(短編集)

メイプル・ストリートの家



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    初公開日(参考)2006年10月
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    短編集

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    メイプル・ストリートの家 (文春文庫 キ 2-29)

    2006年10月06日 メイプル・ストリートの家 (文春文庫 キ 2-29)

    祖父が孫息子に語る人生訓(「かわいい子馬」)、義父を亡き者にしようとする子供たちがとったとんでもない方法(表題作)等5篇収録(「BOOK」データベースより)




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    メイプル・ストリートの家の総合評価:8.33/10点レビュー 3件。Cランク


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    (7pt)

    色んなジャンルの詰合わせ

    『ドランのキャデラック』、『いかしたバンドのいる街で』に続く短編集“NIGHTMARES & DREAMSCAPES”の3冊目の訳書である。

    「かわいい子馬」は祖父から孫への最後の訓示のような話だ。
    題名の「かわいい子馬」はその祖父が時間を具現化したイメージであり、アドバイスを受けた孫同様に読者である私も正直云って腑に落ちるものではない。ただそこに書かれている時間に関するこの老人の話は実に興味深い。
    かくれんぼで隠れそびれたのは鬼役の子が1分数えるのが早かったからだと云って老人は孫を慰める。それを証明するために自分の懐中時計を与え、かくれんぼ鬼と同じようなペースで60を数えたときに何秒経っているかを確認させて、実際には35秒しか経っていなかったことで決して孫がとろくさくて隠れそびれたわけではないと教える。
    そして人間の生涯には3種類の時間があると説く。
    子供の頃は時間は長く感じて、例えば新学期が始まった時は夏休みなんて永久に来ないんじゃないかと思い、夏休みが来たら新学期なんてはるか先のことだと思うだろうと。子供時代の時間は、一日は長くてワクワクに満ちている。
    そして我々が現実の時間の長さを感じるのが14歳くらいから60歳くらいだと老人は云う。時間の感覚が身に付き、長さを正確に知って行動できる。そしてその現実の時間こそが「かわいい子馬」で仲良く付き合っていけと諭す。
    そして年老いてくると時間は早く過ぎていく。朝かと思ったらすぐに昼になり、そして夜になる。それを意識しだすのは40歳くらいで人々は夏になったかと思えばお店ではハロウィンの準備をしだし、そしてすぐにクリスマスの準備をしだすと。
    確かにこれはその通りだ。「かわいい子馬」という概念は別にしてもこの時間に対する感じ方はみな同様に抱いていた気持ちではないだろうか。
    そして老人はその子に時間の概念を教えたかっただけでなく、今日みたいに友達から虐められるようなことが起きても自分がそばにいると勇気づけたかったのだろう。祖父祖母にとって孫とは何とも可愛くて愛おしい存在なのだから。

    次の「電話はどこから……?」は珍しく脚本形式で書かれた作品である。
    聞き覚えのある女性の泣き声が受話器から聞こえ、パニックになるが、その声の主が解らない。これはそんな物語だ。

    「十時の人々」は奇妙な侵略物である。
    一般的には私たちと同じ人間にしか見えないが、ある特定の条件下の人間だけがその蝙蝠人なる異形の怪物の真の姿を見ることができるという侵略者たちの脅威を描いた作品だが、キングはこの特定の条件を何とも細やかな設定にしている。そんな人々を主人公が〈十時の人々〉と呼んでおり、それが題名の由来である。

    次の「クラウチ・エンド」もまた「十時の人々」同様、我々の世界と異形の物の住まう世界は隣り合わせだと警告している物語だ。
    物語の舞台はキングにしては珍しくイギリスはロンドンの片田舎クラウチ・エンド。そこはしかし異次元との境が最も薄い地域であった。そしてたびたびそこでは異形の物たちが蔓延っては生贄を攫っていく。そこに住んでいる友人宅を訪れた旅行中のアメリカ人夫婦はその異界へと紛れ込んでしまう。そしてそんな体験をした女性は失踪したままの夫を残して帰国し、自殺未遂を図り、療養所で過ごした後、退院してもなおある奇行をしないと落ち着かない日々を送る。

    最後の表題作はキングによく登場する家庭を制圧する父親に怯える子供たちが主人公だ。
    これはキングらしからぬ痛快な物語だ。不思議な金属が現れ、侵食する話と云えばあの陰鬱な駄作(敢えて云おう)『トミー・ノッカーズ』を想起させるが、本作はあの作品のように迷走せず、実にシンプルに展開する。
    自分たちの家の中に金属があり、それが日々広がっていく。訳が分からないまま、カウントダウンを続ける計器が見つかり、“その時”が来るのが判る。
    一方で反りの合わない継父との生活に日々心身をすり減らしている母親と子供たちがいる。そんな現状打破のためにこのカウントダウンを利用する。
    結末は実に痛快!
    敢えて色々な説明を省いて“その時”までを描いたキングの技巧を素直を褒めたい。


    キングの短編集“NIGHTMARES & DREAMSCAPES”も本書で3冊目。その内容はさらにヴァラエティに富むようになった。

    初頭を飾る「かわいい子馬」は純文学とまでは云わないが、普通小説である。

    祖父はかくれんぼで遊んでいた孫が一人隠れそびれたのを参加していた友達に嘲笑われていたのを見て、彼に自分の懐中時計を託し、そして時間に関する話をする。その内容については既に上の感想で述べているので、ここでは別の話を書こう。

    祖父から孫への最後の時間に関する話というテーマながら、作中で祖父が自嘲気味にすぐに横道にそれてしまいがちだと云うようにキング作品らしく、物語は色んなエピソードが含まれている。それは少年の無垢なる心では大人のやることが全て新鮮に見えたことやどこにでもあるアメリカの一般家庭の風景が断片的に挿入されており、何とも瑞々しい。

    少年は祖父が親指の爪に擦り付けてマッチに点火するのをまるで手品を見ているかのように驚いて眺め、さらにその火が強風にも関わらず消えないのに、逆に振るだけでマッチが消えることを魔法だと感じる。

    6歳年上の姉が男の人とは一生付き合わないと云った2カ月前に彼は姉がバスルームで1人全裸になって鏡で自分の姿を見ていて泣いていたことを彼は知っている。

    また姉が悪戯で少年に“ちんちんつねり”をするのを彼は嫌っているが時々姉が愛犬にするように優しく撫でるときは寧ろ気持ちがいいことを黙っている。

    父親が出張旅行に行っているとき、母親は病気の友達の見舞いに行くことがあって、少年はどうして父親の出張の時にいつも母さんの友達の病気が重くなるのか不思議がる。

    そんなごく普通のアメリカ家庭でありながら、少年が祖母祖父の許で暮らしていることや断片的に語られる両親や姉のエピソードで、はっきりとは書いていないがその家族に何かあったであろうことを悟らせる。

    次の「電話はどこから……?」はジャンル的にはホラーだが、なんと脚本形式で書かれている。

    しかしなぜこの話を脚本形式で書いたのか?
    それはワンアイデアの物語を依頼された枚数まで膨らますためにキングが編み出した一種の荒技だったのか。

    「十時の人々」はキングの好きなモンスター小説かと思ったが、侵略物と考えるとSF小説に分類されるか。
    人々の知らないうちに通称“蝙蝠人”と呼ばれる怪物たちが人間に化けて社会的地位の高い人間に成りすましていた。通常彼らの姿は人間としか見えないが、ある特定の条件を備えた人物だけが彼らの正体を見ることが出来る。
    この設定はある協会に依頼されて書いたような設定が妙なおかしみを感じさせる。

    しかしこの蝙蝠人の精緻かつ醜悪な描写はまさにキングの独壇場だ。蝙蝠人というネーミングながら、決して蝙蝠の頭をした人間として描かれているわけではなく、大きな目と牙を備え、頭部には肉塊が蠢いて膨張しては膿を噴き出し、1本の黒くて太い血管が脈打っていると想像するだに気持ちの悪い風貌だ。そして彼らの正体が見えない一般人は普通の人々に見えるので、そのグロテスクな肉塊に頬にキスを交わすという吐き気を催すような描写も出てくる。

    「クラウチ・エンド」はキングにしては珍しくアメリカではなくロンドンの片田舎を舞台にした物語。
    クラウチ・エンドとはその舞台となる町の名前でセイラムズ・ロットやキャッスルロック、デリーと云ったキングお得意の不穏な雰囲気を孕んだ街の話だが、驚くことにこのクラウチ・エンドは実在する街のようだ。キングの友人ピーター・ストラウヴが住んでいた町で一度訪れたことがあるようだ。

    しかし「十時の人々」と「クラウチ・エンド」は表裏一体のような話だ。
    前者は希望を残した終わり方だが、後者は諦観が込められている。

    最後の表題作はキングの持ち味である高圧的な父親の支配という恐怖を描きながらも、最後はSF的結末に至る作品だが、これはとにかく主人公となる4人兄妹たちがいい。愛情の欠片も感じさせない継父を嫌悪しつつも恐れながら、日々神経を衰弱させる母親を気遣う子供たち。そんな中、自分たちの家の壁の中に金属が入っているのを見つけ、それが次第に広がっているのに気付く。しかもカウントダウンしている計器を発見するに至り、どうやら何かが起こることを察し、彼らはこの怪事を利用して継父を一掃しようと企むのだ。

    この4人兄妹はキングの名作「スタンド・バイ・ミー」の少年たちを彷彿させる。

    普通小説、ホラー、モンスター小説、侵略物のSF小説、ジュヴナイル。しかし各編は左に書いたジャンルを見事にミックスさせて一括りにできない作品に仕上げている。
    いやだからといって全くストーリーは複雑ではない。寧ろシンプルだ。しかしシンプルなストーリーに複数のジャンルを放り込んでいるのだ。

    さて本書におけるベストは表題作の「メイプル・ストリートの家」だ。なかなか懐けない継父との確執が募る4人の兄妹たちの鬱屈を、何とも豪快な結末に溜飲が下がった。

    あとは「十時の人々」の発想の面白さを挙げたい。

    同じ習慣を持つ人々がいつも同じ場所で顔合わせ、顔馴染みであるがお互い挨拶も交わさず、名前も知らない人たち。そんな人たちはみないるのではないか。
    本書では休憩時間の10時と3時に一服をしに出てくる人たちだが、例えば同じ通勤電車の同じ車両で乗り合わせる人たちやいつも行く馴染みの店で出くわす人々などなど。
    この作品が面白いのはそんな人たちがみな共通して特殊な能力を持っていたという設定だ。この発想が実に面白かった。

    また「電話はどこから……?」も過去の過ちを自分が過去の自分に教えてやれたらよかったのにと、これまた誰もが抱く心理に基づいた作品だ。しかしそうは上手く行かないのがキングらしい。

    とにかくキングはどんなジャンルの話も書けるのだという思いを強くした。この短編集では普通小説も収録されている。これは逆に他の作品も読める短編だからこそ著したのだろう。さすがにキングのビッグネームでもこの手の普通小説は長編では盛り上がりに欠けて売れ行きも芳しくならないだろう。

    さて“NIGHTMARES & DREAMSCAPES”もあと1冊。次はどんな悪夢が、どんな風景を見せてくれるのだろうか。

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    Tetchy
    WHOKS60S
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    No.2:
    (5pt)

    キング初心者には読みにくいかも。

    スティーブン・キング初心者には読みにくい作品かもしれません。ただ、表題作を始めとして、収録されている作品はキングらしい興味深い作品ばかりです。なかなか手に入らないですが、手に取っていただきたい一冊なのかな、と。
    メイプル・ストリートの家 (文春文庫 キ 2-29)Amazon書評・レビュー:メイプル・ストリートの家 (文春文庫 キ 2-29)より
    4167705362
    No.1:
    (4pt)

    さすがキング

    スティーヴン・キングの作品は安心して読める。
    絶対はずれがないからである。
    この作品もやはり期待通りのおもしろさだった。
    「かわいい子馬」は意外や意外、ためになる人生の教訓が得られる。
    「電話はどこから・・・?」は今すぐドラマ化できそう。
    「十時の人々」が個人的には一番怖かった。こういうことはありそうだ。
    「クラウチ・エンド」はクトゥルフの香りが漂う正統派ホラー。
    そして表題作「メイプル・ストリートの家」には、驚愕のラストが待っている。まさかの発想だった。
    何歳になってもこのレベルの作品を世に送り出し続けるキングは本当にすごいと思う。
    メイプル・ストリートの家 (文春文庫 キ 2-29)Amazon書評・レビュー:メイプル・ストリートの家 (文春文庫 キ 2-29)より
    4167705362



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