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【マイケル・バー=ゾウハー】
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エニグマ奇襲指令の評価:
10.00/10点 レビュー 1件。 A ランク
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平均点10.00pt
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痛快な怪盗劇の最後に訪れる歪んだ大国の闘争原理
これは傑作!正に掘り出し物だ。予想以上に面白かった!ドキドキハラハラの連続活劇だ。エニグマ強奪の任を受けてドイツ支配下のパリ潜入行を行うベルヴォアールが、盗賊時代の仲間達の協力を得ながらドイツの包囲網を常に相手の想定の斜め上を走りながら潜り抜けていく。一歩遅れれば囚われの身となり、拷問に晒される状況下、時には鮮やかに、時にはギリギリの所で、はたまた敵の目前で包囲網をかいくぐるスリリングな展開が目白押しだ。そんな物語を彩る登場人物たちの個性が際立っている。まず主人公の盗賊、自らを男爵と名乗るフランシス・ド・ベルヴォアールの造形が素晴らしい。フランス人で大泥棒の父と駆け落ちした鉄道王の娘との間に生まれたこの男は幼い頃から父の稼業を手伝いながら盗賊としての腕を着々と磨き、世界中で盗みを働く。サイゴン、マカオ、香港の東南アジアで活躍し、その後エチオピア、コンゴ、アルジェリアと西アジアから北アフリカを蹂躙。そして生まれ故郷のヨーロッパに戻り、大仕事を幾度と無く成功させ、ゲシュタポの金塊強奪事件で英国で捕まるまで一度も逮捕された事がない。変装を得意とし、人殺しは無論の事、銃器を使わぬことを信条とし、大胆不敵さと情の厚さを兼ね備えたその性格は、周囲の人物を魅了し、次々と仲間―女性の場合は恋人―に引き込み、協力者のネットワークを世界中に築き上げている。彼の標的である暗号機エニグマを所有するドイツ軍にあって、彼の宿敵とされるのはルドルフ・フォン・ベック大佐。厳格なる職業軍人の血筋に生まれた生粋の軍人である彼は34歳にして軍情報部の大佐の地位にあり、ドイツ軍の本道を進むエリートである。しかし彼は幼き頃からジュール・ヴェルヌの冒険小説を好み、バイロン卿やラファイエットといった自由のために戦ったロマンティックな勇士に憧れる心を持ち、またフランスの華やかな文化を愛でるロマンティストでもある。そして彼はベルヴォアールの波乱万丈の人生を読んで、かつて叶えられなかった理想の人生を彼に見る。敵でありながら憧れであるベルヴォアールを尊敬の心でもって相見える。さらにパリでベルヴォアールを助けるブリュノー・モレールを中心としたかつての仲間たちも個性的であり、彼らは敵のドイツ軍、特にゲシュタポのパリ本部長クルト・リマーの残酷さが物語の闇の部分を際立たせ、陽と陰が適度にブレンドされ、読者のハートをゆすぶる。彼リマーの残忍な手口によって拷問に晒され、命を落としていくレジスタンスにイギリス軍の協力者達。第2次大戦時のドイツ占領下におけるパリの明日をも知れない緊迫したムードが、このコンゲームにスリルをもたらしている。さて、上に書いたベルヴォアールの経歴を読んで、何か連想しないだろうか。そう、フランス人の大泥棒ベルヴォアールはもうルパンそのものである。これはバー=ゾウハーの手による怪盗ルパン譚、パスティーシュでもあるのだ。本家ルパンが書かれた時代は第1次大戦から第2次大戦時の動乱の最中である。作者ルブランは篤い愛国者であり、実際ルパン物で自国フランスを救うエスピオナージュを書いている。しかしそれはあくまで怪盗ルパンの活躍を中心にした創作であり、全面的に政治的側面を押し出したものではない。翻ってバー=ゾウハーによる本書はまずV-2ミサイルというドイツの脅威の新兵器がありきで、その侵攻を阻止するために暗号機エニグマの強奪という側面が浮かび上がってくる。つまりルブランの創作姿勢とは全く逆なのだ。従ってバー=ゾウハーの書く怪盗ベルヴォアールの活躍は非常に現実的であり、緊張感溢れるスパイ小説としても読めるのだ。いやあ、スパイ小説でありながら、ピカレスク小説でもあり、さらにルパンのパスティーシュでもあるという、非常に贅沢な作品だ。そしてそれを難なく作品として纏めているバー=ゾウハーの手腕に改めて感服する。そして明かされる事実は情報戦の非情さを象徴するが如く、皮肉な物だった。大局的勝利のために少数の犠牲を出すことも厭わない戦時中の歪んだ闘争原理。バー=ゾウハーはそんなパワー・ウォーに巻き込まれた尊い命の数々を描いたのだ。しかしこの邦題はなんとも魅力がない。このガチガチの国際謀略小説を思わせる堅苦しい題名を見てこのようなドキドキハラハラの冒険譚を想像するだろうか。バー=ゾウハーの多くの作品が絶版になった中で、なぜ1980年に訳出された本書が21世紀も18年過ぎた今なお刊行されているにはやはりそれなりの訳があるのだ。それを想像させるにはこの題名が足を引っ張っているように思えてならない。 ▼以下、ネタバレ感想
これは傑作!正に掘り出し物だ。
予想以上に面白かった!ドキドキハラハラの連続活劇だ。
エニグマ強奪の任を受けてドイツ支配下のパリ潜入行を行うベルヴォアールが、盗賊時代の仲間達の協力を得ながらドイツの包囲網を常に相手の想定の斜め上を走りながら潜り抜けていく。
一歩遅れれば囚われの身となり、拷問に晒される状況下、時には鮮やかに、時にはギリギリの所で、はたまた敵の目前で包囲網をかいくぐるスリリングな展開が目白押しだ。
そんな物語を彩る登場人物たちの個性が際立っている。
まず主人公の盗賊、自らを男爵と名乗るフランシス・ド・ベルヴォアールの造形が素晴らしい。
フランス人で大泥棒の父と駆け落ちした鉄道王の娘との間に生まれたこの男は幼い頃から父の稼業を手伝いながら盗賊としての腕を着々と磨き、世界中で盗みを働く。サイゴン、マカオ、香港の東南アジアで活躍し、その後エチオピア、コンゴ、アルジェリアと西アジアから北アフリカを蹂躙。そして生まれ故郷のヨーロッパに戻り、大仕事を幾度と無く成功させ、ゲシュタポの金塊強奪事件で英国で捕まるまで一度も逮捕された事がない。変装を得意とし、人殺しは無論の事、銃器を使わぬことを信条とし、大胆不敵さと情の厚さを兼ね備えたその性格は、周囲の人物を魅了し、次々と仲間―女性の場合は恋人―に引き込み、協力者のネットワークを世界中に築き上げている。
彼の標的である暗号機エニグマを所有するドイツ軍にあって、彼の宿敵とされるのはルドルフ・フォン・ベック大佐。厳格なる職業軍人の血筋に生まれた生粋の軍人である彼は34歳にして軍情報部の大佐の地位にあり、ドイツ軍の本道を進むエリートである。
しかし彼は幼き頃からジュール・ヴェルヌの冒険小説を好み、バイロン卿やラファイエットといった自由のために戦ったロマンティックな勇士に憧れる心を持ち、またフランスの華やかな文化を愛でるロマンティストでもある。そして彼はベルヴォアールの波乱万丈の人生を読んで、かつて叶えられなかった理想の人生を彼に見る。敵でありながら憧れであるベルヴォアールを尊敬の心でもって相見える。
さらにパリでベルヴォアールを助けるブリュノー・モレールを中心としたかつての仲間たちも個性的であり、彼らは敵のドイツ軍、特にゲシュタポのパリ本部長クルト・リマーの残酷さが物語の闇の部分を際立たせ、陽と陰が適度にブレンドされ、読者のハートをゆすぶる。
彼リマーの残忍な手口によって拷問に晒され、命を落としていくレジスタンスにイギリス軍の協力者達。第2次大戦時のドイツ占領下におけるパリの明日をも知れない緊迫したムードが、このコンゲームにスリルをもたらしている。
さて、上に書いたベルヴォアールの経歴を読んで、何か連想しないだろうか。
そう、フランス人の大泥棒ベルヴォアールはもうルパンそのものである。これはバー=ゾウハーの手による怪盗ルパン譚、パスティーシュでもあるのだ。
本家ルパンが書かれた時代は第1次大戦から第2次大戦時の動乱の最中である。作者ルブランは篤い愛国者であり、実際ルパン物で自国フランスを救うエスピオナージュを書いている。しかしそれはあくまで怪盗ルパンの活躍を中心にした創作であり、全面的に政治的側面を押し出したものではない。
翻ってバー=ゾウハーによる本書はまずV-2ミサイルというドイツの脅威の新兵器がありきで、その侵攻を阻止するために暗号機エニグマの強奪という側面が浮かび上がってくる。つまりルブランの創作姿勢とは全く逆なのだ。
従ってバー=ゾウハーの書く怪盗ベルヴォアールの活躍は非常に現実的であり、緊張感溢れるスパイ小説としても読めるのだ。
いやあ、スパイ小説でありながら、ピカレスク小説でもあり、さらにルパンのパスティーシュでもあるという、非常に贅沢な作品だ。そしてそれを難なく作品として纏めているバー=ゾウハーの手腕に改めて感服する。
そして明かされる事実は情報戦の非情さを象徴するが如く、皮肉な物だった。
大局的勝利のために少数の犠牲を出すことも厭わない戦時中の歪んだ闘争原理。バー=ゾウハーはそんなパワー・ウォーに巻き込まれた尊い命の数々を描いたのだ。
しかしこの邦題はなんとも魅力がない。このガチガチの国際謀略小説を思わせる堅苦しい題名を見てこのようなドキドキハラハラの冒険譚を想像するだろうか。
バー=ゾウハーの多くの作品が絶版になった中で、なぜ1980年に訳出された本書が21世紀も18年過ぎた今なお刊行されているにはやはりそれなりの訳があるのだ。
それを想像させるにはこの題名が足を引っ張っているように思えてならない。
▼以下、ネタバレ感想