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平林初之輔 佐左木俊郎: ミステリー・レガシー



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平林初之輔 佐左木俊郎: ミステリー・レガシー (光文社文庫)

2020年02月05日 平林初之輔 佐左木俊郎: ミステリー・レガシー (光文社文庫)

江戸川乱歩が戦時統制下に筆を折っていたように、ミステリーは自由で民主的な社会でしか発展できない。探偵小説が一般に普及したのも大正デモクラシーの風潮と無縁ではなく、そんな新しい時代に書かれたプロレタリア文学運動の理論家・平林初之輔と、農民文学の旗手・佐左木俊郎のミステリーは、長い時を経ても決して色褪せることのない輝きを放っている!(「BOOK」データベースより)




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No.2:
(5pt)

「悪魔の戯れ」が読めます!

長らく単行本未収録だった平林初之輔氏の中編「悪魔の戯れ」がようやく読めるようになりました。
本書発売の約15年前にも単行本化は予定されていましたが実現しておらず、この一編を読むために買っても損はないと思います。
平林初之輔 佐左木俊郎: ミステリー・レガシー (光文社文庫)Amazon書評・レビュー:平林初之輔 佐左木俊郎: ミステリー・レガシー (光文社文庫)より
4334779859
No.1:
(5pt)

〝女=処女〟である事を異様に神聖化していた百年前の日本人

「ミステリー・レガシーのシリーズは、ミステリー文学資料館の閉館に伴い、企画編纂が資料館編集委員の山前譲氏になりました。」という巻末の一言が寂しい。このシリーズは毎回楽しみに買っているので、光文社は山前氏と共に継続して頂きたい。

今回登場するのはプロレタリア寄りの作家。ふたりとも編集者経験があるのも特徴。

■■「悪魔の戯れ」は平林初之輔の連載長篇(昭和4年)。
〝富〟〝女の貞操〟・・・搾取する側の貴族民と搾取される側の平民の間で女と男がねじれる物語。
格差社会への批判を込めつつ、なんともメランコリックな話はエロ・グロ・ナンセンス時代によく流行したパターン。

評論では鋭い洞察を発揮していた初之輔でさえ長篇になるとこういうのを書いているんだなあ。
戦前の日本の女性は処女でなくなったら人の妻に収まらないと〝汚れ〟扱いされるという考えが貧しい。
色魔たる子爵が抵抗できない女の躰を食いものにしてゆくという設定は戦後になって、
横溝正史の某長篇にパクられる。そういえばこの長篇の初出誌の編集長は横溝正史その人だった。

本書を★5つにした理由はいかに探偵趣味が希薄でも、この「悪魔の戯れ」が初単行本化ゆえ。
ミステリー文学資料館・編の頃から作品を採る雑誌が何かと『新青年』ばかりに偏りがちなところ、
今回は同じ博文館の『文藝倶楽部』に載ったものが多めであるのも好事家にとっては嬉しい。

昔の日本の探偵小説が新刊文庫で出ると「古い」とか「論理性がない」と批判を書く人がいるが、
そんな人には特に向かない一冊かもしれない。逆に戦前の倫理観を楽しめるならばサクサク読めるはずだ。

□□一方、佐左木俊郎のほうは6短篇。夢野久作みたいな猟奇ローカリティも持つ作家で、
加えて葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」の感じが好きならこの作家もしっくりくると思う。
そっち側のものはダイナマイトと狩猟をめぐる「猟犬物語」と、轢死する女がどうにも哀れな「機関車」。

それ以外の作は都会が舞台で、「仮面の輪舞」は代表作のひとつだが〝女の貞操〟をめぐる点において、
前述の「悪魔の戯れ」と一緒。あとは肖像画が心の不倫を語る「秘密の錯覚幻想」、
芝居の稽古と偽って人を殺める「謀殺罪」、彼には珍しいブラック・ユーモアがある「指と指輪」。

カバー画に藤牧義夫「赤陽」を使って本書のコンセプトを強調しているのにセンスの欠片も無い帯が超ダサいなあ。
それはともかく、ミステリー・レガシーは二作家で一冊なのでこのシリーズには当てはまらないけれど次は、
宮野叢子の『流浪の瞳』やボリュームのある『血』をぜひ文庫で読みたい。山前氏、よろしく。
平林初之輔 佐左木俊郎: ミステリー・レガシー (光文社文庫)Amazon書評・レビュー:平林初之輔 佐左木俊郎: ミステリー・レガシー (光文社文庫)より
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