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iisan さんのレビュー一覧
iisanさんのページへレビュー数1167件
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初読の作家で、先入観なしに読んだ。家族とは何か、どうあるべきか。家族とはゴールなのか、どん詰まりなのか。最後の決断まで引っ張っていく物語構成は上手いと思うが、読後感はもやもやしてしまう。まあ、それが家族というものなのだろう。
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法廷ミステリーの巨匠・マーゴリンが約20年ぶりに日本上陸。1枚の写真に魅入られた作家志望の女性が、その写真の謎を解こうとして10年前の未解決殺人を解明することになるサスペンス・ミステリーである。
作家を目指してN.Y.に出て来たものの小説は書けず、仕事も退屈で行き詰まっていたステイシーはたまたま目にした「夜の海辺で銃を持つ花嫁姿の女性の後ろ姿」の写真に魅入られた。誰が、どんな意図でこの写真を撮ったのか。その背景を絶対に小説化したいと決心したステイシーは会社を辞め、撮影場所であるオレゴン州の海辺の町へ飛んだ。写真が撮影されたのは10年前で、被写体の女性は富豪との結婚式の翌日に夫殺害容疑で逮捕された花嫁・メーガンだった。メーガンが持っていた銃は夫殺害の凶器と判明したのだが、本人は記憶を失ったため何も覚えていないという。 10年前の事件、その5年前の出来事、現在の進行中の調査の3つのエピソードを行き来しながら大きなドラマが語られる。一見、複雑な物語だが3つの時代がちゃんと分けられているので理解しやすい。素人探偵役のステイシー、写真を撮った元弁護士で写真家のキャシー、被写体のメーガン、3人の主役の女性のキャラクターがくっきりしているのも読みやすさにつながっている。過去と現在がつながり、悲喜劇が生まれ、謎が解明されるストーリーは法廷ものに定評ある作家らしく論理的で納得感がある。 謎解きミステリーのファンにオススメする。 |
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シェトランド島を舞台にした「ジミー・ペレス警部」シリーズで知られるアン・クリーヴスの新シリーズ第一弾。イギリス南西部ノース・デヴォン地方を舞台に気鋭の警部が複雑な殺人の謎を解いていく警察群像ミステリーである。
マシュー警部が初めて指揮を取る殺人事件は、最近町にやって来たホームレスのようなアルコール依存の男性が海岸で刺殺された事件だった。被害者が地元の有力者が運営する施設に関わるとともに、有力者の娘の自宅に下宿していたことが判明。さらに、その施設内に設けられたデイケア・センターでボランティア活動をしていたことも分かった。マシューは直属の部下であるジェン、ロスの二人の刑事とともに精力的に捜査を進めたのだが、事件関係者はマシューの知人ばかりだし、極めつけは施設の管理責任者がマシューのパートナーのジョナサンだったため、マシューは人情と倫理の葛藤を抱えることになる…。 誠実な若き警部の苦悩を主軸に捜査側、被害者、犯人たちの心の揺れ、人間の多面性を丁寧に描き、物語は謎解きミステリーであるとともに人間観察のドラマでもある。事件の発端から解明までブレが無い構成なので読みやすく、緊張感のある結末も納得できる。 英国警察ミステリーの王道を行く作品として、自信を持ってオススメしたい。 |
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1年半ほど前にネグレクトを疑った児童相談所から逃げ、二人の男児を連れて寝場所を提供してくれる男のもとを転々としてきた32歳の亜紀。現在はホスト崩れの北斗の家に転がり込み、12歳の優真と4歳の篤人はほったらかしで遊び歩いて家に帰らない日々だった。学校には行かせてもらえず、空腹に耐えかねた優真がコンビニで「捨てる弁当をください」と頼み店主の目加田と面識を得たことから事態は大きく変貌していった。
児童保護所を経て目加田の里子となった優真は普通の小学生、中学生の生活を始めたのだが、生育過程で全く社会性を身に付けられなかったため周囲にうまく馴染めず、社会からはぶかれたコンプレックスを抱くようになる。自分の内面を言語化できず、他者の目で評価する基準も持たない優真の行動は空回りするばかりで、社会適応の努力は優真を更に苦しめるのだった…。 ネグレクト、貧困、性差別、経済的格差から生じる情報格差、共同体支配の過酷さと脆さなど、ここには今の日本の分断の実相が露わに語られている。重いテーマと絶望的なストーリーだが、さすがに超一流のストーリーテラー・桐野夏生だけあってとても読みやすい。 読めばきっと何かを突き付けられる怖さはあるが、ぜひ一読をオススメしたい。 |
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2019年の翻訳ミステリー大賞を受賞した「11月に去りし者」から5年ぶりの新刊。最低賃金の仕事でダラダラ暮らしている若者が、ふと見かけた虐待の跡が残る幼い姉弟を救うために奮闘する青春ハードボイルドである。
ディズニーのまがいものの遊園地で最低賃金の仕事に就き、友人とマリファナを吸って日々を過ごしている23歳の負け犬・ハードリーは、市役所の窓口で並んでいる時に、足にタバコの火傷の痕が残る幼い姉と弟を見かけた。気になったハードリーは児童保護サービスに伝えるのだが、彼らの反応は鈍く、ほとんど動こうとしない。役人の怠慢にうんざりしたものの、そのまま見過ごせないと思ったハードリーは自分で調査を開始する。姉弟の母親の名前を探り出し、高級住宅地にある家を突き止め、弁護士である父親がDVを行っているのではないかと結論つけた…。 落ちこぼれの23歳の若者が不幸な親子を助け出すヒーローに成長する素人探偵ストーリーだが、王道のP.I.ものとは異なって、主役が頼りないのが読みどころ。さらに主人公を助ける周囲の人物たちがそれぞれに個性的で魅力的。特に前半はコミカルなエピソード続きでユーモア小説風なのだが、終盤になると一気にサスペンスフルになる展開の妙が上手い。物語の幕引きはやや唐突で、賛否両論あるだろうがインパクト大である。 現代を感じさせる、軽めのハードボイルド好きの方にオススメする。 |
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2023〜24年に週刊誌連載された長編小説。東日本大震災に見舞われた東北を舞台に、自然災害と殺人事件を重ねて人生とは何かを問うヒューマン・サスペンスである。
大震災から2週間後、岩手県の小学校体育館に立てこもった22歳の真柴は一般人と警官、2名を殺害し逃亡中だった。真柴は体育館に避難していた被災者たちと、それとは別に男児を人質にとっており、未曾有の災害による混乱に殺人犯の逃亡という不安が重なることを嫌った警察上層部は警視庁SATを派遣し、事件の早期解決を決断した。 真柴が殺人犯として逃亡することになった経緯を中心に、地元署の警部補・陣内をはじめとする被災者のそれぞれのドラマを絡め、濃厚な人間ドラマが展開されるストーリーは力強く、ページを捲る手が止まらない。なぜこんなことが起きたのか、あの時、別の選択をしていたらどうなったのか、大災害の前では人間は無力なのか。災害を生き延びた者、親族を亡くした者、様々な人物像に感情移入してしまう吸引力がある作品である。 震災の被害の有無に関わらず何かしら心に響く傑作であり、多くの方にオススメしたい。 |
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2023〜25年に週刊誌に連載された長編小説。「こんなものじゃない」はずの自分に取り憑かれ、夢を追い続けた昭和男の波瀾万丈の生き様を描いたヒューマン・ドラマである。
桜木作品には珍しく男(著者の父親がモデル)が主人公で、遠慮のない筆致が快い。夢を追う男の身勝手と、それに振り回されながらも妙な納得を納めている女たちの人間模様は、著者曰く「生きることは滑稽」を体現している。人間の馬鹿さ加減と人間らしさは表裏一体、他人が簡単に評価できるものではないと教えてくれる。 読めば誰もが、登場人物の誰かに感情移入してしまう傑作であり、多くの人にオススメしたい。 |
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2023年〜24年の文芸誌連載の加筆、改題作品。幻の作品と思われた映画のフィルムが発見されたのきっかけに、定年退職した老人が自分も関わった50年前のベルリン映画祭での出来事を回顧し、人探しをするノスタルジックな人探しドラマである。
大前提として映画好きであること、時代に翻弄される人生に共感できることが、本作を楽しむ条件となる。突然現れた若い女性から「あなたは、わたしの祖父ですか?」と始まる、現代での人探しと、それをきっかけに1976年のベルリンでの人間模様を紐解いていく過去のヒューマンドラマが交互に語られていく構成で、ミステリー的要素は最後の種明かし部分だけ。 ミステリーを期待すると肩透かしだが、主人公と同年代で歴史的背景をすんなり理解できる人には、ノスタルジックな青春物語としておススメできる。 |
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AA(アルコホーリック・アノニマス)ならぬAA(アサシンズ・アノニマス」に通い、不殺の誓いを立てた世界最高の暗殺者が命を狙われ、ニューヨーク、シンガポール、ロンドンと逃げ回りながら襲撃をかわして行く、なんとも不思議でもどかしい設定のアクション・サスペンスである。
オーソドックスな暗殺者ものであれば、いかに鮮やかなテクニックを駆使してターゲットに接近し目的を遂げるか、あるいは襲い来る敵に反撃するかが読みどころだが、本作は「絶対に相手を殺さない」誓いという手枷足枷があるため、殺意を持って襲ってきた敵を殺さないで倒すという、不可能に近いアクションが最大のポイント。しかも、世界一の暗殺者として成功してきたため殺すことの快感を知っており、本能的な殺害衝動が身に付いているという厄介なキャラクター設定で、読む側の予測を裏切り続ける展開が連続する。なかなかスムーズに読み進められない奇想天外な構想で、読者を翻弄するのが読みどころではある。 色々ひねり過ぎの感もあるが、これまでにないユニークな暗殺者ものとして一読の価値ありと、おススメする。 |
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アメリカでは2005年に刊行された「泥棒ドートマンダー」シリーズの第12作。不運の犯罪プランナー・ドートマンダーと仲間たちが、大富豪の留守宅から秘蔵の美術品を盗み出すコミカルな怪盗物語である。
故買屋・アーニーから持ち込まれた話は、「もう数年に渡ってカリブ海の地中海クラブで逃避生活を送っている大富豪・フェアウェザーのN.Y.のペントハウスには高価な美術品などがある。それを盗み出せば売却金額の70%を渡す」というものだった。乗り気になったドートマンダーは早速、いつもの仲間に声をかけ、アジトにしている酒場の奥の部屋を使おうとしたのだが、部屋の前には人相の悪い二人組が居て部屋を使えなかった。よくよく話を聞くと、代替わりした新しいオーナーが無能でマフィアの関係者に乗っ取られそうになっているようだった。そこでドートマンダーたちは、窃盗の前にアジトを取り返すことにした。同じころ地中海クラブではフェアウェザーが誘拐されたのだが、すんでのところで脱出し、ペントハウスへ戻ることにした。かくして、ドートマンダーたちは侵入した無人のはずの邸宅で、フェアウェザーと鉢合わせることになった…。 怪盗たちの立案と実行、被害者の能天気な言動が絡み合うスラップスティックが読み進めるほどにじわじわと効いてくる。派手ではないし、深みのある話でもないが、その分、罪もない。暇つぶしには最適な気軽なエンタメ犯罪小説としておススメしたい。 |
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本屋大賞作家の初のサスペンス巨編!って売り文句はちょっと強引。ヒューマン・ストーリーとしては良くできている作品なので、いじめの加害と被害に焦点を絞った方が良かったと思う。
山で身元不明の老人の死体が発見されるオープニングはミステリーだが、真相を解明するプロセスがミステリーとしてはシンプル過ぎる(偶然の重なりで謎が解かれていくので緊張感がない)。エンディングのエピソードもミステリーやサスペンスではなく、人間の気付きのお話でしかない。 繰り返すが、ヒューマン・ストーリーとしては良くできており、オススメしたい。 |
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デビュー作にして2023年度エドガー賞最優秀新人賞を受賞した、本格スパイ小説。激動期の中東でCIAケースオフィサーとして勤務した著者が、その体験をベースに書き上げた、リアリティ豊かなスパイ・サスペンスである。
バーレーンのCIA支局員・シェーンは、自分の息子とさして歳の違わない上司にうんざりしながら適度に仕事をこなし、酒浸りで年金を貰える日を待っていた。それでも、唯一の情報提供者との接触の中でバーレーン反政府派の気になる動きを察知し、探りを入れると、首都の中心部で起きた爆弾事件が政府による自作自演ではないかと思い始めた。さらに、偶然知り合った女性アーティストとの交際を深めることで、政府の陰謀であると確信し、その情報を本部に報告した。すると、シェーンの過度の飲酒、不適切な女性関係を理由にした退職通知が返ってきた。納得がいかないシェーンはCIA、米軍、バーレーン政府、アラブの春に感化された民衆が複雑に絡み合う騒乱のバーレーンで、真相解明のために奮闘する…。 知識が乏しい中東でも特に複雑な歴史を持つバーレーン王国が舞台で、それだけでも興味深い物語だが、さらにアラブの春という激動期の話であり、誰が誰を騙してるのか、どこに正義があるのか、最後まで先が読めないストーリーである。つまり、極めてリアルで緊迫感があるスパイ小説で、派手なアクションはなくても最後までサスペンスが味わえる、冷戦時代のスパイ小説の血統を受け継いだ作品と言える。 ル・カレ、グレアム・グリーンの世界を現代に甦らせた傑作として、本格スパイ小説のファンにオススメする。 |
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カナダ在住のオーストラリア人作家のミステリー分野へのデビュー作。若くして夫を亡くした3人が互いに支え合い、男社会に異議申し立てするサスペンス・ミステリーである。
メルボルンに暮らす3人の若い女性、夫を亡くしたという共通点でつながり、毎週集まって親交を深めてきた。今では家族同様に付き合っているのだが、それぞれ周りには知られたくない秘密を抱えていた。そこに夫を亡くしたばかりの若いハンナが加わった頃から3人の周りで不審な出来事が起きるようになり…。 主要な女性登場人物4人が、それぞれが抱える秘密に悩みながも強固なシスターフッドで結ばれ、女性差別に抗って自立を目指すストーリーは多少リアリティに欠けるもののかなりインパクトがある。境遇も性格も異なる4人のエピソードが徐々に明かされ、意表を突く展開を見せる構成も見事。 鬼畜系ではなく、イヤミスでもないサイコ・サスペンス系ミステリーのファンにオススメする。 |
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2022年から23年にかけて毎日新聞に連載された長編小説。叔父を殺害したとして起訴された青年が、裁判を通じて自分の父の冤罪をすすぐという法廷系ミステリーである。
母子家庭になった自分を親身になってサポートしてくれた大恩のある叔父を殺害したとして起訴された日高英之。才気煥発で真面目に働いていた青年がなぜ、そんな人道に反する罪を犯したのか。しかも、日高は頑強に否認し、裁判でも徹底して無実を訴え警察、検察と争った。というのも、日高には15年前に無実を訴えながら老女殺害の罪で服役し、死亡した父の無念を晴らすという秘めた目的があったからである。自らを有罪判決の危険に晒しながら権力の犯罪に立ち向かう日高の捨て身の闘争は実を結ぶだろうか…。 何度となく逆転無罪を生み出しながら何の反省も見られない警察、検察に対する怒りが根底にあり、ただしそれをストレートに出すのではなく、二転三転する裁判劇でエンタメ化したところが読みどころ。欲を言えば、同じようなエピソード、セリフが何度か繰り返されるところがなければ、もっとスピーディーで読み応えがあっただろう。 帯には「リアルホラー」とあるが、決してホラーではない。力が入った法廷劇としてオススメする。 |
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このところ邦訳が順調に刊行され、日本でも徐々に人気が高まってきたコーベンの最新作。我が息子を殺した罪で服役中の男が、息子が生きているのではないかという証拠写真を見せられ、脱獄して息子を取り返すアクション・サスペンスである。
3歳の息子・マシュウが自宅で殺害され、父親・デイヴィッドが逮捕された。自分はやってないのだが「マシュウを守れなかった」責任を痛感するデイヴィッドは、あえて無実を主張することなく終身刑で服役していた。5年が経過した頃、離婚した妻の妹・レイチェルが面会に訪れ、マシュウらしき子供が映った写真を見せられる。「マシュウは生きている」と確信したデイヴィッドは家族同然に付き合ってきた刑務所長の助けも借りて脱獄し、マシュウの存在と事件の背景を解明しようとする。警察やFBIの厳しい追及を避けながら、決死の思いで徒手空拳の挑戦を続けたデイヴィッドがたどり着いたのは、思いもよらない策謀と裏切りの物語だった。 死んだはずの息子が生きている、その可能性だけで父親はここまで危険な道を進むのか、という熱いストーリー。デイヴィッドの一途さに圧倒される反面、事件の背景や動機、ストーリー展開エピソードが軽薄で、最後まで物語に没頭できなかったのが残念。ネットフリックスでドラマ化決定したようで、確かに映像化されると良さそう。 孤軍奮闘するヒーローもののファンにオススメする。 |
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1986年から2022年まで、さまざまな媒体に掲載された身辺雑記集。子どもの頃の思い出からギャンブル、交遊、自作の解説までバラエティに富んだ内容で、短いながら随所に黒川博行ワールドの成り立ちがうかがえる。黒川ファンにオススメ。
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イギリス女性作家のデビュー作。お金に不自由なく暮らしている29歳の人気インスタグラマーが実は非道な男たちに復讐する殺人者だったという、ダークでユーモラスな風俗小説である。
ロンドンの高級住宅地から優雅な独身生活を発信し、フォロワー数百万人という人気インスタグラマーのキティ・コリンズ。同じような境遇の仲間との贅沢な日々をネットに上げ、いいねの数を誇るだけの馬鹿女のように見えるのだが、実は女性に暴力を振るう男たちが許せず、様々な手段で殺害していく凄腕の殺し屋でもある。という、何とも凄まじいヒロインがユニークで、これまでにないユーモラスでノワールな作品として異彩を放っている。 殺す相手が一人、二人ならダークなミステリーになるのだが、次から次へと殺していくことで愉快な物語に変化し、読後感は悪くない。 ユーモア・ミステリーのファンにオススメする。 |
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著者お得意のお金を巡る悲喜こもごもの物語6話。第1話で専業主婦が爪に火を灯して貯めたへそくりで買ったルイ・ヴィトンの財布を次々に手にした、30代後半、就職氷河期世代の登場人物が繰り広げる、ちょっとリアルでユーモラスで悲しいエンタメ作品である。
主題となるのはマネーリテラシー、主婦や安サラリーマン向けの節約雑誌、蓄財雑誌に常に取り上げられている情報だが、原田ひ香のストーリー構成の上手さで楽しめる作品になっている。 デフレを脱却しないうちにインフレに襲われている今の日本をあらわにした作品と言える。 |
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1954年に発刊された時の原題は「Black Friday」だがルネ・クレマン監督で映画化されたため、映画と同じタイトルが付けられたというノワール・サスペンス。警察に追われて逃げてきたフィラデルフィアで殺人の現場に遭遇し、犯人たちに捕まってアジトに連れ込まれた青年・ハートが犯人たちの強盗計画に加わるという巻き込まれ型だが、ハート自身も犯罪者であり善悪を問う物語ではない。寒風吹き荒ぶ街で倫理観なく漂うギャングたちのハードボイルドな関係がメインだが、いかんせん70年も前の話で時代のズレが隠しようもなく、ちょっと退屈。
映画を観た方が原作との対比を楽しみたいならオススメする。 |
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特異すぎる主人公のキャラ設定だけで読みたくなる、韓国発のノワール・エンタメ作品。1013年の発表当時はさほど話題にならなかったものが、SNSでじわじわ人気が高まり、2018年に改訂版を刊行、以後海外でも翻訳が相次ぎ、韓国では映画化されたという。
本作の魅力の第一は65歳の小柄で平凡な老女が凄腕の殺し屋だという、常識を突き破った主人公像にある。依頼された殺しは迅速に、手際よくこなし、しかも心理的な葛藤とは無縁のプロフェッショナルとして45年のキャリアを積み重ねてきた爪角(チョガク)だが、寄る年波には抗えず、体力はもちろん気力も衰え始めていた。捨て犬を拾い、トラブルに遭った老人を助け、ターゲットや家族の苦しみに心が揺れ始めたのだ。そんな時、同じエージェンシーに属する若き殺し屋・トゥが、なぜか爪角に突っかかり、挑発を止めようとしなかった。トゥは何を狙っているのか、確信がないまま爪角はトゥと最後の死闘を繰り広げることになる…。 訳者あとがきによると作者は「文章に関して心に決めているうちの一つは、〈読みやすくしない〉ことだ」というだけあって、リーダビリティは決してよくないが我慢して読み通せば、十分に報われる深い読後感を味わえる。 ノワール小説ではあるが、女性、老化などさまざまな問題に気づかされる傑作として、幅広いジャンルの読者にオススメしたい。 |
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