ブルックリン・フォリーズ

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ブルックリン・フォリーズの評価:

4.68/5点 レビュー 44件。 A ランク

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平均点4.68pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全88件 61〜80 4/5ページ
No.28
(5pt)

人間の愚かさと愚行の愉快さ

タイトルからして、ブルックリンの都会の粋な物語と思いきや、様々な場所での様々な人種と人間が織りなす愚行の詰合せ物語である。主役は、人生が半分以上終わりを迎え、心臓ガンを患い、生死を彷徨い、何とか生き延びたナット伯父さんだ。人生をある意味達観した彼は、日々日常に起こりうる様々な愚行を"ブラックユーモア風の珍事"として書き留めることを思いつく。
 楽天的かつ悲壮的な愚行が日常生活の中にぎっしりと奥深く折り重なう。人生とは冒険であり、様々な要素が複雑に偶然に絡み合った奇妙で不可解なドラマである。残酷で不条理な現実に生きるも、そんな現実に背を向け、夢を妄想を追うも、人の勝手である。そのギャップで揺れ動く微妙な心理と駆け引きが、人生に深い闇と奥行きを生み出す。
 勝ち組であろうが、英雄であろうが著名人であろうが、その華々しい人生でさえ、いつかはケチをつけられ、歪められ、事実すら省かれ、最後には消滅する。人間は忘れる生き物。だから、長年の積もり積もった不安と疲労と苛立ち、それに何時までも払拭できない失望と後悔に、何とか耐えられる。忘れる事で生き延びれるのだ。
 人生とは失うもの。失ったものを埋め合わせする為に、周囲で起こりうる様々な愚行を取り入れる必要がある。人間は生きてるうちに、いろんな愚行を繰り返す。愚行という何気ないイベントが、深く暗い人生の闇の中に光を灯し、単調で色味のない筈の人生に、多才な色どりを醸し出し、神秘なる奥行きを与えてくれる。
 この作品でのメインステージは、勿論ブルックリンだが、舞台は全米中に散らばってる。様々なステージで、そこに棲み着く様々な人種と人間の、それに見合った愚行が用意されてる。まるで、WRCのチャンピオンズモードみたいで、癖のあるステージごとに癖のある登場人物がいて、奇想天外な落とし穴とドロ臭い物語が待ってる。
 ポール・オースター氏の引き出しの多さと深さには全く感服する。それが、プロットの多彩さと奥行きにつながり、長編モノでも全く読者を飽きさせないし、間延びさせる事もない。観察力と洞察力が高い次元で融合してる事の証だ。
 笑えそうで笑えないこの愚行記は、人生を愉快に生きる上で、最高の贅沢になりうる。金がなくても、愚行という贅沢は可能なのだ。歳を食っても、愉快で爽快な充実した人生は送れる。肉体も精神も性欲も年齢とともに衰えるが、好奇心や知識欲は衰えを知らないどころか、益々増幅する。人は誰でも、何か変わった事が、面白い事がないかなって、無意識に妄想する。だから、何かが起こりうる可能性が充填してる都会が大好きなのだ。
 一見、笑って済ませるようなありふれた愚行が、人生の大きな転機になるのを、ビッグチャンスに化けるのを、大衆は期待し、夢を見る。そんな夢を見てる間は、誰でも幸せになれる。夢が冷めても、過ぎ去った愚行を語り合う事で、赤の他人同士が見えない何かで結ばれる。コミニュケーションとは、そうあるべきだろう。
 しかし、それらのゴマンと繰り返されてきたであろうありとあらゆる様々な場所での様々な人間の愚行は、いつかは忘れ去られ、消滅する。だから、愚行記というものが必要なのだ。著者が言うように、かくも本とは偉大なのである。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.27
(5pt)

人間の愚かさと愚行の愉快さ

タイトルからして、ブルックリンの都会の粋な物語と思いきや、様々な場所での様々な人種と人間が織りなす愚行の詰合せ物語である。主役は、人生が半分以上終わりを迎え、心臓ガンを患い、生死を彷徨い、何とか生き延びたナット伯父さんだ。人生をある意味達観した彼は、日々日常に起こりうる様々な愚行を"ブラックユーモア風の珍事"として書き留めることを思いつく。
 楽天的かつ悲壮的な愚行が日常生活の中にぎっしりと奥深く折り重なう。人生とは冒険であり、様々な要素が複雑に偶然に絡み合った奇妙で不可解なドラマである。残酷で不条理な現実に生きるも、そんな現実に背を向け、夢を妄想を追うも、人の勝手である。そのギャップで揺れ動く微妙な心理と駆け引きが、人生に深い闇と奥行きを生み出す。
 勝ち組であろうが、英雄であろうが著名人であろうが、その華々しい人生でさえ、いつかはケチをつけられ、歪められ、事実すら省かれ、最後には消滅する。人間は忘れる生き物。だから、長年の積もり積もった不安と疲労と苛立ち、それに何時までも払拭できない失望と後悔に、何とか耐えられる。忘れる事で生き延びれるのだ。
 人生とは失うもの。失ったものを埋め合わせする為に、周囲で起こりうる様々な愚行を取り入れる必要がある。人間は生きてるうちに、いろんな愚行を繰り返す。愚行という何気ないイベントが、深く暗い人生の闇の中に光を灯し、単調で色味のない筈の人生に、多才な色どりを醸し出し、神秘なる奥行きを与えてくれる。
 この作品でのメインステージは、勿論ブルックリンだが、舞台は全米中に散らばってる。様々なステージで、そこに棲み着く様々な人種と人間の、それに見合った愚行が用意されてる。まるで、WRCのチャンピオンズモードみたいで、癖のあるステージごとに癖のある登場人物がいて、奇想天外な落とし穴とドロ臭い物語が待ってる。
 ポール・オースター氏の引き出しの多さと深さには全く感服する。それが、プロットの多彩さと奥行きにつながり、長編モノでも全く読者を飽きさせないし、間延びさせる事もない。観察力と洞察力が高い次元で融合してる事の証だ。
 笑えそうで笑えないこの愚行記は、人生を愉快に生きる上で、最高の贅沢になりうる。金がなくても、愚行という贅沢は可能なのだ。歳を食っても、愉快で爽快な充実した人生は送れる。肉体も精神も性欲も年齢とともに衰えるが、好奇心や知識欲は衰えを知らないどころか、益々増幅する。人は誰でも、何か変わった事が、面白い事がないかなって、無意識に妄想する。だから、何かが起こりうる可能性が充填してる都会が大好きなのだ。
 一見、笑って済ませるようなありふれた愚行が、人生の大きな転機になるのを、ビッグチャンスに化けるのを、大衆は期待し、夢を見る。そんな夢を見てる間は、誰でも幸せになれる。夢が冷めても、過ぎ去った愚行を語り合う事で、赤の他人同士が見えない何かで結ばれる。コミニュケーションとは、そうあるべきだろう。
 しかし、それらのゴマンと繰り返されてきたであろうありとあらゆる様々な場所での様々な人間の愚行は、いつかは忘れ去られ、消滅する。だから、愚行記というものが必要なのだ。著者が言うように、かくも本とは偉大なのである。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.26
(5pt)

これまでになく暖かい

「静かに死ねる場所を探して」ブルックリンにたどり着いた主人公ネイサン、文学青年としての明るい将来を捨ててタクシードライバーを経て古書店員になった甥のトム、そしてトムの雇用主であり、詐欺で投獄経験のあるハリー。このいかにもイケていない男たちをめぐる再生の物語。
ただでさえ、オースター作品は読む手を休められないのだけれど、この物語での語り口は、彼にしては軽快で喜劇的なものだから、寝不足と引き換えに二日で読み切った。
堕ちてゆく男たちについては、これまで何度か取り上げられているが、本作での目線はこれまでになく暖かい。まだまだイケるよ、と背中を押しているかのように。実際、ネイサンは確実に成長した。根っこが蝕まれてさえいなければ、誰でも再生できるチャンスがあるんだよ。そう語りけているかのような、人間への、いや、もっと言うと、中高年への応援歌にも読める。
ところで、この物語では伯父ネイサンと甥トムが完全に同士になっている。そこには目上・目下の感覚はなく、互いを尊重しつつ目の前の問題に取り組んでゆく。こういう素敵な関係が日本で書かれるのは簡単でないだろう。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.25
(5pt)

これまでになく暖かい

「静かに死ねる場所を探して」ブルックリンにたどり着いた主人公ネイサン、文学青年としての明るい将来を捨ててタクシードライバーを経て古書店員になった甥のトム、そしてトムの雇用主であり、詐欺で投獄経験のあるハリー。このいかにもイケていない男たちをめぐる再生の物語。
ただでさえ、オースター作品は読む手を休められないのだけれど、この物語での語り口は、彼にしては軽快で喜劇的なものだから、寝不足と引き換えに二日で読み切った。
堕ちてゆく男たちについては、これまで何度か取り上げられているが、本作での目線はこれまでになく暖かい。まだまだイケるよ、と背中を押しているかのように。実際、ネイサンは確実に成長した。根っこが蝕まれてさえいなければ、誰でも再生できるチャンスがあるんだよ。そう語りけているかのような、人間への、いや、もっと言うと、中高年への応援歌にも読める。
ところで、この物語では伯父ネイサンと甥トムが完全に同士になっている。そこには目上・目下の感覚はなく、互いを尊重しつつ目の前の問題に取り組んでゆく。こういう素敵な関係が日本で書かれるのは簡単でないだろう。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.24
(5pt)

素敵な話

この本を読んで、ポール・オースターのファンになりました。翻訳もとても読みやすいです。柴田元幸さんの翻訳は素晴らしい。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.23
(5pt)

素敵な話

この本を読んで、ポール・オースターのファンになりました。翻訳もとても読みやすいです。柴田元幸さんの翻訳は素晴らしい。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.22
(4pt)

尽きぬ人間への興味

私にとってオイスターを読むことは、一種苦行だった。なぜ、ここまで文章ともどもわかりにくく、屈折しているのか?
それでも、なぜか気になって読まずにいられない、そんな作家だったのだが、これは別人ではないかと思えるほど、読みやすい。翻訳の柴田元幸氏によれば、「ゆるい」オイスターによる人間ドラマ。

文学者として挫折した甥のトム、出奔したまま、ポルノ雑誌で肢体をさらすトムの妹のオーロラ。オーロラの娘の物言わぬルーシー。
その他、作者の投影であるネイサンが否応なしに関わりを持つことになる、ブルックリンの人々。

その1人1人の人生を描いても、一冊の本ができただろう。ぶつっと切れて章が終わり、意外な展開となって続くのは、柴田氏の名訳と相まって、読んでいて快感だった。
2011年9月11日の朝8時。ネイサンの、多幸的ともいえる世界を見る目とともに終わる。そこに、「それでも私はリンゴの木を植える」というような、肯定的な姿勢を感じた。それまでにたっぷりと、それぞれの物語を聞かせてもらったから。

だが、しかし。読み終えて、わからないというか、なんともおさまりの悪いものを感じたのも確かだ。
まず、「知的」という言葉が多用されているが、知的であるということは、それほどに重要なことだろうか。たとえば、ネイサンとトムが文学的な会話を交わす場面でも、工具箱を持つ人々が大勢いるダイナーで、という但し書きがつく。その工具箱を持つ人々にも、彼らの人生の物語があるわけで・・・

トムとの友情は甥、叔父の関係を超えたものなのだが、それにしても姪オーロラ、亡き妹ジューンへの愛着、オーロラが兄トムへ寄せる兄弟愛もわからない。これは本作に限らず、海外の小説を読んでいて、よく感じる「?」なのだけれど、これって、親子でも「I love you」といいあう文化のちがいなのかもしれない。

孫が生まれると知って、涙ぐむというのも・・・・。私はネイサンと同世代で、初孫も生まれたばかりなのだが、この箇所を読んで、なんだかしらけてしまった。涙ぐんだことも、ネイサンが執筆中の「愚行の書」に入れてほしい。
ーーと、ここまで書いて気がついた。「知的」の多用も含め、私はオイスターの釣り針に引っかけられたのかもしれない。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.21
(4pt)

尽きぬ人間への興味

私にとってオイスターを読むことは、一種苦行だった。なぜ、ここまで文章ともどもわかりにくく、屈折しているのか?
それでも、なぜか気になって読まずにいられない、そんな作家だったのだが、これは別人ではないかと思えるほど、読みやすい。翻訳の柴田元幸氏によれば、「ゆるい」オイスターによる人間ドラマ。

文学者として挫折した甥のトム、出奔したまま、ポルノ雑誌で肢体をさらすトムの妹のオーロラ。オーロラの娘の物言わぬルーシー。
その他、作者の投影であるネイサンが否応なしに関わりを持つことになる、ブルックリンの人々。

その1人1人の人生を描いても、一冊の本ができただろう。ぶつっと切れて章が終わり、意外な展開となって続くのは、柴田氏の名訳と相まって、読んでいて快感だった。
2011年9月11日の朝8時。ネイサンの、多幸的ともいえる世界を見る目とともに終わる。そこに、「それでも私はリンゴの木を植える」というような、肯定的な姿勢を感じた。それまでにたっぷりと、それぞれの物語を聞かせてもらったから。

だが、しかし。読み終えて、わからないというか、なんともおさまりの悪いものを感じたのも確かだ。
まず、「知的」という言葉が多用されているが、知的であるということは、それほどに重要なことだろうか。たとえば、ネイサンとトムが文学的な会話を交わす場面でも、工具箱を持つ人々が大勢いるダイナーで、という但し書きがつく。その工具箱を持つ人々にも、彼らの人生の物語があるわけで・・・

トムとの友情は甥、叔父の関係を超えたものなのだが、それにしても姪オーロラ、亡き妹ジューンへの愛着、オーロラが兄トムへ寄せる兄弟愛もわからない。これは本作に限らず、海外の小説を読んでいて、よく感じる「?」なのだけれど、これって、親子でも「I love you」といいあう文化のちがいなのかもしれない。

孫が生まれると知って、涙ぐむというのも・・・・。私はネイサンと同世代で、初孫も生まれたばかりなのだが、この箇所を読んで、なんだかしらけてしまった。涙ぐんだことも、ネイサンが執筆中の「愚行の書」に入れてほしい。
ーーと、ここまで書いて気がついた。「知的」の多用も含め、私はオイスターの釣り針に引っかけられたのかもしれない。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.20
(5pt)

2001 9.11 AM8:00

複雑な人間模様がスピーディーかつドラマチックに展開するので、簡単な人脈図を作りつつ読まなければ、いきなりルーシーなる9歳半の女の子が現れたり、ゴードン・ドライヤーなる悪人が出てきたりするので、「こいつは誰やったんや?」と分からなくなっちまう。だけど、そこはそれ、ストーリー・テリングの実に巧いオースターと彼の文体を実に小気味よい日本語に翻訳してくれる柴田センセとの名コンビのおかげで読者は最後まで全く飽きることがない。いやいや、残りページ数が徐々に少なくなってゆくのが名残惜しくなる。それほど、ネイサンとのブルックリン・ライフをもっともっと楽しみたくなるのだ。

 神の存在を信じないユダヤ人、ネイサン・グラスが語り手であり、一応この物語の主人公だけど、それぞれの小咄が実に面白く、かつ柴田センセの言葉によれば「ゆるく」書かれているのがいい。

 「自分の人生が何らかの意味で終わってしまったと感じている男の物語」シリーズの3冊目だそうだけど、まだまだいける!もう一丁花を咲かせてやろうじゃないかって雰囲気で終わっているのが実にさわやかで、清々しい。
 
 そう、2001年9月11日の朝8時にこの物語は、ハッピー・エンドで終わっている・・・・・・・・・・

ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.19
(5pt)

2001 9.11 AM8:00

複雑な人間模様がスピーディーかつドラマチックに展開するので、簡単な人脈図を作りつつ読まなければ、いきなりルーシーなる9歳半の女の子が現れたり、ゴードン・ドライヤーなる悪人が出てきたりするので、「こいつは誰やったんや?」と分からなくなっちまう。だけど、そこはそれ、ストーリー・テリングの実に巧いオースターと彼の文体を実に小気味よい日本語に翻訳してくれる柴田センセとの名コンビのおかげで読者は最後まで全く飽きることがない。いやいや、残りページ数が徐々に少なくなってゆくのが名残惜しくなる。それほど、ネイサンとのブルックリン・ライフをもっともっと楽しみたくなるのだ。

 神の存在を信じないユダヤ人、ネイサン・グラスが語り手であり、一応この物語の主人公だけど、それぞれの小咄が実に面白く、かつ柴田センセの言葉によれば「ゆるく」書かれているのがいい。

 「自分の人生が何らかの意味で終わってしまったと感じている男の物語」シリーズの3冊目だそうだけど、まだまだいける!もう一丁花を咲かせてやろうじゃないかって雰囲気で終わっているのが実にさわやかで、清々しい。
 
 そう、2001年9月11日の朝8時にこの物語は、ハッピー・エンドで終わっている・・・・・・・・・・


ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.18
(5pt)

「愚かしさ」へのオマージュ

「本の力をあなどってはならない」。文末の一文にあるように、この物語は偉大な文学者たちへのオマージュである。そしてその賛辞は偉大とは対極にある「愚かしさ」に注がれる。
 主人公は長年、損害生命保険業に携わってきた老齢の男で、肺ガンを患って孤独な余生を送っている。舞台はニューヨーク・ブルックリン。帰巣本能に憑かれたようにこの街に舞い戻ると、男はあるプロジェクトを思い立つ。それは、これまでの生涯における愚行を編んだ『人間の愚行の書』を著すことだった。しかしその時点では自らの生きてきた自省をランダムにメモ書きするという想定であったが、突如、物語は動き出す。金と女と欲望が引き金になって。
 作者はこれを著すにあたって、骨格となるエピソードをまず思い立ったのではなかろうか。それはアメリカが誇る文学者エドガー・アラン・ポーとチェコのユダヤ人作家フランツ・カフカがいずれも40歳で亡くなったという事実だ(保険業に携わり、職業別死亡率について半生を費やした主人公の職種の意味がここにある)。
 薄命の作家カフカは生涯最後の年に恋をした。相手となるその女性と公園をデートしている最中、人形を無くした少女と出会い、毎日、その子のために人形からの虚構の手紙を贈り続け、悲しみを癒したという。生前、評価されることがなかった点では共通する一方のポーは、死後も不運が重なり、四半世紀の間、墓標に名前が記されることはなかったという。ほかにも文学者の没年が列挙されているが、いずれも40歳以下で、ここが薄命と愚行を分ける分水嶺と見なしているようだ。
 愚行の典型が哲学者のヴィトゲンシュタインだ。このエピソードもおもしろい。『論理哲学論考』を書き上げ、功成り名を遂げた知の巨人は、リタイア後の人生をオーストリアで教師として過ごすことになるが、学ぶ姿勢のない子どもへの体罰が過ぎて職を辞することとなる。再び哲学の道に戻り偉大な業績を残すが、教師時代の罪悪感にさいなまれ、かつての教え子に許しを乞うのだが、このあとの展開は本書でご覧いただきたい。生きながらえることには人間的な欲望がつきまとい、人間的であればあるほど「愚かしさ」から免れることはできないのである。
 これまでオースターの本を読んできた人にとっては、本書に対して異質な感懐を抱くかもしれない。偶然が謎を呼び、不可抗力に引き寄せられるように転落する人間群像を描くという点ではオースター的なのだが、そこにあるのは暖かな慕情とでもいうべきものだ。その舞台として選ばれたブルックリンは、人間であることの「愚かしさ」を見つめる場所としてまことにふさわしい場所であるが、最後に9.11のあの惨事がエピソード的に触れられているということは、次回作は「ポスト9.11」の物語が用意されているということだろうか。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.17
(5pt)

「愚かしさ」へのオマージュ

「本の力をあなどってはならない」。文末の一文にあるように、この物語は偉大な文学者たちへのオマージュである。そしてその賛辞は偉大とは対極にある「愚かしさ」に注がれる。
 主人公は長年、損害生命保険業に携わってきた老齢の男で、肺ガンを患って孤独な余生を送っている。舞台はニューヨーク・ブルックリン。帰巣本能に憑かれたようにこの街に舞い戻ると、男はあるプロジェクトを思い立つ。それは、これまでの生涯における愚行を編んだ『人間の愚行の書』を著すことだった。しかしその時点では自らの生きてきた自省をランダムにメモ書きするという想定であったが、突如、物語は動き出す。金と女と欲望が引き金になって。
 作者はこれを著すにあたって、骨格となるエピソードをまず思い立ったのではなかろうか。それはアメリカが誇る文学者エドガー・アラン・ポーとチェコのユダヤ人作家フランツ・カフカがいずれも40歳で亡くなったという事実だ(保険業に携わり、職業別死亡率について半生を費やした主人公の職種の意味がここにある)。
 薄命の作家カフカは生涯最後の年に恋をした。相手となるその女性と公園をデートしている最中、人形を無くした少女と出会い、毎日、その子のために人形からの虚構の手紙を贈り続け、悲しみを癒したという。生前、評価されることがなかった点では共通する一方のポーは、死後も不運が重なり、四半世紀の間、墓標に名前が記されることはなかったという。ほかにも文学者の没年が列挙されているが、いずれも40歳以下で、ここが薄命と愚行を分ける分水嶺と見なしているようだ。
 愚行の典型が哲学者のヴィトゲンシュタインだ。このエピソードもおもしろい。『論理哲学論考』を書き上げ、功成り名を遂げた知の巨人は、リタイア後の人生をオーストリアで教師として過ごすことになるが、学ぶ姿勢のない子どもへの体罰が過ぎて職を辞することとなる。再び哲学の道に戻り偉大な業績を残すが、教師時代の罪悪感にさいなまれ、かつての教え子に許しを乞うのだが、このあとの展開は本書でご覧いただきたい。生きながらえることには人間的な欲望がつきまとい、人間的であればあるほど「愚かしさ」から免れることはできないのである。
 これまでオースターの本を読んできた人にとっては、本書に対して異質な感懐を抱くかもしれない。偶然が謎を呼び、不可抗力に引き寄せられるように転落する人間群像を描くという点ではオースター的なのだが、そこにあるのは暖かな慕情とでもいうべきものだ。その舞台として選ばれたブルックリンは、人間であることの「愚かしさ」を見つめる場所としてまことにふさわしい場所であるが、最後に9.11のあの惨事がエピソード的に触れられているということは、次回作は「ポスト9.11」の物語が用意されているということだろうか。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.16
(4pt)

初・ポールオースター

たとえ行動パターンは奇抜でも、ニューヨーカー(もしくはアメリカ人)も日本人も、その奥深い部分の心持ちは何ら変わらないんだなと、温かいような、ホッとさせられるような気持ちになりました。

細かく章で刻まれてますが、話があちこちへ飛ばず、一本道で追っていけるのでとても読みやすかったし、登場人物達の口調がとても今風で愉快でした。こちらは訳者の力ですね。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.15
(4pt)

初・ポールオースター

たとえ行動パターンは奇抜でも、ニューヨーカー(もしくはアメリカ人)も日本人も、その奥深い部分の心持ちは何ら変わらないんだなと、温かいような、ホッとさせられるような気持ちになりました。

細かく章で刻まれてますが、話があちこちへ飛ばず、一本道で追っていけるのでとても読みやすかったし、登場人物達の口調がとても今風で愉快でした。こちらは訳者の力ですね。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.14
(4pt)

ちくちくと肌に触れる夏の終わりの日射しが伝わる

死に場所を求めていた、という冒頭は、これまで読んでいたオースター作品の独特の切羽詰まった描写の幕開けのように思えるのですが、実際には穏やかで緩やかな悲喜劇の始まりでした。

自分と他人の小さな愚かさを本に書き進めていく主人公。甥と姪、その子供、近隣住民とその家族など、登場人物が徐々に現れ、その中で自分と彼らの関係を作っていく様子の緩急がとても自然で心地よく読み進めます。

そして夏の終わりのちくちくと肌を刺激するような強い日射しが読んでいるこちらにも幸福感として伝わるようなラストシーン--愚者ばかりの人間たちの中で、それでも人は生きていることで幸福なんだという、それが9.11の直前として描かれることで作品の余韻が非常に大きなものになっています。ちょっとあざとい気もしますが、舌を巻くほどうまいラストシーンだと思います。

読後すぐは、技術的にはうまいながらも作風として平凡に感じられたのですが、時間が経つにつれてだんだんと好きになってきた作品です。オースターの初期作品ファンとしては、昔の作風にも未練はあるのですが、こんなふうなユーモアとペーソスあふれる人間喜劇を描くこともできる作家になったというのを評価したいです。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.13
(4pt)

ちくちくと肌に触れる夏の終わりの日射しが伝わる

死に場所を求めていた、という冒頭は、これまで読んでいたオースター作品の独特の切羽詰まった描写の幕開けのように思えるのですが、実際には穏やかで緩やかな悲喜劇の始まりでした。

自分と他人の小さな愚かさを本に書き進めていく主人公。甥と姪、その子供、近隣住民とその家族など、登場人物が徐々に現れ、その中で自分と彼らの関係を作っていく様子の緩急がとても自然で心地よく読み進めます。

そして夏の終わりのちくちくと肌を刺激するような強い日射しが読んでいるこちらにも幸福感として伝わるようなラストシーン--愚者ばかりの人間たちの中で、それでも人は生きていることで幸福なんだという、それが9.11の直前として描かれることで作品の余韻が非常に大きなものになっています。ちょっとあざとい気もしますが、舌を巻くほどうまいラストシーンだと思います。

読後すぐは、技術的にはうまいながらも作風として平凡に感じられたのですが、時間が経つにつれてだんだんと好きになってきた作品です。オースターの初期作品ファンとしては、昔の作風にも未練はあるのですが、こんなふうなユーモアとペーソスあふれる人間喜劇を描くこともできる作家になったというのを評価したいです。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.12
(5pt)

オースターとは思えぬおかし味

なぜか好きなポ−ル・オースター。読んだ作品はどちらかと言うと暗め。今回もそのつもりで読み始めたら、大違い。アマゾンで買ってよかった!どこかの書店で買って、帰りの電車で読み始めたら大変な事になっていたと思う。笑いが尾を引いて大変だった!!!果たして笑いを我慢できたかどうか・・・。とはいえ、オースターらしさは全開!いつもと違うのは、所々にちりばめられた、笑いの要素。オースターの作品をページターナーと評すると異論があるかもしれないけれど、個人的には『ブルックリン・フォリーズ』はそんな作品。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.11
(5pt)

オースターとは思えぬおかし味

なぜか好きなポ−ル・オースター。読んだ作品はどちらかと言うと暗め。今回もそのつもりで読み始めたら、大違い。アマゾンで買ってよかった!どこかの書店で買って、帰りの電車で読み始めたら大変な事になっていたと思う。笑いが尾を引いて大変だった!!!果たして笑いを我慢できたかどうか・・・。とはいえ、オースターらしさは全開!いつもと違うのは、所々にちりばめられた、笑いの要素。オースターの作品をページターナーと評すると異論があるかもしれないけれど、個人的には『ブルックリン・フォリーズ』はそんな作品。
ブルックリン・フォリーズ Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズより
4105217151
No.10
(5pt)

書かれていることが全てではなく、ここに書かれていないことにも。

ブルックリンを舞台に主人公ネイサンとその周辺の人間の再生の物語です。わかる人にはオースター自身が関わった映画「スモーク」、「ブルー・イン・ザ・フェイス(こちらはようやくDVD/BDで出ましたね)」を彷彿とさせる世界と言えば分りやすいかな。後半になるにつれよりメッセージも直接的になり、オースターの作品中最も「わかりやすい作品」だとも確かに言えます。読んでいる間は主人公の話す(書いた)物語の世界にじっくりと浸るといいと思います。ただ読み終わって本を閉じた後もう一度思い返してみると、主人公が世界に絶望していた甥・トムについてどう語っていたか、主人公が書いていたのは「愚行の書」。ということは、、、等、考えれば考えるほどこの本が単純ではないと思えてきました。皆さんも読み終わった後に自分なりにこの本の感想を考えてみてください。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
410245117X
No.9
(5pt)

それでも最後には「いいなぁ」と思える悲喜劇

仕事を辞め、妻と別れ、死に場所を求めてブルックリンに越してきた初老の男ネイサン。
将来を嘱望された文学青年でありながら、論文に挫折し、一時はタクシードライバーに成り下がってしまった甥のトム。
誰とも疎遠になっていた2人は偶然にもブルックリンの古書店で奇跡の再会を果たした。
そこにバイで詐欺師でトムの雇主にして古書店の店主であるハリーを合わせた3人の小さな共同体生活が始まるのであった。

前半は結婚生活、家庭問題、死別や挫折など3人の悲劇的な独白で占められているものの、それぞれどこか前を向いた所があり、
ポール・オースターのウィットに富んだ文のおかげで、テンポよく興味を刺激されながら読み進めることが出来ました。

特に中盤以降、ルーシーが登場してからは暇さえ有れば読みふけるほどハマり込みました。
この笑顔がステキで頭のいい少女がなぜ、あえて喋ろうとしないのか。彼らの元に突然現れたのか。
解き明かされていくと同時に、変化していくネイサン達の心情に思わず感情移入してしまいました。

悲劇を抱えた(抱えることになる)人物の多い物語ですが、それでも読み終わった後には喜劇と思えたり、どこかしら光がさしている。
読んだあと温かくなれた作品でした。
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)より
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