こちらあみ子
評判
こちらあみ子の評価:
4.20/5点 レビュー 118件。 B ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全235件 161〜180 9/12ページ
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こちらあみ子の評価:
4.20/5点 レビュー 118件。 B ランク
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だが、彼らに特別な問題行動があるわけでもなく並はずれた能力があるわけでもないけれど、ただただ一生懸命さと純粋で一途なふるまいがきわだっているといえる。それゆえに物怖じすることもなく一途にふるまえることが日常的な常識や通念に対して微かな変化をもたらすというということなのだ。
あみ子の症状がどういうものであるか定かではないがある種の知的障害であることは文脈を通して理解できる。また、学校へは行ったり休んだりしていて、その気ままなふるまいもクラスから容認されていることも何となく分かってくる。お母さんの書道教室があるときは部屋の出入りが禁止されているがあみ子はその書道のようすを別の部屋からのぞいて見ている。
あみ子は教室に通う同級生のり君に対してある意味で憧れと好意的な気もちをもっているがまともには相手をしてもらえない。周囲からもあみ子には親切にしてあげるように注意されていることも理解できる。
ついに、あみ子はのり君に自らその気もちを打ちあけるのだが・・・
かすれて、苦しそうな声だった。のり君はあみ子が手にしている一枚のチョコレートクッキーを見てから、机の上に並べてある二枚に視線を移した。その二枚は、たった今あみ子がハートの形をしたチョコレートクッキーから、ただの丸いクッキーに変身させたものだった。湿っている。のり君の口から震えた声が出た。あれは、と発声したようだったが、はっきり聞き取ることはできなかった。少しの間があって、次にのり君が言葉を発しようと口を開きかけたその瞬間にあみ子が叫んだ。「好きじゃ」「殺す」と言ったのり君と、ほぼ同時だった。(p102-103)
無垢なる者にはけっして効率や計算や利害はない。その一途な気もちと行動がストレートであるがゆえにある種の混乱と常識を揺さぶる力があるということなのかもしれない。そのことによって互いの関係性や周囲の見え方に奇妙なズレと変化をひき起こすのだ。だが、物語は劇的に変化するのではなく僅かに少しづつ変わっていくだけで切ないほどに静かに閉じられている。
書道教室の先生でお腹に赤ちゃんのいる母、一緒に登下校してくれる兄、やさしい父、穏やかな三人のくらしも母の出産をきっかけにして大きく変化していく。兄が不良になり家族のようすも少しづつ変化し事態はだんだん深刻になっていくのだが、作者はその状況を丹念に描くことで物語を成立させる。
この変化の意味するものは何か、静かに閉じられた物語の読後に広がる名状しがたい切なさとやるせない不思議な気持ちは何処に由来するのか。
あみ子にしてもチズさんや七瀬さんにしてもどちらかというと社会的にはやや弱者といえるところが共通しているけれど、この作品が切なさとともに小説の強さとなっていることもそのことに起因しているのかもしれない。
『こちらあみ子』はそういう作品で心に響くきわめて印象深い小説といえる。