ダーク・タワー4 魔道師と水晶球
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種別
長編
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あらすじ
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評判
ダーク・タワー4 魔道師と水晶球の評価:
7.00/10点 レビュー 1件。 C ランク
ダーク・タワー4 魔道師と水晶球の総合評価:
9.18/10点 レビュー 11件。
感想一覧
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全1件 1〜1 1/1ページ
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〈暗黒の塔〉シリーズ4作目の本書の中心はガンスリンガー、ローランド・デスチェイン若き日の物語が語られる。それは彼が愛した女性スーザン・デルガドとの出会いの物語だ。
しかしその前に物語は前巻のクライマックス、自殺願望のある超高速モノレール、ブレインとのなぞなぞ対決から幕を開ける。
世界中のなぞなぞを知り尽くしているブレインは悉くローランド達が繰り出す問題に答え、後が無くなっていくが、この状況を打破するのがエディ・ディーンだ。彼がいかにして博覧強記のなぞなぞ解答マシーン、ブレインに打ち克ったのかは読んでのお楽しみ。
そして彼らがブレインとの勝負に打ち勝ち、降り立ったカンサス州のトピーカで、彼らはその世界が“キャプテン・トリップス”の感染爆発後の世界だと知る。そう、この現実世界で猛威を奮っている新型コロナウイルスを彷彿とさせる超インフルエンザはキングの大作『ザ・スタンド』で登場したウイルスである。
つまりこの〈暗黒の塔〉の世界と『ザ・スタンド』の世界がリンクしたのだ。
しかも本書でこの感染症がレーガン政権の時期であることが判明する。ちなみにレーガンと当時の副大統領ブッシュは感染から免れるため、地下の避難所に逃げ込んだと書かれている。
さて本書のメインは若かりし頃のローランドの恋バナである。彼が父親のガンスリンガー、スティーヴンとその仲間の父親達によってとある理由で安全と思われていた場所に追いやられたのだが、そこでたまたま彼らの宿敵であるジョン・ファースンと繋がっている敵と出くわすことになる。
彼らはローランドの父親がガンスリンガーであることがバレないようにウィル・ディアボーンと名を偽って〈連合〉の遣いの計数者としてメジス郡の<男爵領>ハンブリーに来たことにしている。計数者とは〈連合〉で生活必需品や人手が不足する事態になった場合、遠隔地であるこの地から提供してもらうことになるため、馬や牛、更には漁に使う投網まで調べる職業らしい。
そしてこのローランドと同行するのが彼の親友たち2人、カスバート・オールグッドとアラン・ジョンズだ。彼らは銃を携行するもののローランドと異なりまだ見習いのガンスリンガーという身分だ。しかしこの2人の腕前もかなりのもので、銃以外にもカスバートはパチンコの名手であり、アランはナイフの達人でもある。
この時ローランド14歳。そしてその任務で彼は訪れたハンブリーの行政長官ハートウェル・ソリンの愛人となったスーザン・デルガドと出遭い、恋に落ちるのである。
スーザンはソリンの子、それも男の子を産むために宛がわれた処女であった。
一方ローランド・デスチェインは〈連合〉から遣わされた計数者という身で、しかも〈内世界〉から来たいわば首都圏からの役人といった身分だ。
しかし彼らはまだ弱冠14歳。それでも既にガンスリンガーとなっている彼はその身分を隠しながらも成人男性並みの落ち着きを持っている。
つまり町中に知られた権力者の愛人が調査に訪れた美男子の役人と道ならぬ恋に落ちる図式である。しかし元々スーザン自身もいわば愛人という情婦という立場なのだが、相手が町の権力者ならばそんな立場でも一目置かれる存在となっている。
そんな若い愛人を目の当たりにし、パーティーにも同席しながらも嫉妬に駆られないハートウェル・ソリンの妻オリーヴが実に素晴らしい人格者なのだ。彼女についてはまた後程触れよう。
このキング版『ロミオとジュリエット』とも云える二人の恋路はまず始まりまでが実にじれったい。
ローランドはスーザンの魔女リーアの許を訪れた後の家路でばったりと遭うのだが、彼はスーザンが愛人となる行政長官のパーティーに招かれ、そこで初めて会ったように振舞うように請われ、それに従うが彼女が自分をすげなく扱い、更に行政長官の愛人だと知ると素っ気なくあしらう。既にローランドに対していい感情を持っていたスーザンはそんな態度を取った彼に憎悪する。
しかし自分がスーザンに惹かれているのに気付いたローランドが謝罪の手紙を渡して二人きりで会うと彼らはお互いが惹かれ合っているのに気付く。しかしスーザンは自分が町の有力者の愛人である身分からローランドと逢うのは得策ではないとローランドの誘いを断る。しかしそれでも逢いたい気持ちが勝り、待ち合わせの約束をし、とうとう彼らは出会い、そして愛を重ねるのだ。
ここに至るのが中巻の240ページ。物語の約半分だから、まあ、何ともじれったい二人である。一昔前のラブロマンスのようだ。
しかしそこからはもう二人の思いは止まらず、秘密の待ち合わせ場所を選んではセックスに耽る。まあ、10代2人のセックスだからなんとお盛んなことか。そしてその若さゆえにもう止まらないのだ。
ローランドは自分が身分を偽って父親から重大な任務を授かっていることをどうでもいいと思い、スーザンもまた彼女が行政長官と褥を重ねるまで純潔を守らなければならないことなど他愛もないことだと思うほどに、2人の欲望は若さの勢いのまま、迸るのだ。
2人の恋はハリケーンなのだ。
この〈暗黒の塔〉シリーズはやたらとこのセックスシーンが登場するのが特徴だ。その行為が新しい何かの誕生を象徴しているからだろうか。
しかしこの2人の恋がローランド達3人組の絆に亀裂を入れるようになる。
ローランドをリーダーとして認めていた2人は彼の恋患いに腹を立て、特にカスバートはスーザンに憎悪を向けつつも、美しい彼女が自分ではなくローランドを選んだことを残念に思うと複雑な気持ちを抱き、その感情の乱れが行動に現れ、ローランドを殴りつけたりもするのだ。
この過去の話によってそれまでの様々な因縁が明らかになる。
ローランドの宿敵、魔術師マーテン・ブロードクロックは彼の父親の相談役であり、彼の母親を寝取った男であった。ローランドはマーテンによって成人の儀式に挑むよう仕向けられ、彼の武器の師匠コートをタカのデイヴィッドを使って打ち破り、師の武器の棍棒を奪い取ったのだ。その結果、マーテンを敵に回すようになったのだった。
このマーテンの復讐から逃れさせるため、ローランド達の父親はまだ未成年の彼らをニュー・カナーンより遠方の地、つまり最果てに近いメジスまで追いやることにしたのだった。
しかし息子たちの身を護るために使わせた最果ての地で偶然にも彼らは〈連合〉に歯向かう〈主人(グッド・マン)〉の仲間ジョン・ファースンのシンパたちと出くわす。
彼らが訪れたメジスにはシトゴという油井から原油を掘り出す機械がまだ稼働しており、元ガンスリンガーでローランドの師コートの父親によって追放されたエルドレッド・ジョナス率いるロイ・ディペープ、クレイ・レイノルズの〈名うての棺狩人たち〉と呼ばれる3人はジョン・ファースンに原油とそれを燃料にする武器を与えて、反乱を起こそうとしていることが判明する。
更にそこに住む魔女リーアが持つ水晶球がローランドの父スティーヴンが云っていた〈魔導師の虹〉であることも発覚し、それを奪還しようとする。図らずも彼らは戦いの渦中に身を投じていくのだ。この〈魔導師の虹〉についてはまた後ほど触れよう。
さてこのローランド・デスチェインとスーザン・デルガドの恋は彼がエディ達に悲痛な面持ちで語ることから、結末は推して量るべしである。
さてこのダークタワーの世界では我々の現代社会とのリンクが見られるが、今回も色々登場する。
例えば最初のブレインとのなぞなぞ対決ではマリリン・モンローの名が出たり、74年のアメリカのTVドラマ“All in the Family”のキャラクター、イーディス・バンカーなんてのも登場する―これがブレイン攻略の糸口になるわけだが―。
またクリムゾン・キングも登場する。もちろんこれはプログレバンド、キング・クリムゾンであり彼らのデビューアルバム『クリムゾン・キングの迷宮』に登場する真紅の王である。
などと書いていたらこのローランド達の住まう世界が我々の未来であることが判明する。つまり何らかの理由で現在の文明が失われた世界なのだ。その何らかの理由が最後になってキングのある作品と繋がることで朧気に見えてくる。これについては後で述べよう。
しかし今回でさらにキャラが立ってきたように思える。特にブレインとの決戦で自分の知能レベルまでブレインを誘い込み、日常の下卑たジョークをなぞなぞにして撃破したエディは意外性の男として認知させられた感がある。他の3人が難しいなぞなぞを思いついたり、思い出したり、案出したりして対決して敗れていくが、彼は何物に囚われず、自分のフィールドに持ち込んで勝負ができる男なのだ。作中の表現で云えば彼は自分の世界にぶっ飛ぶと悪魔さえ燃え上がらせることができるのだ。
また端役とはいえ、オリーヴ・ソリンもまた印象深い人物だ。町の権力者ハートウェル・ソリンの妻でありながら、公的に息子を産むためとして生娘のスーザンを愛人として宛がわれ、パーティーにも出席させられて並みいるゲストたちの相手を笑顔で迎えるホステス役をさせられる。
しかしそれでも彼女は夫を愛していた。そしてその夫が<連合>の反逆者の間者である〈名うての棺狩人たち〉の策略で暗殺されたことを悟り、監禁されたスーザンを救出しもする。なんと高潔で優しき女性であることか。
そしてローランドが愛した女性スーザン・デルガド。彼女は元々最高の家畜商人と云われたパット・デルガドの娘だったが、父親が不慮の事故で亡くなってしまい、メジスの行政長官ハートウェル・ソリンの愛人となることになったのだ。
しかし更にも増して存在感を醸し出したのがガンスリンガー、ローランド・デスチェインだ。彼の過去が語られることで彼の造形が深まった。
いやあ、まさか初対面の女性がときめくほどの美男子だったとは。そして彼の家族も忌まわしい過去を纏っていることが判明した。しかも最後の最後には彼が自分の母親を誤って撃ち殺したことも判明するのだ。
さて今回判明したのはローランドの住むこの〈暗黒の塔〉の世界には〈内世界〉と〈中間世界〉、〈終焉世界〉があることだ。そして〈終焉世界〉には希薄があり、それが不快な音を立てているようだ。ローランドは〈内世界〉の住民でニュー・カナーンという〈連合〉の中心の出身であることが判明する。
これが未来の我々の世界であるわけだが、外側に行くほど希薄という世界の境に近づく。その希薄は人間の神経を不快にさせるような音が鳴り、そして人の邪な心を肥大させるような声が頭の中で囁かれる。そしてそれに取り込まれると得体の知れない液体から伸びる手に捕まれ、肉が溶け、鼻を引きちぎられ、骸骨へと変貌を遂げて苦悶の悲鳴を上げながら死んでしまう。
そう、これはキングの中編「霧」を彷彿とさせる。
さらに魔導師マーリンの魔力が秘められている〈魔導師の虹〉なる13の水晶球があることも判明する。それらは〈十二の守護者たち〉が所有し、最後の1つが〈暗黒の塔〉にあることが明かされる。
そして今回そのうちの1つが今回ローランド達が訪れたハンブリーに住む魔女リーアがジョン・ファースンより借りた薄桃色の水晶球だった。つまりローランド達の〈連合〉の反逆者ジョン・ファースンが〈十二の守護者たち〉の1人なのだ。しかもこの水晶球は見つめる者を魅了し、我が物にしたくなる。そしてそれを見つめる者は精気を吸い取られ、どんどん老いていく。14歳のローランドさえしばらく覗いていただけで一部白髪になるほどだ。
そのような事実が判明しつつも本書はこれで終わらない。ローランドの昔語りが終わると今度彼らは〈暗黒の塔〉を目指す旅を再開する。
色々な憶測が出来る巻であった。そしてそれはこれまでキング作品を読んできた者だからこそ解るリンクでもある。キングは自身の読者を愉しませる術を心得ている。彼の膨大な著作を読む甲斐や意義を感じさせてくれる作家である。
やはり次巻を読むのは敢えて急ぐまい。次巻が刊行されるまでに著された作品群を読むことでこの〈暗黒の塔〉シリーズに内包されたキング・ワールドの断片やリンクが十全に理解できるだろうから。遠回りになるが、その遠回りに報いる読書の愉悦が得られるに違いない。
キング・ワールドの中核をなすと云われているこのシリーズの全貌がようやく見えてきた感があるが、まだまだサプライズを期待できそうだ。
▼以下、ネタバレ感想