中野のお父さん
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あらすじ
体育会系な文芸編集者の娘&定年間際の高校国語教師の父が挑むのは、出版界に秘められた《日常の謎》!□「応募してませんよ、わたしは」新人賞最終選考に残った候補者からの思いがけない一言は?(夢の風車)□「実は、扱いに困っている手紙がありましてね」ある大物作家に宛てた女性作家の手紙には愛の告白が?(幻の追伸)□「わたしは殺人事件の現場に行き合わせることになったわけです」定期購読者の話を聞いているうちに思いもよらない事態に?(茶の痕跡)ほか、大手出版社の文宝出版を舞台に繰り広げられる8つのミステリーの推理の結末やいかに……。〈円紫さんと私〉〈覆面探偵〉〈ベッキーさん〉シリーズほか、多くのファンを唸らせてきた名手による、新たな名探偵コンビが誕生。(「BOOK」データベースより)
評判
中野のお父さんの評価:
7.00/10点 レビュー 1件。 C ランク
中野のお父さんの総合評価:
7.93/10点 レビュー 14件。
感想一覧
サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
Amazonレビュー
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
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仕事の過程で出くわした、ミステリアスな未解決事件のことを、東京・中野の実家に帰るたびに父に話して聞かせる。すると、母と暮らす定年間近の父は、たちまちのうちに事件の真相を見つけてしまう。
今年(2015年)、≪私と円紫さん≫のシリーズが『太宰治の辞書』でほぼ20年ぶりに読者のもとに帰って来ました。噺家の≪円紫さん≫という安楽椅子探偵とともに日常の小さな謎を解き明かしていくそのシリーズの当初、まだ学生だった語り手の≪私≫が、今や子育てしながら出版編集の仕事をしている女性として私たち読者の前に元気な姿を見せてくれたのです。
今回の『中野のお父さん』は≪私と円紫さん≫シリーズの姉妹編ともいえる短編集です。
主人公は美希という出版編集者。日常で目にするちょっとした謎。お父さんはその話を聞いただけで謎を解明する。――すべてが≪私と円紫さん≫シリーズとパラレルな関係にあります。
ただし、『お父さん』のほうは、≪私と円紫さん≫シリーズに比べるとかなり小ぶりな感じがします。
一文で一段落を成す箇所がたいへん多く、そのぶん改行の頻度が各段に高いので、ぱっと見たところ頁には余白部分がかなりあると感じられます。事実一編あたりの文章量は少なく、それぞれの掌編はかなりの短時間で読み通せました。
また、≪私と円紫さん≫ではそれぞれの事件の背後に人間の業(ごう)のようなものの存在を感じさせたものですが、『お父さん』のほうにはそれはあまり見られません。その点が食い足りなさを与える気がします。
そして、≪私≫という主人公が学生時代から社会人として世間のとば口に立つまでの、人生でもっとも多感な時期を内省しながら歩んでいたのに引き較べると、美希は比較的軽やかに日々を楽しんでいる若者という印象を抱かせます。主人公への感情移入という面からいっても、『お父さん』のほうには軽量感を覚えます。
ただ、今年父を亡くした私は、最終編の『数の魔術』には少し思うところがありました。
幼かった美希の一輪車の練習にそっと寄り添ってくれた父が――裏表紙にその様子が益田ミリのかわいらしいイラストで描かれています――間もなく退職の時を迎えようとしている。若々しさを失うことなど以前は想像だに出来なかった父親に、老いの季節が確実にやって来たことを美希は心淋しく感じているのです。彼女のその胸の内が、いまの私の気持ちにぴたりと寄り添ったのです。
思えば北村薫は実父の日記をもとに現在『いとま申して』、『慶應本科と折口信夫』という連作を書いています。父の存在を強く思い返す時期というのが人にはあるのです。
『数の魔術』の後段に、父が教えてくれたあれやこれやを思い返して美希がひとりこう思う場面が出てきます。
「――それも覚えておくよ、……お父さん。」(282頁)
美希の心のこのつぶやきが、私自身の言葉となって聞こえました。