シメール
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文庫にしては高い、と復刊から長らく間を置いていたが、復刊なのだから価格が単行本並みでも当然だと気付いた。 さて。本書はすごい。ベニスに死すを地で行く少年愛讃歌(ただしプラトニックなもの)に、耽美と頽廃、更には著者の教養をこれでもか!と感じる古今東西からの引用。 びっくりするようラストではなく、少しずつ狂っていく悲劇をじっくりと堪能できる素晴らしい作品。 | ||||
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以前から漠然とは感じていたのだが、服部まゆみは全体の作家だ。もちろん文章はあくまで薫り高く、かの皆川博子女史が評したように“薔薇の香油のような”孤高の頂きに達している。しかし、それは単語、センテンス、フレーズ等における鋭さや輝きに対しての表現ではなく全体、つまり読中や読後に感じる幻想的雰囲気に対しての形容なのである。その点において牧野修とは対極に位置する作家だ。 牧野は断片における鋭さを積み重ねることで大傑作「MOUSE」をものにした。牧野は一瞬で飛翔する。いわば、ガラスの破片で創られたモザイク画といえる。それに対して服部まゆみは油筆で丹念に、幾重にも重ね描かれた抽象画に例えられよう。一つひとつの細部にはさほどの意味は感じられない。むろん時間を忘れるほど心地良くいつまでも留まっていたいと思わせるのだが、はっと全体を見渡せばいつのまにか知らない場所に一人で放り出されている。 全体の4分の3、242ページまで読み終えた。そう、いつだって楽園は崩壊する。それは予感と呼ぶにはすでに遅い。心地良かった世界は徐々に不協和音に蝕まれてゆく。無垢の天使が世俗にまみれようとしている。それでもおそらく彼は己を貫くだろう。だが、服部まゆみがミステリ作家と認知されている限り世界は反転する。それは本格ミステリより壮大な地響きを立てて顕れるに違いない。 もちろん私はそれを望んでいる。しかし、それと同時に畏れてもいるのだ。この幻想は解体される宿命にあるのかもしれないけれど、あまりに惜しい。鼻孔をくすぐる廃頽の薫りが失われてしまう。とはいえ、女史はページという時間軸に支配される小説という分野において幻想と解体が並列に存在する奇跡の作品「この闇と光」を創り上げた才能だ。心して読み進めるとしよう。 (以下は未読の方は読まないで下さい) 服部まゆみはついに殻を破った。確かに楽園は崩壊した。だが、幻想は解体されるのではなく完成されたのだ。何たる眼差しの夢幻なることか。物語は二人の視点だけで交互に語られる。二元論に支配された作品世界は一方のみが真実であり、曖昧な第三者の入り込む余地はない。幻想とは観察者にとってのみ幻想であり、それ自体は現実である。そして、幻想は現実を凌駕しなければならない。故に、観察者は身を引きルシは死に世界は閉ざされ彼は永遠に墜ち続けなければならない。 読後に疑問に感じたのが第三章のタイトル「ナジェージダとナジャ」である。これは何を意味しているのか。ナジェージダはロシア語で希望、ナジァは希望という言葉の始まりである。だがここに描かれているのは希望ではなく絶望だけではないか。いや、本当にそうだろうか。観察者はルシが墜ちることを望んだではないか。幻想が完成することを、世界が閉ざされることを望んだではないか。ならばルシの死は希望であり、また始まりでもある。彼の死の瞬間から観察者は無限の世界の住人となり甘美な廃頽の花園で過ごすだろう。閉じた瞬間から世界は再び始まり、決して終わろうとはしないだろう。 この読後感は何なのだろう。ここに描かれていたのは日常と非日常の狭間で揺らめくひとひらの華だったのか。それとも、光と影の終わり無き戦いの物語だったのだろうか。華は散り、影は闇となり、それでも残る仄かな光。このオレンジの灯こそこの作品の本質であり、そしてそれは「この光と闇」と対を成していると言えるのではないだろうか。決して混じり合うことのなかった光と闇が本作に至り僅かではあるが融合したのではないか。 服部まゆみはミステリの枠組みから抜け出した。今後どのような作品を創り出してゆくのか見当もつかないが、ただシメールを上質のシメールを、と望まずにはいられない。 | ||||
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服部まゆみさんの世界観が好きです。 シメールとは、幻獣や幻という意味だそう。 切なく、悲しいです。 ラスト、シメールというタイトルの意味がわかります。 | ||||
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画家で大学教授、著述家でもある有名文化人の片桐哲哉は、大学時代の同級生夫妻に再会し、ふたりの息子“翔”の美少年ぶりに心うばわれ、アパートを出なければならなくなっていた彼ら家族を、広大で豪奢な自分の洋館に同居させることとする…。 繊細な心理描写に、美術や文学、神話などの蘊蓄を華麗にちりばめた耽美な小説世界に、あやうい少年愛を描いたゴシックミステリ。禁断の香りをただよわせながらも、アブノーマルな毒気は少なく、目の玉がドンデン返しするようなミステリとしての仕掛けもない。しかしアルコール度数は高くないが、流麗で美しい文章世界が、飲み口のマイルドな美酒のように、心地よいほろ酔いの酩酊感をあたえてくれて、ページをめくる手を止めさせない。文章や構成にも気になるような瑕疵はなく、服部作品のなかでも、もっとも充実した完成度をもつ、悲劇の秀作になっていると思う。 | ||||
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と、唸るようなラストです。 江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」を思わせる教授の行動に切なくなりながらも耽美な世界を堪能しました。 絵画や彫刻の解釈はさすがです。 | ||||
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