イーディスの日記



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    初公開日(参考)1992年07月
    分類

    長編小説

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    イーディスの日記〈上〉 (河出文庫)

    1992年07月31日 イーディスの日記〈上〉 (河出文庫)

    ニューヨークの喧噪を離れ、ペンシルバニアの片田舎で、執筆活動のかたわら夫や息子と穏やかに暮らすことを夢見たイーディス。だが、夫の伯父ジョージの突然の闖入によってその夢は脆くも崩れ去ってゆく。そんなときイーディスに残されたものは、一冊の厚い日記帳だけであった。やがて彼女は日記に描かれたもう一つの別の世界、彼女自身の幻想を生きはじめる…。 (「BOOK」データベースより)




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    No.2:
    (5pt)

    「現実と妄想の日記」(上・下巻)

    ニューヨークからペンシルバニア州ブランズウイック・コーナー、二階建ての家に引っ越して
    きたハウランド一家の物語。夫ブレッド、妻イーディス、息子クリッフィー、飼い猫ミルデュー。
    時間の推移は時系列的で、イーディスの日記、手紙類、アメリカの社会的、政治的運動により判
    断できる。イーディスが三十二歳頃から五十四歳までの日記にもとづく。全編が日記で構成され
    ているように読める。時を知らせるように日付入りの日記が挿入されているが、現実世界と日記
    の想像、妄想の世界が交じり合い、彼女が精神的に侵されていく状況が精緻に描写されていく。
    読者は、イーディスの理路整然とした主張やメリハリのきいた行動に魅力を感じ、「なぜ彼女が
    病気なの」と思うかもしれない。むしろ彼女ではなく周囲の人たちが異常ではないのか、と錯覚
    に陥る可能性もある。一人の女性がじわじわと病理に侵されていく不気味さが伝わってくる。

     夫ブレットは、イーディスとともに地元の仲間ガート夫人、ノーマン・ジョンソン夫妻たちと
    新聞『ビューグル』を立ち上げる。地元商店から宣伝広告費を集め、社説やコメントを掲載する。
    しかし、二十歳年下の秘書キャロルと恋仲になり、妻子を捨てニューヨークで新世帯をもつ。伯
    父ジョージを引き取っているが、滞在型老人ホームへの入居の説得も失敗し、イーディスに看護
    を任せ家をでる。
     息子クリッフィーは、親の期待もむなしく勉学に身が入らず、成長しても定職につかず、酒浸
    りの日々をすごしている。十歳のころデラウェア川の橋から飛びおりたり、スーパーマンのタイ
    ツで奇行を演じたりして両親や自分自身へのやるせなさを感じている。彼女がやっとでき自宅へ
    招待までするが「子どもみたい」と嘲笑され簡単にフラれてしまう。大学進学資格試験でカンニ
    ングがばれたり、陸軍兵役も断られる。猫を布団蒸しにしたり、キャンプで父親に銃を向ける狂
    気と思わせる行動もある。両親にとっては「取るに足りない人生の失敗作」と位置付けられてい
    る。しかし、両親や大叔父ジョージへの冷静で冷酷な観察眼はもっている。「人生にいったい何
    の意味があるの?人生は冗談だよ」と嘯いてる。母親が書いている社説やコメントで闘いを挑ん
    でいるのはこの国の多数派だ。頭がおかしいのではないか。秘書とうつつをぬかした父親も中途
    半端な仕事しかしていない。これで両親は正常といえるのか。ジョージへは、憎しみでコデイン
    (鎮静剤、麻薬の一種)を大量に投薬し「安楽死」をさせようとしている。

     イーディスはどうだろうか。夫に家を去られ、息子に期待できない。伯父ジョージの面倒も、
    食事の世話から「オマル」の取り替えまで重労働である。十三年間もしている。本人は薬を飲ん
    で寝たきりである。いったいどうしろと言うのだ。政治的な意見が合っていた友人ガートとも対
    立するようになって来た。ガート夫妻は親切な声をかけてくれるが慰めにもならない。ガート夫
    妻、隣人夫婦の仲睦まじい様子に嫉妬をかんじる。社会的政治的意見の対立で町でのパートタイ
    ム仕事も断られている。息子はピエロみたいだと揶揄されている。幸せになるためなすべき仕事
    をし、称賛や感謝を求めずひたすら行動してきたのに、この孤独感、寂寥感はどういうことなの。
     
     イーディスの精神的な病の兆候や進行状態を、本人が自覚していく描写がある。孤独感、喪失
    感、疎外感、寂寥感などである。明るい念願の家に住むが、まもなくブレットがいなくなり、ジ
    ョージの介護、息子クリッフィーへの心配など徐々にストレスが蓄積されてく。ワーグナーのワ
    ルツ<作品第三十九番>を聞き、至福のひと時をすごしている。しかし、この幸せな時間は一瞬で
    あることを自覚する、ジョージへの怒りがこみあげてくるからである。その後に訪れる「静寂」
    は何だろう。この寂寥感は何だろう。なぜ不満を抱いたり周期的に短時間ではあるが憂鬱になる
    のだろう。夫との離婚手続きについて、伯母メラニーから妻として戦うことを示唆されるができ
    ず、「自分の足元を取り囲む真暗な底なしの深淵」を意識してしまう。仲の良いマリオン、エド
    夫妻が帰り「家ががらんと再び静まり返る」。ジョージやクリッフィーが二階にいるにもかかわ
    らず感じる孤独感は何だろうか。自分におかしいところがあるのに、礼儀正しい夫婦がなにも言
    わなかったのだろうか。五十四歳の誕生日も、息子にもガートにも忘れられている。
     ブレットはイーディスの話を聞こうともせず精神科医を何人も紹介してくる。隣人たちがブレ
    ットと連絡取り合っているのだろうか。「なぜみんなが私を病人扱いするのかわからない」とお
    もいはじめる。
     
     イーディスの楽しみは日記をつけることだ。そこには息子の架空ではあるが、わたしたちが希
    望していた輝かしい履歴を披露できる。結婚し孫が誕生し、セーターを編んだりパーティーを開
    いたりする楽しい記述が続く。また、息子、メラニー、孫たちの「塑像」作りにも熱中している。
    ブレットはすでに死んだことになっている。書くのが楽しみで「詩的改変」は許されるのだ。忙
    しくタイプライターを響かせながらファンタジー作品を書くがアングラ新聞しか掲載されなくな
    った。イーディスの意識では、現実と日記の妄想の世界が複雑に入交り、本人にも区別がつかな
    くなっている。息子は母親のひとりごとやボヤーとしていることが気にかかる。
     彼女は、完成した息子のブロンズ像とともに階段から転げ落ち死ぬ。夫に裏切られ、息子にも
    期待できず、叔父の面倒をひたすら続けた人生。しかし、隣人や仲間たち、地元の住民からも見
    放されていく彼女の悲壮感がひしひしと感じられ、読者としては感情移入してしまう。悪いのは
    誰なのか。病気にさせたのは何だったのか。

     現実と妄想主体の日記は奇妙に符号を合わせている箇所がある。ブレットとキャロルの結婚式
    に先駆けて、息子クリッフィーとデビー(架空の恋人)との結婚式を記述し、ブレットに娘が誕
    生すると、息子夫婦にも(架空の)長女「ジョゼフィーン」を記述し対抗させている。ブレット
    に弱音を吐くことがなく、嫉妬心に満ちてはいるがイーディスの健気な心情が理解できる。物語
    の「暗さ」を側面的に表現している描写もある。例えば、猫の話。最初の飼い猫ミルデューが布
    団蒸しにされたり注射で安楽死させられるのは、伯父ジョージが、クリッフィーに投薬され結果
    的に「安楽死」したことにつながっている。また、クリッフィーが橋から飛び降りたり、高台か
    ら教師に突き落とされる夢を見たり、ジョージが階段から落ちたり、最後にイーディスが息子の
    塑像を抱いて階段から墜落死することなどは、不思議で奇妙な死に向かうダイビングと言っても
    よいだろう。
     物語はじめで、猫が冷蔵庫に首を突っ込み切断され中身を食い荒らすイーディスの夢、最後に
    冷蔵庫の周辺を徘徊し冷蔵庫に入れられそうになる狂気。作品最初の「夢」が現実になる恐怖感
    が彼女の異常さへの道でもあった。また、病めるアメリカの社会、世相を巧みに物語に取り入れ
    ている。例えば、麻薬、LSD問題、ケネディー暗殺、ベトナム戦争、ウォーターゲート事件など
    が、作品の進行と背景に重要な位置を占めている。
     スコッチ、ライウイスキー、ビール、シャンペンなど酒を楽しむ場面が多いが、読者としては
    じっくり酒を味わう気持ちにはなれないであろう。パトリシア・ハイスミスの世界で酔うばかり
    である。「父親殺し」「マザーコンプレックス」「結婚しない男」などのテーマも読み取れるの
    ではないか。

     訳者 柿沼瑛子。著者とのコンビは絶妙であり、言を俟たない。
    イーディスの日記〈上〉 (河出文庫)Amazon書評・レビュー:イーディスの日記〈上〉 (河出文庫)より
    4309461093
    No.1:
    (5pt)

    彼女は本当の慰めを得ることができたのか?

    読者を選ぶ作家、ハイスミスの長編。
    閉塞した状況のなか日記の中に慰めと幻想を記してゆくイーディス。
    破滅に向かう人生の中で彼女は本当の慰めを得ることができたのか?

    植木鉢に植えられて放置された花の心の中を覗いてしまったような後味の悪さ。
    これを描ききれるのはハイスミスだけでしょう。
    イーディスの日記〈上〉 (河出文庫)Amazon書評・レビュー:イーディスの日記〈上〉 (河出文庫)より
    4309461093



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