙されていました。読んでいて違和感が生じた箇所があったので、少し悔しかったです。
真相が判ったとき、実はあのとき、何が起こっていたのか明かされ、驚きました。そして、本作の犯人の異常性、、、。
とても読み応えがあり満足できる一作でした。

☆7にするか揺れましたが、先に挙げた一方のエピソードの付属的な要素と、度々文中に登場する龍の唐突さが理解できず、マイナス1した評価としました。

▼以下、ネタバレ感想
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龍神の雨 (新潮文庫)
道尾秀介龍神の雨 についてのレビュー
No.6: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(3pt)

老いの苦しみ  理想論vs現場の声

これまでの久坂部作品でも医療の現実について描かれていましたが、本作は、介護現場の過酷さが色濃く詳述されていたと思います。
今回のテーマはタイトルどおり『介護』。人生100年時代を美辞麗句に長生きできる社会になった反面、認知症や褥瘡で悲惨な状態になってもなお、機械で命を長らえさせることの是非。メッセージ性があり、考えさせられる小説でした。
とある介護施設で入居者が転落死するニュースを目にし、主人公である女性ルポライターが不審に思い、調査に乗り出すところから話は始まります。その不審に思った点は、さすが、医師と作家の二足のわらじである作者ならではの着眼点で感心しました。作者が医師でもあるだけに、死体の描写もリアルに感じられました。ホラー小説ではないのに、空恐ろしくなります。
ただ、物語としてどうかというと、辛辣にならざるを得ません。先ほどホラーではないと書きましたが、ではミステリーかというと、それも当てはまらないです。純文学ともまったく異なります。
だからでしょうか、ミステリ好きな私には、あまり楽しめませんでした。また、主人公の女性ルポライターが、入居者を転落させたかもしれない人物Kに、中盤から共感しているのも、どうかと思いました。そこは対立軸として相容れないということを貫いてほしかったです。
そして致命的にマイナス評価になったのは、現実の犯人を擁護する描写があったことです。たしかに、ひょっとするとメディアの印象操作により、犯人の人物像が歪められ、子供時代のエピソードを悪く脚色した部分はあったかもしれません。ですが、大勢の入居者を死傷させたことは事実であり、肯定してはならないと思います。
話がとっ散らかってると思ったら案の定、連載していたものを一冊の本にしたようなので、もう少し煮詰めて書けば、出来栄えが良くなったのではないかと思える一作でした。
介護士K (角川文庫)
久坂部羊介護士K についてのレビュー
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(6pt)

序盤は『キングを探せ』を想起させるパズル小説

複数の人物が犯罪に加担するが途中で犯人側に不測の事態が発生する、、、。最近、キングを探せのレビューをした際、『疾風ロンド』に似ていると書きましたが、本作こそまさしく類似していました。
『ブルータスの心臓』では、3人の男が死体をリレー方式で運び、アリバイも担保するというもの。本作では第一章の終わりに、犯人にとっての不測の事態が起こります。こういう展開だとおもしろいなと予想しながら読んでいた私は、想像が当たり、思わずニヤリ。さすが東野圭吾、読者を驚かしてくれるなと思いました。
そして、主人公の疑心暗鬼。顔もわからない人物から狙われサスペンスに満ち、これは当たりだと思いました。

ではなぜ私が評価を☆6にしたか。
本作は、殺人リレーに加担することになる主人公の男、同じ職場に勤務する女性社員、事件を捜査する刑事の3人の視点で物語は進められます。なんといっても見ものは主人公の視点ですが、刑事の視点になると、どうも、話が冗長とでもいうのか、すでに読者の知っていることをなぞって事実がわかるのが退屈に感じられました。(これは、キングを探せを読んでいるときも思いました)これが倒叙物の欠点なのでしょうか。それでも刑事の視点に意味があると思い、結末まで読みましたが、やっぱり刑事視点の描写はいらなかったと思います。刑事の口調にも違和感がありました。刑事小説ではないので目は瞑りますが、若手とはいえ、刑事が自分のことを僕なんて言うのかなと。聞込みの前に私的な買物をする描写もどうかと思います。
それから登場人物が多い故に誰が誰だかわからなくなる点。あまり細かすぎる描写は不要ですが、人物の相関関係が複雑で理解しづらかったです。
そして結末の尻切れトンボ感。終盤駆け足になって、これで終わりなのと唖然としました。皮肉ある結末でしたが、では最後の、専務と宗方のやり取りは、なんだったのだろう。ひたすら上を目指し、逆玉の輿を狙い、関係を持っていた女性を捨てるという非情な男が、簡単に見捨てられるという、これまた皮肉なのだろうか。
第一章を読んだ時点での期待との落差があり、少し残念でした。
ブルータスの心臓 新装版 (光文社文庫)
No.4: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

文学的でミステリアス、豪華な短編集

本書は6編の話をまとめた短編集です。
まず、そのどれもが文体が魅力的でした。主人公の心情、風景描写などに趣があり、詩や文学的な要素を感じ、味わうようにして一文一文読みました。
作者の本を最初に読んだのが『氷菓』だったので、その違いに驚かされました。氷菓の主人公、折木奉太郎が厨二病のような少年で、それに合わせたように氷菓は文体も気障な感じで、海堂尊を想起させました。私には合わないなと思って時間が空きましたが、作者、米澤穂信氏があらゆる文学賞で受賞しているのを知り、本書を手に取りました。
この文体の違いはなんだろうと驚きました。処女作だったので文体に洗練さがなかったのか、それとも、作者の想像する世の男子学生が浮世離れしているのか。とても興味深いです。
さて、私は本書では『夜警』と『万灯』がお気に入りでした。
第一章の夜警は、タイトルどおり警察小説。皆さんと同じくミステリ小説を好む私は、警察小説に苦手意識を持っています。テレビドラマによくある刑事ものは概して冤罪やら警察批判、政治家の汚職やらで二番煎じ、テレビの御意見番みたいな人は好むでしょうが、私はその手のものに辟易します。ところが、夜警はテレビでありがちなものと違う新鮮さがあります。人間向き不向きがあり、警察官に不向きな人が警察官になるとどうなるか、ミステリ要素もあり、おもしろいアプローチでした。

第四章の万灯もなかなかの傑作です。殺人の罪悪感、そして一度人を殺すと、次に殺すことの抵抗も減っていく。短いながら華麗に描かれ、何げない伏線、異国の相手とのビジネス交渉の難しさも詳述され、なんといっても綺麗な話の着地。とてもお見事でした。

三冠を獲得したのも納得の短編集でした。
今後も米澤作品を追っていきたいと思います。
満願 (新潮文庫)
米澤穂信満願 についてのレビュー
No.3: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

作者のミステリ愛が窺える怪奇ミステリ

この作者さんの本を読むのは2冊目です。以前読んだのは『東尋坊マジック』といって、旅行代理店の水乃サトルという、本作とは別でシリーズ化されている探偵物の一作でした。そちらのほうは登場人物のセリフが多く、物理トリックもやや難解で、頭に入ってこなかった印象がありました。
比較して本作は、なかなか出来が良かったです。昭和の時代を描いているため、雰囲気が横溝正史を思わせます。
本作のメインの謎は3つ。現場に犯人の足跡のない事件が2つと、犯人の出入りが不可能な密室殺人。東尋坊マジックとは異なり、正統な本格ミステリと呼べます。
また、特徴として注釈が多く見られます。後半の謎解きするにあたって、この伏線は〇〇ページに書いてあったと説明してあるので、わざわざ探す手間が省けて親切です。また、物語の前段、昔の事件で足跡のない現場の殺人を解説するにあたり、様々な古典ミステリ小説を引き合いに出し、トリックを分類しています。作者がたくさんのミステリを読み、ミステリを愛しているのだと窺えました。
ただ、先に挙げた本作の3つの謎とは別に、犯行を予告した不審人物が、足跡残すことなく消えた謎について如何なものかなと思います。後半の足跡のないトリックを引き立てるためにジャブ程度に描いたのでしょうが、トリックがあまりに陳腐で、先行き不安に感じました。メインでないとしても、もう少し捻ってほしかったです。
それからもう一つ、過去に起こった事件を解説するシーン。東尋坊マジックと同じように、セリフが長々続きます。まずは自力で過去の事件を調べて予備知識を得て、それから当事者の当時の状況を語ってほしかったです。
他にも、いくら別解潰しとしても探偵が低レベルな質問をするシーン、ワトソン役の主人公の迷推理に賞賛してしまう迷警部、犯人との格闘シーンで急にレベルを落としたような低レベルの文体など、気になる箇所が目立ちましたが、概ね満足できました。
作品の雰囲気◯、メイントリック◎ですが、細かなところで△
評価は☆7としておきます。
吸血の家 (講談社文庫)
二階堂黎人吸血の家 についてのレビュー
No.2: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

予定調和で終わらないカードマジック

学生時代以来、2度目の再読をしました。
本格ミステリで第1位だっただけあり、とても面白かったです。意外と展開やら結末やら忘れていたので、初読のときと同じ新鮮な気持ちで楽しめました。
まず、四重交換殺人という発想に敬服します。私は実験的なミステリが好きなので、誰も書いたことのないアイデアを起点に進行していく話に評価が高くなります。そして、物語は予定調和で終わりません。序盤から少し物語が進行したベージで、犯人側にとって不測の事態が起こります。その、本流を裏切る流れは、東野圭吾氏の疾風ロンドを思い起こさせました。
私は、今回再読したとき、犯人のハンドルネーム4つと、殺すターゲット、殺す順番を、それぞれメモしていました。未読の方にもお勧めです。そうすることで、次に(♡◯)、誰が、どのターゲットを(♤◯)殺すか流れを追えるだけでなく、自然と作者の術中に嵌まってしまうのです。
途中、カードの引く順番と、自分が殺したいターゲットを自分が殺せない問題について、作者が探偵法月氏の口を借りて(作者も本書の探偵と同名なので紛らわしい)講釈する場面があります。その思考は、まさしく四重殺人という特殊ケース故に発生しうる問題で、若干小難しくなっているきらいがあります。まさしく論理的思考の極地に感じられました。
さて、最後にタイトルにも書いたカードマジックについて。本書がカードを用いているからだけでなく、結末で明かされる真相が、たしかになるほどと唸らせられるのですが、どうしても、他のレビュアーさんが評価しているように小粒に思えて仕方ありません。冒頭の伏線が回収され、終盤、罪が軽くなるよう弄した犯人の一人の策略など、なるほどと思わせられますが、いかんせんパンチが弱い。もう少し話を壮大にできる余地はありそうです。
なので例えれば、大脱出マジックではなく、マジシャンの手元で驚かされるカードマジックという表現が相応しいです。
けれど、読み応え抜群、ミステリ好きにお薦めできる一級品でした。
キングを探せ (講談社文庫)
法月綸太郎キングを探せ についてのレビュー
No.1: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(4pt)

短めの話を13個収録した豪華な短編集・・・

初めてレビューをします。
本書は、見出しのとおり13個の話を収録した短編集です。13個も収めてあるので豪華と感じる人もいれば、その分、1話あたりの話が短く、物足りなく思う人もいるでしょう。
私は本書を読み終え、ドイルのホームズを思いだしました。本書における探偵、ミス・マープルが、火曜クラブに集った面々からの話を聞き終え、すぐに真相を見抜くのです。超人といってよいでしょう。私はホームズシリーズを齧ったほどしか読んでいませんが、謎が提示され、すぐに解決してしまうのですから、読者に推理させる暇がありません。なので、推理するよりかはマープルの推理のキレの良さを楽しむことに力点を置いて読むほうがよいかもしれません。
13個の話を平均して星4つとしましたが、際立っておもしろいと思ったものもありました。『聖ペテロの指のあと』は、英語ならではのアイデアが活かされていると思いましたし、『溺死』は、より一層、マープルの慧眼に畏れ入りました。

ところで、作中に『卵の黄身"が"白いか、それとも、卵の黄身"は"白いか』と問う文章が気になりました。いわゆる助詞にスポットを当てていると思いますが、英語圏に助詞など関係あるのでしょうか。いずれもisで表せそうですが、、、。原文が気になるところです。
火曜クラブ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
アガサ・クリスティ火曜クラブ についてのレビュー


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