(短編集)
企業特訓殺人事件
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本書は1970年5月青樹社から初出版された8編の短編集です。前年の1969年には「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞しました。それは青樹社の那須英三編集長が森村氏の作品を読んで「推理小説的な雰囲気があるから書いてみたらどうだろうか」とアドバイスしたことによって書かれたものでした。まだ推理小説を書く以前の作品群で那須氏が言うように、推理小説としての素地が十分伺える作品ばかりです。 「腐った流域」 小学生の頃、山路四郎は医師の仁科先生を尊敬していた。重い盲腸炎を仁科先生の判断で危うく助けてもらった。同じ頃、同級生達と“隠れんぼ”をしている時、同クラスの千代と押入れの中に隠れた。その時に感じた女の温もりに心臓が高鳴った。成人になって、そんな事も忘れた頃、千代から仁科先生が行方不明になったと手紙が来る。なんでも、仁科先生は地元の清流の岸辺に農薬工場が出来る事に反対していたらしい。数年ぶりに届いた手紙に仁科先生にも千代にも会いたい思いで故郷を訪れるが、四郎を待っていたのは、昔の憧憬を粉々に打ち砕かれるものだった。四郎の儚い心が読み取れる哀しいラスト。 「浜名湖東方五十キロ地点」 親から十分な仕送りを与えられ、都心のマンションで学生生活を送る朝田申六は世の中に何の不満も無かった。だが、同級生達は大学の授業料の値上げに端を発した安保闘争へと発展していた。朝田は無関心だったが交際している山辺洋子からA国のブライアント首相が来日することを知る。活動派が敵視しているブライアント首相に一撃を加えられれば世間の耳目を集められると考えた。そして、ブライアント首相が新幹線で東京から大阪まで行く事を知り、爆弾を仕掛けようと言うのだ。しかし、警備は厳しい。そこで大阪から東京行きの新幹線に乗り、すれ違い様に爆発させようとするのだ。爆弾を仕掛けて名古屋で降り、名古屋タワーで爆発の瞬間を見物するつもりだった。その時、朝田は、タワーの上まで登った時、誰かが追って来たのが分かった。それは同じ新幹線で隣合わせに座った孫娘に会いに東京まで行く60代の好い人だ。わざわざ途中下車して。そして「おおい忘れものだぞ~」と朝田のバッグを高々と振り上げた。 「螺旋の返礼」 今井重子がかつて同僚で交際していた田原久夫の訪問を受けたのは突然だった。田原は常連客の銀行副頭取に見込まれ長女と交際を勧められ、あっさり重子を捨てた男だった。田原の言う事はA国大手企業の社長が来日するので、その接待女性となってくれないか?と言う、甚だ不躾な要望だった。しかし重子は、これを了解した。そして新宿駅近辺でたむろする浮浪者に声をかけては何か頼んでいた。それと同時の重子は田原との再交渉を求めた。田原はなんの躊躇いもなく受け入れる。しかし、それは重子の田原に対する復讐だった。森村氏は、よく梅毒(菌名スピロヘータ)を使った話を多く書いている。本作では、それを復讐の道具に使った。もちろん田原は人生を転落する。スピロヘータは顕微鏡で覗くと、螺旋状をしている。 「受胎請負師」 冬木和彦は車で事故を起こし、所属していた弁護士会から除名され、いわゆる“もぐり”の弁護士として事務所を開いた。“もぐり”と言ってもヤクザなどの裏社会の人を弁護するものではない。冬木が行きつけのバー「エリカ」のマダムから奇妙な依頼人を紹介された。莫大な遺産を持つ夫が癌で余命が少ない。嫡子のいない根岸梨江は、これでは自分が遺産相続にありつけない。同じ血液型で年齢も近い男の精子が欲しいと言うのだ。そこで野沢久夫に依頼するが、野沢は妊娠しなければ、お金をもらったうえに、何度も梨江の上等な体にありつける。そこで妊娠しない細工をしていたと言うのだ。社会通念上こういう契約は成立しない、そこで冬木に依頼がきたのだ。冬木は、控えるが実に上手い仕事にありつく。 「情事の欠陥」 T大学倫理学科助教授の大谷良介は文学部長の次女の俊江と結婚した。しかし、あるテレビ番組で共演した人気アイドル“月村はるみ”と意気投合して男と女の関係になってしまった。 もともと女性経験が少なかった大谷は二人の行為をポラロイドカメラで撮影して、バッグにしまい、自宅に帰って部屋でこっそり見るのが習慣になった。だが、電車で帰宅途中に乗せた網棚の上でバックを取り間違えてしまう。“月村はるみ”と言えば、世間の皆が知っているだけに大変な事になってしまう。さらに、悪い奴に渡ったら恐喝の材料にもなりかねない。だが、やはり悪い電話が掛かって来る。ただのバッグのすり替えでは無く、もう一つ面白さを加えている。 「虚業のピエロ」 ホテル大東京の大町はフロントでトラブルになっているので事情を聴いた。それによると宿泊客でベトナム帰休兵デービスが幼い顔はしているが売春婦と思われる女を同室させようとしているからだ。大町がデービスに直接尋ねると、デービスは童貞でベトナムに戻れば翌日には殺されるかもしれない、女を知らずに死ぬことが悔しい。と、涙ながらに訴える。しかし、ホテルの規則で売春婦を入れることは出来ない。大町はデービスに食事や酒の提供をサービスする。しかし、数か月後デービスの同じ隊の兵士が大町を訪れデービスが戦死した事とスピロヘータに感染していた事を知らされる。大町はデービスの嘘を知る。やり切れない複雑な心境が辛い。 「剝がされた仮面」 本作は、文庫で60頁に満たない作品だが、松本清張氏の「点と線」を彷彿させる鉄道時刻表トリック崩しの作品です。山梨県韮岡市の畑で東京の一流証券会社に勤務する原田京子の死体が発見される。捜査員が支店を訪れると京子が客から預かった四万株の預かり証券が不明というのだ。すぐに同僚の岩本勉が両事件に関与していることが疑われた。しかし、岩本には完璧なアリバイがあった。京子の殺害時刻には、新宿発甲府行き17:05発“あずさ3号”に乗車していたというのだから。清張氏の「点と線」とは全く別の方法でアリバイを崩していく。「点と線」を読んだ方は、一層興味深く読める作品。 「企業特訓殺人事件」 速水の兄、正男は、反対を押し切って「粧美堂」に入社したが、新入社員スパルタ研修の最中に死亡してしまった。弟、速水正吾は「サラリーマンなんて、まっぴら御免だ。人の金儲けの手助けをするだけだ」と思っていた。判検事は役人だが弁護士なら自由業である。速水は迷う事無く一流大学の法科へ進んだ。ところが速水が就職先に選んだのは、兄と同じ、化粧品メーカー「粧美堂」だった。現在、急激に伸長している会社である。社長の今井鉄一郎の、新入社員に対する徹底したスパルタ教育で、猛烈な営業社員に育て上げるのが業界では有名であった。速水は秘かに内部の事を調べると、どうやら兄の死は、未必の殺人ではないかと疑われるところがあったのだ。そこで、一時、自由業への道は休んで「獅子身中の虫」となって「粧美堂」に入社して、兄の復讐をする。 なるほど、最後まで読み終わってみると、青樹社の那須編集長が「推理小説みたいなのを書いたらどうか」と進言したことに納得してしまう。那須氏の慧眼には恐れ入るばかりだ。もちろん森村氏も那須氏に対しては尊崇の念を持っている。この後に書かれた多くの森村氏の作品中に「那須警部」と言う形で何度も何度も登場する。森村氏の源流となる作品群だ。 | ||||
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本書は1970年5月青樹社から初出版された8編の短編集です。前年の1969年には「高層の死角」で江戸川乱歩賞を受賞しました。それは青樹社の那須英三編集長が森村氏の作品を読んで「推理小説的な雰囲気があるから書いてみたらどうだろうか」とアドバイスしたことによって書かれたものでした。まだ推理小説を書く以前の作品群で那須氏が言うように、推理小説としての素地が十分伺える作品ばかりです。 「腐った流域」 小学生の頃、山路四郎は医師の仁科先生を尊敬していた。重い盲腸炎を仁科先生の判断で危うく助けてもらった。同じ頃、同級生達と“隠れんぼ”をしている時、同クラスの千代と押入れの中に隠れた。その時に感じた女の温もりに心臓が高鳴った。成人になって、そんな事も忘れた頃、千代から仁科先生が行方不明になったと手紙が来る。なんでも、仁科先生は地元の清流の岸辺に農薬工場が出来る事に反対していたらしい。数年ぶりに届いた手紙に仁科先生にも千代にも会いたい思いで故郷を訪れるが、四郎を待っていたのは、昔の憧憬を粉々に打ち砕かれるものだった。四郎の儚い心が読み取れる哀しいラスト。 「浜名湖東方五十キロ地点」 親から十分な仕送りを与えられ、都心のマンションで学生生活を送る朝田申六は世の中に何の不満も無かった。だが、同級生達は大学の授業料の値上げに端を発した安保闘争へと発展していた。朝田は無関心だったが交際している山辺洋子からA国のブライアント首相が来日することを知る。活動派が敵視しているブライアント首相に一撃を加えられれば世間の耳目を集められると考えた。そして、ブライアント首相が新幹線で東京から大阪まで行く事を知り、爆弾を仕掛けようと言うのだ。しかし、警備は厳しい。そこで大阪から東京行きの新幹線に乗り、すれ違い様に爆発させようとするのだ。爆弾を仕掛けて名古屋で降り、名古屋タワーで爆発の瞬間を見物するつもりだった。その時、朝田は、タワーの上まで登った時、誰かが追って来たのが分かった。それは同じ新幹線で隣合わせに座った孫娘に会いに東京まで行く60代の好い人だ。わざわざ途中下車して。そして「おおい忘れものだぞ~」と朝田のバッグを高々と振り上げた。 「螺旋の返礼」 今井重子がかつて同僚で交際していた田原久夫の訪問を受けたのは突然だった。田原は常連客の銀行副頭取に見込まれ長女と交際を勧められ、あっさり重子を捨てた男だった。田原の言う事はA国大手企業の社長が来日するので、その接待女性となってくれないか?と言う、甚だ不躾な要望だった。しかし重子は、これを了解した。そして新宿駅近辺でたむろする浮浪者に声をかけては何か頼んでいた。それと同時の重子は田原との再交渉を求めた。田原はなんの躊躇いもなく受け入れる。しかし、それは重子の田原に対する復讐だった。森村氏は、よく梅毒(菌名スピロヘータ)を使った話を多く書いている。本作では、それを復讐の道具に使った。もちろん田原は人生を転落する。スピロヘータは顕微鏡で覗くと、螺旋状をしている。 「受胎請負師」 冬木和彦は車で事故を起こし、所属していた弁護士会から除名され、いわゆる“もぐり”の弁護士として事務所を開いた。“もぐり”と言ってもヤクザなどの裏社会の人を弁護するものではない。冬木が行きつけのバー「エリカ」のマダムから奇妙な依頼人を紹介された。莫大な遺産を持つ夫が癌で余命が少ない。嫡子のいない根岸梨江は、これでは自分が遺産相続にありつけない。同じ血液型で年齢も近い男の精子が欲しいと言うのだ。そこで野沢久夫に依頼するが、野沢は妊娠しなければ、お金をもらったうえに、何度も梨江の上等な体にありつける。そこで妊娠しない細工をしていたと言うのだ。社会通念上こういう契約は成立しない、そこで冬木に依頼がきたのだ。冬木は、控えるが実に上手い仕事にありつく。 「情事の欠陥」 T大学倫理学科助教授の大谷良介は文学部長の次女の俊江と結婚した。しかし、あるテレビ番組で共演した人気アイドル“月村はるみ”と意気投合して男と女の関係になってしまった。 もともと女性経験が少なかった大谷は二人の行為をポラロイドカメラで撮影して、バッグにしまい、自宅に帰って部屋でこっそり見るのが習慣になった。だが、電車で帰宅途中に乗せた網棚の上でバックを取り間違えてしまう。“月村はるみ”と言えば、世間の皆が知っているだけに大変な事になってしまう。さらに、悪い奴に渡ったら恐喝の材料にもなりかねない。だが、やはり悪い電話が掛かって来る。ただのバッグのすり替えでは無く、もう一つ面白さを加えている。 「虚業のピエロ」 ホテル大東京の大町はフロントでトラブルになっているので事情を聴いた。それによると宿泊客でベトナム帰休兵デービスが幼い顔はしているが売春婦と思われる女を同室させようとしているからだ。大町がデービスに直接尋ねると、デービスは童貞でベトナムに戻れば翌日には殺されるかもしれない、女を知らずに死ぬことが悔しい。と、涙ながらに訴える。しかし、ホテルの規則で売春婦を入れることは出来ない。大町はデービスに食事や酒の提供をサービスする。しかし、数か月後デービスの同じ隊の兵士が大町を訪れデービスが戦死した事とスピロヘータに感染していた事を知らされる。大町はデービスの嘘を知る。やり切れない複雑な心境が辛い。 「剝がされた仮面」 本作は、文庫で60頁に満たない作品だが、松本清張氏の「点と線」を彷彿させる鉄道時刻表トリック崩しの作品です。山梨県韮岡市の畑で東京の一流証券会社に勤務する原田京子の死体が発見される。捜査員が支店を訪れると京子が客から預かった四万株の預かり証券が不明というのだ。すぐに同僚の岩本勉が両事件に関与していることが疑われた。しかし、岩本には完璧なアリバイがあった。京子の殺害時刻には、新宿発甲府行き17:05発“あずさ3号”に乗車していたというのだから。清張氏の「点と線」とは全く別の方法でアリバイを崩していく。「点と線」を読んだ方は、一層興味深く読める作品。 「企業特訓殺人事件」 速水の兄、正男は、反対を押し切って「粧美堂」に入社したが、新入社員スパルタ研修の最中に死亡してしまった。弟、速水正吾は「サラリーマンなんて、まっぴら御免だ。人の金儲けの手助けをするだけだ」と思っていた。判検事は役人だが弁護士なら自由業である。速水は迷う事無く一流大学の法科へ進んだ。ところが速水が就職先に選んだのは、兄と同じ、化粧品メーカー「粧美堂」だった。現在、急激に伸長している会社である。社長の今井鉄一郎の、新入社員に対する徹底したスパルタ教育で、猛烈な営業社員に育て上げるのが業界では有名であった。速水は秘かに内部の事を調べると、どうやら兄の死は、未必の殺人ではないかと疑われるところがあったのだ。そこで、一時、自由業への道は休んで「獅子身中の虫」となって「粧美堂」に入社して、兄の復讐をする。 なるほど、最後まで読み終わってみると、青樹社の那須編集長が「推理小説みたいなのを書いたらどうか」と進言したことに納得してしまう。那須氏の慧眼には恐れ入るばかりだ。もちろん森村氏も那須氏に対しては尊崇の念を持っている。この後に書かれた多くの森村氏の作品中に「那須警部」と言う形で何度も何度も登場する。森村氏の源流となる作品群だ。 | ||||
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