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ホテル・ネヴァーシンク



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【この小説が収録されている参考書籍】
ホテル・ネヴァーシンク (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1962)

ホテル・ネヴァーシンクの評価: 4.75/5点 レビュー 4件。 Dランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点4.75pt


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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全4件 1~4 1/1ページ
No.4:
(5pt)

面白かった!

途中何度もそれぞれの関係と年代をチェックしながら読了。

一家が移民してくる前の生活に衝撃を受けた。
ユダヤ教についてやボルシチベルトなど初めて知ることも多く私が認識している「アメリカ」がいかにごく一部で浅いものかがあらためてよくわかった。宗教や人種による日常的な階級差別、対立や暗黙の了解。ちょっとした会話に含まれた裏の意味にヒヤッとする。ほぼ単一民族の日本ではあまりないこと。

各章で、語る人物は変わるが底辺に流れる不穏で不安定なものはずっと続き、少しずつ何かが蝕まれていく感覚にやめられなくなる。ただ推理小説というよりは一族の盛衰の歴史を堪能する物語の感じ。
人物のキャラクターや心理描写、ホテルの雰囲気も鮮明で堪能できた。

系図があればもっとわかりやすかったかも。
ホテル・ネヴァーシンク (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1962)Amazon書評・レビュー:ホテル・ネヴァーシンク (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1962)より
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No.3:
(4pt)

連作短編で編んだ騙し絵のような俯瞰ミステリー

ロバート・B・パーカーのスペンサー・シリーズの初期作品の一つである『キャッツキルの鷲』というタイトルはなぜか忘れがたいものがある。さてそのキャッツキルという地名だが、「キル」は古いオランダ語で「川」の意味なのだそうだ。古いオランダ語。うーむ。

 ハドソン川に沿ったいくつかの土地の名には「キル」が付いてるらしい。この作品の直後にぼくが読むことになるアリソン・ゲイリン著『もし今夜ぼくが死んだら、』の舞台が、実はニューヨークに注ぐハドソン川流域の架空の町ヘヴンキルなのである。「キル」の意味を教えてくれたのはそちらの翻訳を担当している奥村章子さんで、彼女が巻末解説でそのことを教えてくれたのだ。これもまた読書の順番という偶然。

 ハドソン川流域キャッツキルには、実際に1986年まで、この小説のモデルとなる巨大リゾートホテルが存在していたらしい。本書の作者は、この巨大施設を舞台に、何人も少年が消えているというミステリーを構築する。それも様々なスパイスを加えた連作短編集という表現形式で、半世紀を越えるスケールの大きな物語を作り出した。

 本書は、章ごとに主人公を変え、一人称あり、三人称あり、でそれぞれの異なる物語を語らせる。1950年に始まり、2012年にすべてにけりをつけて閉じる壮大なる物語。意外なのは、この作品が2020年度エドガー賞最優秀ペーパーバック賞受賞作品であること。賞の受賞そのものが意外なのではなく、こんなに壮大なスケールの物語なのにペーパーバック賞であるというところが意外なのだ。

 蛇足かもしれないが、「キル」を教えてくれた前述の『もし今夜ぼくが死んだら、』も前年の2019年に同じペーパーバック賞を受賞。これも我が読書順のある意味偶然。何か、運命というようなものがあるのだろうか?

 壮大とは言ったが、誰にとっても親しみやすい短めの物語の蓄積によって織り成されるがゆえに、読者を選ばない親しみやすい作品と言えるのかもしれない。ペーパーバックというフレンドリーな賞の対象となったのはそこなのかもしれない。

 ポーランド出身のユダヤ人一族が、ナチスドイツの迫害下、飢餓に苦しむ生活から逃れ、アメリカ大陸へ移住し、彼らなりの新世界を切り拓いてゆく家族史を主軸に、ホテル経営に関わる多種多様な登場人物のストーリーで時代と人々を積み重ねてゆく。

 不気味に少年を襲う黒い影、というミステリーを縫い込みつつ、ページは進む。次々と語り手が変わり、色合いを変えるゴシック模様のような斬新な物語。個性いっぱいのこの世界・この時代を、現代から振り返り、俯瞰し直すような楽しみが、本書の最大の魅力であろう。そんな個性的で新しみに満ちた本書の感触を是非味わって頂きたいと思う。
ホテル・ネヴァーシンク (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1962)Amazon書評・レビュー:ホテル・ネヴァーシンク (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1962)より
4150019622
No.2:
(5pt)

小説を読む快楽

謎解きやスリルとサスペンスなどミステリー度は低めですが、いい小説を読んだと実感できました。
ニューヨーク州の山奥にあるホテルの創業から消失まで約80年をその一族やホテル関係者が一人称で語る、いわば連作小説(グランドホテルスタイル)。
子供が襲われる事件が二つ、最後に真相と思しき語りが入るのですが、連作の中には関係のない逸話が多数。刺激は弱めですが、これは翻訳者の腕前もいいのでしょう、一気に読み終えました。
この本は、語り部の1人が書いた物語ですね。
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4150019622
No.1:
(5pt)

ネヴァーシンク、よき「米国」の崩壊

「ホテル・ネヴァーシンク "The Hotel Neversink"」(アダム・オファロン・プライス ハヤカワ・ミステリ)を一気に読み終えました。
 この物語をミステリとして捉えて、その<形式>について書き連ねてしまうとその興趣を誘導することにもなり、あまりいいレビューとは言えないような気がします。舞台はニューヨーク州・キャッツキル山地。(嗚呼、亡きロバート・B・パーカーの著作を想起してしまう)
 二十世紀初頭に東ヨーロッパから米国に渡ったユダヤ移民、アッシャー・シコルスキーは失敗と苦難を経てキャッツキルの小さな町リバティに辿り着きます。そして、偶然始めた民宿業が評判となり、ネヴァーシンク川を見下ろす断崖の頂に立ついわくつきの大邸宅を買取り、「ホテル・ネヴァーシンク」を開業します。ホテルは隆盛を極め、アッシャーから長女のジーニーに経営者が代替わりして、1950年、ホテルに滞在中だったひとりの少年が姿を消します。先月(2020/11月)読んだ「ローンガール・ハードボイルド」同様、"子供達の失踪などめずらしい話ではない”と思える米国。その後も、ホテル周辺では失踪事件が発生し、未解決のまま時が経過していきます。何故、誰がこの事件を引き起こしているのか?ミステリ的にはそこに焦点が絞り込まれますね。よって、それについて詳細を書くことができません。(「ホテル・ネヴァーシンク」の創業者の名前がアッシャーであることに何か意味があるのだろうか?)
 物語は、1950年から2012年まで、主にシコルスキー一家を形成する家族、係累、ホテル側スタッフの視点から年代を追って連作小説風に(終章を除く1~15章それぞれがまるで独立したエピソードのように)展開していきますが、その物語の傍らには常に少年の「失踪事件」が悪しきものの象徴のように存在しています。それがなければ、米国の歴史をなぞりながら語られる一家族のクロニクルとして見事な語り口を備えているといってもいい、或る種の<文学作品>としてリーダビリティの高い物語だと思います。読む前は、スティーヴン・キングの輝かしい「オーヴァールック・ホテル」の趣を想像し、時にミステリであることを忘れて、まるでジョン・アーヴィングを読んでいるような深い<物語性>を堪能しながら、(かと言え、同じホテルでも「ホテル・ニューハンプシャー」とは味わいが異なります(笑))生き生きとした登場人物たちの心の傷、闇の奥が巧緻に描き分けられていると思いました。
 「タイタニック」が就航し、「三つかぞえろ」のスターンウッド将軍がカットインして、パトリシア・ハイスミスの「キャロル」(トッド・ヘインズの映画があった)を思い、レニー・ブルースがスタンダップしながら、ウッドストックがフラッシュバック、ダンテの「地獄篇」がまるでサブリミナル効果を狙っているかの如く時代を表し、「米国」を象徴しています。「ホテル・ネヴァーシンク」の崩壊は、シコルスキー家の崩壊であり、あまり好ましくはない裏目読みをするならば、読書後、崩壊しつつあるよき「米国」への願いが燦然と立ち登ってくるような気さえします。<真実>は常に灰の中にあって、誰かが掬い取らなければならないのだと深く思うことになりました。
 
 極私的に言うと、「9.レイチェル 一九七九年」のエピソードがたまらなく好きです。ル・カレを読むレイチェル。まだ生きたことのないもうひとつの人生。ホッパーの絵画を見ているような見事な一篇だと思います。
ホテル・ネヴァーシンク (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1962)Amazon書評・レビュー:ホテル・ネヴァーシンク (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1962)より
4150019622

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