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パラレルワールド・ラブストーリー



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パラレルワールド・ラブストーリーの評価: 6.20/10点 レビュー 10件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点6.20pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全2件 1~2 1/1ページ
No.2:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

これも献身の物語

殺人事件が起きずにこれほどハラハラさせられるミステリは最近読んだことがない。そう、“ラブストーリー”と題名に附されながら、これは極上のミステリなのだ。

本書での謎というのは実に上手い語り口で徐々に紐解かれる。
物語はまず2つの平行世界で繰り広げられる。共通するのはバーチャル・リアリティ(作中ではバーチャル・リアリティをさらに発展させた次期型リアリティという設定)をそれぞれの分野で外資系総合コンピューターメイカー、バイテック社のMAC技科専門学校で研究している敦賀崇史と三輪智彦と津野真由子の三人。

一方の世界では崇史と智彦は入社して2年目の社員で、智彦に新恋人が出来、崇史に紹介する。しかしそれは彼が学生時代に彼が乗っていた山手線に並行して走る京浜東北線に乗っていた憧れの君、津野麻由子だった。崇史は親友の幸せを祝いながらも、激しい嫉妬に襲われ、真由子を手に入れたいという恋情に駆られる。

もう一方の世界ではMAC技科専門学校での研修を終え、入社3年目の崇史は麻由子と同棲していた。しかし智彦が麻由子の恋人だったという夢を頻繁に見るようになり、深層心理で智彦に対して罪悪感を抱くようになる。そして当の智彦はバイテック社の本社、ロサンゼルスに赴任していたというもの。

この2つの世界の設定が交互に語られ、まずはどちらが現実でどちらがバーチャル・リアリティなのか、読者は混乱に注意しながら読み進めることになる。

やがて読み進むにつれてそれら2つの異なる時間軸で語られる話が1つのある謎に収束していく。

それは即ち、「記憶は改編できるか?」という謎だ。

『宿命』以後の東野作品を中期とすると、この頃のテーマに頻発するのが「記憶」ということになろう。『宿命』然り、『変身』然り、『分身』然り。そして本書然り。

これらの作品に共通するのは近い未来に成立し得るであろう医療技術が物語の発端になっていることだ。前掲の3作品については未読の方の読書の興を殺ぐといけないので敢えて触れないが、本書では現実と見紛うほどの非現実体験、即ちバーチャル・リアリティの研究から発展した記憶改編が技術として挙げられている。

記憶というのは果たしてなんだろうか?東野氏は『変身』で主人公成瀬にこんな台詞を云わせている。

「脳はやっぱり特別なんだ。あんたに想像できるかい?今日の自分が、昨日の自分と違うんだ。(中略)長い時間をかけて育ててきたものが、ことごとく無に帰す。(後略)」
「それは死ぬってことなんだよ。(中略)かつて自分が残してきた足跡を見ても、それが自分のものだとはとても思えない。二十年以上生きてきたはずの成瀬純一は、もうどこにもいないんだ」

自分が自分である為の証拠。それこそが記憶だと成瀬は激白している。
その記憶を改編することとは自分の足跡を消し、新たな自分を生み出すことではないか?
そんな記憶は果たして自分の存在意義を示すのか?

特にこの記憶改編の仕組みを東野氏はぼやかさずに実に合理的に説明している。詳細は本書に当たられたいが、その方法論は実現可能ではないかと思わせるほど論理的だ。
本書では不良に2人囲まれてどうにか逃げ出したという事実を5人に囲まれてどうにか撃退したという風に大袈裟に誇張して語る行為を例に挙げている。
人は年を取るにつれ、現実と理想が乖離していくのを痛感し、理想が適わぬ夢であることを知り、諦めてしまう。だから人は少しでも理想に近づけたくてついつい嘘をついてしまうのだ。

年を取るにつれ、本書の登場人物が抱えるこの想いは痛切に心に響く。そしてそれ以外にも本書には私のツボとも云える設定が盛り込まれている。

まず冒頭の一行目からグッと物語に引き込まれた。山手線と京浜東北線というある区間では双子のように並走するこの路線をパラレルワールドに擬えるところが秀逸。
そしてそれぞれの電車に乗る人々はそれぞれの空間だけで完結し、同じ方向に進むのに何の関係性も生まれないという主人公敦賀崇史の独白がさらにツボだった。

そして毎週火曜日に路線を跨いで同じ車両の同じ位置に立つ女性に恋心を抱くという設定もツボだし、さらに親友の彼女がその女性だったなんてベタにもほどがあるが、好きなんだなぁ、こういうの。
多分これからあの区間を山手線、京浜東北線に乗るたびにこの物語を思い出しそうな気がする。

このような「運命の相手」が目の前に立ち、しかもそれが親友の恋人だったら?実に憎らしい設定ではないか?
主人公敦賀崇史が直面したのはこのような狂おしいまでのシチュエーションだ。親友との友情を取るか、それとも自分の恋情に従い、親友の恋人を獲るか?このなんとも先行きが気になる設定に加え、その本願が成就された1年後の崇史の姿が並行して語られ、そこでは次第に気付かされていく自らの記憶の誤差について崇史が独自に調べていくというミステリが繰り広げられる。

しかし何よりも本書はある一人の人物に尽きる。それは敦賀崇史の親友、三輪智彦だ。幼い頃の病気で右足を引きずるというハンデを背負った彼は明晰な頭脳を持ちながら、不遇な人生を歩んできた。そんな彼に訪れた大きな幸せ。それが恋人津野麻由子だった。

冒頭に私は本書はラブストーリーだと銘打ちながら実は極上のミステリだと書いたが、最後にいたってこれはなんとも切ない自己犠牲愛に満ちたラブストーリーなのだと訂正する。

こんなに心に残る話は無条件で星10を献上したいところだが、『魔球』同様、犠牲を被る相手に不満が残ってしまう。
特に今回は社会的弱者の立場の人間が自ら犠牲になるというのがどうしてもしこりとして残ってしまう。上にも書いたが、不遇な境遇を強いられた彼がようやく手に入れた唯一無二の幸せ。それさえも身障者という理由で諦めなければならないのだろうか?

誰もが幸せになるために選んだ道は実は誰もが不幸になる道であった。
謎は解かれなければならないのがミステリだが、本書においては知らなくてもいいことがあり、それを知ってしまうことが不幸の始まりであった。
『変身』では記憶を自らの存在意義の証と訴えた東野は本書では記憶のまた別の意味を提示してくれた。次は何を彼は問いかけるのだろうか?


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(9pt)

パラレルワールド・ラブストーリーの感想

タイトルから想像したとおりの話。
内容は少し複雑ですが、さすがはベストセラー作家、文章自体はすごく読みやすいです。
恋愛、友情、ミステリー、それぞれが上手く描かれている作品でとても楽しめました。

▼以下、ネタバレ感想

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ちんちろりん
NLFRSLFL

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