(短編集)
歪んだ空白
- アリバイ (477)
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1975年5月に角川文庫から初出版されたものです。その後、青樹社、新潮文庫、中公文庫からも再出版されています。表題作「歪んだ空白」以外の作品は、既に出版されている作品で、それらを再編集したものです。角川文庫以外の出版社では、「企業特訓殺人事件」の代わりに「死海の廃船」が収録されています。 「歪んだ空白」 新大阪駅のホームで若い女が刺殺される。検視の結果、妊娠四ヶ月であることが分かる。交友関係を調べると、すぐに、東京にある本社の男が容疑者として浮上した。だが、男は、常務令嬢との婚約が整っていた。刑事たちは、良縁に恵まれ、邪魔になった女を殺害したと推測した。早速、男にアリバイの有無を問うと、男には、完璧なアリバイがあった。女がホーム上で殺害された時刻に、男は、別の大阪行きのこだま号に乗車していた。さらに、こだま号の車内電話を利用して、男の同僚に電話を掛けた記録も確認された。また、新大阪に到着した時、取引先の社員が、男を迎えに来た事も判明し。この事によって。男には、絶対、女を殺害出来ないことが証明された。新幹線の時刻表を使い、車内電話で乗車を証明し、新幹線の時刻表を使った、アリバイ崩しの話。 「殺人環状線」 三谷葉子は、小杉伸二をどうしても殺さなければならないと思った。葉子が恋した相手は、会社先の重役の息子だ。一流大学を出たエリートで、均整の取れた逞しい体の持ち主である。彫の深いマスクは、豊かな知性を感じさせた。求婚されて、婚約が整った。小杉はG県S市の暴力団、宮本組のチンピラである。葉子は、会社の仲間と一緒に高原へ行った時、広々とした草原を歩きながら、あまりの美しさに驚嘆しながら調子に乗り、道から外れてしまった。つつじ群落の中に踏み入り、何時の間にか仲間たちとはぐれてしまった。歩けば歩くほど道幅は狭くなり、山深くなってゆく。そこへ単車で通りかかったのが、小杉伸二だった。小杉は、町まで案内すると言う。葉子は、助かったと思った。しかし、小杉は、どんどん山深い所へ連れて行き、必死に抵抗する葉子を蹂躙してしまうのだ。更に、小杉は、葉子の静謐な肉体を決して放さなかった。脅かしながら一方的に交際を強要したのだ。汚辱された体だったが、葉子は、重役御曹司との結婚を控えて、せめて数か月でも清い体でいたかった。いつもの通り、小杉から葉子にリクエストがきた。葉子は、S市にある小杉のアパートに行く。人目につかない様に十分注意して。詳しくは控えますが。葉子は、青酸カリを使って小杉を毒殺することに成功するのです。最寄り駅から、帰るところを見られるのを警戒して、二つ先の駅まで歩くことにした。暗い夜道を、冷たい雨に濡れながら。もうすぐ駅の近くまで来た時、突然、後ろから強烈な衝撃を受けた。自動車部品会社のセールスマン松沢定夫が運転する車で、葉子の姿に気が付くのが遅れ、ブレーキが間に合わなかった。松沢は、警察を呼んで、葉子を病院に連れて行くと言う。だが、葉子は、たった今、殺人をしたばかりだ。警官なんか来たら困ってしまう。それなら、自宅の最寄り駅まで送ってくれと頼む。松沢は、訝しがるが、交通事故、それも人身事故を問わないと言う葉子の要望を快く受け入れた。だが、松沢は、葉子の落ち着きの無さに尋常では無いものを感じ始める。その時、走行中のカーラジオで“S市天神町に住む小杉伸二さんが自室で死んでいる”と言うニュースが流れた。それを聞いて、松沢は、葉子が尋常でいられない理由が分かった。そして松沢は、小杉と同じ脅迫者に豹変してしまうのだ。ところが、葉子は、すでに殺人犯であり、そんな脅迫などに怯えたりはしなかった。 「企業特訓殺人事件」(角川文庫版に収録) 速水の兄、正男は、反対を押し切って「粧美堂」に入社したが、新入社員スパルタ研修の最中に死亡してしまった。弟、速水正吾は「サラリーマンなんて、まっぴら御免だ。人の金儲けの手助けをするだけだ」と思っていた。判検事は役人だが弁護士なら自由業である。速水は迷う事無く一流大学の法科へ進んだ。ところが速水が就職先に選んだのは、兄と同じ、化粧品メーカー「粧美堂」だった。現在、急激に伸長している会社である。社長の今井鉄一郎の、新入社員に対する徹底したスパルタ教育で、猛烈な営業社員に育て上げるのが業界では有名であった。速水は秘かに内部の事を調べると、どうやら兄の死は、未必の殺人ではないかと疑われるところがあったのだ。そこで、一時、自由業への道は休んで「獅子身中の虫」となって「粧美堂」に入社して、兄の復讐をする。 「死海の廃船」(新潮文庫版・青樹社版に収録) プロボクシング・バンタム級の、世界チャンピオンを賭けた試合で、挑戦者の矢代敬は、有利な試合を行っていた。八代は、前年にも世界チャンピオンに挑戦したが、その時は、蛇に睨まれた蛙の様になってしまい、なすすべも無く試合開始早々にノックアウト負けしていた。だから、ファンもこの試合には、期待していなかった。昨年の余りにも無様な負け試合が、記憶に残っていたからだ。今回の相手も、すべてノックアウト勝ちで、五回連続防衛に成功しているチャンピオンだったので、ファンも昨年同様、あっけなく八代が倒されると思っていた。ところが、この試合で、八代は、フットワークも軽く、繰り出すパンチが悉くチャンピオンの顔面を捉えた。第1ラウンドから優位に試合を運び、最終ラウンドになってチャンピオンは、戦意を失い、力学的なバランスによって立っているだけだった。あとは、八代が止めの一発を加えれば、チャンピオンは、マットに沈むはずだった。ファンも、その一撃を見逃すまいと驚喜に満ちた視線をリング上に送っていた。そして、その時がきた。八代のラストパンチ。ところが、何があったのか、八代の動きが一瞬停止した。それを狙っていた訳ではない。立っているだけのチャンピオンが突き出したパンチが八代の顔面を捉えた。その瞬間、八代がマットに沈んでしまった。世紀の大逆転試合として全国から世界にまで、この試合の様子が報道された。何故か?八代は、その時、客席の中に、二か月前、自分が殺して死体を山中に埋めたはずの女が、居ることに気が付いたからだった。 「被殺の錯誤」 母親が、癌で余命一ヶ月と医師から診断が下った時、二人の兄弟が駆け付けた。布団に横たわり、苦痛に苦しむ母親の目の前で、兄弟喧嘩が始まった。それは、兄が近くに住んでいるにも関わらず、母の病状の悪化に気が付かなかった、兄を詰る言葉が切掛けになっていた。弟は、都心に働きに出ていて頻繁には来られない。そんな不満を兄にぶつけたのだ。兄は、怒りだし、手元にあった魔法瓶を弟に投げつけた。ところが、手元が狂って、こともあろうに母親の顔面に直接当たって、母親は、死亡してしまった。地元署の馬庭は、この事故に疑問を持った。尊属殺人、嘱託殺人を扱った話で、母子愛、兄弟愛を綴った話。最後は、涙がこぼれそうになりながら読みました。 「人間解体」 なんとも狂気に満ちた殺人事件だ。双子姉妹の妹が、姉に成りすまして、姉の婚約者と結婚してしまうのだ。どちらかと言うと、姉は優秀で、良家の長男と婚約が整っていた。どちらかと言えば、あまり出来の良くない妹が、それを妬んで姉に成りすまし結婚してしまう。この成り代わりの詳細は控えます。結婚後、まるで性格が変わってしまった婚約者に、疑問を抱いた夫が、真実を探り始めて事件が明るみになる。フランスの郊外で、日本人女性のバラバラ死体の頭部が、発見された。あろうことか妹は、姉を殺害し、バラバラにして冷蔵庫で保存していた。そして、交際していた男が海外旅行の添乗員をいていたので、手荷物に収まるように解体した遺体を海外へ持ち出しては遺棄していたのだ。今までで、これほど極悪非道な殺人事件を森村氏は書いたことがあったろうか。 「祖母 為女の犯罪」 やたらと血縁関係の人物を多数登場させた物語。よくもここまで複雑にしたものだと思う。福原家は、東京の隣県S県北部の田園都市G市の旧い商家であった。その福原家の健介は、祖母の為から奇妙な依頼を受けた。それは、為が死んでお骨になった時、そのお骨の一部を大沼の久山寺の中にある鳴瀬家の墓に埋めてくれ、という事であった。その時が来て、健介は、不思議に思い、何故、為がそのように頼んだのか、祖先のルーツを探る旅にでることにする。ここからが、ややこしい。健介は、為の長男の為吉と鶴との間に生まれた。為吉は、祖母為と祖父福原吉太郎の間に生まれた長男である。次男(つぐお)には次男がいる。為は、吉太郎との結婚前に鳴瀬吉蔵という男と交際していた様子がある。更に、健介の母、鶴は、鳴瀬家の徳松という男と不倫していたことも分かった。健介が、出生の秘密を探る話なのだが、森村氏は、登場人物を意図的に多くして、複雑にして読者を困らせようとしているのだろう。遊び心があって面白い。 | ||||
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1975年5月に角川文庫から初出版されたものです。その後、青樹社、新潮文庫、中公文庫からも再出版されています。表題作「歪んだ空白」以外の作品は、既に出版されている作品で、それらを再編集したものです。角川文庫以外の出版社では、「企業特訓殺人事件」の代わりに「死海の廃船」が収録されています。 「歪んだ空白」 新大阪駅のホームで若い女が刺殺される。検視の結果、妊娠四ヶ月であることが分かる。交友関係を調べると、すぐに、東京にある本社の男が容疑者として浮上した。だが、男は、常務令嬢との婚約が整っていた。刑事たちは、良縁に恵まれ、邪魔になった女を殺害したと推測した。早速、男にアリバイの有無を問うと、男には、完璧なアリバイがあった。女がホーム上で殺害された時刻に、男は、別の大阪行きのこだま号に乗車していた。さらに、こだま号の車内電話を利用して、男の同僚に電話を掛けた記録も確認された。また、新大阪に到着した時、取引先の社員が、男を迎えに来た事も判明し。この事によって。男には、絶対、女を殺害出来ないことが証明された。新幹線の時刻表を使い、車内電話で乗車を証明し、新幹線の時刻表を使った、アリバイ崩しの話。 「殺人環状線」 三谷葉子は、小杉伸二をどうしても殺さなければならないと思った。葉子が恋した相手は、会社先の重役の息子だ。一流大学を出たエリートで、均整の取れた逞しい体の持ち主である。彫の深いマスクは、豊かな知性を感じさせた。求婚されて、婚約が整った。小杉はG県S市の暴力団、宮本組のチンピラである。葉子は、会社の仲間と一緒に高原へ行った時、広々とした草原を歩きながら、あまりの美しさに驚嘆しながら調子に乗り、道から外れてしまった。つつじ群落の中に踏み入り、何時の間にか仲間たちとはぐれてしまった。歩けば歩くほど道幅は狭くなり、山深くなってゆく。そこへ単車で通りかかったのが、小杉伸二だった。小杉は、町まで案内すると言う。葉子は、助かったと思った。しかし、小杉は、どんどん山深い所へ連れて行き、必死に抵抗する葉子を蹂躙してしまうのだ。更に、小杉は、葉子の静謐な肉体を決して放さなかった。脅かしながら一方的に交際を強要したのだ。汚辱された体だったが、葉子は、重役御曹司との結婚を控えて、せめて数か月でも清い体でいたかった。いつもの通り、小杉から葉子にリクエストがきた。葉子は、S市にある小杉のアパートに行く。人目につかない様に十分注意して。詳しくは控えますが。葉子は、青酸カリを使って小杉を毒殺することに成功するのです。最寄り駅から、帰るところを見られるのを警戒して、二つ先の駅まで歩くことにした。暗い夜道を、冷たい雨に濡れながら。もうすぐ駅の近くまで来た時、突然、後ろから強烈な衝撃を受けた。自動車部品会社のセールスマン松沢定夫が運転する車で、葉子の姿に気が付くのが遅れ、ブレーキが間に合わなかった。松沢は、警察を呼んで、葉子を病院に連れて行くと言う。だが、葉子は、たった今、殺人をしたばかりだ。警官なんか来たら困ってしまう。それなら、自宅の最寄り駅まで送ってくれと頼む。松沢は、訝しがるが、交通事故、それも人身事故を問わないと言う葉子の要望を快く受け入れた。だが、松沢は、葉子の落ち着きの無さに尋常では無いものを感じ始める。その時、走行中のカーラジオで“S市天神町に住む小杉伸二さんが自室で死んでいる”と言うニュースが流れた。それを聞いて、松沢は、葉子が尋常でいられない理由が分かった。そして松沢は、小杉と同じ脅迫者に豹変してしまうのだ。ところが、葉子は、すでに殺人犯であり、そんな脅迫などに怯えたりはしなかった。 「企業特訓殺人事件」(角川文庫版に収録) 速水の兄、正男は、反対を押し切って「粧美堂」に入社したが、新入社員スパルタ研修の最中に死亡してしまった。弟、速水正吾は「サラリーマンなんて、まっぴら御免だ。人の金儲けの手助けをするだけだ」と思っていた。判検事は役人だが弁護士なら自由業である。速水は迷う事無く一流大学の法科へ進んだ。ところが速水が就職先に選んだのは、兄と同じ、化粧品メーカー「粧美堂」だった。現在、急激に伸長している会社である。社長の今井鉄一郎の、新入社員に対する徹底したスパルタ教育で、猛烈な営業社員に育て上げるのが業界では有名であった。速水は秘かに内部の事を調べると、どうやら兄の死は、未必の殺人ではないかと疑われるところがあったのだ。そこで、一時、自由業への道は休んで「獅子身中の虫」となって「粧美堂」に入社して、兄の復讐をする。 「死海の廃船」(新潮文庫版・青樹社版に収録) プロボクシング・バンタム級の、世界チャンピオンを賭けた試合で、挑戦者の矢代敬は、有利な試合を行っていた。八代は、前年にも世界チャンピオンに挑戦したが、その時は、蛇に睨まれた蛙の様になってしまい、なすすべも無く試合開始早々にノックアウト負けしていた。だから、ファンもこの試合には、期待していなかった。昨年の余りにも無様な負け試合が、記憶に残っていたからだ。今回の相手も、すべてノックアウト勝ちで、五回連続防衛に成功しているチャンピオンだったので、ファンも昨年同様、あっけなく八代が倒されると思っていた。ところが、この試合で、八代は、フットワークも軽く、繰り出すパンチが悉くチャンピオンの顔面を捉えた。第1ラウンドから優位に試合を運び、最終ラウンドになってチャンピオンは、戦意を失い、力学的なバランスによって立っているだけだった。あとは、八代が止めの一発を加えれば、チャンピオンは、マットに沈むはずだった。ファンも、その一撃を見逃すまいと驚喜に満ちた視線をリング上に送っていた。そして、その時がきた。八代のラストパンチ。ところが、何があったのか、八代の動きが一瞬停止した。それを狙っていた訳ではない。立っているだけのチャンピオンが突き出したパンチが八代の顔面を捉えた。その瞬間、八代がマットに沈んでしまった。世紀の大逆転試合として全国から世界にまで、この試合の様子が報道された。何故か?八代は、その時、客席の中に、二か月前、自分が殺して死体を山中に埋めたはずの女が、居ることに気が付いたからだった。 「被殺の錯誤」 母親が、癌で余命一ヶ月と医師から診断が下った時、二人の兄弟が駆け付けた。布団に横たわり、苦痛に苦しむ母親の目の前で、兄弟喧嘩が始まった。それは、兄が近くに住んでいるにも関わらず、母の病状の悪化に気が付かなかった、兄を詰る言葉が切掛けになっていた。弟は、都心に働きに出ていて頻繁には来られない。そんな不満を兄にぶつけたのだ。兄は、怒りだし、手元にあった魔法瓶を弟に投げつけた。ところが、手元が狂って、こともあろうに母親の顔面に直接当たって、母親は、死亡してしまった。地元署の馬庭は、この事故に疑問を持った。尊属殺人、嘱託殺人を扱った話で、母子愛、兄弟愛を綴った話。最後は、涙がこぼれそうになりながら読みました。 「人間解体」 なんとも狂気に満ちた殺人事件だ。双子姉妹の妹が、姉に成りすまして、姉の婚約者と結婚してしまうのだ。どちらかと言うと、姉は優秀で、良家の長男と婚約が整っていた。どちらかと言えば、あまり出来の良くない妹が、それを妬んで姉に成りすまし結婚してしまう。この成り代わりの詳細は控えます。結婚後、まるで性格が変わってしまった婚約者に、疑問を抱いた夫が、真実を探り始めて事件が明るみになる。フランスの郊外で、日本人女性のバラバラ死体の頭部が、発見された。あろうことか妹は、姉を殺害し、バラバラにして冷蔵庫で保存していた。そして、交際していた男が海外旅行の添乗員をいていたので、手荷物に収まるように解体した遺体を海外へ持ち出しては遺棄していたのだ。今までで、これほど極悪非道な殺人事件を森村氏は書いたことがあったろうか。 「祖母 為女の犯罪」 やたらと血縁関係の人物を多数登場させた物語。よくもここまで複雑にしたものだと思う。福原家は、東京の隣県S県北部の田園都市G市の旧い商家であった。その福原家の健介は、祖母の為から奇妙な依頼を受けた。それは、為が死んでお骨になった時、そのお骨の一部を大沼の久山寺の中にある鳴瀬家の墓に埋めてくれ、という事であった。その時が来て、健介は、不思議に思い、何故、為がそのように頼んだのか、祖先のルーツを探る旅にでることにする。ここからが、ややこしい。健介は、為の長男の為吉と鶴との間に生まれた。為吉は、祖母為と祖父福原吉太郎の間に生まれた長男である。次男(つぐお)には次男がいる。為は、吉太郎との結婚前に鳴瀬吉蔵という男と交際していた様子がある。更に、健介の母、鶴は、鳴瀬家の徳松という男と不倫していたことも分かった。健介が、出生の秘密を探る話なのだが、森村氏は、登場人物を意図的に多くして、複雑にして読者を困らせようとしているのだろう。遊び心があって面白い。 | ||||
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1975年5月に角川文庫から初出版されたものです。その後、青樹社、新潮文庫、中公文庫からも再出版されています。表題作「歪んだ空白」以外の作品は、既に出版されている作品で、それらを再編集したものです。角川文庫以外の出版社では、「企業特訓殺人事件」の代わりに「死海の廃船」が収録されています。 「歪んだ空白」 新大阪駅のホームで若い女が刺殺される。検視の結果、妊娠四ヶ月であることが分かる。交友関係を調べると、すぐに、東京にある本社の男が容疑者として浮上した。だが、男は、常務令嬢との婚約が整っていた。刑事たちは、良縁に恵まれ、邪魔になった女を殺害したと推測した。早速、男にアリバイの有無を問うと、男には、完璧なアリバイがあった。女がホーム上で殺害された時刻に、男は、別の大阪行きのこだま号に乗車していた。さらに、こだま号の車内電話を利用して、男の同僚に電話を掛けた記録も確認された。また、新大阪に到着した時、取引先の社員が、男を迎えに来た事も判明し。この事によって。男には、絶対、女を殺害出来ないことが証明された。新幹線の時刻表を使い、車内電話で乗車を証明し、新幹線の時刻表を使った、アリバイ崩しの話。 「殺人環状線」 三谷葉子は、小杉伸二をどうしても殺さなければならないと思った。葉子が恋した相手は、会社先の重役の息子だ。一流大学を出たエリートで、均整の取れた逞しい体の持ち主である。彫の深いマスクは、豊かな知性を感じさせた。求婚されて、婚約が整った。小杉はG県S市の暴力団、宮本組のチンピラである。葉子は、会社の仲間と一緒に高原へ行った時、広々とした草原を歩きながら、あまりの美しさに驚嘆しながら調子に乗り、道から外れてしまった。つつじ群落の中に踏み入り、何時の間にか仲間たちとはぐれてしまった。歩けば歩くほど道幅は狭くなり、山深くなってゆく。そこへ単車で通りかかったのが、小杉伸二だった。小杉は、町まで案内すると言う。葉子は、助かったと思った。しかし、小杉は、どんどん山深い所へ連れて行き、必死に抵抗する葉子を蹂躙してしまうのだ。更に、小杉は、葉子の静謐な肉体を決して放さなかった。脅かしながら一方的に交際を強要したのだ。汚辱された体だったが、葉子は、重役御曹司との結婚を控えて、せめて数か月でも清い体でいたかった。いつもの通り、小杉から葉子にリクエストがきた。葉子は、S市にある小杉のアパートに行く。人目につかない様に十分注意して。詳しくは控えますが。葉子は、青酸カリを使って小杉を毒殺することに成功するのです。最寄り駅から、帰るところを見られるのを警戒して、二つ先の駅まで歩くことにした。暗い夜道を、冷たい雨に濡れながら。もうすぐ駅の近くまで来た時、突然、後ろから強烈な衝撃を受けた。自動車部品会社のセールスマン松沢定夫が運転する車で、葉子の姿に気が付くのが遅れ、ブレーキが間に合わなかった。松沢は、警察を呼んで、葉子を病院に連れて行くと言う。だが、葉子は、たった今、殺人をしたばかりだ。警官なんか来たら困ってしまう。それなら、自宅の最寄り駅まで送ってくれと頼む。松沢は、訝しがるが、交通事故、それも人身事故を問わないと言う葉子の要望を快く受け入れた。だが、松沢は、葉子の落ち着きの無さに尋常では無いものを感じ始める。その時、走行中のカーラジオで“S市天神町に住む小杉伸二さんが自室で死んでいる”と言うニュースが流れた。それを聞いて、松沢は、葉子が尋常でいられない理由が分かった。そして松沢は、小杉と同じ脅迫者に豹変してしまうのだ。ところが、葉子は、すでに殺人犯であり、そんな脅迫などに怯えたりはしなかった。 「企業特訓殺人事件」(角川文庫版に収録) 速水の兄、正男は、反対を押し切って「粧美堂」に入社したが、新入社員スパルタ研修の最中に死亡してしまった。弟、速水正吾は「サラリーマンなんて、まっぴら御免だ。人の金儲けの手助けをするだけだ」と思っていた。判検事は役人だが弁護士なら自由業である。速水は迷う事無く一流大学の法科へ進んだ。ところが速水が就職先に選んだのは、兄と同じ、化粧品メーカー「粧美堂」だった。現在、急激に伸長している会社である。社長の今井鉄一郎の、新入社員に対する徹底したスパルタ教育で、猛烈な営業社員に育て上げるのが業界では有名であった。速水は秘かに内部の事を調べると、どうやら兄の死は、未必の殺人ではないかと疑われるところがあったのだ。そこで、一時、自由業への道は休んで「獅子身中の虫」となって「粧美堂」に入社して、兄の復讐をする。 「死海の廃船」(新潮文庫版・青樹社版に収録) プロボクシング・バンタム級の、世界チャンピオンを賭けた試合で、挑戦者の矢代敬は、有利な試合を行っていた。八代は、前年にも世界チャンピオンに挑戦したが、その時は、蛇に睨まれた蛙の様になってしまい、なすすべも無く試合開始早々にノックアウト負けしていた。だから、ファンもこの試合には、期待していなかった。昨年の余りにも無様な負け試合が、記憶に残っていたからだ。今回の相手も、すべてノックアウト勝ちで、五回連続防衛に成功しているチャンピオンだったので、ファンも昨年同様、あっけなく八代が倒されると思っていた。ところが、この試合で、八代は、フットワークも軽く、繰り出すパンチが悉くチャンピオンの顔面を捉えた。第1ラウンドから優位に試合を運び、最終ラウンドになってチャンピオンは、戦意を失い、力学的なバランスによって立っているだけだった。あとは、八代が止めの一発を加えれば、チャンピオンは、マットに沈むはずだった。ファンも、その一撃を見逃すまいと驚喜に満ちた視線をリング上に送っていた。そして、その時がきた。八代のラストパンチ。ところが、何があったのか、八代の動きが一瞬停止した。それを狙っていた訳ではない。立っているだけのチャンピオンが突き出したパンチが八代の顔面を捉えた。その瞬間、八代がマットに沈んでしまった。世紀の大逆転試合として全国から世界にまで、この試合の様子が報道された。何故か?八代は、その時、客席の中に、二か月前、自分が殺して死体を山中に埋めたはずの女が、居ることに気が付いたからだった。 「被殺の錯誤」 母親が、癌で余命一ヶ月と医師から診断が下った時、二人の兄弟が駆け付けた。布団に横たわり、苦痛に苦しむ母親の目の前で、兄弟喧嘩が始まった。それは、兄が近くに住んでいるにも関わらず、母の病状の悪化に気が付かなかった、兄を詰る言葉が切掛けになっていた。弟は、都心に働きに出ていて頻繁には来られない。そんな不満を兄にぶつけたのだ。兄は、怒りだし、手元にあった魔法瓶を弟に投げつけた。ところが、手元が狂って、こともあろうに母親の顔面に直接当たって、母親は、死亡してしまった。地元署の馬庭は、この事故に疑問を持った。尊属殺人、嘱託殺人を扱った話で、母子愛、兄弟愛を綴った話。最後は、涙がこぼれそうになりながら読みました。 「人間解体」 なんとも狂気に満ちた殺人事件だ。双子姉妹の妹が、姉に成りすまして、姉の婚約者と結婚してしまうのだ。どちらかと言うと、姉は優秀で、良家の長男と婚約が整っていた。どちらかと言えば、あまり出来の良くない妹が、それを妬んで姉に成りすまし結婚してしまう。この成り代わりの詳細は控えます。結婚後、まるで性格が変わってしまった婚約者に、疑問を抱いた夫が、真実を探り始めて事件が明るみになる。フランスの郊外で、日本人女性のバラバラ死体の頭部が、発見された。あろうことか妹は、姉を殺害し、バラバラにして冷蔵庫で保存していた。そして、交際していた男が海外旅行の添乗員をいていたので、手荷物に収まるように解体した遺体を海外へ持ち出しては遺棄していたのだ。今までで、これほど極悪非道な殺人事件を森村氏は書いたことがあったろうか。 「祖母 為女の犯罪」 やたらと血縁関係の人物を多数登場させた物語。よくもここまで複雑にしたものだと思う。福原家は、東京の隣県S県北部の田園都市G市の旧い商家であった。その福原家の健介は、祖母の為から奇妙な依頼を受けた。それは、為が死んでお骨になった時、そのお骨の一部を大沼の久山寺の中にある鳴瀬家の墓に埋めてくれ、という事であった。その時が来て、健介は、不思議に思い、何故、為がそのように頼んだのか、祖先のルーツを探る旅にでることにする。ここからが、ややこしい。健介は、為の長男の為吉と鶴との間に生まれた。為吉は、祖母為と祖父福原吉太郎の間に生まれた長男である。次男(つぐお)には次男がいる。為は、吉太郎との結婚前に鳴瀬吉蔵という男と交際していた様子がある。更に、健介の母、鶴は、鳴瀬家の徳松という男と不倫していたことも分かった。健介が、出生の秘密を探る話なのだが、森村氏は、登場人物を意図的に多くして、複雑にして読者を困らせようとしているのだろう。遊び心があって面白い。 | ||||
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さまざまな作品を堪能することが出来る 贅沢な短篇集です。 バリエーションも豊富で 狡猾な犯人を執念の捜査で屈服させる作品や ある人間の「葬り去られた犯罪」を 見ていく作品なんていうものがあります。 その中で素晴らしい作品は 最後に出てくる「祖母 為女の犯罪」でしょうか。 人間模様の深さにきっと驚かされることでしょう。 そして、すべてが判明したときに見出されてくる 昔の時代の「束縛」にやるせなさを覚えることでしょう。 とかく悲しい作品です。 かと思うと「殺人環状線」のように かなり暴力描写がきつい作品もあります。 この作品は女性にはお世辞にも薦められません。 読書の際には要注意です。 だけれども、彼が描く 企業の裏側はやはりすごいです。 それだけでも一読の価値ありです。 | ||||
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森村氏の初期短編集だが、長編「新幹線殺人事件」のパイロット版とも言うべき表題作、殺人者からの視点でサスペンスを高める「殺人環状線」、ボクシングをモチーフにした「死海の廃船」などバラエティに富んだ森村氏のモチーフの妙とストーリーテリングが堪能できる短編が6篇収録。短編ということもあってか氏には珍しいどれもオチがブラックというか完全懲悪にはならない毒の効いたものが多いのが特徴と言えるだろう。森村氏の短編集としては個人的には大好きな一冊である。 | ||||
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