風の歌を聴け
評判
風の歌を聴けの評価:
4.07/5点 レビュー 370件。 C ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全922件 441〜460 23/47ページ
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この小説は、言わずと知れた村上春樹さんが30歳の1979年に、「群像」新人文学賞を受賞したデビュー作だ。不佞ながらも、私は、個人的に関心を持っている、作家にしろ、学者にしろ、第一作目というものに、いつも注目している。そこには、荒削り、生馴、掘り下げ不足などといった他者からの批判が付きまとうかもしれないけれど、若さゆえ、未熟ゆえの初々しさを含んだ、抑えても抑えきれないエッセンスの迸りみたいなものが充盈していることを否定できないからだ。ここで、村上さんが小説を書き出した(小説家としての第一歩を踏み出した)経緯について、少し見てみよう。
村上さんは、『職業としての小説家』(2015年スイッチ・パブリッシング)の中の「小説家になった頃」で述べている。この処女作の発端は、デビュー前年(1978年)4月の神宮球場で行われた「ヤクルト対広島戦」におけるepiphany(エピファニー)にあったらしい。1回の裏、ヤクルトのバッター、ヒルトンがレフト方向にツーベースヒットを打った。このとき、「そうだ、僕にも小説が書けるかもしれない」というepiphanyを感じた。そこから、小説を「音楽を演奏している」ような感覚で執筆し、「言語(日本語)の持つ可能性を思いつく限りの方法」で試してみたりして生まれたのが、この作品だ。
本編は「原稿用紙にして二百枚弱の短い小説」である。そして、上述の「言語の持つ可能性を思いつく限りの方法」として、文章を英文に「翻訳」し、それをまた、日本語に「翻訳」するという手法を採っている。それは「よく訓練された犬のようにレコードを抱えて帰ってきた」「それはまるで安定の悪いテーブルに薄いグラスをそっと載せるようなしゃべり方だった」「ベッドに戻った時には彼女の体は缶詰の鮭みたいにすっかり冷えきっていた」「砂漠のような沈黙の乾きの中に僕の言葉はあっという間もなく飲み込まれ、苦々しさだけが口に残った」といった比喩や表現に出ていると思う。
これらの言い回しの巧拙については、私は別に文章の専門家でもないので差し控えたい。ただ、本書を耽読する中で、印象深い表現だな、と私は感じている。谷崎潤一郎は『文章讀本』で、文章を「眼で理解する」ばかりでなく「耳で理解する」ことの重要性を訴えているが(それが「分からせる」ことと「長く記憶させる」ことに繋がる)、明治以降、「翻訳文」に慣れ親しんできた日本人には、存外、村上さんの独創的な表意も咀嚼可能かもしれない。それはさておき、本編は一種の“青春小説”として受け止められるけれども、「昼の光」と「夜の闇の深さ」の連接が、少し見えづらい気がした。