雪には雪のなりたい白さがある
評判
雪には雪のなりたい白さがあるの評価:
3.64/5点 レビュー 11件。 C ランク
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全21件 21〜21 2/2ページ
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雪には雪のなりたい白さがあるの評価:
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一般文芸デビュー作品。春夏秋冬を背景に関東各地の公園を舞台にして描かれた四編の短編により構成
「雨上がりに傘を差すように」春・港の見える丘公園(横浜市)
地元ではファッションリーダーを自認してきた果歩は「自分に似合う町」と憧れてきた横浜で落ち込んでいた。横浜の大学に
入ってみれば地元で育った他の女子学生は自分など足元にも及ばないぐらいに輝いている。いつしか横浜の町そのものが自分に
分不相応に思えてきた果歩は友達も出来ないまま一人寂しく港の見える丘公園へ。公園内で果歩は傘も差さずに歩く身なりの良い
老人・増本源次郎と出会う。果歩は雨が降るたびに源次郎と出会っては自分の悩みを聞いてもらう事になるが
「体温計は嘘をつかない」夏・あけぼの子供の森公園(飯能市)
シューズメーカーの経理マンである主人公は息子の陸を連れて暑い中ムーミン谷公園と称されるあけぼの子供の森公園を訪れていた
成長した陸を見せる約束で現れた五年前に離婚した元妻の真帆と再会した主人公は今でも真帆が自分を「シュー君」と読んでいる事に
驚き、何より将来を嘱望されていたデザイナーだった真帆がただの事務員をしていた事に驚かされる。かつて平凡な経理マンと期待の
デザイナーとして社内で不釣合いな夫婦として見られ、男の意地で妻に並ぼうと育児を真帆に押し付け、追い込み続けた過去が蘇り
「メタセコイアを探してください」秋・石神井公園(練馬区)
石神井公園でのバードウォッチングが趣味という変わった高校生・佐藤葉助は公園内で犬の散歩をしている一人の女性と出会う
かつて自分の趣味を他人に理解されない事に悩んでいた自分に「君は変わっちゃだめだ、ずっと孤独でいろ」と孤独な生き方を肯定した
その女性・人気ボーカリストで現在は休業中の相沢ミアに再会したものの声をかける事も出来ず悶々としていた葉助の前に不思議な少女が
現れる。「秋の妖精」と名乗り葉助の出身中学の制服を着たその少女はミアに話し掛けるきっかけをあれこれと提案してくるが
「雪には雪のなりたい白さがある」冬・航空記念公園(所沢市)
音大を出ながら銀行に勤め、悶々とした日々の中、何度恋をしても満たされない瑞希は雪の降る中、航空記念公園を訪れていた
中学時代に付き合っていたロケット開発関係の技術者を目指す周防英次との思い出の場所で、英次と別れを告げられた際に交わした
会話が瑞希の胸のうちに蘇る。フルート奏者を目指しながら、その道の険しさに絶望しかけていた瑞希に英次が投げかけた問い
「ペガサスはあの小さい翼で何故空を飛べるのか?」その答えと英次が今も夢を諦めていない事を知った瑞希は悶々とした日々に見切りをつけ
「こうなりたい」という理想像と現在のちっぽけで何にもなれそうにない自分の姿との間でもがく人々の像を描いた四つの物語
かなりセンチメンタルな、感傷的な部分を強く打ち出した作風が特徴。ファンタジックな作風の作品も多い作者だが、今回は現実を、
それも生きたい様に生きる事が難しい現実を鮮明に描き出してきた。誰も彼もがヒーロー的な「特別な存在」であるライトノベルと違い
「どうにもならない自分」を抱えて生きていかねばならない、「スペシャルな人間」を前にちっぽけな自分を認めざるを得ない
かなり苦々しい部分も含んだ短編集だが、「今ここにある自分」を受け入れて主人公が歩き出すまでが描かれているので後味は悪くないかと
特に二話目の「体温計は〜」に引用されるムーミン谷の物語の数々の台詞が印象に残った。「いつもやさしく愛想よく、なんて
やってられないよ。理由は簡単。時間が無いんだ」という自由人・スナフキンの台詞はこの本に出てくる登場人物が縛られている
「他人から見た自分」に振り回される苦しさに対する一つの解ではないだろうか?世間や周りの人間の価値基準に振り回されて
生きる事の虚しさに気付くまでが一つのキーとなっている作品だけに、余計に印象に残ったというか、なかなか見事な引用だった
思うままにはならないが、それでも自分は「こうなりたい」という理想を抱えて生きている事に疲れを感じている方にはお勧め
ありのままの自分を受け入れるまでは苦しいし、甘くはないけど不思議な癒しを与えてくれる良質な短編集であった